〈連続小説〉愛してほしかっただけ 最終話
最終話 澪と遥と奏太
救急車の中。
毛布に包まれながら、澪はぼんやりと二人を見ていた。
遥は、まだ涙が止まらない。
奏太は、黙ったまま、澪のそばから離れない。
——……この人たち……
血がつながっていない。
でも——
問い詰めなかった。
責めなかった。
「どうして逃げたの?」とも言わなかった。
ただ、
「怖かったね」
それだけを、何度も言ってくれた。
——……2人で……よかった……
もしこれが
「親」だったら。
「家族」だったら。
きっと、期待や失望が混じった。
でもこの人たちは——
澪を“評価しない”。
守るだけ。
そのことが、胸に染みた。
澪は、初めて小さく笑った。
それを見て、奏太が気づく。
「……笑った」
遥が驚いたように澪を見る。
「……うん」
澪は、そっと頷いた。
それからのことは、静かに進んだ。
親戚一同は、正式に起訴。
澪は、保護対象となり、家庭裁判所へ。
親権は——
破棄された。
澪は、もう“戻される場所”を失った。
でも。
失った代わりに手を差し伸べる人がいた。
家庭裁判所の廊下。
澪は、遥と奏太の間に座っていた。
「緊張する?」
遥が小さく聞く。
澪は、首を振った。
「……大丈夫」
本当は、少し怖い。
でも——
前みたいな恐怖じゃない。
裁判官の声が、淡々と響く。
「本件について、特別養子縁組を認めます」
その言葉を聞いた瞬間、遥は、音を立てずに泣いた。
奏太は、深く息を吐き、天井を仰いだ。
澪は、ただ静かに思った。
——……ここが……帰る場所なんだ
名字が変わる。
立場が変わる。
でも“自分”が壊れることはなかった。
澪は、遥の隣を歩いていた。
「……先生」
「ん?」
「……ママ、って……呼んでいい?」
一瞬、時間が止まった。
遥は、何度も瞬きをしてから、
震える声で答えた。
「……うん」
奏太が、少し照れたように笑う。
「じゃあ、俺は……父親、だな」
澪は、少しだけ考えて、頷いた。
「……はい」
その言葉はもう“縛り”じゃない。
選んだ、居場所。
選んだ、家族。
澪は、空を見上げた。
もう、逃げなくていい。