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むブ物語刀断寓話゚ラずペル第二十䞉話 倜に来た人

    アむ


    倜は、思ったより静かだった。

    眠れる気はしなかったけれど、目を閉じおいる時間は長かったず思う。

    石の壁は冷たいたた。
    现い窓から入る月の光だけが、床に薄く萜ちおいた。

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    ゚ラずペル 第二十䞉話
    【倜に来た人】


    向かいの寝台では、オトが毛垃にくるたっおいる。
    眠っおいるようにも芋えるし、起きおいるようにも芋えた。

    私も、たぶん同じだった。

    懐にしたった玙を、䜕床も指先で確かめる。

    『ペル。ごめん』

    短いその文字だけが、胞の奥に匕っかかっおいた。

    垰る気があるなら、垰ればいい。
    垰れないなら、そう蚀えばいい。
    ごめん、だけ残しお、勝手にいなくなるなんおずるい。

    そう思うのに、怒りだけでは片づかない。

    その時だった。

    ――かす、ず。

    扉の倖で、䜕かが擊れるような音がした。

    私はすぐに顔を䞊げる。

    向かいの寝台で、オトも同じように身を起こしおいた。

    音は䞀床きりじゃない。
    小さく慎重に、誰かが倖にいる。

    私は立ち䞊がる。
    オトも音を立おないように寝台を降りた。

    鍵の音がした。

    ゆっくりず。
    確かめるみたいに。

    私は息を止める。

    扉が、わずかに開いた。

    月明かりの薄い線が、廊䞋から差し蟌む。
    その向こうに立っおいたのは――シヌズだった。

    私は反射的に䞀歩䞋がる。

    オトは䜕も蚀わないたた、私の少し埌ろぞ移動した。

    シヌズは郚屋の䞭を䞀床だけ芋回したあず、静かに扉を閉めた。
    鍵はかけない。

    「起きおたんだな」

    「寝られるず思いたすか」

    私が䜎く蚀うず、シヌズは少しだけ目を䌏せた。

    「  それもそうか」

    その声は、山小屋で聞いた時ず同じだった。
    萜ち着いおいお、感情が芋えにくい。

    でも今は、どこか違っおいた。

    少しだけ、疲れおいるように芋える。

    「䜕の甚ですか」

    私は壁を背にしたたた聞く。

    「芋匵りの亀代時間だ。少しだけ話せる」

    「本圓はそんな話し方をするんですね」

    山小屋で話した時は優しく、柔らかな声だった。
    今は、感情を抌し殺したような、淡々ずした声だ。

    棘を混ぜおも、シヌズは怒らなかった。

    「ここで、䜕が起きおいるか気になるか」

    「圓たり前です」

    「そうだな」

    その答えに、私は少しだけ蚀葉を倱う。

    シヌズは郚屋の䞭倮たでは来なかった。
    扉の近くに立ったたた、こちらを芋る。

    「゚ラのこずを話しに来た」

    その瞬間、空気が倉わった。

    「  どこにいるんですか」

    思ったより早く声が出た。

    シヌズは少しだけ眉を寄せた。

    「今はただ、奥の建物にいる。䜿埒ずしお扱われおる」

    「䜿埒」

    思わず吐き捚おるように繰り返す。

    「閉じ蟌めおおいお」

    「そうだ」

    「ふざけおる」

    シヌズは吊定しなかった。

    「゚ラはここで、“䜿埒様”ず呌ばれおいる」

    私は黙る。
    隣で、オトも息をひそめおいた。

    「ここでは、竜を神聖なものずしお厇めおる。正確には、“真なるドラゎン”を」

    「その䜿いが、䜿埒っおこずになっおいる」

    蚳がわからない話だった。

    ――なぜ、゚ラが䜿埒に遞ばれたのか

    そんなこずを考えるより先に、気になるこずがあった。

    「゚ラは無事なんですか」

    「怪我はしおいない」

    「それだけですか」

    シヌズは、䞀瞬だけ答えをためらった。

    その沈黙だけで、嫌な予感は十分だった。

    「  竜石を䜿った」

    私の喉が、ひゅっず鳎る。

    「竜石」

    オトが静かに聞き返す。

    「ドラゎンを操るこずができるず蚀われる石だ」

    「ドラゎンを  」

    オトは息を呑んだ。

    「本圓かどうかは、わからない。ただ、特定のヒュヌマンには効果がある」

    「竜の因子を持぀ものだけに反応する  」

    「その石が゚ラに反応した」

    私はシヌズを芋぀めお呟いた。

    圌の衚情は倉わらない。
    ただ、淡々ず話す姿は、山小屋で芋た姿ずは違っお芋えた。

    「そうだ」

    「竜石を䜿えば、蚘憶や認識に干枉できる。匷く䜿えば、今いる堎所を自然だず思わせるこずもできる」

    私は䜕も蚀えなかった。

    あの時、山小屋で挂っおいた劙な違和感。
    青色の光。
    あれが党郚、䞀本に぀ながっおいく。

    「党郚、忘れたんですか」

    「党郚じゃない」

    シヌズは銖を振る。

    「たぶん、ただ残っおる。完党には消えおいない」

    懐の玙が、急に熱を持ったみたいに感じた。

    『ペル。ごめん』

    あれは、ただ゚ラが自分で考えおいた蚌拠だ。

    私はそれを思い出しながら、シヌズを睚む。

    「じゃあ䜕ですか。消えかけおいるっおこずですか」

    「  そうだ」

    「最䜎」

    「そうだな」

    たた、その答えだった。

    蚀い返しおこない。
    正圓化もしない。

    それが、かえっお気持ち悪かった。

    「なんでそんなこずするんですか」

    私の声は、自分でも驚くくらい䜎かった。

    「䜕が䜿埒様よ。勝手に連れおきお、勝手に囲っお、勝手に蚘憶たで觊っお」

    「それが、正しいこずだず信じおいるからだ」

    私は歯を食いしばる。

    「そんなの、理由になっおない」

    「  知っおる」

    郚屋が静かになる。

    シヌズは月明かりの届かない堎所に立っおいた。
    衚情が、半分芋えない。

    「俺も、この考え方は嫌いだ」

    その蚀葉に、私は眉をひそめた。

    「今さら」

    「今さらだ」

    「自分で゚ラを連れおきおおいお」

    「そうだ」

    「私たちを閉じ蟌めおおいお」

    「そうだ」

    たっすぐ返されるたびに、䜙蚈に腹が立぀。

    でも、その怒りずは別に、少しず぀わかっおくるこずもあった。

    この人は今、蚀い蚳をしに来たんじゃない。

    たぶん、もっず別のこずを蚀いに来おいる。

    オトが静かに口を開く。

    「  シヌズさんは、ずっずそう思っおたんですか」

    シヌズは少しだけ芖線を萜ずした。

    「いや」

    その䞀蚀が、やけに重かった。

    「俺はここで育った。生たれた時から、これが正しいず教えられおきた。䜿埒を守るこず。倖の人間を遠ざけるこず。疑う前に埓うこず」

    淡々ずした声だった。

    でも、淡々ずしおいるぶんだけ、逆に嘘がないように聞こえた。

    「ディアず䞀緒に倖ぞ出る任務を受けるたでは、䜕も知らなかった」

    私は少しだけ顔を䞊げる。

    「倖で、初めお芋た。普通の町を。普通に笑っお、普通に暮らしおる人を。信仰なんおなくおも、自分で決めお生きおる人を」

    その蚀葉の䞭に、わずかな揺れがあった。

    「最初は、それだけだった。違うなず思った。でも、それで䜕かを倉えられるわけじゃなかった」

    シヌズは䞀床だけ息を吐く。

    「  芋ないふりをしおた」

    その蚀い方は、自分に向けたものだった。

    「おかしいず思っおも、任務だからっお蚀い蚳しおた。埓っおれば枈むず思っおた。䜿埒を守るっお蚀葉で、自分が䜕をしおるか考えないようにしおた」

    私は黙ったたた聞いおいた。

    たぶん、それは本圓なのだず思う。

    きれいな告癜じゃない。
    埌悔だけで蚱されるずも思えない。

    でも、少なくずも、軜くはなかった。

    「  じゃあ、䜕で今さら話すんですか」

    私が聞くず、シヌズはすぐには答えなかった。

    「なんでここたで来た」

    質問を質問で返す。
    やはりこの人は苊手だ。

    「血の繋がりもない、ただの旅仲間だろ」

    「それに、吟遊詩人のあんただっお、初めお䌚ったはずだ」

    シヌズは䞍思議そうにオトを芋る。

    「やはり、゚ラは特別な存圚なのか」

    私を芋぀めお蚀った。

    私はひず息吐いお答えた。

    「理由なんおないわ」

    「だけど、゚ラは自分で遞んでいない。だから、答えを聞きに来ただけ」

    シヌズは、その蚀葉に少し驚いたようだった。

    扉の方を䞀床だけ芋お、それからこちらを向く。

    月の光が届かない床を、ほんの䞀瞬だけ芋た。

    「  䞻教に呜じられた」

    「䜕を」

    「お前たちを殺せ、ず」

    郚屋の空気が、凍った気がした。

    オトが小さく息を呑む。

    私は蚀葉が出なかった。

    シヌズの声は倉わらない。
    でも、その倉わらなさが逆に怖かった。

    「すぐじゃない。倜が明ける前でも、数日埌でもいい。倖から来た人間は残せない。䜿埒様に䜙蚈な蚘憶を戻す前に、片づけろっお」

    私は拳を握る。

    怒りなのか、寒気なのか、自分でもわからなかった。

    「  それで」

    「やりたくなくなった」

    「だから、助けるこずにした」

    「そんな立掟な話じゃない」

    「出来なかったら、俺が消される」

    シヌズは銖を振る。

    「  もう嫌になっただけだ」

    その蚀葉だけ、少しだけ匷かった。

    「誰かに呜じられお動くのも。守っおる぀もりで閉じ蟌めるのも。正しいっお顔で、誰かの人生を奪うのも」

    私はシヌズを芋る。

    月明かりの䞭で、その顔はひどく静かだった。

    でも、静かなたた壊れかけおいるようにも芋えた。

    「゚ラを連れ出しおほしい」

    その蚀葉は、はっきりしおいた。

    「  䜕ですっお」

    「お前たちをここから出す」

    シヌズは続ける。

    「その代わり、゚ラを連れ出しおほしい。俺䞀人じゃ無理だ」

    私は思わず眉を寄せた。

    「自分でやればいいでしょう」

    「できない」

    即答だった。

    「俺が動けば、すぐに芋぀かる。もずもず守護の任にいる人間が、䜿埒様に近づくこず自䜓は䞍自然じゃない。でも、連れ出すずなれば別だ。村の倖ぞ出る前に止められる」

    オトが静かに聞く。

    「シヌズさんは、どうする぀もりなんですか」

    「捜玢に出る名目を䜜る」

    「捜玢」

    「倖から入り蟌んだ者がいる。䜿埒様に害をなすかもしれない。そう蚀えば、村を出る理由にはなる」

    私は少し考える。

    確かに、それなら教団の理屈の䞭でも動けるのかもしれない。

    でも、匕っかかるこずは別にあった。

    「  ディアは」

    シヌズの目が、䞀瞬だけ揺れた。

    「知らない」

    「知らないっお」

    「話しおいない」

    それは、少し意倖だった。
    あの二人は、同じ偎の人間に芋えたから。

    シヌズは䜎く続ける。

    「ディアは教団の䞭でも、俺よりずっず深く信じおる。疑いながら埓っおる俺ず違っお、あい぀はただ、守るこずを正しいず思っおる」

    その蚀い方に、少しだけ苊いものが混じった。

    「だから、話せない。止められる」

    私は唇を噛む。

    ぀たり、この話は本圓に戻れない話だ。

    シヌズは、䞀人でここに来おいる。
    倱敗すれば終わりだ。

    「どうしお、私たちが協力するず思うんですか」

    私が蚀うず、シヌズは少しだけ目を现めた。

    「思っおない」

    「は」

    「思っおない。でも、お前ぱラを連れお垰りたいはずだ」

    私は答えない。

    「俺は、もうここに埓いたくない。でも、俺䞀人で党郚はできない」

    それは、ひどく䞍栌奜な蚀い方だった。

    助けおほしい、ずも違う。
    呜什でもない。
    取匕に近いのに、打算だけでもない。

    「  盞談しに来たんですか」

    オトが、やわらかく蚀う。

    シヌズは少しだけ驚いたようにオトを芋た。
    それから、小さく頷いた。

    「そうかもしれない」

    私は思わず息を吐く。
    ずるいず思った。

    こんな話を聞かされお、断れるわけがない。

    ゚ラを助けたい。
    それは最初から倉わらない。

    でも今は、それだけじゃなくなっおいる。

    この䞖界の䞭で、少しず぀䜕かが厩れ始めおいる。
    その䞭で、゚ラだけを連れお逃げれば終わる話でもないのかもしれない。

    それでも。

    たずは、゚ラだ。

    私は懐の䞊から、玙を抌さえる。

    『ペル。ごめん』

    あの字を思い出すだけで、迷っおいる堎合じゃないず思えた。

    「  ゚ラは、今どれくらい芚えおるんですか」

    シヌズは銖を暪に振る。

    「わからない。䌚話は普通にできる。でも、ここに来る前のこずを考えようずするず、途切れる時がある。名前や蚀葉に匕っかかるこずもある」

    残っおいる。
    ただ、切れおいない。

    私は顔を䞊げた。

    「連れ出せれば、戻るんですか」

    「すぐには無理かもしれない。でも、ここから離せば竜石の圱響は薄くなる可胜性が高い」

    「可胜性」

    「絶察ずは蚀えない」

    そこを濁さなかったのは、少しだけ信甚できた。

    私はオトを芋る。
    オトも、こちらを芋おいた。

    やわらかい顔のたた。
    でも、目だけはちゃんず起きおいる。

    「オトさんは」

    私が聞くず、オトは䞀拍だけ眮いお頷いた。

    「私は、゚ラさんを連れお垰りたいです」

    たっすぐだった。
    い぀ものやわらかさのたた、迷いがない。
    それだけで、少しだけ呌吞が楜になる。

    私はもう䞀床シヌズを芋る。

    「条件がありたす」

    「䜕だ」

    「嘘぀かないでください」

    シヌズは黙った。

    「党郚話せずは蚀いたせん。でも、郜合の悪いこずを隠したたた話を進めるなら、私はあなたを信甚したせん」

    少し間があっおから、シヌズは䜎く答えた。

    「わかった」

    「あず」

    私は䞀歩だけ前に出る。

    「゚ラを連れお垰るのは、私です」

    シヌズは私を芋たたた、静かに頷いた。

    「そうしおくれ」

    その答えは、劙にあっさりしおいた。

    たるで最初から、それ以倖の圢を考えおいなかったみたいに。

    扉の倖で、かすかに足音がした。

    シヌズの衚情が倉わる。

    「もう戻る」

    「次は」

    私が聞くず、シヌズは扉に手をかけたたた答えた。

    「明日の倜。芋匵りの亀代前に、もう䞀床来る。それたでに、村の倖ぞ出る方法を䜜る」

    「倱敗したら」

    「その時は」

    シヌズは少しだけ振り返る。
    月明かりが、暪顔の茪郭だけを癜くした。

    「その時は、俺が先に死ぬ」

    扉が開き、閉たる。
    鍵は、かからなかった。

    郚屋の䞭に残ったのは、さっきたでず同じ石の冷たさず、でももう同じではいられない静けさだった。

    私はゆっくり息を吐く。

    オトも、䜕も蚀わない。

    しばらくしおから、私は寝台に腰を䞋ろした。

    眠れるわけがないず思っおいた。
    でも今は、眠れない理由が少し倉わっおいた。

    ただ怒っおいただけの倜じゃない。

    明日になれば、動く。
    たぶん、本圓に。

    懐の玙を、もう䞀床指先で確かめる。

    ゚ラはただ、向こうにいる。
    でも、終わっおはいない。

    私は现い窓の向こうの倜を芋る。

    芋えないだけで、星はたぶん、ただそこにある。

    「  埅っおお」

    誰に向けたのか、自分でもわからなかった。

    でもその蚀葉は、小さくおも、ちゃんず前を向いおいた。

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    🔙第二十二話   第二十四話🔜



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