
エンジェルナンバー 1111
その日の朝は、頭の中が忙しかった。
早朝から、パソコンとスマホと本と三刀流で考え事をしたり、必要な情報を探したりしていた。
浮かんだものや、得た情報を走り書きしたり、消してみたり。
それは、私に課した宿題があったからだ。
言わば、自分を客観視する。深掘りするということ。
美容院の予約を入れていたので、行くまでに終わらせたかったけれど、終わりそうになかった。
予約の時間が近付いてきていた。
霧雨の中、バスを使わないで駅まで歩く。
私は、歩くと頭の中に空間ができて、思ってもいなかったアイデアが浮かぶことが多い。
けれども、その日はこれといった考えも浮かばなかった。
帰りに図書館に行くつもりにしていたので、筆記用具やノート、本を持って帰る袋をごちゃごちゃと詰め込んだカバンは、いつもより少し重かった。
図書館は1人で考えるには最適な場所だ。最近リニューアルされてからは、とても明るくて綺麗で広々として、子供からお年寄りまで、思い思いに静かな時間を過ごしている。
美容院が終わって、図書館の方に向かおうと思ったけれど、お昼時でお腹もすいていたので、どこかでご飯を食べよう。
ふと思いついて、とあるカフェに向かった。
一軒家の隠れ家カフェ。
店主は1人。
駅からそれほど離れていないけれども、なんせ住宅街の中にあるので、目立たないのだ。
そのお店は、3つのお部屋をレンタルルームとして貸していて、よく、マルシェなどに利用されている。
調べたら、その日はマルシェの予定も入っていなかった。
今日は雨降りだし、お客さんは少ないかもしれない。もしかしたら、誰もいないかも。
どうしよう
私は人見知りなので、1対1が苦手。
全然知らない人はOKなんですよ。
がっつり知り合いの人もOK。
ほんの少し知ってる。という曖昧な関係の人との会話が苦手なんです。
誰もいなくて、私1人だったらどうしよう…
別に喋らなくてもいいけれど、一軒家の自宅カフェなので、リビングでご飯を頂くようなものだ。
何にも話さないのも不自然。
外から中の様子を伺うと、お客さんが誰もいない様子。
網の向こうに見える玄関にも、靴はなかった。
誰もいないぞ。
どうする?帰る?
いや、何でここに来たんだ?
美味しいご飯を食べるため。
じゃあ、それだけでいいじゃない。
玄関を入った時のピンポーンの電池が切れているようで、こんにちはーと言いながら靴を脱ぐ。
お兄さんが、いつものはみかみ笑顔で出てきた。
私はいつもお兄さんと呼んでいるけれど、40代前半。
以前、娘にこのお店の話をした時、「40歳ってお兄さんちゃうやん。オッサンやん」と言った。口が悪いね。親の顔が見たいものだわ。まあ、あなたの歳から見れば、オッサンよね。
お兄さんは独身だ。
長年、東京で生活していて、神戸に戻って母親と一緒に住み、数年後にお母様は亡くなられたと聞いたことがあった。
お兄さんのご飯は、とても美味しい。
それこそ、ドレッシングや小鉢の惣菜まで全て手作り。食材も、素材にこだわったものを使用していて、その宅配業者の箱が置かれているのを見かけたりする。
それにしては、メニューの料金設定が安すぎるのでは?

コーヒーも自家焙煎。しかも、お店の売りが、アームズコーヒーと言って、生豆を洗うこだわりのあるやり方だ。
スイーツも手作り。
コーヒーを注文すると、猫型の手作りクッキーが付いてくる。
このお店は一応、猫を売りにしている。生きている猫はいないけれどね。
何と言っても、レンタルのお部屋の使用料も無料なのだ。その代わりに、何かご飯かおやつ食べてね。
なんて、今どきありえないでしょ。
どこまでお人よしなんだ。
このお店には何度も来たことあるけれど、いつも誰かと一緒に来ていたので、お兄さんとじっくり話をするのは始めてだ。
お兄さんも人見知りだ。一目瞭然。
いつも同じような服を着ている。その服装からして、音楽やってました感が伝わってくる。
きっと人生の何かに疲れたのか、挫折したのか。と予想していたので、その辺のところを何となく質問してみた。
案の定、音楽に限界を感じて見切りをつけたらしかった。
まあ、よくある話だ。
言わば、私の娘もそれと同じようなものだ。
そこからは、お兄さんが料理に目覚めたきっかけや、このお店を始めたきっかけなどを聞いた。
料理はおばあちゃんから教わったそうだ。幼稚園の頃から料理をしていたらしい。
お母さんと一緒に暮らすようになってからは、お母さんのお客様にご飯を出すことが増えていったそうだ。
お兄さんが実家に帰ってきた時に、お母さんは『料理』を手放したらしい。もともと好きではなかったとか。
だからおばあちゃんは、お兄さんに料理を教えたのかもしれないな。
そのお母さんがもしも生きていたら、きっと私はお母さんといろんな話をする。
というのも、2階の部屋には、壁面にずらっと何百冊もの書籍が並んでいる。
背表紙をざっと見ただけで、私の興味のある本ばかり!心理学や量子力学やタロットにスピリチュアル。体に優しい料理の本まであった。
認定講師の賞状みたいなものが、いくつも飾られていた。
「私、絶対にお母さんの何かの講座受けてたと思う!」
と言うと、「あ、そうっすか」と小さく笑う。
お兄さんは、お母さんのことには全く興味がないらしい。
でもね、お兄さんが食材にこだわって、体に優しい料理を作るのって、お母さんの影響だよ、きっと。そういう本も、ちゃんと置いてあったじゃない。お兄さんは読んでいないかもしれないけどさ。
ちなみに、これらの本は自由に借りることができる。いつも借りたいと思いながら、あまりにも多くの本の背表紙を見るだけでも大変。今度は、本を選ぶ目的でお店に行こう。
まさしく、図書館だ。
ジャンル限定だけどね。
いろんな話が飛び出たけれど、お父さんの話は全く出てこない。今までもお母さんの話は出てきても、お父さんの話は一度も聞いたことがない。こりゃあ、何かあるのかもしれないけれど、そっとしておこう。
そして、どうしたらこのお店がもっと繁盛するか。といった内容に変わっていった。
バス道の大通りはすぐ近いのに、少し奥まっているので、気付かれにくい。それを、どうしたらいいかを2人であれこれ考える。
インスタやホームページの内容にまで話は広がり、あーしたら、こーしたら、と、ワイワイ話す。
私は、アイデアを出したり、人の助言はよくできるんだよね。自分のことは棚の上に上げといて。
何やかんやであっという間に時間は過ぎ、1時間以上喋っていた。
どこが人見知り同士やねん。
と、自分で突っ込んだ。
心なしかお兄さんの顔も、明るくなっていた。ように思う。
帰る時には、雨がひどくなっていた。長靴を履いていなかったので、足元も少しぬれるけれど、不思議と気分は良かった。
もう、図書館に寄る気分でもなくなっていた。
晩になって、もう一度、朝にやり残した宿題にとりかかった。
これからの生き方。
何がしたいのか。何をしている時が楽しいのか。
どうしたい?
自分に聞きながら簡単な文章にまとめていった。
そう言えば、お兄さんは、もう一度音楽をやりたいような話を、控え目にゴニョゴニョゴ話していたな。本当はやりたいくせに。聞いているこちらには、バレバレだ。
自分のことは、自分が一番分かっていない。
もう一度、自分のことをあれこれ考えた。
今までやってきたこととか、とりあえず置いといて、何をしている時が幸せですか?
何をすると楽しいと感じますか?
何となく出てきましたか?
じゃあ、それをやっていけばいい。
よし!GO!
とは、なかなかならないんだな、これが。
何かを決める時って、迷いや、怖さが顔を出す。
どうしようかな。
やっぱりやめようかな。
なんて思いがでてくるけれど、その晩は不思議と出てこなかった。
とりあえずやってみたらいいんじゃない?
いいから、それでやってみたら?
と、素直に自分の中で結論付けた。
さあ、もう寝よう。
時計を見ると、なんと11:11
思わず、スマホを取りに行って写真を撮る。良かった。まだ11:11だった。

私はいつもエンジェルナンバーとかきにしない方なんだけど、これは何の数字だ?と気になり、調べてみた。
「1」が4つ重なった強い“始まり”のサイン。
それが4つ並ぶ1111は、「新しい章のスタート」「自己実現の加速」を表すと言われているらしい。
え!何かめっちゃ嬉しい!
こんな単純なことで気分が上がる。
良いことは信じる私。エンジェルナンバーなんて気にしないと言いつつ、何だかワクワク。
そう、単純さが大事。
しかも、この11:11、どこで見たと思いますか?
トイレです。トイレの時計。
トイレはご存知の通り、排泄ですよ。
出すから、新しいことが取り入れられるのです。
どうしよう。
でもなー。
なんて不要な思考は出しちゃって、新しい章をスタートさせるってことなんですね。
あー楽しみになってきた♡
小芝凛さんのマガジン2つに追加して頂けました❣️凛さんいつもありがとうございます✨
是非、他の方の作品も読んでみて下さいね🩷