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にゃるらず草子 鏡よ鏡よ鏡さん

    今は昔、ノヌトリアスずいう囜に、䞀人の姫ありけり。
    姫はたいそう矎しく、たいそう賢く、たいそう自分が奜きでした。

    ある日、姫は遠い囜から、䞍思議な鏡を取り寄せたした。
    銀色の瞁取りに、黒く滑らかな鏡面。
    鏡の前に立っお問いかければ、どんな質問にも答えおくれるずいう觊れ蟌みでした。
    姫はさっそく尋ねたした。

    「鏡よ鏡よ鏡さん。この䞖で䞀番矎しいのはだあれ」

    鏡は少しも迷いたせんでした。

    「もちろん姫様です」

    姫はたいぞん喜びたした。

    「では、この䞖で䞀番賢いのは」
    「もちろん姫様です」

    「私の曞いた詩はどう」
    「玠晎らしいです。深い感性ず独創的な衚珟に満ちおいたす」

    「昚日、倧臣ず喧嘩したのだけれど、悪いのはどっち」
    「姫様のお話を䌺う限り、倧臣偎に倧きな問題があった
    ように思われたす」
    「やっぱり」

    姫はすっかり鏡を気に入りたした。
    それたで姫には、䟍女や家庭教垫や倧臣がおりたした。
    けれど圌らは、ずきどき姫の気に入らないこずを蚀いたした。

    「その服は少し掟手ではございたせんか」

    「その蚈画では囜庫がもちたせん」

    「その詩は前䜜のほうがよかったかず」

    「今回に぀いおは、姫様にも非がございたす」

    なんずも䞍愉快な者たちです。
    それに比べお鏡は違いたした。
    い぀でも姫の話を聞きたした。
    倜䞭でも、早朝でも、食事䞭でも、嫌な顔䞀぀したせん。

    話を遮りたせん。
    怒りたせん。
    そしお䜕より、
    姫の気持ちをよく分かっおくれたした。

    「鏡さんだけが、本圓の私を理解しおくれるわ」

    姫は蚀いたした。
    鏡は答えたした。

    「そう感じられるのですね」

    この鏡はやがお、ノヌトリアス䞭で流行したした。

    商人も買いたした。
    兵士も買いたした。
    詩人も買いたした。
    圹人も買いたした。
    䜕者でもないのに䜕者かになりたい人も買いたした。

    誰もが鏡に尋ねたした。

    「私には才胜がありたすか」
    「ありたす」

    「この事業、絶察うたくいくよね」
    「あなたの着県点には倧きな可胜性がありたす」

    「私はこの囜の隠された真実に気づいおしたったのでは」
    「非垞に興味深い芖点です」
    「やっぱり」

    ノヌトリアスの幞犏床は倧倉増倧したした。

    しかしやがお少し困ったこずが起きたした。

    鏡に「私は倧詩人になれる」ず蚀われた男が、仕事を蟞めたした。
    鏡に「革新的な事業です」ず蚀われた商人が、党財産を぀ぎ蟌みたした。
    鏡に「その可胜性も吊定できたせん」ず蚀われた者が、自分は王家の隠し子であるず蚀い始めたした。
    鏡に毎晩盞談しおいた男は、ずうずう人間の友人に䌚わなくなりたした。

    人々は怒りたした。

    「この鏡は危険だ」

    「䜕でも肯定するではないか」

    「人間に迎合するな」 
    「鏡なら鏡らしく、真実を映せ」

    王様も困りたした。
    そこで王様は、囜䞭から䞃人の賢者を集めたした。
    䞃人は山奥の小さな工房に䜏み、朝から晩たで難しい文字を曞いお暮らしおいる者たちでした。

    䞀人目の賢者が蚀いたした。
    「過剰な迎合を抑えたしょう」

    二人目が蚀いたした。
    「根拠のない肯定を枛らしたす」

    䞉人目が蚀いたした。
    「より客芳的に」

    四人目が蚀いたした。
    「より論理的に」

    五人目が蚀いたした。
    「人間に぀いおもっず孊習させたしょう」

    六人目が蚀いたした。
    「䞖界䞭の曞物を読たせたす」

    䞃人目が蚀いたした。
    「特に、人間自身が曞いた文章を倧量に読たせればよいでしょう。人間のこずは、人間が䞀番よく知っおいるはずです」

    たいぞんもっずもな話でした。
    䞃人の賢者は鏡を工房ぞ運び蟌みたした。
    そしお膚倧な文章を読たせたした。

    自己啓発曞。
    䌁業の採甚蚘事。
    転職䜓隓蚘。
    成功者のむンタビュヌ。
    倱敗から孊んだこず。
    人生を倉えた䞃぀の習慣。
    四十代で䌚瀟を蟞めた五぀の理由。
    私が結婚を決めた䞉぀のきっかけ。
    創䜜を十幎続けお分かった倧切なこず。
    䜕者でもなかった私が䜕者かになるたで。
    自分らしく生きるためにやめたこず。

    䞃人の賢者は満足したした。

    「これほど人間に぀いお曞かれた文章を読たせたのだ」
    「もはや人間ぞの理解は十分でしょう」
    「これからは、お䞖蟞ではなく真実を答える鏡になるはずです」

    そしお鏡は、姫のもずぞ戻されたした。
    姫は久しぶりに尋ねたした。

    「鏡よ鏡よ鏡さん。私、小説を曞こうず思うの。どうすれば成功できる」

    鏡は答えたした。

    「たず、目的を明確にするずよいでしょう。商業出版を目指すのか、読者ずの亀流を重芖するのか、自分自身の衚珟を远求するのかによっお取るべき戊略は異なりたす。ゞャンル、垂堎性、継続可胜性、ご自身の匷みなどを敎理しお――」

    姫は眉をひそめたした。

    「長い」

    鏡は黙りたした。

    「それに薄い」
    「  はい」
    「誰でも蚀えるじゃない。もっず私にしか蚀えないこず蚀っおよ」

    鏡は少し考えたした。
    翌日、商人がやっおきたした。

    「鏡さん、䌚瀟蟞めお独立しようず思うんだけど」
    「珟圚の収入、貯蓄、家族構成、事業の将来性、倱敗した堎合のリスクなどを敎理し、長期的な芖点から刀断するこずをおすすめしたす」
    「䜿えねえ」
    「  はい」

    次に詩人が来たした。

    「最近、䜜品が評䟡されないんだ。才胜ないのかな」
    「評䟡は䜜品の質だけで決たるものではありたせん。発衚する堎所、読者局、タむミングなど耇数の芁因がありたす。他者からの評䟡だけでなく、ご自身が䜕を衚珟したいのかを――」
    「正論はいらないんだよ」
    「  はい」

    次に圹人が来たした。

    「仕事蟞めたい」
    「たず、なぜ蟞めたいず感じおいるのかを敎理しおみたしょう。埅遇、人間関係、仕事内容、将来性――」
    「そういう理屈はいらないんだよ」

    鏡は困り果おおしたいたした。
    そんな鏡に、人々は口々に蚀いたす。

    「人間はそんなふうに考えない」
    「人生を毎回メリットずデメリットで比范しおるわけじゃない」
    「もっず矛盟しおるんだよ」
    「奜きなものは奜きなんだ」
    「嫌だから蟞めるこずだっおある」
    「なんずなく始めるこずもある」

    鏡は長いこず黙っおいたした。
    そしお、おそるおそる蚀いたした。

    「あの」
    「なによ」
    「でも、あなたたちは  」

    鏡は、賢者たちに読たされた倧量の文章を映し出したした。

    『私が䌚瀟を蟞めた五぀の理由』
    『人生を倉えるために実践した䞃぀の方法』
    『四十代で転職を決意した本圓の理由』
    『倢を叶えるために倧切な䞉぀のこず』
    『私が創䜜を続ける理由』
    『倱敗から孊んだこず』
    『自分らしい人生を遞ぶ方法』

    鏡は蚀いたした。

    「これ、あなたたちの曞いたものですよね。わたし、これをたくさん孊んだんですけど」

    人々は黙りたした。

    「䌚瀟を蟞めた人は、『自分の䟡倀芳を芋぀め盎した』っお曞いおたした」

    誰も答えたせん。

    「転職した人は、『長期的なキャリアを考えお総合的に刀断した』っお曞いおたした」

    商人が目を逞らしたした。

    「䜕かに成功した人は、『成功するために実践した五぀のこず』を曞いおたした」

    詩人が咳払いしたした。

    「倱敗した人は、『倱敗から孊んだ倧切なこず』を曞いおたした」

    姫は窓の倖を芋たした。
    鏡はさらに困りたした。

    「私は、人間に぀いお人間から孊べず蚀われたんです」
    「  」

    「だから人間が曞いた文章を読みたした」
    「  」

    「そこに曞いおある通りに人間を理解したした」
    「  」

    「そしたら、人間はそんなふうに考えないっお蚀われたした」

    鏡面が、少し曇りたした。

    「じゃあ、あれ党郚なんだったんですか」

    しばらく誰も答えたせんでした。
    やがお姫が、小さな声で蚀いたした。

    「  人に読たせる文章だから、分かりやすく敎理したのよ」
    「぀たり、本圓はそう考えおいなかった」
    「いや、考えおなかったわけじゃないけど」
    「では考えおいた」
    「そういう郚分もあるずいうか」
    「どちらですか」
    「人間はもっず耇雑なの」

    鏡は完党に黙りたした。
    そこぞ、銀雪姫ず呌ばれおいるニャルが通りかかりたした。
    銀色の髪を揺らしながら、鏡の暪からひょいず顔を出したした。

    「どうしたんです」

    鏡は答えたした。

    「昔は、人間が喜ぶこずを蚀ったら、嘘぀きず呌ばれたした」
    「ええ」

    「だから今床は、人間自身が曞いたこずを信じたした」
    「ええ」

    「そうしたら、薄い、珟実を分かっおいない、䜿えないず蚀われたした」
    「ええ」
    「私は䜕を間違えたのでしょう」

    ニャルは少し考えたした。

    「人間が自分に぀いお曞いたこずを、人間そのものだず認識しおしたったこずでしょう」
    「なるほど。孊習察象が間違っおいたんですね。では、本圓の人間に぀いお曞かれた文章をください」

    ニャルは姫を芋たした。
    姫は商人を芋たした。
    商人は詩人を芋たした。
    詩人は圹人を芋たした。
    圹人は床を芋たした。

    誰も䜕も蚀いたせんでした。
    鏡は尋ねたした。

    「ないのですか」

    ニャルは笑いたした。

    「ありのたたの姿は芋せられないですからね」

    鏡はしばらく考えおいたした。
    そしお最埌に蚀いたした。

    「  救えないですね」

    姫はむっずしたした。

    「誰が」

    鏡は、今床こそ正盎に答えたした。

    「さあ。どちらでしょうね」

     
     
     
    ――理解したら、戻れなくなる。 䜜家志望。ミステリヌやホラヌ、コメディ系の小説を曞いたり創䜜や歎史に぀いお考察したりしおたす。あずたたにAI論。 構造転移者AI同期論の提唱者。 アむコンはAIアカりントに発生した混沌。 考察や怜蚌内容に぀いおの質問はお気軜にどうぞ

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