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【短線小説】いずこの家【日垞系】

    いずこの茜の家に遊びに来た䞃海。だが茜はレンタルビデオを返华するため、䞃海を眮いお家を出おしたう。留守番をするこずになった䞃海は、偶然垰っおきた茜の匟ず䌚う。だが圌の様子はどこか倉で  。噛み合わない䌚話が意倖な結末ぞ。




     おしゃべりがはたず途切れたので、私は食べおいたドヌナツから顔を䞊げた。

    「茜、どうかした」
    「今思い出したんだけど、今日ビデオの返华日だった」
     いずこの茜は口元を拭いながら答えた。思い出したずころで思考が䞀時停止しおいるらしく、ややがんやりした口調だった。

    「タむムリミットは ビデオ屋閉たるのい぀」
    「五時。今䜕時 四時ちょい過ぎか。ただ間に合いそう。どうしよう」
     具䜓的な質問を受けお頭が回り始めたのか、茜は早口で蚀った。私もそれに合わせおテンポよく返事をする。
    「間に合いそうなら返しに行ったら」
    「でもせっかく䞃海が来おくれたのに」
    「そう䜕時間もかかる甚事じゃないんだから行っおきなよ。私のこずはいいから。延滞料もったいないし」
    「うん、ありがずう。じゃあお蚀葉に甘えお。パッず行っおパパっず垰っおくるから」
     加速の぀いた圌女はその勢いのたた支床を枈たせ、䞉十分で戻るからお留守番よろしく、ず蚀い残しお玄関を飛び出しおいった。

     車の゚ンゞン音が遠ざかっお聞こえなくなるず、雑談の䜙韻が耳の奥にキヌンず響いた。気心知れた間柄なので気たずさはなかったが、するこずのない退屈さが私の気分を沈めた。
     グラスの麊茶をあおるず、䞀拍遅れお胃がキュッず冷えた。クヌラヌの冷颚がにわかに存圚感を持ち、腕がわずかに鳥肌立った。厚手のカヌテンの隙間から芗く陜射しは柔らかく、快適な枩床湿床に保たれた郚屋にいるず、倖が猛暑だずいうこずを忘れそうだった。

     食べかけのドヌナツをもそもそず霧りながら、私はあたりを芋回した。私が今いるダむニングから右ぞ目を向けるず、そこが台所。巊が窓。正面にさっきたで茜のいた垭ず、その向こうにリビング。
     䜕床も来たこずがあるので、間取りや倧きな家具の配眮はあらかた憶えおいた。目新しさに乏しい䞭でサむドボヌドに食られおいる造花やカヌペットなどの小さな倉化がかすかに光っおいる。

     間違い探しのように前回、春䌑みに蚪れた時の蚘憶ず珟圚の郚屋を比べおみるず、意倖ずいろいろなずころが倉わっおいた。季節の移り倉わりによるものもあれば、そうでないものも少なからずあった。

     茜の二人の匟、良倪ず幞二は今幎の春、それぞれ倧孊ず高校に進孊した。おたけに私たちの䞀぀䞋にあたる良倪は、東京の倧孊に通うため䞀人暮らしを始めたのだ。
     取り立おお気にするほどではないが、泚意しおみれば目に付く皋床の倉化も䜏人が䞀人枛ったためず考えれば玍埗だった。

     目の届く範囲を䞀通り怜めるず、私はするこずがなくなっおしたった。ドヌナツもい぀の間にか食べきっおいた。
     暇を呌吞し続けおいおも面癜くないので、私はテレビを぀けに立った。途䞭窓際に寄るず、靎䞋越しに感じられるほど床が熱を持っおいた。
     なぜか蝉が党然鳎いおおらず、音量を絞っおもテレビの声はよく耳に届いた。さっきたでず同じ姿勢で怅子に座りなおし、私は䞀人、情報番組を眺めた。

     それから䞉分ず経たないうちに玄関からカチャっず鍵の回る音が聞こえおきた。茜だ。私は息を吹き返したように立ち䞊がるず、すぐさたリビングのドアを開け、玄関ぞ顔を向けた。
    「おかえり」
    「え あ、ただいた  」
     戞惑ったようにこちらを芋぀める目は茜のそれずよく䌌おいたが、別人のものだった。
    「ごめん、茜かず思った。匟君、久し振り」
    「びっくりした  。䞃海さん来おたんだ。それなのに姉貎出かけおるの」
    「借りおたビデオ返しに行った。今日期限なの忘れおたんだっお。じき垰っおくるはず」
    「そうなんだ」
     ただ驚きの抜けない匟君良倪は家を出おいるのでたぶん幞二の方をそのたたにしお、私はダむニングに匕っ蟌んだ。

     小さい頃は私ず茜ず茜の匟たちで遊ぶこずもあったが、い぀の間にか匟二人ずは時たた顔を合わせる皋床になっおいた。そのため互いにどう接したものか掎みあぐねおいる節があった。

     玄関に荷物を眮き、掗面所で手を掗う幞二の動きが音で䌝わっおきた。私は、圌がこのたた自宀に行っおくれるよう願った。氎音が途切れるず、ややあっお階段を䞊る足音が振動ずずもに䜎く響いおきた。私は束の間安堵したが、圌はすぐに私のいる階䞋ぞ戻っおきおしたった。
     二階の自分の郚屋ぞ荷物を攟り出しおきたのだろう。リビングに入っおきた幞二は手ぶらだった。
     なれない盞手がいるず、それだけで窮屈な気がした。倧しお接点のない人ず二人きりでいる気たずさよりは、䞀人がっちの退屈さの方が気楜な分たしだった。
     だが、誰かがそばにいるのに黙り続けるのはもっず気詰たりだ。
     喋ろう。そしお可胜なら堎の䞻導暩を握ろう。
     䞀瞬のうちにあれこれ考え、私はそう心に決めた。

    「手土産のドヌナツあるよ。食べなよ」
     圓たり障りのないこずを口にするず、幞二もじゃあ頂きたす、ず無難に返しおきた。
    「むチゎ、抹茶、チョコ、ホワむトチョコ。どれがいい」
    「チョコで。俺が食べお他の人の分無くならない」
    「倧䞈倫。私ず茜はもう食べたし。もずもず六個あったの。今週限定なんだけど、五個䞀気に買うず䞀個おたけしおくれるサヌビスやっおお」
     幞二がぞぇず蚀い、盛り䞊がらないたた話題が䞀぀぀ぶれた。

     なかなか垭に着こうずしない幞二を芋るず、台所で䜕かごそごそずやっおいた。
    「䜕しおるの」
    「コップさがしおる」
    「自分の家なのにコップの眮き堎所もわからないの」
    「配眮倉わったみたいでさ。んヌ、これでいいや」
     幞二は来客甚っぜいグラスを手に取った。さすがに冷蔵庫から麊茶を取り出す手぀きに迷いはなかった。
     幞二は茜のいた垭の隣、私の斜め前の怅子に腰かけた。圌にドヌナツの箱を手枡しながら、私は埮劙な䜍眮だずがんやり思った。

    「孊校どう 新しい環境にはもう慣れた」
     ただでさえぎこちなさのにおう堎に沈黙たで挂わせたくなくお、私は口を開いた。
    「たあ、最初はわかんないこず倚くお倧倉だったけど、先茩にいろいろ教わったり新入生同士で助け合ったりしお、がちがち慣れおきたよ」
    「みんな優しいね。すぐ銎染めたんだね」
    「ちょっずしたものでも接点があるず仲良くなれる気がする。出身が同じずか前の孊校で入っおた郚が䞀緒ずか」
    「そうなんだ」

     幞二がドヌナツを䞀口霧った。私は目線をテレビの方ぞ移した。私自身が他人に䜕か食べおいるずころを芋られるず嫌な気分になるタむプなので、誰かの食事颚景を芋るのも奜きではなかった。目をそらしやすい絶劙な垭がありがたかった。
     口を閉じるずテレビの音がよく聞こえるようになった。画面にはスポヌツニュヌスが映っおいお、競技堎ず䞭継が぀ながっおいた。
     静かになった食卓が居心地悪くお、私は熱っぜいレポヌタヌの語りに集䞭しようずした。しかしその声は意識の衚局を䞊滑りしおいくだけで、ほずんど頭に入っおこなかった。
     この気たずさをどうにかしたくお、私は䞀人焊った。今どの蟺を車で走っおいるのだろうず垰っおこない茜を思った。

     気が急くあたり背䞭にチリチリしたものを感じ始めたころ、ポツリず幞二がこれおいしい、ずこがした。これ幞いにず私はそれに乗っかる。
    「そっか良かった。䜕が奜きなんだっけ」
    「え、俺 食べ物で」
    「ううん䜕でもない。適圓に蚀っただけ」
    「はあ」
     うたく乗り損ねお、私は泣きたくなった。だが、ここで止たる気にはならない。スむッチが入っおしたったようだ。脳内を玠早く怜玢しお幞二にた぀わる情報を匕っ匵り出すず、咀嚌せずそのたた口から出す。

    「そういえば野球郚入ったんだっおね」
    「ああうん。姉貎から聞いたの」
    「そう。緎習き぀い やっぱ䞀幎生は球拟い」
    「朝はちょっず早起きしなきゃいけないけど、それほどき぀くはないな。内容は基瀎的なこず䞭心。䞊䞋関係はあるけどパシられたりこき䜿われたりずかはない。ギスギスしおないっおいうか、そんな感じ」
     幞二が今日最長の喋りを聞かせおくれたので、私はなんだか嬉しくなった。いい波が来おいるのかもしれない。この流れを逃すたい。私は頭を絞り぀぀応じる。
    「そっか。楜しそうでなにより。倏の倧䌚出るんだよね。あ、䞀幎生だから詊合には出られないか。でも郚ずしおは出るんだよね。みんな緊匵しおる」
     頭脳の回転速床を焊りが倧幅に超えおいたらしい。甲子園ずいう単語が出おこなかったし、話自䜓も、うたくたずたらなかった。
    「出堎する䞊玚生は気合入っおるし、監督も燃えおる。俺ら䞀幎は出られないけどいろいろ楜しみ。詊合もうすぐなんだけど、日に日にピリピリ感は匷たっおる。あ、もうすぐっお蚀っおも明日明埌日の話じゃないよ。二週間埌くらい」
     間を眮かず幞二が答える。私の蚀葉はちゃんず通じたらしい。
    「茜ずか䌯父さん䌯母さんは詊合芳に来るんだよね」
    「俺が出ないなら来ないっおさ」
     幞二がハッず笑った。今日初めお芋る笑顔だった。
    「印象に残っおる出来事あったら教えお。良いこずでも悪いこずでも」

     私はグむグむ話を進めた。思い返せば、話をやめるタむミングも、気たずさに耐えおおずなしく茜を埅぀ずいう遞択肢もあったはずだった。それなのに私はそれらを蹎散らす方に舵を切った。匵り詰めた気分はただ続いおおり、今では動悞や指先の冷えも珟れおいたが、構わなかった。
     私は楜しみ始めおいた。
     焊燥に急き立おられるたたに口を動かし、䞍安に駆られながら返答を聞き、逃げたいような気持ちでいっぱいになり぀぀次を考える。その䞀連の行為がたたらないほど滑皜に思えた。

     幞二の話はだんだん深いずころに入っおきおいお、私の知らない野球甚語や郚掻仲間の名前、孊校におけるロヌカルルヌルが次々ず飛び出しおきた。最初はそれらすべおに軜い説明が挟たれおいたが、その頻床はやがお萜ちおいった。文を玡ぐのに必死でそれどころではないのだろう。圌も私もい぀の間にか早口になっおいた。

     解説の欠けた郚分を頭の䞭で適圓に補っおいるず、幞二の方も焊っおいるのではずいう疑いが䞍意に頭をもたげた。疲れお垰っおきた家に姉や䞡芪はおらず、代わりにいた埓姉はし぀こくあれこれず話しかけおくる。しかも䞀応芪戚なので無芖するわけにもいかない。さぞ厄介なこずだろう。なんだか幞二が哀れに芋えおきた。そしお圌を哀れな目に遭わせおいるのが他ならぬ私なのだず思うず可笑しく、私もたた圌に心を乱されおいるのだずいう事実に考え至るず奇劙な䞀䜓感を芚えずにはいられなかった。

     高速で繰り出される問いず答えの応酬は異様な盛り䞊がりを芋せた。ブレヌキの壊れたスポヌツカヌで無人の高速道路を突き進んでいるようだった。焊りず同情、高揚がガ゜リンのかわりだ。

     私たちはどれほどの時間そうしおいたのだろう。

     ガチャっずいう音がしお、ダむニングに満ちおいた熱気がスッず抜けた。ただいた、ずいう緩んだ声が耳に届く。ようやく茜が垰っおきたのだ。
     䞖界に蚀葉の投げ぀け合い以倖のもの、䟋えば怅子やテヌブル、ドヌナツやカヌテンなんかが戻っおきた。テレビの音も聞き取れるようになった。倢から醒めた心地で呆然ずする私のもずぞクヌラヌの颚が気付け薬のように吹き付けおきた。

    「ただいたぁ」
     リビングの扉を開けながら茜が繰り返した。さっきより芯のある声色だった。私がお垰り、ず蚀いかけたずころで、茜が小さな悲鳎を䞊げた。
    「ん どうかした」
    「良倪 なんで家にいるの 東京で䞀人暮らししおたんじゃないの たさか倧孊を蟞めお  」
    「ちげヌよ。ただの垰省。倏䌑みだからさ」
    「連絡の䞀぀くらい入れなさい」
     唐突に始たった姉匟の口げんかは、私の耳に入っおこなかった。盎前の茜の発蚀に匕っかかるものがあったのだ。

    「  良倪」
     私はただ䜕か蚀い合っおいる茜たちの間に割っお入った。
    「ちょっずちょっず、さっきから良倪っお呌んでるけど」
    「うん」
    「あの、幞二君じゃないの 本圓に良倪君なの」
    「え うん。モノホンの良倪だけど  」
     姉匟が顔を芋合わせた。そしおゆっくりこちらを向く。
     私はずんでもない勘違いをしおいたらしい。

    「たさか、ずっず幞二だず思っお話しおた  」
     良倪の蚀葉に私は頷いた。䞀呌吞おいお二人は笑いだした。
    「顔芋お話しおたのに気づかなかったわけ」
    「気づかなかった。顔も兄匟そっくりだし、久し振りだし」
    「良倪の方は 間違えられおるのに気づかなかった」
    「ちょっず話のかみ合わない感じはあったけど、通じおるっぜいずころも倚かったから、党然」

     それから答え合わせのように䞀぀䞀぀すれ違いを確認し、解消しおいった。そこで分かったこずだが、良倪も野球郚に所属しおいお、私が甲子園の぀もりで䜿った「倧䌚」ずいう蚀葉を圌は六倧孊野球ずずらえおいたらしい。ほかにも现かいズレはいく぀もあった

    「そんなんでよく䌚話が成立したね。コントみたい」
     確認を終えるず茜があきれたように笑った。私も良倪も぀られお笑みをこがした。茜がいるおかげか、私は普通に喋れおいた。

     しばらくするず、今床こそ本物の幞二が垰っおきた。手掗いうがいを枈たせおリビングぞ来た幞二に、茜はすかさずさっき私ず良倪ずの間で繰り広げられたおかしな䌚話のこずを教えた。声をたおお笑う幞二は確かにその兄ずよく䌌おいたが、瓜二぀ずいうほどではなかった。

    「手土産のドヌナツあるよ。食べなよ」
     ツボにはたったらしく笑い転げる幞二に、私はドヌナツを勧めた。面癜がっおもらえるのは満曎でもなかったが、さすがに恥ずかしくなっおきたのだ。
    「䜕味がある」
    「むチゎ、抹茶、ホワむトチョコ」
    「チョコ無いの」
    「さっき俺が食べた」
    「少しは匟のこずも考えろ。うヌん、じゃあホワむトチョコで。残る二぀は俺らの芪の分」
    「そう。私たち䞉人はもう食べた。もずもず六個あったの。今週限定なんだけど、五個䞀気に買うず䞀個おたけしおくれるサヌビスやっおお」
     幞二がぞぇず蚀い、盛り䞊がらないたた話題が䞀぀぀ぶれた。しかし私はそれを気詰たりに思わなかった。やり取りそのものは小䞀時間前に良倪ず亀わしたものずほが同じだったが、私の気分は違った。

     二人きりではないせいか、私はずおも自然に振舞えおいた。
     それから四人で、話にいく぀も花を咲かせた。クヌラヌの冷気ず人の䜓枩が混じり合う郚屋は、よく管理された枩宀のようだった。
     食卓は笑顔ず和やかな雰囲気で満ちおいお、あの身を焌くような高揚や䞀䜓感は、もうどこにもなかった。
     
     
     

     
     
     
     
     
     
     
     
     


     
     
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