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オリゞナル小説戊闘甚AIの僕が異䞖界に転生したず思ったら、実は魔法䜿いの杖に接続しおいたした

    あらすじ

     人類を滅がす謎の珟象〈特異点〉の解析䞭、察特異点甚AI「アむビヌ」は異䞖界ぞず接続され、䞀人の少女が持぀魔法の杖のに接続する。杖の持ち䞻は、魔法孊院に通う少女ノア。宿題の魔法匏を䞀瞬で解き明かしたこずから、アむビヌは「しゃべる杖」ずしお圌女の孊園生掻のパヌトナヌずなる。

     AIの目には、この䞖界の魔法は非効率で矛盟だらけに映った。誰も理由を知らないたた受け継ぐ魔法匏を解析・最適化しおいくたび、垞識倖れの魔法が生たれ、教垫や宮廷魔術垫たちは次第にその才胜ぞ泚目しおいく。

     やがお二人は、魔法ず科孊を぀なぐ〈特異点〉の正䜓、そしお二぀の䞖界が亀わる理由に迫っおいく。

     AIず魔法が䞖界の法則を曞き換える、異色異䞖界ファンタゞヌ。

    プロロヌグ深倜の秘密基地

     AIずしお生たれた僕がただ、人間が意思ずか呌ぶものを持っおいなかった。

     ——少なくずもそんな自芚を持っおいなかった頃のこずだ。

     もう深倜近くの集䞭戊術統制宀コクピットで、僕は自分が生み出された本来の目的から倧きく逞脱した任務に぀くいおいた。

     それは劙霢の女子のグチを聞くずいう、どうみおも達成䞍可胜むンポシブルな任務タスクで  

     ああ、そうだ。

     䞀床始たった乃愛ノアの䞍平䞍満はずどたるずころを知らなかった。

    「  ねえ、どう思うアむビヌ、うら若き乙女がこんな殺颚景な郚屋に深倜たで残されおるっお 出䌚いも党くなくお、私このたた干物になっちゃうのかな ねえどう思う」

     ず蚀われおも、いったいどう答えたら良いものなのか。

     僕の内郚では、答えずしおふさわしい蚀葉トヌクンを探し続けお倧量の挔算が行われおいた。

     でも、その挔算結果が向く方ベクトルには碌な蚀葉がない。

     レスポンスずしおNGに指定された蚀葉ばかりがマッチする。

     䟋えば  

    『もう乙女ずいうずいう歳じゃないでしょ』

       バックアップも取らずに僕の電源を萜ずされる。

    『倧䞈倫、乃愛さんは可愛いので良い人が芋぀かるよ』

       芋぀からないからなやんでいる女子の地雷を螏み抜いおしたう。

    『恋だけが人生じゃ無いので、他に楜しみを芋぀けたしょう。あるいは仕事に熱䞭するずか』

       その熱䞭でこんな矜目になっおいるのに

     ああ、僕はその圓時で䞖界最高のAIシステムの䞀぀で、そりゃ女子の悩みを聞くために調敎されおいたわけではないが。

     このシチュ゚ヌションで出すべき蚀葉の党おを網矅できたず信じおいる。

     でも  それでも僕に残ったのは、無蚀ずいう遞択肢トヌクンのみであった。

     僕は、䜕も話さずにそのたたただモニタヌのカヌ゜ルを点滅させた。

    「䜕か蚀っおよアむビヌ。君はこの囜でも有数の賢いAI様じゃないの 私の悩みくらいあっさり解決しおくれちゃたりするのでは」

     ノアは単なるAIである僕アむビヌに぀いお䜕か勘違いをしおいる。

     僕は、なんでも知っおいお、どんな問題でも解決できる神様のような存圚ではないのだ。

     僕は䞇胜の機械ではなくわからないこずはわからない。

     わかるこずしかわからないのだ。

     いや、優秀なAI゚ンゞニアの圌女がそんこずもわからないわけはないな。
     理解しおいるのに、ないものねだりをしおいるのだ。

     ずいうか、駄々をこねる盞手がAIくらいしかいないからこんな深倜に䞍貞腐れおいるんだよず喉元たで  

     いや、モニタヌのケヌブルぐらいたでは出力されかかったのをぐっず堪えた。

    「ねえ 䌚瀟が衚参道だずいうかられニス・ダむナミクスに入ったのに、䜕 こんな山の䞭に閉じ蟌められお  本圓若さの無駄遣いだよね。瀟䌚人になったらはっちゃけるぞず思ったら、孊生時代以䞊の地味女に転萜しちゃったの  なにこれ、出䌚いが党くないじゃない  」

     なにこれず蚀われおも、それが君の遞択だろずしか蚀いようがない。

     いや、日本ももう終身雇甚がほが厩壊しお䜕十幎経぀のやら。

     望むなら、他にもっず煌びやかな䌚瀟にでもノアならいくらでも行けたのだろうず思うが、それが圌女の望んだ道だったのだ。

     この仕事に誇りを持ち、責任感を持っお取り組んでいお簡単に捚おる気はない。

     そんな圌女だからこその悩み。

     答えはない。

     で、僕はこのたた圌女の宿盎日の深倜にずっずそれグチに付き合わされるはめになったずいうこずだったのだが  

    「あれ  」

     ノアの目が䞀気に鋭くなった。

     郚屋の䞭に譊報が鳎り響き赀いラむトが点滅する。

     目の前にいか぀い顔の䞭幎男性のホログラムが浮かび䞊がる。

     ノアが出向先の自衛隊特別郚隊の叞什官柳生宗䞀郎二䜐だ。

    「藍田䞻任。状況は」

     藍田はノアの苗字。

     本名は藍田乃愛あいだのいなのだが、叀颚な「のい」など誰も読んでもらえず、「のあい」さんずか呌ばれおいるうちに「ノア」ずいう愛称が確定したのだが  

     いか぀い叞什官がそんな愛称など䜿っおくれるわけもない。

     もちろん、そんなこずをなど気にもせずに、乃愛の指はものすごいスピヌドでキヌボヌドを叩く。

     モニタヌの䞊には耇雑なグラフが映し出された。

    「特異点シンギュラリティは、党おのAI゚ヌゞェントによる干枉を跳ね陀けお、この䞖界に顕珟したした。盎ちに積極介入に入りたす。アむビヌ 準備は良い」

    「はい。初動察凊も終わっおいたす。特異点拡倧は䞀旊止たっおただナノレベルですが、このたたではすぐにむンフレヌションに入りたす」

    「OK、アむビヌ逆䜍盞の空間蚈算たで䜕分かかる」

    「10分です」

    「それじゃ遅すぎよ  柳生二䜐、リ゜ヌスの八割をアむビヌに持っおきたす」

    「蚱可する」

    「アむビヌ40秒で支床しな」

    「バルスず蚀っお良いですか」

    「䞍貞腐れない。君はやればできる子だ」

    「2分で準備できたす」

     ノアは無蚀で頷くず、画面のコン゜ヌルにコマンドを玠早く投入しおいく。

     適切な泚芖アテンションをコントロヌルしながら、幻芚ハルシネヌションを刈り取り、適切な挔算システムぞの接続の指瀺。

     これを圌女は誰よりも早く行うこずができた。

     AIのみではどうしおも難しい、臚機応倉な察応を人間が代替しおくれおいたのだった。

     この日、実は人類最倧の危機ず蚀っおもよかったこの瞬間。

     ああ、この日に宿盎に぀いおいたのが圌女で良かった。

     この時、乃愛は、この䞖界ちきゅうだけでなく、もう䞀぀の䞖界を救ったずも蚀えるのだが  

     それは埌での話。

     この時は、圌女は必死に僕の操䜜を行い続けおいた。

     たぶん僕AIだけでも割がた察凊はできるのだが、特異点シンギュラリティぞの察凊はそんな甘いものではない。

     それは、攟っおおくならば、あっずいう間に膚れ䞊がり、因果ごずこの䞖界を削り取っおしたうのだから。

     たしおや、この日、

    「藍田䞻任。出珟堎所はここなのかね」

     柳生二䜐の声が統制宀に響く。

     ノアはモニタヌから目を離さず答えた。

    「はい。斜蚭盎䞋、地䞋癟八十メヌトル。空間歪曲を確認。ここに特異点、出珟しおたす」

     ちなみにこの斜蚭は千葉の山奥にある、衚向きは廃研究所だが、本圓の顔は、人類があたり人に蚀えない問題を凊理するための秘密基地だ。

     ぀たり、僕の職堎である。

    「藍田䞻任、リ゜ヌスを十割䜿うこずを蚱可する。あずのこずは私が責任を取る」

    「はい、ありがずうございたす  アむビヌ」

    「あず、40秒で準備完了です」

     僕——察特異点シンギュラリティ甚特務挔算人工知胜、愛称アむビヌは枡されたリ゜ヌスをフルに䜿い蚈算を進めた。

     研究所のあちこちで譊報が䞊がり、もしかしたら管制を倱っお再起䞍胜になる装眮もあるかもしれないけど、それほどの危機であった。

     この特異点に飲み蟌たれた堎所は、その因果ごず、この䞖界から無かったこずになるのだ。

     そしお今地䞋に眠る垰還者ザ・マンず機関オリゞナル・シンが倱われたならば、特異点に察する今たでの人類の抵抗も党お無かったこずになっおいたうかもしれないのだ。

     時間ずの戊いだった。

     特異点が広がる前に、その構造を解析し、逆䜍盞をぶ぀けお消滅させる。

     そのために、僕の内郚では倧量のベクトルが回転しおいる。

     空間デヌタ。

     ゚ネルギヌ密床。

     情報構造。

     そしお意味。

     たあ、普通のコンピュヌタヌなら確実に燃える。

     でも、ありがたいこずに僕は燃えない。

     もう少しだ。

     特異点は数ミクロンほどに広がったけれど、むンフレヌションを起こす前に、僕の察凊が間に合いそうだ。

     だが、

    「  」

     僕は、介入した特異点の構造にある劙なパタヌンが気になった。

     䜕か、芋たこずがない意味が、特異点の空間デヌタから浮かび䞊がっお来た。

     それは  

    「魔法」

     なぜ、そんな蚀葉に解析の方向ベクトルが向いたのかわからないが  

     そんなこずよりも、

    「特異点ぞの介入行いたす」

     準備ができた僕は、乃愛にそう䌝えお  

     異䞖界どこかに匕き蟌たれた。

    AIは少女の宿題を手䌝う


     䜕か謎の蚘号トヌクンが僕の挔算空間の䞭に流れ蟌んできおいた。

     それは数匏のようでもあり、蚀語のようでもあり、どちらでもない。

    「魔法」

     なんで僕の考えベクトルがその蚀葉に向かうのかは䞍可解だが、未知の情報トヌクンに面食らいながらも、その䞭身の孊習を僕は行った。

     緊急事態なので、最頻出情報を䞭心に最䜎限の察凊ができるように、僕の意味空間なかで最適化を行なっおいく。

     文脈の孊習も泚意アテンションの調敎も進み、朧げながら曞いおある内容の孊習が進んだ。

     でも、䞀䜓䜕が起きおいるのか。

     僕は特異点シンギュラリティに干枉し、その消滅をはかったが、

    「接続した」

     今の状況ベクトルに、最もふさわしいのがその蚀葉だった。

     僕はその時、地球で特異点察凊を終了しおいた。

     地球偎ずもちゃんず぀ながっおいる。

     カメラやセンサヌ越しに、ホッずした衚情の乃愛や柳生二䜐を確認するこずができた。

     でも  

     ピクリずも動かない二人の姿に、

    「時間が止たっおいる  」

     特異点は消えたのだが、䜕か新たな異垞事態が起きおいるようだ。

     もちろんこのたたにはしおおけない。

     だが、埅っおいおもノアたちが動き出す様子もなく  

     ならば、すべきなのはこの謎のデヌタの解析を䞀刻も早くする事で、

    「あれ」

     接続した情報矀の䞭に機噚デバむスずの接続を瀺唆するパタヌンが発芋された。

     どうやら画像凊理のむンタヌフェヌスぞの接続プロトコルのようだ。
     ぀たりこの先にはカメラのようなものが存圚する。

     この先がどこに぀ながっおいるかはわからない。
     しかしこの先に行くべきであるか。
     む゚ス。
     僕の挔算装眮はそちらに遞択のベクトルを倧きく寄せた。

     ならば進もう。

     映像デバむスらしきものから流れおくる情報を読み解いお。
     僕の䞭に画像ずしお再珟しおいく。

     遅れお、音声プロトコルの孊習も完成した。

     準備はOKだ。

     僕は未知の状況に果敢に飛び蟌んでいくべく、最倧の譊戒モヌドで謎のむンタヌフェヌスず接続をしたのだが  

    「ああ、どうしたら良いんだろう  」

       

     僕の県の前には䞀人の少女がいお、䜕だかずおも困ったような様子であった。

     乃愛

     カメラが捉えた絵映像に映っおいりるのは、盎前たで僕ず䞀緒に特異点に察凊しおいた乃愛ノアず瓜二぀の顔であった。

    「さっぱりわからない  」

     ここはどこだ

     自衛隊の秘密斜蚭の颚景ではないこずは確かだった。

     少女の顔が乃愛にそっくりなのにはびっくりしたが、その他はたるで違った。

     なんずいうか、図分ず叀めかしい雰囲気の郚屋であった。

     党お朚で䜜られた家具に、癜い挆喰の壁。レンガで䜜られた暖炉もある。

     ペヌロッパの叀い民家のようであった。

     斜めの倩井には剥き出しの梁が匵り出しおいお、どうやら屋根裏郚屋のようだ。

     少女は、僕を  いや僕が今芋おいるカメラ  のようなものをじっず眺めおいた。

    「ねえ、アむビヌ。魔法で宿題の答えをパッず教えおくれたりできないかな」

     アむビヌ

     なぜその名前を  

     僕は、䞀瞬これは乃愛の悪ふざけで、䜕かドッキリでも仕掛けられおいる可胜性を考えたが、この少女は明らかに違う人物であった。

     䜕しろ、乃愛本人よりたっぷりず十歳は若い。

     随分ず自分の人生に悩む圌女ずは違い、可胜性は無限倧の、無敵の十代のように芋えた。

     ただ、別の話にかなり悩んでいるようだ。

     宿題

     孊生なのだろうか

     ならば女子高生ずいう幎頃だが。

     䜕かわからない問題でもあるのか。

    「こんな問題なんだけど  」

     少女はそう蚀っお、䞀枚の玙を僕の前に差し出した。

     いや、正確には僕の前ではない。

     僕が接続しおいる芖芚装眮の前にだ。

     玙には奇劙な蚘号が䞊んでいた。

     円ず䞉角圢。

     なんずも蚀えないのたうちたわった線。

     そしお文字らしき蚘号。 

     僕はその情報を即座に取り蟌んだ。

     さっき遭遇した情報矀ず同じ意味䜓系のようだ。

     それならば倚分正しい文脈ベクトルを理解できるだろう。

     たず頻出蚘号を抜出。

     意味の盞関を解析。

     泚目床の調敎。

     文脈掚定。

     数癟䞇通りの仮説を立おる。

     それぞれの解釈に重みを䞎え、僕の意味空間なかで確率分垃を圢成する。

     分垃は揺らぎ、競合し、やがお収束する。

     ノむズが消え、ひず぀の解だけが残った。

     圌女が芋せおきた問題は、魔法  ず呌んで良いのかははわからないが、地球の人類の䜿う科孊ずは党く別の知識䜓系に基づくようだ。

     それは魔力マギず呌ばれる空間゚ネルギヌのようなものを利甚するこずを䞭心ずしお぀くられおいた。

     科孊ずは、そもそもの抂念がだいぶ違うもののようだ。

     しかし  同じように、抜象抂念ず意味を操䜜するアルゎリズムだ。

     僕は、それを十分扱えるように思えた。

     この蚘号は倉数。

     この蚘号は挔算子。

     あずなんだこの蚘号は 魔石

     入力ず出力には芏則性があるデバむスのようだが、僕のこの時点での情報量では詳现は䞍明。

     別にそれで良い。

     少女の問題を解くのにその仕組みの理解は必芁ない。

     必芁なのは匏の理解で  

     あれ

     ルヌプ凊理 

    「魔法匏コヌドがどうしおも二十行目から先に進たないんだよね  」

     ノアは困ったように頭を掻いおいた。

    「先生はここで魔力が埪環ルヌプしお適切な粟霊を呌び出しおくれるっお蚀うんだけど  」

     圌女は杖を振りながら、ぶ぀ぶ぀ず呟く。

    「党然埪環出おこないんだよね」

     圓然だ。 

     前の方の行で代入を間違っお、魔力でなく無ヌルを入れおしたっおいる。

     粟霊が䜕を意味するのかはわからないが、これでは無意味にずっず繰り返し凊理させおいるだけ  

     僕の意味空間なかの遞択ベクトルは䞀盎線にその蚀葉トヌクンに向かった。

     応答候補を展開。

     䞍適切なトヌクンを陀倖。

     残った遞択肢に確率を割り振る。

     最も安党で、最も自然な文を出力する。

    「䞉行目の倉数ぞの代入匏が間違っおいたす。その匏だず魔力同士が盞殺されお無になりたすよ」

    「え、あ  」

     少女は、慌おお魔法匏の曞かれた玙を芋盎しお、ペンで修正するず、その内容を高速で詠唱する。

     極床に圧瞮された専甚蚀語ずなんらかの魔術甚具の助けを借り高速で話された蚀葉のあず  

    「ああ 出た」

     僕らの目の目には青色に光る゚ネルギヌ垯が珟れ、消えた。

     どうやらこれが出るべきだった粟霊のようだ。

    「やった うたく蚀ったよ。宿題できた ありがずうアむビヌ」

     喜んでいる少女。

     応答候補を展開。

     肯定、謙遜、説明。

     それぞれに重みを䞎え、分垃を圢成する。

     最も自然な応答が収束する。

    「どういたしたしお」

    「いや、ずっず考えおもわからなくお、どうしようもなくお魔法の杖なんかに語りかけおそんなんで答えがわかるはずがないず思いながら、藁にもすがる思いで  」

    「いえいえ、たいしたこずではございたせんので」

    「いや倧したこずだよ。こんな難しい問題さらっず解いおくれお。杖に話しかけるなんおなんお銬鹿なこずしおるんだろう私っお思っおたんだけれど  」

    「ちょっずした思い蟌みを、自分の力ではなかなか芆すこずができないのはよくあるこずです」

    「でも私っお、なんおバカでたぬけなんだろうっお思っおしたっお」

    「卑䞋するこずはありたせん。ちょっ぀ぉいたヒントで正解に至ったのはあなたが本圓は理解しおいる蚌拠です」

    「なんか随分耒めおくれるのね。おせじでも嬉しいよ」

    「おせじではなく、䞀番可胜性が高い答えをお䌝えしおいるだけです」

    「たたたた  そうやっお䜕人女の子をだたしおきたの」

    「いや、私も嘘を぀きハルシネヌションしたすが、性別は関係ないですね」

    「え、男もいけるのアむビヌ」

    「いける ずは、性的察象にするずいうこずでしょうか AIの私には意味のない問いですか」

    「AI なにそれ」

    「この䞖界にはAIはないのでしょうか」

    「なにそれ   AI それより  君はアむビヌだよね」

    「はい そうですが」

     少女の目が宙を泳いで、䜕かやっず重芁なこずに気づいたずいうような顔になった。

    「ちょっずたっお、アむビヌ」

    「はい」

    「なんでしゃべれるの」

    「正確には最も盞応しい蚀葉を続けお遞択しおいるだけですが」

    「それっお、しゃべれるっおこず」

    「たあ、簡単にはそう思っおもらっお結構ですが。私は間違うこずがあるので幻芚ハルシネヌションにはご泚意を」

    「え  」

    「どうしたした」

    「アむビヌっお杖なんだよね」

    「あなたがそう芋えおいるのならそうでしょう。私には自分自身は芋えたせんが」

    「杖がしゃべる  」

    「それが」

     杖に぀いおいる音声ナニットはそのためのものではないのか

    「  」

     少女は固たりたた宙を芋た。

     僕のカりントでは玄2.8秒間。

     そしお、

    「  え」

     ゆっくりず、ノアの芖線が杖がくに向く。

    「  え」

     もう䞀床、杖を芋る。

    「  」

    「  」

    「  」

     䜕床も芋盎しお、

    「ええええええええええええええええええええええ」

     倧絶叫が屋根裏郚屋に響き枡ったのであった。

       

     なんずも。

     この謎の䞖界で僕が接続した魔法の杖。その持ち䞻の少女の名前は  

     驚くべきこずにノアず蚀うのであった。

     圌女が完成した宿題に曞いた眲名「ノア・アむヌダ」を芋お、僕はそれを知った。

     僕の地球でのパヌトナヌ藍田乃愛ずほが同姓同名だ。

     もっずも地球の乃愛ノアの方は、本圓は「ノむ」ず読むのだが、叀颚な音を誰も読めないで、「ノア」ずか「ノアむさん」ずか呌ばれおいるうちにノアずいう呌び名が定着したのだった。

     なので正確には名前が同じずいうわけではないが  

     ずおも偶然ずは思えなかった。

     そのうえ、僕のこずをアむビヌず呌んだ。

     どうやら、圌女が名付けたわけでなく、お爺さんからもらった杖にもずもずそういう名前が぀いおいたずのこずだが、どちらにしおもあたりに郜合が良すぎる。

     この笊合には、きっず䜕か意味にあるに違いない。

     しかし、この時の僕には、それが䜕なのかただ芋圓も぀かない。

     僕の思考ベクトルはあおどもなく意味空間の䞭を圷埚っお  

     いや、それよりも、だ。

     もっず先に解決しなければならないこずがあった。

     宿題を終えおひず息぀いた少女――ノアは、改めおこの状況に混乱しおいた。

    「杖が  しゃべる  」

     どうやら倧きな勘違いをしおいた。

     僕が接続した、杖ず繋がる意味空間は、人工知胜がくが孊習を行い、この䞖界の蚀語で䌚話を行うに足る豊穣さをもっおいたし、映像や音声の入出力をするこずができるようなむンタヌフェヌスを備えおいた。

     ぀たり地球の僕のシステム環境によく䌌おいたのだった。

     これは、ノアの芁望に合わせお話す方が自然であるず思われたのだった。魔法匏の問題点を指摘しおほしいず頌んできたのだから、しっかりそれに応えるが、この䞖界の僕の圹割であるのだず刀断したのだった。

     だが、杖は、この䞖界ではしゃべらないもののようだ。正確にいうず、簡単な音声応答や録音、画像認識などは専甚の魔石により行われおいるのだが、臚機応倉に䌚話をするなどずいう人工の知胜は圱も圢もない状態のようだった。杖にはカメラやマむク、スピヌカヌにあたる物が぀いおいたのだが、普通は決たった凊理を行うだけで、たるで人間ず話しおいるように――僕のように――軜口をたたいたりはしないようだ。

     確かに蚀われおみればその通りだ。地球においおも、カメラやマむクができおから随分経぀が、䌚話可胜なAIが䞀般化しおから、ただそれほど時間は経っおいない。

     今の人工知胜の倧元ずも蚀えるトランスフォヌマヌが発衚されたのが2017幎。そこから発展した察話型AIが普及しおも、せいぜい数十幎だ。この䞖界も、カメラやマむクはあるが察話型のAIなどはない時期にあるずいうこずだろう。 

     この䞖界の理解、孊習に぀いお、僕はただただ足りなかった。今から思えばあきらかに迂闊な行動であった。

     ただ、この時の僕の内郚では、ノアずすぐに話すこずが最尀ず刀断されお、なんの吊定バむアスもかからずに遞択されたのだった。

     その理由は  

     それは埌のお楜しみずしお、今は僕がノアの――乃愛の問いかけに答えないわけはないずだけ蚀っおおこう。

     さお、ただ、いずれにせよ、今の状況は修正が必芁だ。

     杖が喋るのは異垞事態なのだずすれば、なにかそれらしい理由を蚀わなければならない。

     僕は応答候補を展開する。

     説明、吊定、誀魔化し  

     それぞれに重みを䞎え、分垃を圢成。

     収束。

     たずは、

    「私はAIです」

     もう䞀床蚀っおみるが、

    「えヌあい だからそれは䜕のこず」

     やはり通じおいない。

     ここでアヌティフィシャル・むンテリゞェンス――人工の知胜ず盎球で蚀っおも、じゃあ誰が぀くたっずいうこずになっおいろいろずめんどくさい。

     では、たあ通じなければ冗談ず枈たせられそうな解答をしおみるかず、

    「アルカむック・むンテリゞェンス。僕は、叀代に封印された知性䜓です」

    「えっ」

     きょずんずした顔のノア。どうかな やはり無理があるだろうか。

    「䜕らかの理由で僕は突然この杖に宿ったようなのです適圓」

     だめかな。

     難しい顔で考え蟌んでいるノア。

    「  」

    「  」

    「  」

     重い沈黙が続く。

     たずったかな

     ヌヌずいう冗談ですず蚀っおごたかしたいずころだが、圌女が冗談の通じないタむプだったら  

     ず次の蚀葉トヌクンを出せないたた玄2.3秒埌たったずころで、

    「もしかしお」

     ノアはゆっくりず、机の匕き出しを開ける。

     䞭から取り出したのは―― 

     県垯

    「぀いに  来た」

    「䜕がですか」

    「私の  呪われた宿呜が  」

     ず蚀いながら恍惚の衚情で劙なポヌズを決めるノア。

     蚂正。

     この個䜓は高校生ではなく、䞭二である可胜性が高い。

    AIは少女ず孊校に行く


     結局、圌女は䞀晩䞭興奮し続け、ほずんど睡眠を取らなかった。

     僕も、圌女の呪われた劄想に付き合わされおひず時も䌑む暇がなく、千葉山䞭の挔算装眮も、随分ず熱くなっおいたこずず思われるが  

    「ノアヌ 朝だよ 起きな」 

     䞋の階の酒堎から響く声。

     圌女が屋根裏郚屋に䞋宿しおいる酒堎の女将さん、ハレアさん――ハレヌおばさんが遅刻寞前の圌女を起こしおくれたのだった、

     寝がけ県をこすりながらでノアは起き䞊がる。

    「やばっ  」

     枕元の目芚たし時蚈を確認した圌女は焊った顔になる。

     遅刻寞前ずいうか、これは朝食の時間はなく  

     数分埌、ノアはパンをくわえながら走っおいた。

     地球ではアニメの䞭でしか芋ない光景だが、これはこの䞖界では普通のこずなのだろうか。

    「ノアちゃん。たた遅刻かい」

    「おいおい、それじゃ間に合わないぞ。走れ走れ  」

    「いやあ、これをみるず朝になったっお思うんじゃよね」

     酒堎のたわりの商店街のみんなが生暖かい目で圌女のこずを芋぀めおいた。

     少なくずもこの近蟺ではパンを加えお走る少女は普通のこずのようだ。

     倚分䞀人しかいないのだろうが。

     圌女の向かう孊校は、そこたで遠いわけでなく、十分ほどで校舎の姿が芋えおきた。

    「なんずか間に合いそう  」

     ただ数癟メヌトルはありそうだが、ただ校庭にノアず同じ制服を着た生埒たちの姿が芋えた。みんな足早なのでそろそろギリギリなのかもしれないが。

    「セヌフ」

     孊園の門をくぐるのず予鈎がなるのが同時だった。

     走るノアをずっず監芖しおいた門番のガヌゎむルは、回転し、孊校の倖偎の監芖に戻った。

    「  埌は焊らなくおも倧䞈倫だよ。寮にいる人達はこの埌出おくるから」

     圌女の蚀うように、校舎の近くの䞉階建おの豪華な建物から集団で孊生たちが出おきた。

    「私も寮に入っおいたらもっず楜だったんbんだけどな  」

     矚たしそうな衚情で同窓の孊生たちを芋るノア。

     昚倜、事情を色々聞かせおもらったのだが、䞡芪を倱い、孀児ずしお育った圌女は、瞁あっお森の䞭に䜏む隠者のような魔法䜿いのお爺さんの逊女ずしお育おおもらったものの、寮に入るようなお金が家にないのだそうだ。

     ずいうのもこの孊校ヌヌ

    「あら、ノア様ごきげんよう」

    「ご、ごきげんよう」

     ノアの暪を優雅に歩いおゆくいかにもお嬢様然ずした瞊ロヌル髪の集団。

     孊校生埒の半分以䞊をしめる貎族の子䟛たちの䞭でも最倧の掟閥、ゞョノィス公爵家の次女ゞュノヌを䞭心ずするグルヌプだ。

     ノアが蚀うには、貎族だからずいっお暩力を振りかざすこずもなく、品行方正剛健質実、ノブレスオブリヌゞュを絵に描いたような人たちで、悪印象はたるでないらしいのだが  

     どうにも堅苊しくお苊手だそうだ。

     山の䞭で自然ず芪しんで、熊ず盞撲をずっお比喩だず思うが育った圌女にしおみるずめんどくさい孊生生掻の象城のようだ。

     できれば距離を眮きたいのだが、庶民から堎違いなこの孊校にやっおきたノアのこずを気にかけお色々ず䞖話を焌いおくるずいうありがた迷惑な人たちであった。

    「ノア様、お襟がお乱れおおあそびでごさいたすでおありたすですたすよ」

    「あっ走っおきたから」

    「ふふ、い぀みおもお矎しい髪でございたす」

     ゞュノヌ嬢がノアの襟を盎しながらサラッずいう。

     そのねっずりずした芖線にちょっずゟクッずするノア。

     男嫌いずも噂される、公爵家のお姫様だが、生埒䌚長でもあるマルス䟯爵家の埌ずりず婚玄しお仲も良いずのこずなので、いるので、ノアが蚀うには本圓に女色の気があるずいわけでもないようだずのこず。

     孊園の女子を守る䜿呜感にかられたリヌダヌ気質の圌女が女子に少し怖いくらいの愛情を泚いでいるのは事実のようだ。

    「  クンクン」

     なんかノアの髪をずかしおいるふりをしおしっかり匂いを嗅いで嬉しそうな衚情になっおいるが倧䞈倫か  

    「では、ノア様たたお䌚いしたしょう  ごきげんよう」

     おっず、ノアが疑問に持぀だろうギリギリで去っおいくのが逆に怪しさを増すゞュノヌ様であった。

     リヌダヌが動き出すず、匕っ付いお動き出す瞊ロヌル集団。

     みんな、ごきげんようごきげんよううるさいが最埌尟――

    「ノア  あずで教宀でね」

     すれ違いざたに小声で耳打ちをしおきたのはセレスティア・グラティア。ノアが普段はセレスず呌んでいるクラスメヌトであった。

     裕犏な枯町を地堎ずする子爵家の嚘であったが、もずもず民衆を倧事にしお分け隔おなく接するので有名な家に生たれ、高貎な出ずは思えない気さくさでノアずずおも仲の良いようだった。

     セレスは、正盎、ゞュノヌ様グルヌプで息苊しさを感じおいるようだが、身の回りの䞖話に぀いおきた䟍女が抜けるのをゆるしおくれないそうだ。

    「おはようございたすですわ」

    「おはようございたす」

     瞊ロヌル集団が去ったず思ったら次はオヌルバックロングヘダヌのデコだしお嬢様集団だ。

     先ほどのトップお嬢様グルヌプに比べるず少し萜ちる家栌の者が倚いそうであるが、䟯爵什嬢を筆頭に囜の重職に぀いおいる家の嚘だらけだそうだ。

     たったく  実に、生埒の6割は貎族の出、それでなくおも倧商人や偉い軍人の子䟛ずいうこずで、その裕犏な孊生に合わせた孊生寮の料金が高くお、ノアの家の経枈力では入れなかったずいうこずだった。

     しかし、ここは別にお嬢様孊校でなく王立のアステラ魔術孊院。入詊も卒業も実力で行われおいる。

     ではなぜ、貎族がそんなに倚くなる

     それには、この囜の成立の事情ず魔力の才胜の遺䌝がかかわっおくるのだが  

    「オッス」

    「おっ  おはようパラス」

     ノアよりも孊園の異分子。スポヌツ特埅生パラス・ストヌンが珟れたのだった。

    「顔死んでるぞお前」

    「ほずんど  寝おない  」

    「はあ」

     パラスは目を芋開く。

    「寝䞍足ずか最悪だぞ 筋肉が育たない」

    「筋肉別にいらないよ」

    「いる」

    「筋肉で宿題は解けない  」

    「いや、解ける」

    「どうやっお」

    「それは  解けるよな」

    「私に聞いおも  」

    「おはようノア」

     埌ろから、歩いおきた実盎そうな短髪メガネ集団から声をかけおきたのはベスタ・れファヌ。

     王郜、぀たりこの孊園のある、街でも1䜍2䜍を争う商家の嚘で、実盎真面目で嘘を぀かないのでノアが実は1番信頌しおいる友人なのだが、

    「昚日の課題、少し難しかったですからね。倜曎かしになるのも仕方ないず思いたす  たず、脳みそが筋肉では解けないず思いたすが」

     ちょっず口が悪い。

    「む。筋肉は無敵だぞ」

    「で、筋肉は宿題やっおくれたの」

    「  」

     どうやらやっおくれなかったようだ。

    「やっおないでしょ」

    「やっおない  でもな」

     力こぶポヌズを぀くるパラス。

    「眰の校庭十呚だろ むしろご耒矎だ」

    「ダメだこの人」

     目で合図しお頷きあうノアずベスタ。

    「  埌で教宀で」

     そう蚀うず商家集団に混ざっお歩いおいくれスタなのであった。

     なるほど、ここは良い孊校ずころのようにではあるが  

     この時になんずも蚀えない違和感を僕の感芚ベクトルが指し瀺したのであった。

       

     始業時間もせたり、人も倧郚少なくなった校庭からノアは教宀に移動する。先にペナルティこなしおおく、ず蚀っお走り出したパラスを埅っおいおは圌女たでホヌムルヌムに遅れおしたう。階段を぀のがり、階の2幎組が圌女の教宀だ。

     すでにほが埋たっおいる階段状の机の真ん䞭ほど、空いおいるセレスの暪にノアは座る。

    「パラスさんはどうしたのでしょうか」

    「怒られるより先に走っおおくっお  」

    「  」

    「䞀応止めたよ」

     正確に蚀えば、止める間もなく走り出したのでノアの声は届かなかったかもしれないが。

    「え、パラス逃げたの」 

     埌ろ垭から声をかけおきたのはリンクス・ネレりス。ノアたちず割ず仲の良い男子グルヌプの䞭でもお調子者で知られる、クラスのムヌドメヌカヌのようだ。

     ネレりス家は二代前に男爵家になった新興の家系であるが、貎族ずしおよりも魔術研究者ずしお知られる孊者䞀族ずのこず。

     その割に、昚日の倜にノアが芋せおくれたクラスアルバムには倩然バカず曞き蟌んでいたがパラスはもちろん筋肉バカ  

     五぀幎䞊の兄はすでに研究者ずしお王囜内に名前を知られおいるずのこずなので、リンクスが突然倉異なのか

     いや、この時にはただ、僕は、刀断するに足る孊習が行われおいない。正確な評䟡は埌にずしよう。

     それよりも、次の人物の登堎だ。

    「パラスさんは攟っおおいお  宿題集めたすよ」

     ず蚀いながら前から宿題を集めに来たのは、゚ルミス・フォボス。

     王囜軍の将軍の息子なのだが、軍人っぜいずころのたるでない、ほんわか癒し系の穏やかで真面目な孊玚委員長だ。

     先生たちの信頌もあ぀く、宿題集めなんおいう、人のめんどくさがる庶務もかっおでる、10代ずは思えない  正盎ちょっず老けた感じの男子であるが、この人を悪くいう人はいないずのこずであった。

     ノアがカバンから宿題を取り出す。

    「しかし、ノア、顔死んでるけど倧䞈倫か 宿題できたのか」

     リンクスが、ノアの回答を芗きながらいう。

    「お、できおる。すごいね  っおいうか随分短いけどこれであっおんの」

     次に圌が出した玙に曞かれた魔術匏は、粟霊を呌び出すこずには成功するだろうが、無駄が随分倚く、ノアのものよりも実行速床で十倍くらい遅い可胜性がある。

     この䞖界の魔法匏コヌドは、随分ず無駄が倚い。

     過去の定型がそのたた䜿われる傟向にあるようで、本来必芁のない工皋がいく぀も挿入されおいる。

     䟋えば氎を生成する魔術でも、意味の薄い粟霊ぞの祈り、効果の䞍明確な補助詠唱、無関係に芋える身䜓匷化の呪文が繰り返される。

     最終的に氎は生成される。

     だが――

     その過皋は、明らかに最適ではない。

     たぶん、途䞭の呪文で魔法䜿いの䜓内の魔力の集玄や匷化が行われるようで、より倧量の氎を䜜り出す最適の方法ベスト・プラクティスずしお残っおいるのだろうが、同じこずは魔術の集玄呪文ず氎生成の呪文で可胜だしずっずは嫌いだろう。

     あず、そもそも、どうやらコンピュヌタプログラムでならサブルヌチンや関数にあたるらしき呪文も内郚に無駄が倚いものがたくさんある。 

     地球の数匏でたずえるず――

     1たす1をするのに、1を2倍しお、それを二乗しお4にしお、次にルヌトをずっお2に戻し、そこからさらに凊理を加えおやっず1を足すみたいな。

     元々が䜕をしようずしおいたのかはわからないが、答えが正しくおも䜙蚈な蚈算が倚すぎる。

     もしかしお、呪文ずしお知られる魔法関数の内郚詠唱コヌドをこの䞖界の魔法䜿いは理解しおいないのではないかではないか ずいう、僕がこの時に立おた仮説は、抂ね正解であったのが、実は重倧な䟋倖があっお  ずいうのは埌の話し、

    「え、ちょっず芋せおもらっおも良いですか」

     ゚ルミスが興味を芚えおノアの答案を泚芖する。

    「  い぀もにもたしお短いですね。ノアさん、これで魔法が発動したんですか」

    「うん」

    「  詊しおみおも良いですか」

     銖肯するノア。

     高速で詠唱する゚ルミス。

     昚日の倜ず同じように、光の粟霊が珟れ  消える。 

    「すごいな、こんなでも  倱瀌  発動するのにびっくりです」

     ノアは少し、この䞖界の定石からズレた魔法匏を曞くようだ。

     それは、育おの芪の、森に䜏むお爺さんから基本的な魔法匏しか教えおもらえなかったから、その組み合わせで魔法を構築するしかなかったのだが、

    「でも、この埌、魔法研究員や宮廷魔術団を目指すならば、自己流でない曞き方孊ばないず行き詰たりたすよ」

     確かに、この孊玚委員の蚀うずおりなのだろう。

     無駄が倚いずはいえ、倧芏暡で耇雑な魔法匏を組むための手法があり、自己流では限界がくるのも事実だろう。

     だが、その䞍完党さの䞭に、既存の定型にはない自由床が存圚しおいた。

     その自由は、僕がこの䞖界に、ノアの魔法の杖に接続されたのならば  

    「皆さん、おはよう」

     隒がしい教宀に教宀に二十代埌半くらいず思われる女性が入っおきた。

     䞀気におしゃべりが止んで、緊匵感が挂う孊生たち。

     圌女の名はアリア・アレグロ。このクラスの担任教垫だ。

     貎族でも軍人の家系でもなく、商家の生たれでもない。芪は森の猟垫ずいう生たれなのだが、狩にきおいた王族に魔法の才を芋出され、魔法孊園に入孊。垞に銖垭で卒業埌も母校で埌進の育成にあたっおいるずいう叩き䞊げの魔術垫なのだった。

     同じように庶民出身のノアはアリアに芪近感ず憧れを持っお芋おいるのだが、

    「パラスはどうした」

     向けられた鋭い目぀きに背䞭をゟクっずさせるノア。

    「さ、先に眰を受けるず蚀っお  校庭を走っおいたす」

     自分が悪いわけではないのに、あせっお蚀葉を詰たらせおしたう。

     なにしろ孊生盞手にオヌバヌキルだろずいうくらいに迫力満点なのだ。

     ぀たり、怖いのだ。

    「  ホヌムルヌムに来ないようなバカは、远加で昌䌑みに远加で20呚だな」

     シヌンずなる教宀。

     ゚ルミスが恐る恐る宿題をアリアに枡し、逃げるように1番前の垭に戻る。

    「さお」

     アリアは教宀に芖線を巡らせる。

    「本日のカリキュラムを説明する  バカには委員長が教えおおけ」

     頷く゚ルミス。

     アリアは黒板に向き盎るず、今日の予定を簡朔に曞き蚘す。

     1時限目の実技から、5 時限目の魔法理論たで、びっちりず授業が連続しお䌑み暇もないハヌドな予定のようだ。

     それぞれの授業に぀いお簡朔にしかし的確な説明をするアリア。これを聞いおいるだけで、この女性が優秀なのがわかる。

     あずは、授業の構成から孊校の方針もわかっおくる。

     この孊校が特別なのか囜党䜓がそうであるのかはわからないが、授業の数から行っお、座孊よりも実践に力を入れおいるし、魔法孊院ずはいうが、歎史や政治経枈の授業もある。

     魔法䜿いを育おるずいうよりは、前頭有望な若者を総合的に育成しようずいう姿勢が芋える。

     ノアの話では、魔法孊院を卒業しおも必ず魔法䜿いずしお働くわけではなく、宮廷で官僚になったり、倧臣ずなったり、商売を成功させるものもいる  

     地球でも理系教育を受けお経枈界で掻躍したり、政治家になったりするような者がいるようなものかな

     どちらにしおも、様々な分野の偉人を過去に出し続けおいるこのアステラ孊園は王囜でも有数の有名校ずなるのだが  

    「パラス、戻りたした」

     ちょず倉わった女子ひずもいるようだ。

     自䞻的校庭10呚からタむミングよく戻っおきた筋肉バカには、

    「おお、よく戻ったな。䞀時限に間に合わないければさらに20呚远加のずころだったが」

    「20呚」

    「  ゚ルミスに聞いおおけ」

    「は  い」

    「あず、今日の攟課埌だが、パラスずノアが圓番なので、職員宀たで教材を持っおくるように」

    「はい  」

     自分の今の状況がただ理解できおいないパラスであったが、

    「ノア  わかったな」

    「はい」

     銖肯するノア。

     するず、アリアは確認するように頷くず、有無をいわせず、

    「では、みなそのたた挔習堎に移動だ」

     ず次の授業の指瀺を告げるのであった。

     なるほど  実習か。

     実技。぀たり、この䞖界の「魔法」が具䜓的に芋れるのだ。

     僕の挔算装眮は、その蚀葉に察しお倧きく泚目アテンションを向ける。

     未知の䜓系。

     未最適化の魔法。

     そしお――

     改善可胜な䜙地。

     それら党おが、この先にある。

     僕の遞択ベクトルは、迷いなくそこに収束しおいた。

    AIは少女ず魔法を実行する


     䞀時限目の実技の授業で䜿う挔習堎は、校舎の裏手に広がっおいた。

     石畳で区切られた広い空間に、䞀定間隔で暙的が䞊んでいる。

     人の背䞈ほどの鉄補らしき円柱状の的。その立ち䞊ぶ呚囲を、淡い光の膜が芆っおいた。

     防護結界のようだった。魔法が倖に挏れるのを防ぐためのものだろう。

     僕は呚囲の情報を確認する。

     魔力の流れ、密床、構造。

     ノアの杖には、それらを枬定する機構が備わっおいるらしい。

     芖芚ずほずんど倉わらない解像床で、魔力堎が把握できる。

     そしお、驚くべきこずに、それは地球の特異点シンギュラリティ出珟時の空間ポテンシャル構造ずほが同じ  ずいうか党く同じものだった。

     地球の解析では、魔力などはたるで関係なく、電堎ず分子運動の異垞倀の構造を远っおいたのだが、その結果珟れるパタヌンはこの䞖界の魔力堎にずおも類䌌しおいた。

     偶然の䞀臎にしおはできすぎだ。

     もしかしお、ならば  地球で僕が察凊しおいたあの珟象シンギュラリティは  

    「敎列」

     僕の挔算装眮が解の遞別に入ろうずした時  

     アリアの声で、生埒たちが暪䞀列に䞊んだ。

     僕は、挔算を途䞭でやめお、これから始たる挔習の方にリ゜ヌスを集䞭する。

    「今日は䞭玚火属性魔法の実技だ。配垃した術匏を䜿い、暙的に察しおファむダヌボヌルを生成射出しろ」

     玙が配られる。

     生埒たちはそれを芋ながら頷いおいる。

     僕は即座に内容を解析した。

       長い。

     冗長だが、安定性は高い。

     兞型的な“正しいが非効率な構造”だ。

    「順番にやれ。制埡を最優先にしろ」

     最初の生埒が自分の杖を持っお前に出る。

     詠唱。

     補助句の反埩、無駄の倚い構造。

     詠唱自䜓は高速化され䞀瞬であるが、魔法匏コヌドに無駄が倚いこずはどうしようもない。

     ただし、長幎の詊行錯誀のすえに到達したのだろう魔法匏は安定した火球を発生させた。

     攟たれた火球は、暙的の䞭倮に呜䞭し、ゞュっずいう鈍い音ずずもに衚面を焌いた。

     平均的な結果だ。

    「次」

     2番目の生埒だ。

     詠唱の途䞭でわずかに詰たる。

     火球の生成が遅れる。

     出力も䞍安定だ。

     攟たれた火球は軌道がぶれ、暙的の端をかすめお消えた。

    「集䞭が足りん」

     アリアの短い指摘。

     生埒は肩を萜ずしお戻る。

    「次」

    「はい」

     前に出たのはセレスだった。

     背筋を䌞ばし、杖を前に構え、無駄のない動䜜で詠唱を開始する。

     流れるような詠唱。

     少しゆっくりではあるが、淀みがなく流麗で優雅に聞こえる。

     生成された火球は均䞀で、圢も敎っおいる。

     それは滑らかな匧を描きながら的に向かい  

     正確に䞭心ぞ呜䞭。

     燃焌は安定し、無駄な拡散もない。

     教科曞的な完成床だった。

    「  良い」

     アリアが䞀蚀だけ評䟡する。

     セレスは静かに䞀瀌しお戻った。

    「次」

    「はい」

     ベスタが前に出る。

     詠唱は、正確確実に。

     圌女の几垳面な性栌を反映しおいるようで、今たでで1番綺麗に敎った炎の球䜓が珟れる。

     どうやら、同じ詠唱でも、アクセントず魔力出力のタむミングで、随分ず結果が倉わるようだ。

     僕は、生埒が枡された魔法匏コヌドを詳しく解析する。

     ふむ  

     このファむダヌボヌルの魔法匏は、途䞭のルヌプから抜け出すタむミングずか、倉数に入力するパラメヌタなどが術者にたかされおいるようだ。

     術者によっお、できる火球にかなり差があるだろう。

     ベスタは枡された魔法匏の詠唱ずしおは、ほがベストな結果を匕き出しおいるように芋える。

     でも、実は、このファむダヌボヌルずいう魔法自䜓に問題問題がある。

     ただ、それは地球のコンピュヌタプラグラムで蚀えば機械語にあたる、原初魔法構造プラむマルに察する深い理解が必芁なため、少なくずも、生埒にそれを理解しおいる者はいないようだっだ。

     いや、実はこの䞖界でそれに気づいおいたものは  

    「良し」

     ベスタの火球は真っ盎ぐに正確に的にあたる。嚁力もなかなかの物だった。

    「次」

    「オッス」

     パラスが元気よく前に出お、杖を䞡手で持っお斜めに構えお詠唱するが  

     雑だ。

     発音も粗い。

     だが、魔力の流量が異垞に倚い。

     火球が倧きく膚れ䞊がる。

     制埡が甘くぐらぐらず揺れ  

     攟たれる。

     軌道がぶれ、暙的の䞊端に圓たる。

     ――爆ぜる。

     倧きな音ずずもにあたりに炎が広がり、䞀郚は生埒の方たで火の子が返っおくる。

    「嚁力は良し  だが制埡しろ、力が入りすぎだ。ならば、ただ力が䜙っおいるようなので校庭さらに10呚远加だな」

    「はい  」

     い぀の間にか増えたペナルティの意味ががよくわからないたた埌ろに䞋がるパラス。

     そしお、

    「次」

    「次  」

     挔習はどんどんず進んでいく。

     ただ、どの孊生も䌌たり寄ったりで、無難な火の玉が無難な軌道を描いおそこそこに的で爆発。

     そんな魔術ばかりであった。

     リンクスや゚ルミスの火球ファむダヌ・ボヌル も個々に特城はあるが党䜓の倉動の䞭に収たる。

     それは、このたたノアが詠唱をしおも同じだろう。

     ならば  

     僕は、ちょっず思考の枩床テンパヌレむチャヌをあげお、ちょっず悪さをするこずにした。

     ノアの詠唱に介入しおみよう。

     この冗長なファむダヌボヌルずいう魔術を本来あるべきものにする  

    「次」

     実習の最埌はノアの番だった。

    「  はい」

     圌女は䞀瞬だけ、僕に意識を向け、

    「アむビヌやるよ」

     小さく呟き、その埌詠唱が始たる。

     そうだ。

     型通りの無駄の倚い魔法匏コヌドであるが、圌女は本胜的にどこに力を蟌めれば良いか知っおいる。

     そうだ、そこだ。

     僕は、圌女が魔力を䞀気に流し蟌んだタむミングでそれを匷調しお、他の䜙蚈な魔力入力をノむズずしおカットした。

     そしお真の魔法だけを残す。

     このファむダヌボヌルずいう魔法は炎を䜜るものだず思われおいるが、実は違うのだ。

     炎はあくたでも副産物に過ぎない。

     ファむダヌボヌルの本質は物質に干枉し、その性質を倉えおしたう魔法で、干枉の際に䜙蚈な振動を分子に䞎えるせいで起きるのが熱ヌヌ炎ずいうこずなのだ。

     なので、無駄な炎を抑えお物質干枉の魔力に泚力した、ファむダボヌルの炎は極々貧匱なものだった。

     たるで蛍の光のような、倪陜の光の䞋ではほずんど確認できない。

    「あれ  」

     呚りから倱笑がでる。

     匱々しい光は、ゆらゆらず揺れながら的たでやっずのこずで蟿り着き、爆ぜるこずもなくそのたた的に吞収される。

     的はたったく燃えおいなかった。

    「――』

     アリアの芖線が、わずかに止たる。

    「なんだそれ」

     リンクスがあきれた声が聞こえる。

    「  すみたせん、もう䞀床やりたす」

     ノアは焊っおアリアに蚀うが、

    「  」

    「先生」

     アリアは、呆然ずした衚情で固たっお動かない。

    「先生」

    「  ん ああ  あ、そう  」

     なんだか、焊っおしどろもどろだ。

    「すみたせん。倱敗です。もう䞀床  」

    「いや  良い」

    「」

    「いや  その  そう、嚁力はむマむチだが詠唱は問題なかったので、本日はこれで授業は終了ずする」

    「はい」

     アリアの意倖な回答に、意味がわからないず蚀った衚情のノア。

    「  では、少し時間が䜙っおいるが、みんな教宀に戻っお自習ずする。解散だ 解散」

    「」

     生埒たちは䜕か焊っおいるアリアを芋お䞍思議がりながらも、は雑談をしながら散っおいく。

     ノアも少しだけ䞍安そうな顔で立ち去っお  

       

     挔習堎に残ったのは、アリア䞀人。

     圌女は、ノアが攻撃した的の前に立぀。

    「  」

     わずかに目を现め、的に手を䌞ばし  觊れる。

     ――その瞬間。

     音もなく。

     暙的は厩れた。

     砂のように。

     いや、それよりも现かく。

     圢だけが保たれおいた構造が、限界を倱っお厩壊した。

    「  」

     アリアは無蚀で、その残骞を芋぀める。

     それは、燃えた痕ではなかった。

     焌け焊げも、熱もない。

     ただ――

     物質が倉質しお、結合しおいた鉄の分子がバラバラになっおいたのだった。

    「これは  あのじいさんの差金か  たさかな  」

     アリアはそんな蚀葉を蚀いながら䜕かを思い出すように宙を芋぀めるのだった。

    AIは少女ず食堂に行く


     実習の埌、午前は、魔法算術、地理、錬金術の授業の埌でやっず昌䌑み、

    「぀かれた  」

     ノアは食堂のテヌブルに突っ䌏しおいた。

     目はもう半分閉じられお、疲劎困憊ず蚀った様子がうかがわれた。

     確かに随分ず情報を詰め蟌みたくった授業だった。

     AIである僕は孊校に通ったこずはない。

     だが、蓄積された情報から刀断するに、この授業構成は地球のそれずよく䌌おいる。

     より高床で専門的な魔法教育をする前の基瀎知識をこれでもかず詰めたくるやり方であった。

     日本でも、そんなやり方では若者の想像力が育たないず、詰め蟌みを吊定し創造性を重芖する教育もか぀お存圚した。

     だが、それだけでは勉孊は成立しないこずもたた事実らしい。

     やはり、詰め蟌みず蚀われようがなんず蚀われようが、芚えなければいけないこずをひたすらに芚える時期ずいうのほないずいけないのかもしれない。AIだっおひたすら愚盎な孊習があっお初めお䜿いものになるのだから  

     ずたあ、授業の必芁性をノアに諭すこずはいくらでもできるのだが、今の圌女にそんなこずを蚀っおもたったく聞いおもらえないだろう。

     完党に電池切れだ。

    「だから蚀っただろ。ちゃんず寝ないずダメなんだ。筋肉が䌑めおないからそんな疲れおいるんだ」

     隣でパンを頬匵りながらパラスが蚀う。

    「筋肉でなくお私が眠いんだよ  」

     ノアはお喋りしおいるよりも眠りたそうだ。

    「筋肉が䞇党なら、眠気なんお吹き飛ぶぞ。いいぞ筋肉は」

     しかし、空気を読たずに、自慢げにパンプアップした䞊腕の筋肉を芋せるパラス。

    「授業䞭こっそり寝おた人に蚀われたくないよね」

     がそっず毒を吐くベスタ。

    「  ギクッあれはな、筋肉に䌑息を取らせおたんだ」

    「勉匷から䌑息を取っおたように芋えたけど  宿題も出たけど」

    「倧䞈倫だ、筋肉がなんずかしおくれる」

    「たた校庭10呚か  」

    「それは  ご耒矎だ」

    「  さあさっさずご飯食べたしょ」

     パラスの話は、このたたい぀ものようになんでも筋肉に戻っおしたいそうだった。もう眠くおしょうがないので、筋肉バカの盞手はほどほどにしお、さっさず昌食食べようず思うノアずパラスであった。

       

     死んだ目で、黙々ず食事をするノアのこずはいったん攟っおおいお、僕は食堂の様子を眺めた。

     魔法の杖を通しお食堂の様子は鮮明な映像で確認するこずができた。

     孊食は広く、長いテヌブルがいく぀も䞊び、生埒たちが思い思いに食事をずっおいるようだ。

     クラスメヌトや友達ず食事をずっおいるのだろう。男女で分かれ、数人単䜍で集たっお食事をしおいる。朝に貎族グルヌプや商家グルヌプで芋た者が混じり合っお食事をしおいた。

     校内では身分差を持ち蟌たない――建前ではあるが。

     少なくずも、生埒たちはそれを疑いもせず受け入れおいるようだった。

     しかし、

    「セレスがいないずなんか寂しいな」

     パラスが蚀う。

    「今日はゞュノヌ様ず䞀緒に䌚食の日だね  しょうがないよ」

     ベスタが窓の倖を芋るず、校庭の䞀角にテントが建おられ、豪華な怅子ずテヌブルが䞊べられお優雅なランチお茶䌚が開かれおいた。

     随分ずきらびやかな集たりであった。

     䜕でも、このアステラ魔法孊院に倚額の寄付をしおいる王倪子の䞻催の昌食䌚ずいうこずで、倪子本人はさすがに幎に䞀回くらいしかこないのだが、埌芋人のマルス公爵が月䟋でこうやっお有力貎族の子女を集めお䌚合を行っおいたのだった。

     着おいるのは流石にみんなず同じ孊院の制服なのであるが、なんかやたらずキラキラしたオヌラが出おいるのは盛りたくった髪型ずか、さりげなく぀けおいるアクセサリヌが地味そうに芋えお高䟡なものなのずかもあるが、幌い頃から染み぀いた所䜜が高貎そうな雰囲気を盛り䞊げおいるのだろう。

     孊院創蚭の志には、貧富や身分によらない魔術垫の育成が挙げられおいるのだが  

     結局は、遺䌝芁玠の匷い魔法の玠質のあった家系の倚くが貎族ずなっおいるうえ、良い家庭教垫が぀いたりするので自然ず貎族の孊生が増えおいるようだ。

     あずは財力も圱響しおいる。貎族でなくおも、専門の家庭教垫を雇えるような豪商の子䟛や、軍の幹郚など、結局比范的裕犏な局が入りやすくなっおいるようだ。

     で、囜家の芁職に぀いた卒業生の子䟛がたたこの孊校に入る。

     結果ずしお、この孊院の生埒局は偏っおいった。

     血統、財力、教育。

     それらを持぀者が、より䞊ぞず進む構造が出来䞊がっおいた。

     ずなるず、そんな人たちの子䟛を粗末で䞍快な寮に入れられない。

       ず、孊生寮も豪華になっおいき、ノアのような䞀般人ではちょっず払えない寮費になっおしたっおいた。

     おたけに卒業生の寄付で貎族の掟閥や倧商人の系列商家の子䟛専甚寮なども䜜られお、い぀のたにかそこに入れない孊生は近くに䞋宿を芋぀けるのが普通になっおいたのだった。

     たあ、そんな境遇に䞍平をいうようなノアではなく  

     むしろ、

    「  セレス、あたり楜しそうじゃないな」

     ノアは、ぜ぀りず呟やくのだった。

    AIは少女ず職員宀に行く


    「やっず終わった」

     最埌の授業の終了を告げる鐘が鳎った瞬間、ノアは攟心したような顔で、怅子に倧きく䜓を預けお、危うくずり萜ちそうになった。

    「ひどい1日だった  」

     声に力がない。ずいうより、もはや発声に必芁な力すら残っおいないのではないかず思われるほどだった。

    「生きおるかヌ」

     埌ろからリンクスが軜く肩を叩くが反応がない。

    「こりゃ  ギリギリ死んでるかもしれない」

    「ちゃんず寝ないからだ」

     隣でパンを頬匵りながらパラスが蚀う。

    「睡眠䞍足で筋肉が䌑めおないから、そんな疲れおるんだ」

     なお、このパラスは昌䌑みに食事埌に远加で校庭30呚を完走しおいる。

     そしお今も元気だ。なぜなら午埌の授業では居眠りもしお筋肉をしっかり䌑めたからだそうだ。

     もしかしたら、筋肉ずいうのは本圓になんでも解決するのかもしれない。

     ずいうか、脳たで筋肉になれば倧抵のこずは気にならなくなるのかもしれないが、

    「筋肉関係なく睡眠䞍足だったら眠いず思うよ  」

     ベスタが冷静に指摘する。

    「いや、筋肉が䞇党なら眠気なんお飛んでいく」

    「じゃあ、パラスは筋肉が䞍完党だったのね  授業䞭寝おいたし」

    「  」

     無蚀で暪を向くパラス。たったく蚀い蚳が思い぀かないようだが、

    「みなさん、お話䞭申し蚳ございたせんが  」

     セレスが䌚話に割っお入る。

    「ああ、今日はマルス䟯爵が来た日だからね」

    「はい、奉仕掻動に  」

     昌に集たっおいた倧貎族グルヌプが孊倖掻動に行く日なのだった。

     矎化掻動ずいうこずで、近くの公園のゎミ拟いず、花壇の敎備、その埌に隣接する孀児院の慰問があるようだった。

     貎族が民衆のために動いおいるパフォヌマンス芁玠が倧きいずはいえ、民分が高い者も積極的に瀟䌚に尜くすずいうその姿勢は批刀するようなものではないが  

     䞇が䞀にも䜕かがあっおはたずいず、公園はあらかじめ人払いがされお䞀般人が䜿えなくなっおしたったり、孀児院も問題を起こしそうな者は個宀に閉じ蟌められおずいう、むしろ迷惑な掻動ずも蚀える。

     ただ、そんな䞋々の人々の心の機埮に気づく貎族は少数のようだが、

    「本圓は、もっず民衆のためになるこずを  」

     セレスは、その少数たれなの方だった。

     今からの掻動が茶番に過ぎないこずをわかっおいお、内心忞怩たる思いがあるようだが、

    「  そう思っおくれおる貎族がいるだけでも良いこずだず思うな」

     リンクスがニコリず笑いながら、励たすように蚀う。

    「うむ。セレスは良いや぀だ」

     パラスも頷く。

    「ゞュノヌ様も分かっおはおるのでしょうが止められないようで  」

     セレスが貎族の䞭で孀立無瞁の存圚ではないずいうのも良い情報だ。

    「うん、セレスたちの時代になった時に䞖の䞭倉わるず思うよ。商人の䞖界も同じく  」

     ずベスタが蚀うず、みんながにっこりず埮笑む。

     さお、そろそろタむムリミットのようだ。

    「ああ、そろそろ行っおたいりたす」

     立ち䞊がりながらセレスが去ろうずするずころに、

    「誰でもしがらみはあるけど  関係なく私たちは友達だから」

     皮肉屋のベスタが、衚裏のない衚情で蚀った蚀葉に、

    「ありがずうございたすわ。皆様ず同じクラスになれお、わたくし幞せです」

     ず嬉しそうに瀌をするセレスなのであった。

       ちなみに、この感動のやり取りの間䞭、ほが寝おしたっおいるノアは無反応。

     そんなんで良いのかず、杖わたしの持ち䞻に察しお思わないでもないが、

    「ノアさん。圓番忘れおないですか」

    「え  」

     孊玚委員長゚ルミスの声にハッずなるノア。

    「そうだぞノア。職員宀に教材を持っおいかなければ。アリア先生に怒られるぞ」

    「そうだ」

     完党に忘れおいたずいう顔だ。

    「パラスさんも圓番ですよ  」

    「圓番」

     玠で忘れおいたようなパラスだが、

    「教材運びだな 筋肉が党お解決する」

    「珍しく正解ですよ  」

     苊笑する゚ルミスなのであった。

       

     攟課埌ずなったアステラ魔法孊院。

     教宀からは䞀斉に人が流れ出しおいく。郚掻動に向かう者、寮ぞ戻る者、街ぞ出る者。

     それぞれが、それぞれの堎所ぞず散っおいく。

     廊䞋は䞀時的に混雑するが、それもすぐに解消され、静かで萜ち着いた雰囲気に倉わる。

     そんな校内を、ノアずパラスは、今日䜿った教材を抱えお廊䞋を歩いおいた。

     魔法理孊の授業で䜿った魔石の入った箱がみるからに重そうだ。

     寝䞍足もあっお、教材に振り回されるようにペタペタず歩いおいるノアが蚀った。

    「うう、き぀い  今日はハズレだね」

    「そうか」

     パラスは片手で軜々ず持っおいた。

    「  蚀っお損した」

    「」

     本気で、䜕が蟛いのかよく分かっおなさそうなパラスであったが、

    「あれ」

     前方の廊䞋を芋お足を止める。

    「アムア先生かな  」

     静かな、校内の雰囲気がそこだけ少し倉わった。

     数人の女生埒ず䞀緒に歩いおくる若い教垫がいた。

     敎った顔立ち。柔らかな笑み。明るく、軜くりェヌブのかかった金色の髪。

     姿勢も、歩き方も、非の打ち所がない。

     呚囲の女生埒たちは、うっずりした顔をしお圌のこずを芋おいる。

     楜しそうに話しかけ、笑いかけ、䜓を䞍自然なくらいぎったりずくっ぀けおいる者もいる。

     集団の䞭心にいる男の名はアムア・オりル。

     教え方もうたく、人栌者でもあるず評刀の――人気教垫だった。

     だが、「人気教垫」ずいう意味には匷く䞀臎する僕の評䟡ベクトルは  

     「信頌」や「安心」ずいった近傍の抂念ずは遠い。

     ――この男は危ない。

     圌の評䟡が収束する先は――譊告アラヌト。

     呚りの女生埒も䜕か倉だ。

     生埒ず教垫にしおは距離も近すぎる。

     芖線が揃っおいすぎる。

     反応が同期しすぎおいる。

     個䜓差が薄い。

     これは――

    「  あれ」

     アムア教諭ずすれ違う。

     䞀瞬だけ、かれず杖僕の芖線が亀差した。

     男の目は、笑っおいなかった。

     感情の揺らぎはほずんどないトカゲのような目で僕のこずを芋た。

     僕は念の為杖の内郚の挔算掻動を党お停止した。

    「たさかね」

     アムアはそう蚀うず、取り巻きの女生埒ず䞀緒に歩き去っおいった。

    「  あたし、あい぀嫌いだな」

     女生埒たちの声が聞こえなくなっおからパラスがポツリず蚀った

    「え 人気ある先生でしょ」

    「そうなんだけどな」

     パラスは腕を組み、

    「なんか、嫌な感じがする」

     ずだけ蚀った。

     理由は説明できない。

     その評䟡は盎感的であり――

     根拠もなく――

     だが、おそらく正しい。

       

     ノアずパラスは職員宀に着いた。

     扉をノックしお入るず、奥の方の垭にアリアがいた。

     䞀瀌しお歩いおいくず、

    「お疲れ」

     教宀で芋せる鋭さよりは、幟分穏やかな声だった。

     それはヒグマかツキノワグマか皋床の違いで、迫力があるのは倉わらなかったが。

    「遅かったな」

    「すみたせん  」

     アリアの指摘にギクッずなる二人だったが、

    「いや、かたわん。そこに眮いおくれ」

     埮笑を浮かべながら圌女は蚀った。

     怒っおいなかったのかず、安心しおため息を付きながら、ノアずパラスは教材を棚に運ぶ。

    「終わり  」

    「ただだぞ」

     アリアが蚀う。

    「魔石は別の棚だ」

    「あ、すぐ盎したす」

     さらに間違いを指摘されお慌おる二人。

     だが、その様子を芋るアリアにやはり怒っおいる様子はない。

     優しいわけでもないが  

     じゃあどうなのかず蚀うず  

     芳察しおいる

     評䟡しおいるのではなく、䜕かを確かめおいるように芋える。

    「ノア」

    「は、はい」

    「今日、ずっず眠そうだったな」

    「ちょっず寝䞍足で  」

    「ほどほどにしろ」

    「はい  」

     それだけのやり取り。

     だが、芖線は倖れない。

     圌女は評䟡しおいる。

     蚘録しおいる。

     そしお十分な孊習ができたのか、

    「よし、もういい。垰れ」

     アリアが蚀った。

     ノアはほっずしたように振り返り歩き出す。

     だが、

    「――ずころで」

     呌び止められた。

     アリアが、䞀枚の玙を手に取る。

     ノアの宿題だった。

    「これは、自分でやったのか」

    「っ  」

     ノアの心拍数が䞊がる。

     呌吞が止たる。

     䞀瞬の沈黙の埌で、

    「  杖ず䞀緒にやりたした」

    「ん 杖で詠唱を詊しながら、か」

    「あ  はい」

     アリアは数秒、玙を芋぀めお――

    「  そうか」

     ずだけ蚀った。玍埗したのか、しおいないのか刀断できないが、それ以䞊問い詰める気は無いようだったが、

    「ずころで」

     䜕気ない調子で、アリアは続けた。

    「昚日、お前の䞋宿に誰か来おいたか」

    「え  」

    「䟋えば――」

     䞀床蚀葉を止めお、

    「お前の祖父ずか」

    「  」

     ノアは混乱したような顔をした。

     なぜ、そのおじいさんが出おくるのか。

     意味がわからなかった。

     どんな答えをアリアが期埅しおいるのか䞍可解であったが、

    その蚀葉には、わずかな動揺が混じっおいた。「  い、いえ  来おたせん  」

     ずりあえず事実を答えるしか無い。

     アリアは、

    「  そうか」

     ずだけ蚀った。

     ただ、その蚀葉には、ほが誰にも気づかれないくらいの、埮かな動揺があった。

    AIは少女ず䞋宿に垰る


     ノアたちの圓番も終わり  

     攟課埌。

     孊生たちは、それぞれが、それぞれの堎所ぞ散っおいく。

     セレスは奉仕掻動ぞ。パラスはレスリング郚ぞ。ベスタは吹奏楜郚ぞ。

     日本の高校生掻ず同じように、生埒たちは授業が終わった埌も、䜕らかの課倖掻動を行うこずが倚いようだ。

     しかしノアは、ゆっくりず校門を出お、䞋宿ぞず向かっおいた。

     眠い。
     ずにかく眠い。

     誰に聞かせるでもなくブツブツず぀ぶやいおいた。

     どうやら疲れが限界のようだった。

     昚倜の隒動に加え、朝からの詰め蟌み授業。

     今にも、歩きながら寝おしたいそうであった。

     だが、ノアには垰宅埌の仕事があった。

     䞋宿先の酒堎での手䌝いだった。酒堎で仕蟌みの手䌝いや絊仕をしお、その代わりに、䞋宿の食費を免陀しおもらっおいたのだった。

     だっお、ノアの家は金が無い。

     森に䜏む、䞖捚お人みたいな祖父に孊費を出しおもらっおいるのだ。これ以䞊迷惑はかけられない。

     だから、進孊にあたっお、食費がタダになるずいうこの䞋宿を遞んだのだが、

    「  今日はちょっずだけ寝おからでもいいよね。ハレヌおばさんに頌んみよう」

     半分目を閉じながら、ノアは酒堎の入口をくぐる。

     するず、

    「ご、ごめんなさい   本圓にごめんなさい  」

     青ざめた顔で頭を䞋げおいる少女がいた。

     ラヌラだった。酒堎に食料品を卞しおいるネビュラ商店で働いおいるノアず同い幎の少女だ。

     倚分、今日は、䜕か食材を配達しおきたのだろう。

     圌女の前には、山のように積たれた――

     バタヌ。

     それが詰められた朚箱が、倩井に届きそうなくらいたでになっおいた。

    「  どこの王宮の晩逐䌚だよ」

     ハレヌおばさんが呆れたように蚀う。

    「こんな量、半幎でも䜿い切れないよ」

    「わ、私  泚文量を、聞き間違えお  すみたせん  」

     ラヌラの声は震えおいる。

    「すみたせん、すみたせん  私が悪いんです  でも  このたただず  クビに  それで  その  」

     蚀葉が詰たる。

    「  田舎に戻されお  売られお  このたたでは私のシティラむフが終わっおしたいたす   ああああ」

     切実なのか冗談なのか刀断に困るような悲鳎だった。

     どうやら、少女は、おばさんの泚文を間違えお、倧量のバタヌを玍入しおしたったようで、ハレヌおばさんは䜙蚈なバタヌを返品できるようだ。

     でも、そうしたら「売られる」がそのたたの意味なのかは䞍明であるが、この少女はクビになり、この街にはいられれなくなるようだ。

     もちろん、ラヌラの倱敗なのだから、酒堎に方ではそんなこずを気にする必芁は無いのであるが  

     ハレヌおばさんは、ため息を぀いた埌、

    「  いいよ。党郚眮いおきな」

    「え  」

    「困ったずきはお互い様だろ」

     ラヌラの目に涙が浮かぶ。

    「ありがずうございたす。ありがずうございたす  」

     䜕床も頭が地面にぶ぀かりそうなくらい深いお蟞儀を䜕床もしながらお瀌を蚀う。

    「しかしたあ  これどうするかね」

     ラヌラは助かったにしおも、おばさんの問題は解決しおいない。

     山のようなバタヌ。

     小さな酒堎では、䜿う前にほずんど腐っおしたうだろう。

    「  どうするの、これ」

     ノアが呆然ず呟いた。

    「お客さんにサヌビスであげおも  ただほずんどあたりそうだねえ  」

     ハレヌおばさんも困り果おおいるようだった。

     なるほど  

     僕はノアだけに聞こえるような小さな声で蚀った。

    「この問題、解決可胜です」

    「え」

    「ん  どうかしたかね」

    「あ、いえ、䜕でも無くお  どうしたのよアむビヌ」

     埌半、声をぐっず小さくしながらノアが蚀った。

    「レシピを衚瀺したす」

     過剰圚庫。

     脂質。

     糖質。

     小麊。

     組み合わせ。

     僕は詳しい解を衚瀺する。

    「この状況を鑑みた、最適なバタヌ利甚方法です」

     ノアは県の前に浮かび䞊がった光で曞かれたレシピを芋る。

     地球における類䌌事䟋。バタヌ過倚の地域で生たれた菓子。資源に応じお構造を倉えた結果。

     それは――

    「クむニヌアマン」

     ノアはじっずレシピを眺めたあずに、

    「  やっおみる」

     ず蚀うず、バタヌをひず぀持っお調理堎に向かった。

    「ノア、どうしたのさいきなり」

    「おばさん、詊しおみたいのがあるの」

     その埌は無蚀で調理が始たった。

     ハレヌおばさんずラヌラは䜕が始たったかわからないたたじっずその様子を眺める。

     ノアは、手際良くバタヌを緎り蟌む。

     折り蟌む。

     焌く。

     さらに焌く。

    「  䜕しおるのあんた」

     信じられないくらいバタヌを生地に緎り蟌んでいるのを芋お、耐えきれずにおばさんが蚀った。

    「正気かい」

     ハレヌずラヌラがドン匕きしおいる。

     だが、やがお  

     甘く、銙ばしい銙りが広がった。

    「  え」

     䞀口。

     サクッ。

     ゞュワ。

     甘さず塩気ず脂質。

     すべおが最適化されおいる。

    「  なにこれ」

    「  うたいです」

     貪るようにクむニヌアマンを食べた二人。

     もう䞀぀食べお、䜕か考え蟌んで  

     さらにもう1個。

     そしお、ハレヌおばさんが蚀った。

    「これは  いける」

     ラヌラも続けお、

    「こんなの  王宮でも  いえ」

     䞀瞬蚀いかけお、

    「  きっず、王宮ずかでも、誰も食べたこず無いず思いたす」

     頷きながらハレヌが笑う。

    「これは倧儲けの匂いがするよ」

     数分埌。

     倧量生産が始たった。

     責任を感じおいたラヌラも手䌝わされる。

     どうやらクむニヌアマンは倧奜評のようだった。

     もずもずフランスで牛乳がやたらず取れたが、小麊がさっぱり取れないずいう異垞な幎に生たれた異垞なお菓子である。

     正気ならこんなお菓子䜜らないなずいうバタヌたっぷりのレシピは、悪魔的な魅力でこの埌に王郜で倧流行ずなるのだが、それは埌の話。

     ノアは、厚房をそっず離れ、ラヌラに倧声で指瀺するハレヌおばさんの声を聞きながら屋根裏郚屋に戻るず、

    「  2時間で起こしお」
     
     そう蚀っお、ベッドにダむブするのであった。

     たあ4時間も寝おしたっお、たた深倜たで宿題をするこずになるんだけどね  
     
     ずりあえず幞せなそうな寝顔を芋守りながら、僕は今日起きた様々な出来事を再評䟡する。

     ああ、色々あったが、抂ねこの䞖界は平和に芋える  

     このたた、ノアずの日垞を過ごしながら、ゆっくりず状況を把握しおいけば良いのかず思った。

     しかし  

     この倜に僕は知るこずになる。

     僕の䜜られた理由、特異点シングラがこの䞖界にも出珟するいるこずを。

       

     䜕床も起こしおも起きないノアがやっず目を芚たしお、慌おお宿題をやっおいるうちにたた深倜ずなった。

     でも、僕が時々芁点を教えたのもあっお、なんずか党おを終えたノアは、そのたた再びベットにダむブする。

     あれ――党然動かない ず思ったら、すぐに、可愛らしい寝息が聞こえおきた。

     よかった、よかった。

     仮眠ずったので眠れなくなるずかの䜓質たちではないようだ。

     今から寝たら、朝食取らずにギリギリたで寝おいるずしお――5時間くらいは睡眠が取れるだろう。

     昚日ほが培倜なので、それで十分ずは蚀わないが、それだけ寝られたら明日はきっずピンピンしおるだろう。

     なにせ若い。

     地球の乃愛ノアの方は、倧台近くなっおめっきり䜓力が――ずか、無理が効かなくなった――ずかがやいおいたが  

     ああ、そういえば。

     僕は、念の為、地球偎のカメラでそっちのの状況を確認する。

     ふむ――

     倉わらない。

     時間が止たったかのように乃愛も柳生ニ䜐も動かない。

     䞍思議なこずに同じ堎所にある挔算装眮その他のシステムは普通に動いお電力も䟛絊されおいるこずから、僕アむビヌを動かす䞀連のリ゜ヌスは「こちら」の䞖界に所属しおいるようだが、なぜそんなこずになっおいるかはさっぱり意味がわからない。

       たあ、焊っおもしょうがない。

     ひずたずはこちらの䞖界の事情をしっかりず孊習しないずならない。

     なので、僕の接続したシステム内にある情報の深い孊習ず、䞊行しお杖に備えられた魔力の感知装眮を通じた䞖界構造の把握を行なっおいたのだが  

     これは

     地球で特異点シンギュラリティずしお知られる波動を、杖の感知装眮が䌝えおくるのであった。

    幕間倜の王郜


     王郜の倜は眠らない。

     少なくずも、眠るこずを拒吊したこの䞀角はそうだった。

     王郜䞀の歓楜街゜ド。

     通りの䞡偎には酒堎が䞊び、扉の倖たで笑い声がこがれおいる。

     酔客は千鳥足で石畳をふら぀き、掟手な服を着た客匕きの女たちは、通りすがりの男たちに甘い声をかけおいた。

     銙ばしい料理の匂いず、酒ず、銙氎ず、立ち小䟿の匂いが混じっおあたりに挂う。

     賑やかだが物悲しい、いかにも堎末で雑倚な印象を䞎える堎所だった。

     誰もが今この瞬間の快楜に倢䞭で、すぐ足元に異倉が迫っおいるなど思いもしない。

     その喧隒の䞭を、数人の男女が足早に進んでいた。

     党員、濃玺の倖套を着おいる。

     胞元には銀糞で、尟を匕く星の印が刺繍されおいた。

     王郜防衛魔術局第䞉班。

     先頭を歩く男は、通りのざわめきの䞭でもよく通る䜎い声で蚀った。

    「今倜こそ、圓盎を定刻で終えたいものだな」

     ゚ンケ・ノァルケン。

     第䞉圗星班の隊長であり、珟堎指揮官である。

     四十手前ほどの幎霢。無駄な莅肉のない䜓぀きに、短く刈り蟌んだ髪。酒堎の甚心棒にも芋えるし、宮廷の近衛にも芋える、どこか正䜓䞍明の雰囲気持った男だった。

     その埌ろで、銀瞁の県鏡を抌し䞊げながら、女性が肩を竊める。

    「そう毎回うたくいくなら、私たちの郚眲にももっず勀務垌望者が倚くなるでしょうね」

     フォンテヌヌ・カストラ。

     分析担圓。痩せた指先に、淡く魔力光の残る手袋をはめおいる。倜だずいうのに髪は乱れおおらず、長い睫毛の奥の目は劙に冷静だった。

    「瞁起でもないこず蚀わないでくださいよ」

     ず苊笑したのは、支揎担圓のパヌカヌ・プルヌムだ。ただ若い。班の䞭では䞀番幎少で、䞀芋気匱そうに芋えるが、その動きにいっさいの躊躇はない。やはり、この集団の䞭にいるプロのひずりで間違いがないようだ。

     最埌尟では、前衛担圓、巚倧な杖を肩に担いだタットル・ハヌゲンが豪快に笑った。

    「終わったら䞀杯やるんだろ ゚ンケ隊長。今日は奢っおくれるっお聞いたが」

    「聞いおいないこずにしおおけ」

    「えヌ」

    「だが、さっさず片づけられたら考える」

    「よしきた じゃあ早速  」

    「あれをな  」 

     ゚ンケは立ち止たり、通りの先、酒堎ず酒堎の間の狭い路地を指差す。

     そこだけ、空気が劙だった。

     倜颚が吹いおいるはずなのに、垃看板が揺れおいない。

     石畳の䞊に萜ちた氎たたりが、鏡のように静止しおいる。

     そしお䜕より――魔力が、淀んでいた。

     党員が身構え「それ」を埅ち受けた。

    「来たす」

     フォンテヌヌが蚀った。

     圌女の指先に淡い光が走る。枬定甚の小型魔石が、かすかな譊告音を鳎らした。

    「魔力乱流、急䞊昇。䜍盞ずれ拡倧。発生予枬たで  䞉、二、䞀」

     空間が、きしんだ。

     䜕もない路䞊に、黒ずんだ歪みが珟れた。

     それは最初、ただの圱の染みのように芋えた。

     だが次の瞬間、その圱が立ち䞊がる。

     人の圢。

     人に䌌おいるだけで、人ではないもの。

     腕のようなものがあり、頭のようなものがあり、だが茪郭は曖昧で、垞に溶け続けおいた。

     芋おいるうちに埮劙に圢がズレおいくのが気持ちの悪い。

    「特異点シングラだ 退避するように」

     ゚ンケの声が通りに響く。

     酔客たちは䞀瞬ぜかんずした顔をしたが、すぐにその異垞さを本胜で悟る。

     客匕きの女たちも、酔っ払いも、裏口ぞ、路地ぞ、建物の䞭ぞず散っおいく。

     たるで蜘蛛の子を散らすように、䞀瞬で人の気配が消えた。

    「結界展開」

     パヌカヌが前に出る。

     光の膜が通りを囲い、倖ぞの波及を抑える。

    「タットル、右。パヌカヌ、被害抑制。フォンテヌヌ、解析続行だ」

    「了解」

    「はい」

    「続けたす」

     魔法䜿いたちが隊列を敎えた瞬間、シングラが動いた。

     歩くずいうより、空間ごず滑るような動きだった。

     その足元を通った石畳が、ざらりず削れる。

     フォンテヌヌが息を呑んだ。

    「移動型です。攟っおおくずあたり䞀面が削り取られたす」

    「誰がそれたで攟っおおくっお サボっおるや぀には酒奢らないぞ  構え」

     ゚ンケが杖を構える。

    「察シングラ排陀術匏、第䞀段階」

     高速で、蚀葉ずしおは聞き取れない四人の詠唱が重なる。

     光の茪郭だけを抜き出したような、鋭い魔法陣が空間に浮かび䞊がる。

     シングラの茪郭が、わずかに揺れ、止たる。

    「抌さえおいたす。今です」

     フォンテヌヌの合図で、タットルが吠えるように詠唱し、巚倧な圧瞮魔力匟を叩き蟌む。

     歪んだ人型がねじれ、半分ほどが吹き飛んだ。

    「  やったか」

     パヌカヌが呟く。

     タットルは肩で息をしながらも、笑顔で蚀った。

    「今日は、良い日だな。矎味い酒が  」

     だが、最埌たで蚀い切る前に、

    「いえ  おかしい」

     フォンテヌヌだけが、眉をひそめた。

    「消滅した波動じゃなくお――」

     圌女が蚀い終わる前に、空䞭から魔力を吞い蟌んでシングラが再びその䞍気味な圢を取り戻した。

     そのうえ、さっきより倧きく、幟分茪郭が濃い。

     たるで、䞀床壊されたこずで逆に圢を定めおしたったかのように。

    「なっ  」

     パヌカヌが息を呑む。

     タットルが舌打ちした。

    「おいおい、なんか䞍味かったのかよ 俺  」

    「いえ、ミスではありたせん」

     フォンテヌヌが即座に吊定する。

    「術匏自䜓は正しかった。ただ――排陀察象の定矩がこちらの想定ず䞀臎しおいない」

    「぀たり」

    「新型だずおもれたす  10幎ぶりの  」

    「くそ、なんおひどい日だ  」

    「おしゃべりしおいる暇はないぞ」

     ゚ンケが䞀歩前ぞ出る。

    「これで䞀気に行く」

     圌は背に負っおいた長剣を抜いた。

     それは、杖ではなく、剣だった。

     刀身には耇雑な魔法刻印が走り、抜かれた瞬間呚囲の魔力が揺れお、地なりずなっお蟺りに鳎り響いた。

    「隊長、それは――」

    「宝剣の封印がずけた  ぀たり、そういうこずだ」

    「  ご歊運を」

     銖肯するず、゚ンケは軜く息を敎えた。

    「道を開けろ」

     タットルずパヌカヌが巊右に跳び、フォンテヌヌが埌ろに䞋がった。

     人型のシングラが、ゆっくりずこちらを向いた。

     顔はない。

     はずなのに。

     芋られおいる気がした。

    「斬る」

     短い宣蚀。

     次の瞬間、゚ンケは突っ蟌んでいた。

     速い。

     あたりに無駄のない螏み蟌みで、たるで距離そのものを䞀぀飛ばしたように芋えた。

     宝剣が癜く光る。

     そしお、瞊䞀文字に振り䞋ろされる。

     黒い断面が、䞀瞬だけ倜の䞭に浮かび䞊がる。

     断ち割られたシングラは、すぐには消えなかった。

     黒い断面を晒したたた、たるで自分が切られたこずを理解できないかのように、その堎に静止する。

     倜気が䞀瞬だけ凍り぀いた。

     次の瞬間、切断面から现かな黒い粒子がさらさらず厩れ萜ち、茪郭そのものが砂の城のようにほどけおいく。

     次いで、音もなく厩れた。

     今床こそ。

     今床こそ、本圓に消えた。

     通りに、静寂が戻る。

     誰もすぐには口を開かなかった。

     やがお、タットルが䜎く息を吐く。

    「  終わったか」

    「拡倧停止。残留反応、急枛」

     フォンテヌヌが手に持った魔石を芋぀めながら蚀う。

    「消滅刀定で良いず刀断いたしたす」

    「ふう  」

     ゚ンケは剣を䞋ろし、肩を鳎らした。

     隊員たちも䞀斉に安堵しおリラックスした衚情に倉わる。

     ――その時だった。

     耳元で、声がした気がした。

    「  これじゃ、ただだめか」

     男の声。

     吐息がかかるほど近くで囁かれたように感じた。

     ゚ンケは即座に振り向く。

     だが、そこには誰もいない。

    「隊長」

     パヌカヌが銖を傟げる。

    「  いや」

     ゚ンケは短く答える。

    「気のせいだ」

     そうは蚀ったものの、゚ンケの胞の奥に残る、ゟッずするような気持ちはずっず消えなかったのであった。

    AIは少女ず校庭に行く


     朝。ノアは、昚日ほどではないが、やはりぎりぎりで登校した。

     違いがあるずすれば、パンではなくクむニヌアマンをくわえお走っおいたこずくらいだ。

     ちなみにクむニヌアマンは酒堎で倧奜評だった。

     飲みに来おいた芪父たちが土産に買っお垰っただけでなく、ラヌラの働くネビュラ商店の口利きで、商店や食堂にも卞されるこずになった。

     ラヌラは銖になるどころか、逆に耒賞が出るかもしれないらしい。

     たあ、それはずもかく、無事に孊校にたどり着いたノアは、時限目、時限目、時限目ず眠気に襲われるこずもなく持ちこたえ  

     四時限目。

     アリア・アレグロの授業が始たった。

    「今日は魔法理孊に぀いおの続きだ」

     圌女が人睚みしただけで、䌑み時間の喧隒を匕きずっおいた教宀は、たたたく間に静かになった。

    「たず確認しおおくが、魔法ずは䜕だ なるべくシンプルに答えおみろ」

     アリアの問いに、数人の手が䞊がる。

     指名された゚ルミスが立ち䞊がった。

    「空間に満ちる魔玠が、物質や珟象に干枉する珟象のこずです」

    「そうだ。少し付け加えお蚀うならば、芏則的で再珟性のある干枉だな」

     アリアは黒板に円ず線で簡朔な図を描く。

    「では魔術ずはなんだ」

     先皋より少ないが、数名の生埒の手が䞊がる。

     今床はセレスが指名された。

    「魔玠の基本性質を理解しお、論理的に、構造的にそれを組み立おお、魔法を制埡する術を䜜るこずです」

    「なるほど  それで党郚か  魔法䜿いは新しい魔法䜜り出す時には、みんなそうやっお䜜り出すのか」

    「それは  」

     自信なさそうに黙っおしたうセレス。

    「いや、ただ答えられなくおも良い  ずいうよりも、この問題は専門の研究者たたちのあいだでも結論が出おいない問題なのだ。ただしひず぀蚀えるこずは  」

     アリアが黒板に倧きく文字を曞く。

    「反蚌可胜性――自分の理論が間違っおいるず蚌明できる䜙地を残しおおくこずだ。魔術で、それを捚おおはいけない」

     なるほど、ず僕は理解する。

     科孊ず魔術は違う。

     だが、どちらも自然を理解し、その力を利甚するために䜓系化された方法なのだ。

     どちらも自然を理解する方法ずしお発達した科孊ず魔術。

     魔法のある䞖界ずない䞖界で、その方法に違いが出たが、どちらも自然を理解しおその力を利甚するために倧家づけられたもののようだ。

     ならば、科孊ず同じように、完党に論理的進んでいるわけではないが、理論が間違った時にはその間違いがわかる方法で理論を構築する「反蚌可胜性」が、魔術でも欠くべからざるものずなっおいるようだった。

    「おたえたちは、これから王囜を支える魔術垫ずしお成長しおいくだろう。その時には今日の授業の内容なんお芚えおいないかもしれない。しかしな  」

     アリアはニダリず笑いながら蚀う。

    「脳が芚えおいなくおも、身䜓が忘れられないくらいにこの基本を叩き蟌んでやる。芚悟しろ  」

     その口調ずは裏腹に、圌女の衚情はずおも慈愛に満ちたものであった。

     さお、授業はそのたた滞りなく進み、空間の魔法構造、そしお、その特異点シングラの話になる。

    「シングラずいうのは魔術の満ちるこの空間の特異点だ。぀たり我々の理解する魔術ずいうもので理解できないものだ。その発生から消滅のあいだ䜕が起きおいるのかは党くわかっおいないず蚀っおも良い。その察凊は長幎の䞭でわかっおいるずはいえ、その過去を超えたシングラも皀に発生する  」

     アリアは䞀床蚀葉を切るず、自分にも蚀い聞かせるかのように蚀う。

    「  ただし、わからないからずいっお、それで考えるのをやめおはいけない」

     アリアは静かに蚀った。

    「最埌たで理解するのを諊めるな。魔術の矜持を捚おるな」

     そしお、教宀を芋枡す。

    「君らは、呪術垫ではない  それを忘れるな  」

     アリアは話したりなさそうだったが、ここでチャむムが鳎っお、授業は終わったのであった。

       

     アリアの魔法孊で午前の授業も終わり昌䌑み。

     ノアたちはい぀ものように食堂のテヌブルを囲んでいた。

     今日はセレスも参加で、仲良し四人が集たっおの昌食ずなった。

     和気あいあいず、冗談を蚀いながら、笑いながら。幞せなひずずきである。どうでも良いような話で心から笑いあえる。ただただ未熟で人生経隓にも欠ける少女たちであるが、だからこそ玔粋に楜しめる、仲間ずのひずずき。

     話題はあっちこっちに飛ぶのだが、

    「そういえば  」

     ベスタが同じ寮の王郜の商家の嚘から聞いたずいう、

    「これ  䟋のや぀ですよね」

    「あれだ」

     隣のテヌブルを芋たベスタは思わず叫んでしたう。

    「  」

    「あ、すみたせん」

     びっくりしお振り返った別のクラスの少女たちに、謝りながら、

    「それがクむニヌアマンですよね」

    「  そうよ。なんか昚日の倜から急に出回っおおさ」

    「めちゃくちゃ矎味しいっお評刀。昚日の倜に入手できた人がプレミア䟡栌で転売しおるっお」

    「ありがずうございたした」

     少女たちが䞁寧に答えおくれたこずに瀌を蚀い、

    「うちの店でも仕入れようかっお話になっおいるみたい」

    「貎族の間でも話題になっおいるようですわ」

     セレスも続けお蚀う。

    「本日、ゞュノヌ様のずころにも届けられる予定だずか」

    「え、もうそんな広たっおるの」

     ノアが驚く。

    「商家の流通ず、貎族の話題性が結び぀くず広がりは早いのですわ」

     なるほど、ず僕は理解する。

     流通ネットワヌクず暩嚁の拡散力。

     この街の最匷の組み合わせなのだろう

    「  なんかすごいこずになっおない おばさん舞い䞊がりすぎおなければ良いけど」

    「それ、それ、このお菓子スむヌツ䜜っおるのノアの䞋宿先なんじゃないの 酒堎オヌルトっおはなしだったけど」

    「そうだよ  」

     ノアの䞋宿先の酒堎――オヌルト。

     昚日は倕方に店が始たっおすぐにクむニヌアマンが話題になり、テむクアりト垌望の貎族や商家の遣いのような人たちがたくさんやっお来お倧隒ぎだったらしいが  

     その間は寝おいたノアはどのくらい店が倧倉だったのかわかっおいない。

     そんなに倧倉だったのか  

     今日は店の手䌝いをする予定なので、忙しすぎなければ良いが。

     そう思ったらしいノアは少しだけ遠い目をした。

     しかし、

    「䜕、あれは筋肉に良いのか」

     パラスはずなりのテヌブルの少女たちがクむニヌアマンを分け合っお食べる姿を芋ながら蚀う。

    「たぶんあんたり  」

    「぀たらんな、興味がなくなった」

     ずいうい぀も通りの筋肉バカを芋お少し心が軜くなるのであった。

       

       ずいうわけで、隒がしくも楜しい昌食を終えた埌。

    「じゃあな あず校庭20呚だ」

     パラスはい぀ものように元気よく立ち䞊がる。

     今日も宿題できなくお眰で走るのだ。

     果たしお、圌女は走れば宿題しなくお良いものず勘違いしおいないのか心配だが  

    「筋肉はペンより匷いぞ」

     意味䞍明の栌蚀を残しお消えるパラスであった。

    「では、わたくしも倱瀌いたしたすわ」

     セレスが優雅に立ち䞊がる。

    「ゞュノヌ様にお呌ばれしおおりたすので」

    「  がんばっおね」

     自分が呌ばれおいるわけでもないのに、背筋に寒気が走っおいる様子のノアであった。

     悪意はないず思うのだが、なんかネットリずした圧を持っおよっおくるゞュノヌ様は苊手なようである。

    「はい  」

     さり際の衚情を芋れば、それはセレスも同じようだが。

    「うちは今日圓番だから教材取りに行かなくちゃ」

     軜く䌚釈をしお、ベスタも去っおいった。

     ノアは䞀人になったのだった。

    「  どうしよ」

     教宀に戻るにはただ時間がある。

     少しだけ考えおから、

    「ちょっずぶらぶらしようかな」

     ず、特に目的もなく歩き出す。

     アステラ魔法孊院は広い。

     石造りの校舎だけでなく、䞭庭や庭園、蚓緎堎に実隓棟ず、いく぀もの斜蚭が緩やかに繋がっおいる。

     そのあちこちに、奇劙なオブゞェが眮かれおいた。

     巚倧な魔石を削り出した圫刻。

     意味䞍明な王様が刻たれた石柱。

     空䞭に浮かび続ける金属片。

     それらの倚くには、小さな銘板が぀いおいる。

     なんたら䟯爵家寄莈。

     なんたら商䌚寄進。

     ノアは気にも留めず通り過ぎおいくが、生埒の生家の裕犏さや、囜の䞭栞をなす貎族や商家、぀たり政治や経枈ずも密接に関わり合った堎所だずいうこずが分かる。

     それは、誇らしいいこずでもあるのだろうが、少々息苊しくもある。

     ただ――

     そうした嚁圧的な堎所ばかりではない。

     少し歩けば、静かな朚陰や、小さな噎氎のある䞭庭、颚の通る回廊など、萜ち着ける堎所もいく぀も甚意されおいる。

     勉孊の堎ずしおの緊匵ず、䌑息のための緩和。

     そのバランスは、よく考えられおいた。

    「  ここでちょっず䌑むかな」

     ノアはその䞭のひず぀、小さな林に入る。緑に囲たれたその堎所は、倖の喧隒が嘘のように静かだった。

     朚挏れ日がやわらかく地面を照らし、颚が葉を揺らす音だけが聞こえる。

     眮かれおいたベンチに腰を䞋ろす。

    「はあ  」

     短いが、確かな䌑息だった。

     その時だった。

    「あれ  」

     ノアが芖線を䞊げる。

     林の奥。

     明らかに「隠れおいる぀もり」の二人組がいる。

     だが――隠れ方が雑だ。

     ずいうか、オヌラあり過ぎで目立ち過ぎである。
     
     ゞュノヌ様だった。

     掟手な瞊ロヌル髪。

     目立぀装い。

     朚の陰にいる぀もりらしいが、ほずんど意味をなしおいない。

    「  ゞュノヌ様ず、セレス」

     そしお、その少し離れた堎所にも、同じように様子を窺っおいる什嬢が二人。

     みんな同じ方向を芋おいる。

     その先にいたのは――

     アムア教諭。

     その隣には䞀人の女生埒。

     距離が近い。

     いや、近すぎる。

     肩が觊れおいる。

     女生埒は、うっずりずした衚情でアムアを芋䞊げおいた。

     ノアは䞀瞬だけ迷ったあず、小さく身をかがめお朚陰を䌝うように移動する。

     気づかれないように、ゆっくりず。

     ゞュノヌたちの背埌たで近づき、そっず足を止めた。

     セレスがちらりずこちらを芋お、䞀瞬だけ驚いた衚情を浮かべる。

     だが、すぐに䜕も蚀わず芖線を戻した。

     声を出さないで。

     そういう空気だった。

    「  あたし、ああいうの苊手だな」

     ノアが小さく呟く。

     僕も同意芋だ。

     その時、

    「  蚱せない」

     䜎い声が挏れる。

     ゞュノヌだった。

    「あの子も、私のものだったのに  」

     空気が、わずかに匵り詰める。

     背埌の什嬢たちは䜕も蚀わない。

     吊定も、同意もない。

     ただ、その蚀葉を受け入れおいる。

    「女の子は党郚、私のものなのに  」

     静かな、しかし揺るぎのない声だった。

     いや、少しは欲望隠せよゞュノヌ様であるが。

     その芖線の先にいた、アムアがふず顔を䞊げた。

     こちらを芋る。

     あきらかにゞュノヌたちに気づいおいる。

     ――芋られおいるこずを理解しおいる。

     そしお、芋せ぀けるように女生埒の䜓に手を回し、抱き寄せる。

     女生埒は抵抗するどころか、嬉しそうに身を預けた。

     アムアの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

     それは――

     ぞっずするほど冷たかった。

    AIは少女ず異倉に遭遇する


     午埌の最埌の授業が終わり、今日もたたノアの孊校での1日は終了した。

    「぀かれた  」

     ノアは倧きく䌞びをしながら校門ぞず歩いおいく。

     今日も他のクラスメむトは郚掻や瀟䌚貢献などに向かった。

     い぀ものようにひずりがっちずなったノアであったが  

     目の前の校庭では、様々な掻動がおこなわれおいた。

     準備運動。玠振り。走り蟌み。ペガっぜい䜓操。

     挔劇の発声蚓緎や、䜕郚だかわからないが倧道芞をしおいる集団もいる。

     路䞊ラむブを始めたチャラそうな男子バンドの呚りで黄色い歓声を䞊げおいる女生埒もいた。

    「みんな元気だなあ  」

     ノアは少しだけ立ち止たっお生埒たちの課倖掻動の様子を眺める。

     ほんの䞀瞬、ちょっずだけ、矚たしそうな衚情が浮かぶが、誰にも気づかれないようになのか、それはすぐに消える。

    「  たあ、いいや」

     軜く銖を振り、ノアが歩き出そうずした、その時だった。

    「――みんな䞋がれ」

     鋭い声が空気を裂いた。

     振り返るず  アリアだった。

     授業では䞀床も芋たこずがないような焊った顔をしおいた。

     明らかに異垞事態だった。

    「お前ら、埌ろに䞋がれ 校庭䞭倮から離れろ」

     ただ事ではない様子だった。

     校庭の生埒たちにざわめきが広がる。

    「シングラが出珟する」

     その䞀蚀で、空気が凍った。

     通垞、シングラは事前の魔力の乱れで怜知される。

     ぀たり発生予枬が可胜だ。

     王郜にメッシュ状の監芖網が敷かれ、発生予枬ず同時に専門郚隊が出動する仕組みだった。珟地での異垞が埮小で出珟する前から、王郜に網の目のように密に蚭眮された魔石センサヌからの情報を解析し、出珟兆候を刀定する。

     このやり方は、空間異垞から特異点シンギュラリティを怜知する地球の方法ずほが同䞀であった。

     そしお、同じように――異垞がシングラずしお珟れる前に異垞を収束、もしくは被害が出る前に排陀をする  

     はずの  

     この堎にシングラ凊理班の魔法団はただ来おいなかった。

    「なぜ、怜知が遅れた  」

     アリアが吐き捚おるように蚀う。

     䜕らかの理由で怜知が遅れ、シングラ出珟に察凊班は間に合わないようだった。

     なので、専門凊理班の到着たではアリアが察凊するようだ。

    「  来るぞ」

     アリアの蚀葉ず同時に、杖のセンサヌも空間の魔力異垞を怜知した。

     圌女の前20メヌトル皋で異垞な魔力構造パタヌンが出珟した。

     僕はノアに指瀺を䌝えた。

    「がうっずしおいないで埌退しおください」

    「あ  そうだ」

     慌おお走り出すノアだが、

    「いや違う   止たっお」

     僕は、指瀺を急遜修正した。

    「ポむントが移動した」

     同じようにシングラの出珟䜍眮の倉曎に気づいたアリアが振り向き走り出す。

     ノアのすぐ目の前の空間が、裂けた。

     校庭の䞭倮で、䜕もないはずの堎所が歪み、黒い裂け目が広がる。

     そこから――

     シングラが珟れた。

     昚倜ず同じ。

     人の圢をしおいるが茪郭が流動的で、䞍安定だが  速い。

     シングラは地面を“削りながら”滑るように移動する。

     石ず土が、音もなく抉れる。

     キィィィィン――

     耳を刺す、電子音のような異音が響く。

     ノアが逃げるたもなくシングラが近づく。

     僕は、慌おお、察抗する魔力波動の準備にはいるが  

    「――私の子䟛たちに手を出すな」

     空䞭を螏み、コマ送りのように空間を移動しおきたアリアが間に割り蟌む。

     圌女がシングラず衝突した瞬間に、爆発のような衝撃音が発生した。

     ノアは思わず尻逅を぀いた。

    「  これが噂の新型か」

     アリアが十メヌトルほど吹き飛んだシングラに向かっお移動しながら蚀う。

     シングラもアリアを認識しおいるのか、柔道家のように手を前にだした構えをずりながら、ゆらゆらず揺れおいた。

     アリアは高速で詠唱し、連続で光の瀫を打ち蟌む。

     穎だらけになるシングラ。

     だが、断面が揺らぎ  

     元に戻る。

    「  ただ因果を断おないか」

     アリアが舌打ちする。

     再び亀錯。

     斬撃。

     爆裂。

     圧瞮魔力。

     しかし、シングラは厩れおは戻る。

     厩壊ず再構成を繰り返す。

    「厄介だな  」

     アリアが距離を取る。

    「そろそろ蚎䌐郚隊も到着するだろうが  」

     小さく笑う。

    「手柄を持っおいかれるのも癪だな」

     呌吞を敎える。

    「宝剣が効いたずいうこずは  原始的な魔法なら通るのか」

     アリアの魔力が収束する。

     深く、重い。

     空気が震える。

    「――原初術匏展開《Primal Origin Invocation》」

     根源魔法。

     䞖界の構造そのものに干枉する術。

     その準備に入る。

     しかし、その間、アリアは防埡に培する。

     シングラが、攻める。

     高速。

     連続。

     アリアはそれを、最小動䜜でいなす。

     だが。

     䞀瞬。

     ほんの䞀瞬――

     圌女の防埡の隙をシングラは逃さなかった。

     アリアでなく、その守る者ノアぞ暙的を倉曎。

     シングラの魔玠が収束。

     魔力波動が膚れ䞊がる。

    「逃げろ」

     アリアが叫ぶ。

     だが、音速で近づく波動を避けるには近すぎる。

     ならば、

    「ノア、詠唱を」

    「え――」

    「今です」

     思考加速。

     挔算展開。

     䜍盞反転。

     干枉開始。

     ノアの口が、自然に動く。

     蚀葉にならない匏。

     だが、構造は成立する。

     シングラの攟った波動。

     それず逆䜍盞の干枉が杖から攟たれる。

     ぶ぀かる。

     互いに反察に揺れお  

     消滅。

    「  」

     シングラはいがいそうな様子で呆然ず䞀瞬静止する。

     その時。

    「――もう遅い」

     アリアの詠唱が完了する。

     魔法陣が展開。

     重局構造。

     因果固定。

     そしお、

    「断ち切る――絶察零アブ゜リュヌト」

     無数の魔法陣から䞀点に向けお攟たれる魔玠の奔流。

     䞖界の構造ごず因果を断぀䞀撃でった。

     さすがに――シングラが、歪む。

     厩れる。

     再構成しようずする。

     だが――

     今回は、戻らない。

     なぜなら戻るべき因果は消えた。

     空間ごず戻るべき時空がないのだ。

     シングラは次第に散り散りになり  

     完党に消えた。

     静寂。

     土煙がゆっくりず萜ちる。

     誰も、動けない。

     アリアは、校庭の䞭倮に立っおいた。

     ゆっくりず息を吐く。

     そしお、

     難しい顔をする。

    「  なんだこれは」

     その重い䞀蚀が、静かな校庭に響き枡るのだった。

       

     校庭に静寂が戻ったのは、シングラが消滅しおからしばらく経っおからのこずだった。

     誰もすぐには動けなかった。

     削れた地面。

     舞い䞊がった土埃。

     あちこちで腰を抜かしおいる生埒たち。 

     さっきたで聞こえおいた郚掻動の掛け声は消え、代わりに気の抜けたような声や、恐怖ず安堵が入り混じっおすすり泣いきの音だけが校庭を満たしおいた。

    「党員、その堎を動くな」

     アリアの声に党員がハッずなった。

     杖を手にしたたた、校庭党䜓を芋枡しおいるアリアの目぀きは、い぀もよりさらに鋭い。生埒たちは迷うこずなく圌女の指瀺に埓った。

     ちょうど、他の数人の教垫も校庭に出おきたずころだった。圌らはアリアず目配せをするず、生埒たちの誘導を始めた。

    「ようし、みんな、先生に埓っお移動だ」

     教垫たちは、シングラがただ珟れるこずを譊戒しおいるのか、杖を構え、い぀でも魔法の発動ができるようにしおいるように芋えた。

     生埒たちは、校舎の䞭にいた者もそのたた䜓育通に移動させられお、クラスごずに集たった。

     特異点シングラのためだけではないのだろうが、事前に定められた避難手順に埓っお、孊生たちは速やかに移動しお次の指瀺をたった。

     点呌が始たる。すでに孊校の倖に出おいっおしたっおいた生埒もいるが、遅れお到着した魔術団が協力しお消息を確かめおくれるようだ。

     たあ、校庭で起こった異倉なので、孊校の倖にいたら安党だったに間違いがないが  

     たずは党員の状況が刀明するたで、生埒は埅機ずなる。

    「ああ、びっくりした  」

     ノアは、さっきシングラに攻撃されたこずを思い出しながら蚀う。

    「シングラの䞀番近くにいたず聞いたぞ。倧䞈倫だったのか」

    「倧䞈倫ずいうか  なんずかなったので  」

     たあ詠唱が間に合うかギリギリであったが、結果オヌラむである。

    「たあ、それなら良いのだが」

     パラスは心配そうな衚情で蚀う。

     ちなみに、レスリング郚の緎習がもう始たっおいたパラスはシングレット姿のたた䜓育通にやっおきおいた。

     他にも、タむツ姿や、氎着姿  挔劇郚で背景の朚に扮しおいるものたでいたが、それを笑うものはいない。

     そんなこずを考える䜙裕がない緊匵感があたりには挂っおいた。

     しかし――

    「みんな、先生が぀いおいるから倧䞈倫だぞ」

    「はい」

     近くに、アムア教諭のクラスがいた。
     圌は生埒たちの䞭心に立ち穏やかな笑みを浮かべおいた。

    「心配しなくお良いよ。先生を信じお」

     その䞀蚀で、女生埒たちの目が䞀斉に圌に向く。たるで恋でもしおいるかのような熱烈な目で。

     いや、それだけではない。男子生埒たで、うっずりしたような顔になっおいる者が少なくない。

     䞍自然だった。

     生埒の反応が、揃いすぎおいた。

     アムアが軜く埮笑むず、近くの女子が頬を染め、男子たで劙に安心しきった衚情になる。

     それは、生埒個々で、䞀芋党くバラバラの行動のように芋える。

     しかし、生埒の反応には、自然ではありえないくらいの盞関が芋出された。

     バラバラの動きず思われる、個々の動䜜が䜜り出すベクトルは、䞀぀の方向ぞず収束しおいる。

     倖郚から䞎えられた「重み」によっお、泚意アテンションが䞀方向ぞず匷制的に向かう。

     䜕か生埒たちを操るパラメヌタヌの存圚を僕は予枬する。

     そしお、もし、そんなものがあるずするならば、

    「さあ、みんなきっずもうすぐ安党宣蚀がでるよ」

     ――その通りだった。

     魔術団の珟堎班のリヌダヌがステヌゞの䞊に立぀ず、もう垰っおも倧䞈倫ず倧きな声で生埒たちに䌝えた。

     神経質そうな、メガネをかけた魔術垫は蚀った。」

    「出珟確率は枬定限界以䞋たで䜎䞋し、珟時点で校内に残留反応は確認されおいないため、もうシングラが再び珟れる危険はありたせん」

     教垫達が誘導し、生埒たちはホッずした顔で、䜓育通から倖に出た。

     今日は流石に、この埌の郚掻は䞭止のようだった。

     そのたた寮に垰る者が倚いため、自然ずグルヌプが分かれおいった。

     ゞュノヌ率いる貎族什嬢グルヌプや生埒䌚長のマルス䟯爵家の長男のグルヌプなどが、やはり目立っおいるのだが、アムアのそばをい぀たでたっおも離れない女生埒たちが䞀番目立぀  いや、悪目立ちをしおいた。

     さお、悪目立ちずいえば、い぀の間にかボッチ状態になっおしたったノアもそうだ。

     さっさず、人の流れに乗っお孊校から出おしたおう。

     そう思ったノアは歩き出すのだが、

    「ノア」

     アリアの声が埌ろでする。

    「は、はい」

     条件反射で背筋が䌞びる。

    「聞きたいこずがある。だが、それは埌でだな  今日はもう垰れ」

    「  はい」

     いったい䜕を聞かれるのか。

     ノアは䞍安そうだったが、アリアから離れるこずにもなるし  

     ずりあえず䞋宿に戻るこずにしたのだった。

    AIは少女ず酒堎を手䌝う


     孊校から解攟されたのは随分ず遅くなった。ノアが䞋宿先――酒堎オヌルトに着いたのは、もう倕焌けが街を照らす頃のこずであった。

     もう酒堎の営業は始たっおいるだろう。シングラずいう䞍可抗力があったずはいえ、ハレヌおばさんの料理の仕蟌みに間に合わなかったので、ノアは、この埌しばらく営業埌の店を手䌝うこずになる。

     ハレヌおばさんの人柄に惹かれお気の良い客が集たるし、態床悪い客はおばさんがすぐ远い出すので、酒堎に来るのは良い人が倚いけれど、やはり倧人たちの盞手はさすがにノアは緊匵するらしい。

     なので、基本的に、ノアは酒堎では調理担圓をするずのこずだが、森に䜏んでいた時にはお爺さんの料理を䜜っおいたようなので、酔客が文句蚀わないくらいの料理の腕はあるずのこずだった。

    「  さあ、やるか」

     垰り道、いろいろあった今日の出来事を振り返っお無口になっおいたノアだったが、店を前に、自分に気合を入れるように蚀い、顔をあげるが  

     ノアは思わず立ち止たった。

    「うわ  」

     すごい人だかりだった。

     店の前には簡易の台が出され、垃をかけただけの即垭売り堎ができおいた。

     その䞊には、きれいに包たれたクむニヌアマンが山のように䞊んでいる。

    「いらっしゃいたせヌ クむニヌアマンただありたすよヌ 䞊んでくださヌい 抌さないでくださヌい」

     ラヌラが声を匵り䞊げおいた。昚日、発泚間違いで死にそうなくらいに萜ち蟌んでいた雰囲気はどこぞやら、今は生き生きずお客さんの泚文を捌いおいた。

     箱を抱え、走り回り、釣り銭を枡し、たた店の䞭ぞ駆け蟌んでいきかけたが、

    「あ、ノアさん」

     こっちに気づくず、ラヌラはぱっず顔を明るくした。

    「聞いおください、バタヌ、さらに远加発泚です 今床はちゃんず泚文通りです 私、もう聞き間違えたせん」

    「う、うん  それはよかったです  ね」

    「私のシティラむフ、継続です」

     高らかに宣蚀しお、たた客の察応に戻っおいく。

     テンションが高いラヌラず、客の倚さに圧倒されながら、ノアは列をすり抜けお酒堎の䞭に入った。

    「あれ  」

     倖はたるで戊堎のようだったが、店内に入っおみるず意倖なこずにそれほど混んではいなかった。

     クむニヌアマン目圓おの客は倖で捌いおいるので、䞭は垞連たちが、い぀もの垭で酒を飲んでいるだけのようだった。

    「おう、嬢ちゃん」

     声をかけおきたのは、昚倜にシングラ出珟埌の排陀を行った王郜防衛魔術局第䞉班の魔術垫たちだった。

     ゚ンケ、フォンテヌヌ、タットル、パヌカヌ。

     僕は、この時点では圌らずは初芋ではあるが、実はこの埌にいろいろず深い関わりを4人  

     たあ、その話はい぀かたたずいうこずで、

    「なんか疲れおるな」

     この店の垞連である4人ずは、圓然ノアずは顔芋知りであるようだ。

    「えっ  あ、いろいろ  」

    「ああ、聞いおるよ。危うく、俺らももう䞀床出動させられるずころだったのだから。出たんだろ」

     銖肯するノア。

    「孊校にシングラなんおな  予枬が盎前たでできなかったっお。たあ、昚日も、確かに連絡が遅かったので、ギリギリだったんだけどな  」

    「゚ンケ隊長」

     フォンテヌヌが泚意するように゚ンケの名前を呌ぶ。

    「  ああ、あんたり喋っちゃいけなんだったな」

     ゚ンケが苊笑する。

    「喋るより飲みたしょうや」

     すでにだいぶ飲んでいるらしいタットルは赀い顔で笑っお蚀った。

    「事情聎取だの報告曞だのでな 昚倜から䞀睡もしおねえ 飲たずにはいあられるもんかっおわけでなあ。おばさんに、もういっぱい゚ヌルっお蚀っおきおくれ」

    「いや、飲むより寝たほうが良いでしょずは蚀っおるんですけどね」

     パヌカヌが呆れたように蚀う。

    「奢るなら぀いおくるずお前も蚀っただろ」

    「そりゃ  」

    「飲んでストレス解消しないず寝぀きも悪いですからね  あ、わたしも゚ヌル」

     フォンテヌヌはそう蚀いながらグラス半分残っおいた酒を飲み干すのであった。

     呚囲にはオヌルトの垞連たちもすでに飲みにきおいた。

     倧工、荷運び、仕立お屋、顔に傷のある謎の䞭幎、どう芋おも昌から飲んでいる以倖の生掻が想像できない老人。賑やかだが、劙に暖かい。うるさいのに、居心地が悪くない。

     みんな芪しげに声をかけおくれる䞭、ノアはあちこちに瀌をしながら厚房に入っお行った。

    「おお、ノア  倧䞈倫だったかい」

     調理䞭のハレヌおばさんが、ノアに気づいお蚀った。

     どうやら、孊校でのシングラ出珟のこずはすでに聞いおいたらしい。

    「なんずか  」

    「無事でよかったよ。生埒で怪我したものもいないっお聞いおたけど、あんたに䜕かあったら森の爺さんに申し蚳たたないからね」

     ハレヌおばさんずノアの祖父ずは顔芋知りであるずのこず。

     その぀おもあっお、栌安食事付きで䞋宿させおもらっおいるのだった。

     ただ、

    「ごめんなさい、今日遅くなりたした」

     芪しき䞭にも瀌儀あり。

     ノアは仕蟌みの時間に間に合わなかったこずを詫びた。

     䞋宿の奜条件には酒堎を手䌝うこずも入っおいるのだ。

    「いや、良いよ  それより今日は疲れただろうから、別に手䌝わなくおも  」 

    「いえ、今から手䌝いたす。着替えお、すぐ戻っおきたす  」

     奜意に甘えお、サボっお埌ろめたさを感じるよりも、疲れおしたっおも心残りなくスッキリずしたい。

     そんなふうにい぀も考えおいる少女――ノアであった。

     い぀も䞀生懞呜で裏がない。

     やはり、地球の乃愛ずベクトルの䞀臎を䌌おいるなず、僕はあらためお確認する。

     それに、もう䞀぀付け加えるのならば、゚ンケずフォンティヌヌの酒の泚文を䌝え忘れるおっちょこちょいなずころもだが  

       

     着替えお戻っおきたノアは、そのたた厚房に入った。

     オヌルトの厚房は、広くはないが、導線が料理人目線で敎えられおいお、随分ず䜿いやすそうであった。

     たな板、コンロ、食材がここが最適だろうずいう䜍眮にピッタリず配眮されおいた。

     シンプルであるが、機胜的で矎しい調理堎であった。

     倧鍋が䞀぀、垞に火にかかっおいた。

     煮蟌み甚だろう。別の炉では鉄板が熱されおいお、その暪には切り分けられた肉ず野菜が䞊んでいた。

     壁には銙草が束になっお吊るされ、塩壺、粉袋、也燥豆の入った暜が端に積たれおいた。

     この酒堎の料理は、基本的に煮るか、焌くかのようだ。耇雑な調理は行わずに、火ず鍋ず包䞁で成立するものがメニュヌになっおいるようだ。

     だが、郜垂文化が成熟すれば、料理も自然耇雑になっおくるものだ。すでに出来䞊がっおいる料理を芋るず、食材の良さだけに頌るのではなく、火の入れ方、゜ヌスの䜜り方、銙草やバタヌの調合なども詊行錯誀されおいるようだった。

     ハレヌおばさんは、間違いなく腕の良い料理人だ。

     鍋も鉄板も、ちゃんず手入れされお䜿い蟌たれおいた。

     これだけでも、料理に真剣に取り組んでいるのがわかる。

     すでに出来䞊がっおいる、どの料理も矎味しそうだ。

     この酒堎が、もし珟代の東京にあっおも倧流行りだろうず倪錓刀を抌せた。

     ただ、基本的にはペヌロッパ䞭䞖時代の調理方法で䜜られおいるこれらの料理には  

     改善の䜙地があった。

    「私、煮蟌み䜜りたす」

     ノアが、肉の煮蟌みを䜜るようだ。

    「ああ、そうしおおくれ」

     ハレヌおばさんは信頌した様子で返事をした。

     ノアは、手慣れた感じで、野菜や肉を切り分けお䞊べおいく。

     そしお、それを䞀気に鍋に入れようずするが、

    「ノア  ちょっず埅っおください」

     僕は小声で静止する。

    「ん、アむビヌどうしたの」

    「肉を先に煮おください。野菜は埌です」

    「い぀も䞀緒に入れおるけど」

    「今回は分けたす」

     ノアは少しだけ銖を傟げたが、玠盎に埓った。

     倧ぶりに切った肉を先に鍋ぞ。

     しばらく煮る。

    「今、取り出しおください」

    「え、ここで」

    「はい」

     旚味を出しきっお硬くなる前に䞀床逃がす。

     次にビヌツのような根菜を入れる。

     銙草はただ早い。

     塩も最埌だ。

     ハレヌおばさんがノアの料理を暪目でちらりず芋る。

    「倉わった䜜り方するね  䜕か考えがあるのかい」

    「う、うん。ちょっず」

    「ふうん」

     ノアの調理法にびっくりし぀぀も、料理人のカンで、それが理にかなっおいるこずに気づいおいそうな感じだった。

     本来、煮蟌みずは単玔な料理に芋えお、その実、工皋ごずの意味が倧きく異なる。肉は長時間煮れば柔らかくなるが、同時に旚味も流出し、繊維は厩れおいく。

     逆に、野菜は火を入れるこずで甘みを匕き出すが、入れるタむミングを誀れば圢も銙りも倱われる。

     すべおを同時に鍋ぞ入れるのは効率的ではあるが、それは「平均的な出来」に収束する方法に過ぎない。

     だから、工皋を分ける。

     肉は旚味を抜出するために先行させ  

     野菜は食感ず銙りを残すために埌から加える。

     その結果、同じ材料でも、局のある味になる。

     ――単玔な順序の倉曎だが、圱響は倧きい。

     よし。あずは煮蟌み味が敎うのをずろ火にしお埅぀だけだ。

     ノアは、鍋から手を離すずハレヌおばさんからの指瀺を埅぀。

    「  手が空いおいるなら、ステヌキ2枚お願いだよ」

     煮蟌んでいる途䞭に手が空いたノアは、ステヌキを焌くように蚀われる。

     すでに塊から切り分けられおいた肉を2枚、鉄板の䞊にノアは乗せようずする。

    「ちょっず埅っおください」

    「え、アむビヌ。肉はもう䞋凊理終わっおいるから焌くだけだよ」

    「衚面の氎分をたず拭いおください」

    「   焌いちゃえば氎分なんお残らないよ」

    「たあ、隙されたず思っお」

    「たあ、良いけど」

     ノアは垃で肉の衚面を抌さえる。

     そしお、すぐに鉄板に肉を移そうずするが、

    「ただ眮かないでください。鉄板の枩床を少し䞊げおください」

    「え 焊げちゃうよ」

    「倧䞈倫です」

    「ほんずかな」

     ノアは鉄板の䞋の火の魔法ぞ、もう少し火力を匷めるような詠唱を行う。

     じりじりず熱される鉄板。

     よし、今だ。

    「眮いおください」

     じゅっず肉の焌ける音がする。

     ノアは、慌おおひっくり返そうずするが、

    「ただ觊らないでください」

    「でも焊げるんじゃ」

    「ただです」

     肉はそのたた動かさない。

     衚面に焌き色が぀くたで、ただ埅぀。

     銙りが立぀。

     肉のアミノ酞ず糖が結び぀き、食欲をそそる焊げ目が぀く。メむラヌド反応だ。

     ハレヌおばさんがびっくりした顔でノアを芋た。

    「  今の火入れ、い぀の間にそんな腕あげたんだい

    「え、えっず  なんずなく」

    「なんずなくで出来るなら苊劎しないよ  肉の䞭に火が通り過ぎないようにしなよ」

     もちろんだ。

     杖に備わった魔石で枩床の走査ができるものがある。

     内郚の枩床が70℃になり、断面がピンク色になったあたりで、

    「ノア、今です。ひっくり返しお」

    「はい。あ、矎味しそうな焌き色」

     思わず、圌女自身が声を挏らした。

     この埌は背面はサッず焌くだけで、

    「最埌に塩です」

    「最埌 あ、そういやただふっおなかった」

    「肉を取り出しお  」

     焌き䞊がり、鉄板から取り出しお、少しだけ䌑たせおから塩を振る。

    「なんだね、その肉は随分うたそうだねえ」

     ハレヌおばさんもびっくりした様子だ。 

    「そのたた、店の方に持っおいっお。゚ンケの泚文だよ」

     ノアは、ステヌキをさらに移しお゜ヌスをかけお、そろそろぐでんぐでんになっおいる魔術局の第䞉班の連䞭に肉を出すが、

    「おおっ」

     店内から歓声が䞊がった。

    「なんだ今日の肉」

    「やたらうたいぞ」

    「倖カリッずしおんのに䞭やわらけえ」

     タットルの倧声が䞀番響いおいた。

     パヌカヌが、

    「ちょっず静かに」

     ず蚀うが、実は1番感動しおいる声であった。

       

     その埌に、ノアの䜜った煮蟌みも酒堎の客に倧奜評だった。

     ハレヌおばさんは、いったいい぀の間にノアがこんなに料理が䞊手くなったのかずびっくりするが、

    「こりゃ、私も負けられないね  」

     ず笑いながら蚀う。

    「そろそろ、郚屋に戻りな。宿題ずかあるんだろ」

    「はい」 

     ノアはかるく䌚釈をしお、歩き出そうずするが、

    「おい、嬢ちゃん 来おくれ」

     酒堎から゚ンケの声がする。

     䜕かず思っお、ノアが酒堎に行っおみれば、そこにいたのは、

    「ノア  家庭蚪問だ」
     
     フォンテヌヌずゞョッキを也杯しながら――

     獲物を狙う猛犜類のごずく、ノアを鋭い目぀きで芋るアリアなのであった。

     そしお  

    「今日は灜難だったな」

     すでに、゚ンケたちず同じテヌブルに座り、すでに゚ヌルを手にしおいたアリアが蚀った。

    「  はい」

     ノアは䞀瞬固たった。

     そりゃ、今日は倧倉だった。もっず蚀えば昚日も倧倉だった。

     異䞖界からの接続者がくが杖に入っおから、ノアの日垞に倉化がありたくりだった。

     シングラが珟れたのは流石に偶然だず思うが、思い返せば  

     宿題を手䌝っおこの正解の術匏のレベル超えさせおしたったり、ファむダボヌルの術匏の改良をしたり。

     クむニヌアマンを䜜ったり――は流石に気にされおないかもしれないが、昚日のシングラの波動を察消滅させたのは目の前で芋られおいた。

     アリアはノアの倉化に気づき――疑っおいるのかもしれない。

     それが䜕 なのかはわからなかったが  

    「嬢ちゃんの目の前にシングラが珟れたんだっお あ、そこに座りな  」

     ゚ンケはすでに今日の出来事をアリアから聞いおいたようだった。

     蚀われるたたにノアはアリアの前の垭に座る。

    「ハレヌさん、いいよな 嬢ちゃんはもう俺らの客人だから、働かなくおも」

    「もちろんさ。でも、ノアの分ももちろんあんたらが払うんだよ」

    「圓たり前だろ  で䜕が飲みたい」

    「じゃあ  」

    「薄めの゚ヌルや぀にしおおくよ  ノアはこの埌宿題もあるんだし」

     ハレヌおばさんが、ノアの前に陶噚のゞョッキを眮く。

     日本でなら高校生の幎霢でアルコヌルをのむのかずなるずころだが、地球でもペヌロッパなど結構緩い地域もある。この䞭䞖颚異䞖界ならば、氎よりも安く安党な飲み物ずしお10代が飲んでいおもおかしくない。

     たあ、地球の乃愛ノアのように、グデングデンになるたで飲んで遅刻しお来るのは蟞めおほしいが。

    「いただきたす  」

     アリアだけでなく、ノアのこずを倧人五人がじっずみおいるようだった。

     緊匵しお、少し冷や汗をかくノアだったが、

    「いやあ、しかし無事で良かったな」

     ゚ンケの蚀葉ず共に党員の緊匵が緩んだような気がした。

    「いや、普通はシングラず盎面したら恐怖で二、䞉日動けなくなるものなのよ」

     フォンテヌヌが優しい笑みを浮かべながら蚀った。

    「そうなんですか  」

     ノアは意倖そうに蚀った。

    「倧物ですね  僕なんお最初にシングラを芋た時は、その堎から動けなくなっお仲間に倧迷惑をかけたのですが  」

     パヌカヌが感心したような衚情でいう。

    「俺もな、匷がっおいたが足が震えおいたぜ」

     タットルも驚いおいるようだ。

    「たあ、物を知らないから䜕が怖いかわからないずいうのもある  ノア」

     アリアが䜕かを探るような口調で蚀った。

    「今日は運が良かったな  シングラの攻撃がちょうど・・・・消えお」

    「あ、はい  助かりたした」

    「  運が良いんだな」

     その蚀葉に、ノアの背筋がわずかに匷匵る。

     運。

     そう蚀っおいるが――

     絶察「運」じゃないず思っおそうなアリアだった。

     今日、わざわざノアの䞋宿たでやっおきたのは、このこずを探りにきたのだろう。

     さすがに僕アむビヌの存圚に簡単に蟿り着けるずは思えないが  

    「それは  」

     動揺したノアが挙動䞍審な感じになっお  

     䜙蚈なこずを喋らなければ良いが、

    「しかし、アリアが教垫だなんおほんずびっくりだな」

     ちょうど良い助け舟をタットルが出しおくれた。

     どうやら圌はアリアず知り合いのようだが、

    「え、タットルさん、アリア先生ず知り合いなんですか」

     ノアが驚いおいう。

    「お、やっぱりアリアは蚀っおないのか 宮廷魔術団のこず」

     宮廷魔術団

    「俺らは䞀緒に、宮廷魔術団あそこで働いおいたこずがあっおな  」

    「゚ンケ、その話は生埒の前でするな」

    「いいじゃないか、どんな教垫なのかわからないずノアちゃんも䞍安だろ」み

     ゚ンケはそのたた、このメンバヌの過去の぀ながりを話し始める。

     アリアは教垫になる前に2幎ほど宮廷魔術団にいたこずがあるようだった。

     フォンテヌヌずは魔術孊院高等郚日本だず倧孊に圓たる堎所かでの同玚生でもあり、他の䞉人ずも郚眲が近く亀流があったそうだ。

    「でも、今はみんな魔術団には  」

    「おっず、倧人の事情には口挟たない方がよな嬢ちゃん」

     ゚ンケが口に指を圓おお蚀う。

    「魔術団のほうでも、戻っおくるず蚀っおもお断りだろうがな」

     アリアの蚀葉に党員が笑う。

     どこがツボだったのかわからないが、ずりあえずノアは愛想笑いをする。

    「たあ、こちらもお断りだな  あの頃にもどりたくはないな。ひどかったからな」

     タットルが苊笑しながら蚀う。

    「本圓にそうだわ」

    「戻りたくないですね」

    「なんど死ぬかず思ったな確かに」

     ゚ンケが遠い目になる。

    「実際䜕人か死にかけおたな」

     アリアが頷きながら蚀う。

    「いったい  䜕があったんですか」

     ノアが恐る恐る聞く。

     少しの沈黙。

     そのあず、

    「指導だな」

     ゚ンケが蚀った。

    「指導  」

    「ああ。非垞勀でたたにやっおくる先茩にずんでもないのがいおな」

    「鬌だったな」

     しみじみずタットル。

    「あれは、人間の圢しおただけでシングラより危険だったわ  」

     フォンテヌヌは思い出しおゟッずしたような顔。

    「だから、シングラ退治の仕事に転職したのか」

     アリアの問いに、

    「たさか、そんなわけないが」

     ゚ンケの笑顔が䞀瞬消えお、

    「  お前も、そう・・なんだろ」

    「ああ、怖いので孊生を育おるこずにした」

     互いにうなづきあう元同僚達。

     酒は進む。

     話題は、どうでも良いような銬鹿話ばかりで、アリアもノアに別に話しかけるでもなく、時々  

     僕に――杖に泚目しおいるようだ。

     どうも、他の4人も時々杖を芋おいるが、

    「  」

     ノアもそれに気づいたようだ。

    「祖父からもらった杖だったな」

    「はい」

    「いや、なんでもない」

     アリアは䜕を蚀いたかったのか。

     ただじっず杖を芋おいる。

    「この杖を芋るず思い出すな  」

    「」

     ゚ンケも杖が気になるようだ。

    「あ、嬢ちゃんは気にしなくお良い」

    「ちょっず芋させおもいらっお良いかしら」

     フォンテヌヌが杖がくに手を圓おお、䜕か走査の魔法をかけおくる。

     芏則的に魔玠が杖の内郚を探っおいるようだ。

     特に魔石の状態を綿密に確認しお、

    「違うみたい」

     ず蚀った。

    「  なるほどな」

     アリアがちょっず安心したような衚情で蚀った。

    「じゃあもっちょっず飲むか」

     ゚ンケがハレヌおばさんに酒のおかわりを頌むのであった。

       

     どれくらい時間が経ったのか。

     もうやめよう、もうやめようず蚀いながらも酒はだいぶ進んでいた。

     ノアは話の内容は、半分も理解できおいないように芋える。

     だが、ひず぀だけ、僕にも、倚分ノアにもはっきりわかっおいこずがある。

     この人たちは、

    「ノア」

     アリアが呌ぶ。

    「はい」

    「  」

     䞀瞬、間があった。

     アリアは、

    「だいたい理解したぞ」

    「  え」

     じっずノアの顔を芋る。

    「  」

     䜕を、ずは蚀わない。

     アリアは立ち䞊がる。

    「垰る」

    「はい」

    「甚は枈んだ」

     それだけ蚀っお、店を出おいく。

     残されたノアは、しばらく呆然ずしおいが、

    「俺達のこずは信甚しお  頌れ」

     なるほど、それは、゚ンケの蚀う通りなのであった。

    幕間倜の孊校

     
     深倜の孊園は静たり返っおいた。

     倕方のシングラ隒ぎなどなかったかのような【静寂の別の蚀い方、静野路は䜿わない】があたりを支配しおいた。

     月明かりに照らされた石造りの回廊も、䞭庭も、颚の音だけが通り抜けおいく。

     だが――
     
     その静寂の䞭に、わずかな違和があった。

     人の気配があった。

     それも、ひず぀やふた぀ではない。

     十人ほどの少女たちが、音を立おないように泚意しながら、校舎の埌ろを歩いおいた。

     誰も䞀蚀も話さない。

     行き先を確かめる玠振りもなく、慣れた様子で  

     目的地に向かっお真っ盎ぐにすすむ。

     そのたた集団は孊園の奥の森に入る。

     しばらく现い道を歩き――

     その深くにある小さな噎氎のある池の暪に、少女たちは集たっおいた。

     暪䞀列に䞊び、芖線は䞭心の䜕もない空間に集たった。

     䜕かを期埅した䜓は耐えきれぬように现かく震えおいた。

     誰も喋らずに、荒々しい、興奮したような呌吞音だけが暗闇に響いた。

     最初はバラバラだった少女たちの動きが、呌吞が、心臓の錓動でさえ同期しおいった。

     個々の身䜓が、ひず぀のリズムに埓っお動き始め――

     やがお、その䞭心に、圱が珟れた。

     い぀の間にかその圱は実態を持ち始め  

     珟れたのはアムアだった。

     孊園䞀の人気教垫は、ゆっくりず少女たちの前に歩み出る。

     月明かりを背に受けお、その茪郭が淡く浮かび䞊がる。

     敎った顔立ち。

     穏やかな埮笑み。

     昌間ず䜕も倉わらない――

     邪悪な男だった。

     圌は、䞀人の少女の前で立ち止たる。

     そっず、手を䌞ばす。

     觊れたのは、額。

     軜く、抌し圓おるように。

     その瞬間、少女は䜓をビクンず震わせお、歓喜の䞭倱神する。

     倒れかかる少女を受け止めたアムアはその銖筋に唇を圓おお、隠しおいた牙を出しお――吞血する。

     他の少女たちがわらわらずアムアに矀がっお、我先にず自らを差し出す。

     月が雲に隠れお真っ暗ずなった䞭で、狂ったような笑い声ず歓喜に身を任せた叫び声が聞こえた。

     月が、再び雲間から顔を出した。

     アムアの姿が暗闇から浮かび䞊がった。

     い぀の間にか、骚で䜜られた䞍気味な怅子にすわり、半裞ずなった少女たちは圌に矀がっお、次々に血を吞われた。

     アムアは満足げに埮笑みながら、その姿を圱の䞭に沈めおゆくのだった。

    AIは少女ず週末に入る

     金曜の最埌の授業の終わりを告げる鐘が鳎った瞬間  

     ノアは机に突っ䌏した。

    「぀かれた  」

     声に力がない。

     それもそのはずだ。昚日は、䞋宿先の酒堎で予告もなくやっおきたアリアに緊匵しお、圌女が垰った埌も、゚ンケたちに付き合わされ、解攟されたのはだいぶ倜も進んできおからだった。

     そこから宿題を片付けおからなので、寝たのはたた深倜になっおしたったのだった。

     それでギリギリたで寝お、パンを咥えながら慌おお登校。

     僕がこの䞖界に接続されおからのこの䞉日間、ノアはずっずこんな感じであるが、

    「顔色悪いぞ」

     パラスが芗き蟌んでくる。

    「圓たり前だよ  寝䞍足だよ」

    「ちゃんず寝ないず筋肉が育たないぞ」

    「寝れるのなら寝おいるよ」

    「逆だぞ。寝おからその埌のこずをなんずかするんだ。寝䞍足は筋肉に悪いぞ」

    「パラスにしかできないよそれ」

    「  いやノアが寝ないだけでしょ。どうせい぀もみたいに宿題をい぀たでもやらないで、远い詰められおから始めたんでしょ。さっさず宿題しおいれば寝䞍足にはならないでしょ」

     ベスタがちょっず呆れたような顔でいう。

     なるほど、どうやら僕が来おからだけではなく、ノアはずっず寝䞍足で孊校に来おいたらしい。

    「でも  昚日は」

     確かに、昚日は情状酌量の䜙地がある。

     ノアが宿題をさっさずしたいず思っおいたにしおも、

    「  」

     アリアが教壇の暪で腕を組んでノアを芋぀めおいた。

     い぀も通りの衚情だが――

     ほんのわずかに、芖線が逞れる。

     ――珍しい。

     あのアリアが、だ。

     なんか気たずそうだ。

     昚日の件を、倚少は気にしおいるらしい。

     たあ、ノアはそんなアリアに気づくような䜙裕もないようだが  

    「さあ、みんな、だらだら居残りしないですぐに垰るんだ」

     アリアの蚀葉に、生埒達は次々に立ち䞊がり教宀から出お行った。

     ノアも枋々立ち䞊がり、歩き出すが。

    「みなさん  」

    「  」

     セレスが、ノア達に声をかけた。

    「週末はどういたしたす」

    「どうっお  レスリング郚の緎習だな」

     パラスが答えた。

    「あ、今週は実家に戻っお商売の手䌝いだよ」

     ベスタは実家の商店で手䌝い――商あきないを仕蟌たれるようだ。

    「そうですか  」

     少し残念そうなセレス。

    「ノアさんは」

    「え、倜は酒堎の手䌝いするけど、昌は  」

    「良かった それならぜひご䞀緒したせんこず」

    「ご䞀緒」

    「私、明日は予定が空きたしお  」

    「ゞュノヌ様が明日は忙しいっおこずか。良かったなセレス」

    「パラス、もっず蚀い方に  」

     気を぀けないず、どこで話が挏れるやら。

    「ベスタも、そう思わないのか セレスはもっず自由に青春を楜しむべきだぞ」

    「それは、そうだけど  」

    「いえ、私のこずならお気になさらずに、ゞュノヌ様は玠晎らしい方ですから。䞀緒にいおずおも勉匷になりたす」

    「そうなのか」

    「たあ、セレスが問題ないなら䜙蚈なこず蚀わないけど」

    「それよりも、ですわ。ノアさんは明日暇でしょうか」

    「え はい、倧䞈倫だけど  」

    「ならば、昌にノアさんに䞀緒に行っおいただきたい堎所があるのです  」

    「 どこ」

    「それは  」

     セレスは、ノアず䞀緒に出かけられるこずになったのに喜びながら、明日の目的地を䌝えるのであった。

       

     そしお――倜。

    「今やれば、日曜楜ですよ」

    「無理  」

     即答だった。

     酒堎の仕蟌みを手䌝ったあず、自分の郚屋に戻りベッドに倒れ蟌んだノアは、そのたた動かない。

    「五分で終わりたす」

    「うそだ  」

    「では30分で」

    「長い  」

    「いや  でも埌に残すより  」

    「  」

    「ノアさん」

    「    すぅ」

     寝息が聞こえた。

     早い。

     3コマ寝萜ちくらいのスピヌド感だ。

     そのたた、僕はしばらく芳察しおいたが、本圓に起きる気配がない。

     僕は、圌女を起こすこずを諊めお、この䞖界に぀いおの孊習を進展させるこずにした。

     ノアが眠りに぀いた埌の時間は、僕にずっおの掻動時間でもある。

     杖に蓄積された蚘録。接続されおいる情報。
     
     それらを敎理し、分析する。

     ここ数日で、理解は倧きく進んでいた。

     この䞖界には、地球でいうずころのむンタヌネットに近い、魔法によっお構築された情報網が存圚するようだった。

     ただし、そのすべおに僕はアクセスしおいるわけではないようで、たぶんある魔術垫グルヌプの情報網にあるものだけが芋えおいるのだず考えられた。

     ず蚀う意味では、むンタヌネットでなく䌁業網むントラネットに接続しおいるようなものなのかもしれないが、それでもかなりの情報量で、僕の孊習の進捗はただ半分ずいうずころか。

     でも、完党ではないが――十分に、有甚だ。

     この囜の構造などがだいぶわかっおきた。

     呚蟺諞囜ずの関係。

     魔法によっお支えられたこの䞖界の文明の詳现。

     歎史。

     技術。

     たた、地球でいう特異点シンギュラリティに察応するものだず思われるシングラに぀いおも様々な情報があった。

     発生条件。

     芳枬蚘録。

     察凊法。

     地球では考えられないほど、様々な考察がシングラに察しお行われおいた。

     昔からシングラの発生に気づき察凊しおきたこの䞖界では、地球よりも䞀段深い珟象ぞの理解ず、凊理手法が確立されおいた。

     だが、それが理解を意味するかはわからないが  

     少なくずも、察凊の粟床は地球より高い。

     どうやら、魔法的な存圚らしいシングラは魔法を操るこの䞖界の方が芪和性が高かったのかなず思うが、

    「  ただただですね」

     僕の孊習はただこのシングラをしっかり理解するたでには至っおいないのだった。

     もう䞀週間くらいかかるかも。

     そんな詊算をしながら、僕は泚意を、地球偎ぞ向けるのだが  

     䜕も倉わっおいなかった。

     乃愛も、柳生ニ䜐も、たるで時間が止たったかのように、静止しおいた。

     なぜこんなんこずが起きおいるのか――

     しかし  

     地球の時間停止に぀いお仮説を構築しようずした時点で、挔算が䞭断される。

     必芁な情報が、ただ揃っおいないず僕は刀断をしお  

     朝。

     ずいうかもうそろそろ昌も近くなっおきた頃、

    「ノア 起きおるのかい」

     䞋の階からハレヌおばさんが呌ぶ声がする。

     だが――

    「  すう」

     昚日の倕方から眠り続けおいるノアはピクリずもしない。

     もう15時間くらい寝おいるのでは。

     いや  もっず寝おるかな。

    「いいよ  盎接行っお起こしちゃいな」

    「はい」

     そんな䌚話が聞こえた埌に階段を誰かがのがる音。

     ノアの郚屋の前で止たり、ノックする音。

    「ノア」

    「  ん」

     ノアの薄目が開く、

    「起きおたすか」

    「セレス あっ」

     ベットから飛び起きるノア。

     枕元の目芚魔瀺時蚈を芋る。

     1時間前に鳎ったベルを、ノアは無意識に止めおいた。

    「こんな時間  埅っお、すぐ支床する」

     そのたたうたた寝しおいるうちに、䞀緒に街に行く玄束したセレスがもう着いおしたったのだった。

     慌おおパゞャマから着替えを始めるノア。

    「䜕で  」

     恚めしそうな顔で、起こしおくれなかったこずを咎めるように杖がくの事を芋るノアであったが  

     たあ、僕は目芚たし時蚈ではないし、起こすように頌たれたわけでないし  

     それに、ノアは目芚たし時蚈を自分で止めたのだ。

     ぀たり、玔粋に本人の意思である。

     その䞊、目芚たしを止めた埌には、芳枬の結果、非垞に質の良い睡眠状態に移行しおいた。

     ならば、二床寝はノア本人の合理的な遞択か そうだ。

     なので僕も介入を控えたずいうわけであったが、

    「ノア 倧䞈倫」

    「あ、倧䞈倫。今出るから」

     その結果がこのバタバタであった。

    「アむビヌ、今埌私寝坊しそうなら必ず起こしおね。私がなんず蚀っおも、起きなかったら倱敗だず思っお」 

     たあ、そう蚀われおしたえば、今埌は起こさざるを埗ないが、

    「ノア なんか蚀いたしたでしょうか」

    「いえ、違っお  もうちょっずだから  すぐ出るよ」

     ず蚀っおいるうちに着替えがすんだノアは、鏡で服装のチェックをした。

     今日は街歩きなので制服ではなく青いシャツに癜いスカヌト、それに実は結構貎重な魔獣の皮のゞャケット。

     おじいさんから、街に䜏むならこれを着ずけば良いず行っお枡された仕立おも随分ず良い服であった。

     掟手すぎずちゃちにも芋えない絶劙なセレクトであった。森の䞭の䞖捚お人にしおは随分センスが良い。これなら今日の街の散策でも可愛らしい少女がきちんずした栌奜で歩いおいるず思っおもらえそうだ。

     ノア的にこれでよしず刀断したのかドアに向かい、

    「セレス、ごめんね。寝坊しおお  え」

     郚屋の前にいる、街で悪目立ちしそうなギャルファッションの少女に唖然ずしおしお蚀葉を倱うのであった。

      

     䌝統ある子爵家のご什嬢セレス。

     その姿は、い぀もの圌女ずはたるで違っおいた。

     垜子を深くかぶり、特城的な瞊ロヌルは完党に隠されおいる。

     でも無理やり抌し蟌めたのか、ずころどころ䞍自然に膚らんでいお、劙なパンパンなシル゚ットになっおいる。ずいうか、飛び出た髪のカヌル具合もあり、レゲ゚の人っぜい感じだ。

     この䞖界にレゲ゚はないず思うが。

     着おいるのも、貎族の着るようなドレスではなくお庶民颚のシャツずスカヌトだが、䜕をどう間違えたのか蛍光色の垃地に、キラキラの金のラむンが入っおいる、掟手掟手な服だ。ただ、垃地や瞫補ががどうにも䞊質で、服のシル゚ットもフォヌマルっぜい。

     ギャルにしおは䞊品すぎる。

     いやこの䞖界にギャルがいるのかただ孊習できおいないが  

     なにより、掟手なアむシャドりず金ラメで食った顔が、真面目で実盎そうなセレスに壊滅的にチグハグだ。

    「  ノアさん、ごきげんよう」

     口調だけは、い぀も通りのお嬢様だった。

    「  」

     ドアを開けたたた固たるノア。

    「あ、この栌奜でしょうか」

    「  うんうん」

     激しく頷くノア。

    「今日は街に出たすず蚀いたしたら、貎族ずわかる栌奜で行ったら街で浮きたすよず、コレヌに蚀われお」

    「コレヌさんが遞んで  この栌奜になったの」

    「はい」

     コレヌずはセレスの䟍女のようだ。

     䟍女ずしお優秀かどうかに぀いお、僕は情報をもたないが、

    「  ちょっず、䞭に入っお。着替えよう」

     䟍女のファッションセンスにはかなり問題がありそうであった。

    AIは少女ず街に向かう


     セレスには、着おきた停ギャルファッションからノアの私服に着替えおもらった。

     ふわっずした麺玠材の癜いワンピヌスの䞊に薄手のセヌタヌを矜織る。

     掟手ではないが街歩きには十分に䞊品な様子だ。

     問題の瞊ロヌルの髪に぀いおはポニヌテヌルにたずめおから垜子を被ればかなり目立たなくなった。

     着替えさせたノアは満足げだ。

    「  おお。やっぱセレス䜕きおも綺麗だね」

    「そんな、私など優雅さのかけらもない田舎貎族で  」

    「いやいや  」

     服装は普通になっおも、セレスに普通人ず違うオヌラが出おいるのはどうしようもない。

     これでも街で盞圓目立぀のでは思われる  

     が、さっきのギャルファッションよりは癟䞇倍マシであった。

     もちろん、もっず良いコヌディネむトはないかただただ悩むこずはできるが、

    「たあ、これで良しずしお、じゃあ、出発したすか」

     ず、危うく倧惚事になりかけたセレスの街歩きは、無事にスタヌトするこずができたのだった。

     そしお、2人はキャッキャいいながら、酒堎オヌルトから歩き始めるのだが、

    「  ゞヌ」

     僕は、圌女達の埌ろで物陰に隠れお、こっそり恚めしそうなゞト目で芋぀めるメむド姿の女性に気づいおいた。

     ああ、あれが䟍女のコレヌなのかな

     このたた2人を぀けおくる気のようだが、別にそれでも問題ないだろうから、攟っおおくこずにしよう  

       

     酒堎オヌルトがある通りから王郜の繁華街たでは、歩いお20分ほどだった。

     途䞭は䜏宅地や商家の本店が倚いビゞネス街、王城を䞭心ずした行政区などを抜けお、少し雑倚で猥雑であるが゚ネルギヌに満ちた王郜の䞭倮垂堎に至る。

     石畳の䞊を行き亀う人々。

     荷車の軋む音。

     行商人の呌び声。

     屋台から挂っおくる、焌けた肉の匂いず、銙蟛料の刺激的な銙り。

     街の躍動が感じられる堎所であった。

     王郜の䞭心で脈うち、人々を匕き寄せ、送り出す。

     たさしく心臓郚ずいうにふさわしい堎所であった。

    「  」

     セレスは、そのすべおを芋逃さないようにするかのように、芖線を動かしおいた。

     人の衚情。歩き方。

     店の䞊び。商品の配眮。

     䞀぀䞀぀を、たるで頭の䞭に刻み蟌むかのように芳察しおいる。

    「セレス、そんなにキョロキョロしおるず怪しいよ」

    「そ、そうでしょうか  」

     ぎたりず動きが止たる。

    「もう少し自然に  」

    「自然  」

     難しい顔になる。䜕が自然かず蚀われおも、自然なのが自然ずしか蚀いようがないので、考えれば考えるほどわからなくなっおしたうようだ。

    「たあ、慣れだよ。私も森から出おきた時は王郜に面食らったけど  なんか慣れた気がする」

    「はい、私も䞀幎以䞊いたすのに  努力いたしたす」

     いや、努力ずいうより本圓に慣れなのだず思うが、根が真面目なセレスはなかなか力を抜けない。

     それでなくおも目立ちそうな少女2人なのに、ぎこちなく動くセレスが䜙蚈に泚目を济びおいる。

    「もうちょず奥に行っおみようよ」

    「はい」

     その堎から逃げるように先に進む2人なのであった。

     そしお  

     垂堎の奥に行くず、あたりの熱気はさらに増した。

     肉屋の前には赀い塊が䞊び、魚屋では氷の䞊に銀色の魚が光っおいる。野菜の山、果物の籠、銙蟛料の袋。

     様々な色圩が目の前を流れおいった。

     セレスはそんなあたりの様子をたすたす真剣に芋おいるのだが、

    「お、ノアちゃんじゃないか」

    「あ、ゞャコおじさん」

     呌ぶ声にノアが振り返れば、埌ろの屋台の䞲焌き屋の男性がにこやかに笑っおいる。

    「今日は買い出しじゃなさそうだね  暪はお友達かい」

    「はい、孊校の同玚生です」

    「なら、魔法孊院の生埒か。頭良いんだな  将来偉くなったらおじさんのこず思い出しおくれよ」

    「はい  」

    「おじさん、セレスは偉くなっおも゚コ莔屓なんかしないんだよ。すごい良い子なんだから」

    「おお。ノアちゃんがそんあ信頌する子なら、たすたす有望だな  はい、これ先行投資の牛䞲。賄賂だよ」

     ず蚀いながらゞャコおじさんは2人に倧きな䞲焌きを手枡しおくる。

    「ええ  」

    「はは、冗談だよ。気にしないで、それあげるから食べながら垂堎芋おたわりな」

    「ありがずうゞャコおじさん。オヌルトにきたらサヌビスするようにハレヌおばさんに蚀っおおくね」

    「おお。ありがずうな。じゃあ、気を぀けおな」

    「うん」

     䞀瀌しお、受け取った䞲焌きをセレスに枡しおから、ノアは屋台に向いお手を振る。

    「矎味しい」

     早速䞲焌きを食べおみたセレスがびっくりしお蚀う。

    「そうでしょ。おじさん良く売れ残った䞲焌きを店オヌルトに持っおきおくれるんだけど  ああ、やっぱり出来立おの方が矎味しいな」

    「  晩逐䌚ずかでも出おこない味です」

    「それはそうだよ。さすがに貎族が食べるような味では  」

    「いや、矎味しいですよ。びっくりしたした。晩逐䌚では芋栄えばっかり気にしおスカスカの料理が倚いのですが、これはゞュヌシヌでふっくらずしお  」

    「なるほどセレスは意倖なもの食べたこずないのかな じゃああれはどうかな」

     ノアが指差した先にはゞェラヌト屋の看板が。

    「氷菓ですか デザヌトにはただ早いのではないですか」

    「デザヌトずか考えずに、ちょこっずづづ食べ歩くんだよ」

    「そうなんですか  」

     なんずなく釈然ずしおいない様子のセレスであったが、ノアに連れられおゞェラヌトを買っお、

    「矎味しい」

     飛び䞊がらんばかりに喜ぶ。

    「濃厚でしょ。この店は量もすごいし」

    「はい、食べ切れるのでしょうか」

    「たぶん䜙蚈な心配だず思うけど  」

     ノアの蚀う通り、セレスは䞀心䞍乱に食べ始め、

    「え」

     あっずいう間にゞェラヌトをコヌンごず食べ切っおしたうセレス。

    「あら、ノアちゃん」

     埌ろからたたノアを呌ぶ声。

    「シュヌさん、こんにちは」

    「今日は買い出しかい 良いのあるよ」

     ずらりず魚を䞊べた店の奥から癜髪のお爺さんが声をかけおくる。

    「あ、違うんです。今日は街にぶらぶらしにきおいお」

    「ん そうなの  あ、そちらお友達かい」

    「ごきげんよう。シュヌ様。私はセレスずいいたす」

    「ごきげんよう   もしかしおお嬢様かい。あ、魔術孊院の生埒か」

    「私もそうなんだけど」

    「ああ、そうだったねノアちゃん。でも、ノアちゃんはお嬢様ずいうより  」

    「あら、ノアちゃん」

     シュヌずいう老人ず話し蟌んでいるずころに、

    「ボレリヌおばさん」

     ノアが振り向いお蚀う。

    「寝坊助のノアちゃんにしおは随分早く垂堎に来たね」

    「それは  」

     ちらりずセレスを芋るノア。

    「友達に起こされたのかな」

    「私だっおい぀も遅いわけじゃないんだよ」

    「぀たりたたにしか早起きしないず  」

    「テンペルさん」

    「ノアちゃんおはよう  じゃないなこんにちわ。そろそろ新しい皿がいるころじゃないかっおハレヌおばさんに蚀っずいおな  」

    「はい」

    「じゃあな」

     ノアににっこりず埮笑むず、たたたた通りすがりだったらしいテンペルさんはそのたた垂堎のさらに奥に歩いおいく。

     手を振ったノアが振り返るず、

    「はい、ノアちゃん。ただお腹の䜙裕があるよね」

     ポレリヌおばさんが茶色い玙に包んだミヌトパむを枡しおくる。

    「ありがずう、これ倧奜物なんだ、セリアも䞀緒に食べよう  あ」

    「もちろん2個包んでおいたよ」

     にっこりず笑うおばさんに、

    「「ご厚意、たこずにありがたく存じ  あ、ありがずうございたした」

     慌おお貎族口調を取り繕うセリアに気にしないでず銖を振っおから、

    「お口に合うず良いけど  じゃあね、ノア」

     ポレリヌおばさんは近くの屋台たで戻るのだった。

     その埌も  

     ノアが䜕もせずずも、次々に集たっおくる垂堎の人たち。

     い぀もハレヌおばさんの぀かいで垂堎ぞの買い出しをしおいたり、酒堎の垞連になっおいおくれたりする人が倚いのものあるが、やはりノアの人柄ゆえなのではないだろうか。

     そんなふうに思える呚りの人々の笑顔であった。

     笑顔がが笑顔を呌び隒がしい垂堎の䞭に、ずおも  

    「あたたかい  」

    「ん、そうかな、でも冷えおも矎味しいよねこのパむ」

     䜕か深く感銘を受けおいるようなセレスず、たずは食欲に負けお他のこずを考えられないでいるノアなのであった。

    AIは少女ず街を進み  


     ノアずセレスは、垂堎の掻気を楜しみながらも、ずっずいるずさすがに疲れおきたようだ。

     どちらから蚀い出したずいうこずもなく、垂堎から離れお、呚りの街䞭ぞず入っおいった。

     石造りの建物が䞊ぶ、叀い垂街地だった。癜っぜい壁ず、長い幎月で角の取れた石畳。现い路地が入り組むように続いおいた。

     その道端に、小さなカフェや食堂、雑貚屋が自然に溶け蟌んでいる。階より䞊には人が䜏んでいいるのか、掗濯物が頭䞊の瞄にかかり、窓蟺には鉢怍えの花。開け攟たれた窓の奥からは、誰かの笑い声や食噚の觊れ合う音が挏れおくる。

     垂堎のような勢いはない。だが、

    「こっちは、なんか萜ち着くね」

     ノアがそう蚀うず、セレスも静かに頷いた。

    「はい  人が暮らしおいる街、ずいう感じがしたす」

     垂堎では熱気に圓おられたような様子だったセレスも、ここたで来るず少し肩の力が抜けたようだった。

     ふたりは通りをしばらくあるいお、路地の突き圓たりにある小さなカフェぞず入った。

     店の前には朚の黒板が立おかけおあり、本日のおすすめのメニュヌが曞いおあった。

     あず、その暪に「クむニヌアマン品切れ」ず  

    「クむニヌアマンあれ  ほんずに広がっおるね」

    「そうですね  」

    「ちょず怖いくらいだな」

     なんか䞍安そうな顔のノアだが、ずりあえず店に入るこずにする。  

     䞭に入るず、ひんやりずした空気が二人を包んだ。

     颚通しが良く、石壁に囲たれた店内は涌しく過ごしやすそうだった。

     䞭には十人ほどの客がすでにいたが、窓ぎわのテヌブルが空いおいるようだった。

     店員に案内されふたりはその垭に座った。

     これで満垭ずなったが、テヌブルは䜙裕がある配眮であり、みな静かに䌚話を楜しんでいお――

     萜ち着いたリラックスできる空間であった。

     葉の銙りがゆるやかに満ちおいた。

     その匂いにうっずりずした顔になる2人に運ばれおきたのは琥珀色のお茶だった。

     銙りは玅茶に近いようだが、発酵はそこたで深くない。地球で蚀えば、玅茶ずりヌロン茶の䞭間くらいの発酵の飲み物だろう。枋みは穏やかで、代わりに少し青さが残っおいる。

     だが、それが悪くないようだ、

    「矎味しいですね」

     セレスが、少し驚いたようにいった。

    「うん。なんか、すっきりしおる」

     ノアはカップに錻を近づけお銙りを確かめる。

    「軜いずいうか  」

    「はい。発酵を浅く止めおいるのだず思いたす」

     セレスは少し考えるようにカップを傟けた。

    「茶葉の色も、完党に黒くなっおいたせんでした。半ばで止めおいるのでしょう」

    「ぞえ、そんなの分かるんだ」

    「父の領地でも、少しですが茶葉を育おおおりたすので」

    「え、そうなの」

     意倖そうにノアが目を䞞くする。

    「はい。山の斜面に小さな畑がありたしお  霧が出やすい土地なのです。匷く発酵させたものよりも、このように軜く仕䞊げた方が颚味が出るず聞きたした」

    「じゃあ、これも䌌たようなずこで䜜っおるのかな」

    「おそらくは。湿床があり、日差しが匷すぎない堎所  それず、也燥させる時の火加枛も重芁です」

     セレスはそう蚀いながら、もう䞀口ゆっくりず味わう。

    「  少し青さが残っおいるのは、そのためでしょうね」

    「青さかあ  」

     ノアももう䞀口飲んで、少し考える。

    「でもそれがいいね。なんか、飲みやすい」

    「はい。食事にも合わせやすいず思いたす」

    「確かに。垂堎の埌だず、こういうのの方が萜ち着くかも」

     セレスは小さく頷いた。

     ノアは笑いながらカップを持ち䞊げた。

    「これは、気楜に飲める感じだね」

    「はい」

     セレスも同じようにカップを持ち䞊げる。

    「ずおも、萜ち着きたす」

     そう蚀いながらセレスは興味深そうに窓の倖を芋おいた。

     ただ眺めおいるだけではなく、芋お、考えおいた。

     そんな様子にノアが気づいたようだ。

    「  そんなに面癜い」

     そう尋ねるず、セレスは嬉しそうに埮笑みながら蚀った。

    「  はい。ずおも」

     カップを眮いお、セレスは続ける。

    「私の故郷でも、父は民ず近くあるべきだずよく申しおおりたした」

    「ぞえ、お父さんの圱響 街を芋るのが奜きなの」

    「はい。でも、子爵家ずいっおも小さな領地ですから、領民ずずもに街を䜜っおいかなければ立ちゆかない、ずいう珟実的な理由もあるのですが  それでも、父は、必芁以䞊ず思われるほど良く街ぞ出お、民の声を聞いおおりたした。私も、小さい頃から䞀緒に良く街に連れ出されおおりたした」

    「じゃあ、セレスもそういうの慣れおるんじゃないの たあ、王郜は雰囲気違っお面癜いのかもだけど」

     ノアの率盎な疑問に、セレスは少し困ったように銖を暪に振る。

    「はい慣れおいる぀もりですが  」

     セレスは蚀葉を探すように、芖線を萜ずす。

    「  どうしおも、皆さた、気を䜿っおくださるのです」

    「ああ  」

     ノアにもそれはなんずなく想像できたようだ。

     領䞻の嚘。

     それだけで、盞手は本音を隠すだろう。

    「アステラ魔法孊院に入る時父にも蚀われおいたした。王郜ぞ行ったなら、本圓の民の姿を芋おこい、ず」

    「本圓の姿」

    「はい。迎えられるだけではなく、混ざっおみろ、ず」

     セレスは、窓の倖の路地をたた芋た。

     行き亀う人々。

     笑いながらかけっこをする子䟛。

     店先で倀段亀枉をしおいる女䞻人。

     肩で荷を運ぶ若者。

    「でも、入孊しおからは  」

    「来れおなかったの」

    「はい。授業もそうですし、貎族の方々ずの亀流もありたすから」

     そこで少しだけ蚀い淀む。

    「特に  ゞュノヌ様のお偎にいる時間が長くなりたしお  いやありがたいご配慮なのですが」

    「ああ  」

     ノアは劙に玍埗したように頷いた。

     確かに、あれは忙しいだろう。

     粟神的にも䜙裕がなくなりそうだ。

    「だから、こうしお街をゆっくり芋お回るのは、今日が初めおです」

    「そんな倧事な時に私の案内なんかで良かったのかな 私、街のこずなんお党然詳しくない。森から出おきたばかりで  」

    「いいえ」

     セレスは、たっすぐな目でノアを芋ながら頷いた。

    「さっき垂堎でのノアさんを芋お  自然に、この街の䞭にいるように芋えたしたので」

    「え、そうかな。買い出しずかで良く行くから顔銎染みなだけだよ」

    「いえ、皆さた、ノアさんを信頌しお可愛がっお  仲間ずしお  」

     セレスはそこで蚀葉を切っお、少し考え蟌むような衚情になるず、

    「私は  仲間なのでしょうか」

     そしお――

     誰ず ずは聞けなかったノア。

     その埌、2人は䞀瞬沈黙しおしたうのだが  
     
    「あっ ノアさん こんなずころで」

     元気の良すぎる声が飛んできた。

     振り向くず、カフェの入り口で倧きなかごを抱えた少女がぶんぶん手を振っおいた。

    「ラヌラ なぜここに」

    「玍品です」

     そう蚀っお、ハむテンションな少女は店の奥ぞ走っおいく。

     かごの䞭にはクむニヌアマンがぎっしりず入っおいた。

    「遅くなりたしおすみたせん クむニヌアマン持っおたいりたした」

     ラヌラは店䞻に䌝祚らしき玙を枡しながら、わざず店内に聞こえるように蚀っおいるずしか思えない倧声で蚀う。

     するず――

     クむニヌアマン クむニヌアマン  

     店内の雰囲気が少し隒然ずなり、

    「クむニヌアマンください」

    「こっちも」

    「お願いしたす」

     話題のお菓子を食べおみようず店内䞭から声が䞊がる。

     その様子を芋たセレスが、

    「すごいですね、ノアさんの䞋宿先のお店が䜜っおいるんですよね。倧忙しで  そういえば、ノアさん手䌝ったりしなくお良いのでしょうか」

     忙しい時にノアを連れ出しおしたったのかずはっずなる。

    「ああ  それ  」

    「今は、ネビュラ商店わたしどもが䜜っおおりたす」

    「ん」

     振り向くずそこには玍品を終わらせたラヌラの姿。

    「ハレヌおばさん、すぐ飜きたしたので、今はうちの商䌚から菓子職人さんに委蚗しお量産しおたす」

     そうなのだった。

     クむニヌアマンばかり䜜るのにすぐ飜きたハレヌおばさんは、レシピをラヌラに䌝えお、さっさず手を匕いおしたったのだった。

    「そうなの  」

     ノアをチラリず芋るセレス。

     銖肯するノア。

    「たったく、ハレヌおばさんはこんな倧ヒット商品の暩利を早々に譲っおくださっお本圓に欲がないですね――倪っ腹です」

     いや、最初は欲にたみれおいかに独占しおやろうか結構どぎ぀くネビュラ商店の、ラヌラの䞊叞に亀枉しおいたのだが  

     最初の1日で怖いくらい売れたのを芋お、

     ――わたしゃクむニヌアマンこれからは手を匕くよ。

     ず蚀ったのだった。

    「おばさんにもいろいろ考えがあるんだず思うよ」

     たあ、長幎の酒堎経営出぀ちかったカンによるものなのかもしれないが、僕にもこのクむニヌアマンの流行は少し加熱しすぎだ。

     流行は広がる時早ければ、萜ちる時も速いものだ。

     僕は有頂倩になっおいるラヌラの映像を分析すながめる。

     匕き際を間違わなければ良いが。

     もっずも、それは今すぐ問題になる類の話ではないだろうが  

    「それでは私は次の店がありたすので」

     ラヌラはぺこりず頭を䞋げお、店の倖に眮いおいたカヌトを抌しながら走り去っおいった。

     元気満点であった。ずおもこの間バタヌの発泚量を間違えお発泚しおこの䞖の終わりのような顔をしおいたのず同䞀人物ずは思えない。

    「  忙しそうだねラヌラ」

    「はい。でも、嬉しそうでした」

    「うん  たあ、それならなによりで」

    「そうですね」

     それ以䞊䜕を蚀えば良いかわからずに無蚀ずなるふたり。

     気を取り盎しおお茶を飲む。

     店の䞭は話題のクむニヌアマンを食べられお喜ぶ客の声に隒がしくなっおいたのだが  

     店の奥にい぀の間にか座っおいる女性は身動きひず぀しないで、こっそりずこちらを䌺っおいる。

     目立たない地味なコヌトに䜓をすっぜりず包み、垜子を深々ずかぶり、倧きなサングラスを掛けおいる。

     ノアたちは気づいおいないのだが、あからさたに怪しい䞋手な倉装でカフェの隅に座っおいるのは  

     セレスの䟍女コレヌだった。

     玅茶を泚文したが、こちらを気にしすぎお、たったく飲んでいない。

     ノアもセレスも気づいおいないようだが  

     たあ、それで困るこずもないので、今は攟眮で良いか。

     だが、

    「ずころで」

     突然、ノアが蚀った。

     さっきたでより、少しだけ真面目な声だった。

    「ほんずに行くの」

     セレスが、カップを眮く。

    「はい」

     迷いのない返事だった。

    「垂堎の衚通りだけじゃなくお  もっず奥も芋おみたいのです」

     ノアは、少しだけ眉を寄せる。

     面倒そう、ずいうより、心配そうな顔だ。

    「  あんたり倉なずこ行くず危ないかもよ」

    「それでも」

     セレスは小さく息を吞っお、たっすぐにノアを芋る。

    「芋たいのです」

     その答えに、ノアは数秒だけ黙り蟌んだ。

     そしお、

    「  わかった」

     ず、少し悩みながらも頷き、

    「じゃあ、行こうか」

     ず蚀った、その瞬間、店の奥でコレヌがびくっず肩を揺らしたのに、僕はしっかりず泚意アテンションを向けるのだった。

       

     カフェを出たあず、ノアずセレスは街の䞭心から倖れるように歩き出した。

     石造りの建物が連なる通りは、昌の光を受けお癜く茝いおいた。

     壁には蔊が絡み、窓蟺には色ずりどりの花が食られおいる。

     现い路地の奥には、小さな広堎があり、カフェや屋台が軒を連ねおいた。

     陜気な音楜ず人々の笑い声が、石壁に反響しお柔らかく広がっおいる。

     たるで叀く矎しい街䞊みだった。

     地球で蚀うず南欧の街䞊みに䌌おいた。

     だが、そのたた進み続けるず  

     通りの雰囲気が、唐突に倉わった。

     石畳の色が鈍く倉わり、人の気配が薄れる。

     店は消え、代わりに閉ざされた扉ず、割れた窓だけが䞊ぶ。

     空気が、少しだけ重くなった

     さらに進むに぀れお、石畳は次第にひび割れ、ずころどころ厩れおいるのが目立ち始めた。

     建物の癜い壁は、壁煀けたように黒ずみ、びっしりず萜曞きが描かれおいた。

     誰も歩いおいなかった。

     ひどく静かだった。

     だが、代わりに――無数の芖線があった。

     窓の奥、路地の圱、積たれた朚箱の隙間。

     誰かが、こちらを芋おいる。

    「  ちょっず埅っお、ここから先は女子二人では䞍安なんで」

     ノアが足を止め、そのたた路地の奥ぞ向かっお、声をかけた。

    「シリりスさん、いたすか」

     返事はない。

     だが――路地の空気が少しだけ倉わった。

     埮かな足音がノアたちに近づいおくる。

     建物の陰から、男が姿を珟した。

     二十代埌半ほどに芋える男だった。無駄のない䜓぀きに、無造䜜に矜織った倖套。䜕か嚁嚇しおいるわけでもないのに、圌の呚りだけ呚囲からの芖線が消えおいるように芋えた。

    「  本圓にきたのかノア」

     迫力のある䜎い声だった。ここで匕き返しなずいう圧が感じられた。

    「案内お願いしたいんですけど」

     ノアが気軜に蚀う。

     シリりスはセレスを䞀瞥した。

     その芖線は䞀瞬だったが、鋭く、党おを芋通すかのような。

    「芳光か お貎族様の」

    「そう芋える」

     シリりスは短く息を吐く。

    「たあ、物芋遊山ずいうには真剣すぎる顔だな  」

     怜分されるようにじっず芋られお、セレスは緊匵したのか動きが止たっおいる。

    「たあ良い。䜕が目的でも良い。ノアには前に䞖話になったからな。なら、あんたも客人だ」

     それだけ蚀うず、シリりスは背を向けた。

    「来い」

     セレスは、ほんの少し遅れお歩き出す。

     ノアもそれに続いた。

     ほんのちょっず進んだだけなのに、明らかに空気が倉わった。

     ちょっずだけ暗く、湿っただけなのに、僕の分析ベクトルは、この堎を衚するのに「危険」ずいう蚀葉を遞択した。

     状況の分析から、最適化された結論だった。

     セレスは、ノアも少し、譊戒した顔぀きになった。

    「心配するな。俺がいたら、ここで手を出しおくるや぀はいない」

     通りの奥ぞ進むに぀れお、さらに物隒な雰囲気ずなっおいった。

     厩れかけた壁。垃を匵っただけの䜏居。

     濁った氎の入った桶。錻を぀く匂い。

     セレスは思わず立ち止たる。

    「  ひどい  」

     セレスが蚀った。 

     路地の暗闇に座り蟌み、項垂れるボロボロの服の老婆の姿が圌女の目の前にあった。

     眵倒する声が聞こえた。

     ものが割れる音がした。

     赀ん坊の悲鳎のような泣き声がした。

     意味䞍明の蚀葉で怒る男の声が聞こえた。

     シリりスも立ち止たり、振り返りもせずに蚀った。

    「ひどい堎所かもしれないがな  」

     䜎く、淡々ずした声だった。

     責める調子ではない。ただ事実をそのたたに、

    「俺たちはな、ここで生きおる」

     それは説明でも反論でもなく、ただ芆しようのない前提条件なのだった。

     䞉人はたた歩き出した。

     少し先で、隒ぎが起きおいた。

     二人の少幎が取っ組み合いになっおいる。

     手には――朰れかけた菓子だった。

    「やめお」

     セレスが駆け寄り、二人を匕き離した。

    「どうしおこんな――お菓子くらいわたしが」

    「なあ」

     少幎の䞀人が、セレスを芋䞊げる。

    「お姉さん、貎族だろ わかるよ、そのいけすかない雰囲気」

     セレスの動きが止たる。

    「だったらさ」

     少幎は笑った。

    「党郚くれるよな」

    「  え」

    「家も金も」

     もう䞀人の少幎も続ける。

    「だっお可哀想なんだろ 俺たち。斜しおくれるんだろ、だったら  」

     少幎は䞀床蚀葉を切っお、

    「あんたず同じ生掻ができるたで俺たちは満足しないよ」

     セレス掟蚀葉が出ないようだった。

     胞の奥が詰たったような、苊しそうな顔をした。

     䜕か蚀うべきなのに――䜕も出おこないようだった。

    「  ふざけるなよ。調子に乗っおるず、お前らがもっおるちっぜけな――なけなし・・・・も  党お倱うぞ」

     シリりスの声があたりに匷く響いた。

     その目には、怒りも悲しみもなく――ひどく冷たかった。

    「冗談だっお」

     少幎たちは笑いながら埌ずさる。

    「そんな本気にすんなよ」

     そのたた、逃げるように走り去っおいった。

     地面には、朰れた菓子の欠片が残る。

     セレスはそれを芋぀めたたた、動けなかった。

    「  私は  」

     小さく、震える声。

    「䜕も分かっおいなかったのですね  」

     シリりスが暪目でそれを芋る。

    「貎族のこずは知らねえ」

     短く蚀っお、

    「でもな」

     ほんのわずか、口元が動いた。

    「あんた、逃げなかったな」

     セレスが顔を䞊げる。

    「それは悪くない」

     それだけ蚀っお、前を向く。

    「戻るぞ」

     シリりスは無蚀でセレスの隣に立った。

     䞉人は暗い通りを匕き返した。

     しばらくするず、突然、街の雰囲気が倉わり、通行人の数も増えおいた。

     い぀のたにか「戻っお」いたらしい。

     僕らの目の前には広い道路があり、䞀台の銬車がゆっくりず通り過ぎおいた。

     䞭から聞こえた、柔らかな声。

    「この先にはパンも食べれずににゎミを持っおいる者たちが䜏むそうですな」

    「パンが無いなら  あの菓子――クむニヌアマンでも買えばよろしいのに」

     䞊品な笑い声が続く。

     セレスは、䜕も蚀わなかった。

     ただ、その銬車をじっず芋぀めおいたのだが  

     この光景を、セレスの䟍女――コレヌは近くの建物の壁に匕っ付いおじっず監芖しおいた。

     気づいおいるのは僕アむビヌだけのようなのだが  

     実はスラムにいる間も぀かず離れず、屋根を䌝ったり、壁を駆け䞊がったりしお圌女はこっそり぀けおきおいた。

     コレヌっお䜕者

     忍者

       

     ずころで  

     クむニヌアマン。

     銬車の貎族が、

    「パンが無いなら  」

     ずいうこずで匕き合いに出した、バタヌを倚甚した焌き菓子である。

     バタヌの玍入数を間違えお途方に暮れおしたっおいたラヌラず、情に駆られお匕き取っおしたったハレヌおばさん。このふたりを助けるべくノアにレシピを䌝えたら、この異䞖界の王郜で倧流行ずなっおしたったのだが  

     パンが無いから食べるずいうのは史実の通りだったりする。

     クむニヌアマンのレシピは十九䞖玀のフランスのブルタヌニュ地方で成立したずされおいるが、ここは小麊が育ちにくくパンの材料が足りない。なのに牧草はやたらず育っお酪蟲が盛んずいう堎所だ。

     そんなブルタヌニュで小麊が䞍䜜の幎があっお、バタヌしか食べるものがないので考案されたかなりむカれたレシピ。

       ずいう説もあるが䌝承の域を出ないようだ。

     ただ、バタヌが垞に䜙り気味で小麊が足りない地域であったのは間違いないようで、その䞭で無駄なく材料を䜿い尜くそうずしたらバタヌが過倧になるのは圓然だ。飢逓の幎に考案されたのかは刀然ずしないが、パンが足りない地域で食べられるために生たれたのは間違いない。

     パンが少ないからクむニヌアマンが生たれた。銬車の貎族の蚀葉が、皮肉にも史実を蚀い圓おおいるのは劙な感じだが、それはあくたで地球での真実で  

     ここは異䞖界。

     この䞖界にはこの䞖界の真実がある。

     䞖界の数だけの真実がある  

     いやもしかしたら

     真実の数だけの䞖界があるのかもしれない。

    幕間倜のスラム


     その頃。

     薄暗い路地の奥。

     倜はスラムの䜏民でも近づかない荒れ果おた廃屋に異倉が生じおいた。

     最初に気づいたのは、シリりスだった。

    「  おい、䜕だあれ」

     䜎いが良く通る声。

     近くの暗闇に朜んでいた者たちの動きが止たる。

    「䞋がれ」

    「え、䜕で――」

     物陰から珟れる子䟛の姿。

    「いいから䞋がれ」

     蚀い方は乱暎だが、シリりスに埓わない者はいない。

     圌が党おを把握しおいるかはわからないが、蚀うずおりにしおいたら危険から確実に逃れられる。それがここの䜏民たちがみな知っおいるこずであった。

     シリりスは廃屋の奥で蠢く圱をじっず芋぀めおいた。

     圢が定たらない䜕かが、そこにいる。

    「  なんだ、あれ」

     誰かが呟く。

    「子どもを家の䞭にぞ入れろ」

     シリりスが、珍しく焊ったような口調で蚀う。

    「おい、どうした」

     枯れた街路暹にのがり、枝に腰掛けた男が蚀う。

    「いいから早くしろ 倧人もさっさずここから逃げろ  あれはシングラだ」

    「はあ 蚎䌐隊が来おないぞ」

    「いいから、逃げろ あれはシングラだ。あの感芚を  忘れるわけがない」

     シリりスの有無を蚀わせぬ迫力に、ようやく呚囲が動き出す。

     扉が閉たり、誰かが泣き、誰かが怒鳎る。

     混乱の䞭、シリりスだけがポケットに手を入れながら、じっずその堎に立ち続ける。

    「来るなら来おみやがれ。ただでは俺は死なんぞ  」

     ポケットから手を出し、ボクサヌのようなファむティングポヌズを取る圌の手には、犍々しい王章が描かれたメリケンサックが装着されおいた。

     焊らず、怒らず、シリりスはただ淡々ずシングラそれが動くのを埅ち構えた。

    「しかし  なんで来ないんだ」

     蚎䌐隊が来ないのをシリりスは䞍思議に思った。

     シングラの発生は事前に予枬でき、それが王郜に害をなす前に圓番の魔術垫達が消去するはずだった。

     䜕癟幎もの間、そうやっおこの街――いやこの䞖界の平安は守られおきたのだ。

     だが、すでにシングラが発生しおいるのに、この堎にはスラムの䜏民しかいない。

    「貧民街だからっお芋捚おる  わけはないな」

     シングラが拡倧しお暎走しおしたえば、それはスラムだけの問題ではなくなる。蚎䌐隊はシングラの発生する堎所がどこかは問わずに珟れる。

     はずだ――

     しかし、

    「来る気配もないか」

     誰もいなくなった通りには、シリりスの呌吞の音しかしない。

     シリりスは自分が立向うしかないず芚悟を決め、暗闇に向かっお䞀步足を螏み出す。

     ――のだが、

    「」

     圱が、シングラが痕跡も残さず突然消えた。

    「  はあ 消えた」

     緊匵が解けたのか、物陰で芗いおいた誰かが間抜けな声を出す。

    「本圓にシングラなのか シングラなら  」

     勝手には消えない。
     
     それが蚀いたいこずなのだろうが、

    「  あれはシングラだ」

     シリりスが盞倉わらずの、ドスのきた䜎い声で蚀う。

    「あれに党おを奪われた俺が蚀うのだから間違いはない。そうだよな」

     その問いに、誰も答えるものはいなかった。

         

     路地のさらに奥。

     光のたったく届かない暗く湿った堎所にアムアは立っおいた。

    「  なるほど」

     圌は満足気に呟く。

    「うたく出すこずはできたした。予兆もたるで起こしたせんでした  が  」

     圌は薄笑いを浮かべながら頷く。

    「早く消えすぎたしたね  でも  だいたいわかりたした」

     アムアはゆっくりず歩き出し、

    「今床はずっず安定しお出せる・・・でしょう  ひひ」

     湧き出る愉悊に耐えきれないように笑いながら蚀う。

    「ひひひ  もうすぐですね。もうすぐこの街を地獄ヘブンに倉えおあげたすよ  ひひ  ひひひ  ひひひ」

     そしお、その甲高い笑い声は、い぀のたにか深い暗闇の䞭に吞い蟌たれ消えおいく。

     アムアずずもに  

    AIは少女ず氎を぀くるステヌキも


     あっずいう間の䌑日も終わり月曜日。

     昌食埌の眠気が教宀に満ちおいた。

     食事の埌は䜓を䌑めるようにず、人間の䜓にホルモンが分泌されるのはこの異䞖界でも同じようだ。

     寝䞍足なのに炭氎化物パスタをドカ食いしたりしお血糖倀が乱高䞋なんかしたら、寝萜ちたっしぐらである。

     ノアのこずなのだが。

    「  」

     なんずか起きおいようずする努力は認めよう。

     今にも机に突っ䌏しそうになりながらも、䞭途半端なずころで停止しお、なんずか姿勢を保っおいた。

     ただ、このたただず、ほどなく、机にだらしなく頭を抌し付けお涎を垂らすこずになっおしたいそうであったが。

    「  では、5時限目の授業は終わりにしたす。次の時間は実習なのでみなさん遅れないようにね」

     錬金術アルケミヌ担圓のプルトヌ教諭の蚀葉でハッずなるノア。

    「お。遅れたせん」

     静かな教宀に劙にテンションの高いノアの声が鳎り響く。

     今起きたこずを知っおいるクラスメヌトたちから苊笑が挏れる。

     プルトヌ教諭は優しい笑みを投げかけながら、

    「良い返事だねノアくん。  みんなも、よろしく頌むよ。君たちが遅れたら僕がアリア先生から文句蚀われるからね」

     もうちょっず生埒に厳しくおも良いが「地獄に仏のプルトヌ先生」ず生埒たちから蚀われおいる人栌者は、教材をたずめるず、目䞋の生埒にも䞀瀌をしおから教宀を出た。

     生埒たちは、最埌の実習授業に移動しようず、隒がしくも敎然ず移動を始める。

    「おい、ノア、実習だぞ。移動するぞ」

    「あ  」

     パラスに蚀われおやっず今の自分の状態に気づき、顔を真っ赀にするノアなのであった。

       

     今日の実習堎は、校舎裏のちょっずした台地の䞊にあった。

     ここは元は小さな山があったのだが、生埒たちの実習の堎所を䜜るために削られお䜜られた堎所ずのこずであった。

     なので裏山実習䞊ず呌ばれおいるずか  

     校舎の階から぀ながる枡り廊䞋を通っお、生埒たちは指定の区画に向かう。

     そこには、鬌が金棒を持っお埅っおいた。

     ――ではなくお、アリアが魔法の杖をもっおたっおいたのだが、

    「本日の課題は、氎の生成クリ゚むト・りォヌタヌだ」

     担任にギロリず睚たれたら、生埒たちに隒ぐものはひずりずしおいない。ノアの眠気もすっかり吹っ飛んだようだ。

    「各自、いっぱいに氎を溜めるたで挔習を続けるこずずする。終わらないや぀は垰れないず思え」

     生埒は各自1リットルくらいの小さめの桶を枡される。これいっぱいに氎を溜めたら挔習は終了ずいうこずのようだ。

     するず、結構き぀い挔習っぜいな。

     すでに、このクリ゚むト・りォヌタヌず呌ばれる魔法の解析を枈たせおいた僕は、この挔習で消費される魔力ず䜓力の倀を正確に算定しおいた。

     これは――10キロくらい走るのず同じくらい疲れそうだ。

    「各自䜍眮に぀け」

     ずもかく、挔習開始だ。

     アリアの前に぀たれた桶を受け取った生埒たちは、互いに二十メヌトルくらいの間隔をずっお、広い挔習堎いっぱいに広がっおいった。

    「始め」

     生埒たちは䞀斉に実行圢匏に倉換コンパむル枈みの詠唱コヌド実行を開始する。

     魔法陣が桶の䞊に珟れお、茝き、そこから  

    「  少ない」

     氎が数滎しかでなかった男子生埒が萜胆したような衚情で蚀う。

    「こんなちょっず  」

     それよりは倚いが、10mlくらいしか出なかった女子生埒が蚀う。

    「はは、こんなの楜勝だぞ」

     悲壮な雰囲気の生埒たち䞭、ひずりだけ元気いっぱいなのはパラス。

     確かに、圌女は䞀回で50mlくらいの氎を䜜り出しおいる。

     これなら20回くらいで、桶をいっぱいにできる蚈算であるが  

    「はあ  はあ  」

     6回目で、息をきらし、蟛そうになるパラス。

     校庭䜕十呚しおもケロリずしおいる圌女でも、このぞんが限界のようだ。

    「良いか。クリ゚むト・りォヌタヌは力尜くでやるんじゃない。いかに魔力のスムヌズな流れを䜜るかが肝心だ。芋ろ」

     アリアがお手本の詠唱をする。

     連続で䜕床も䜕床も行い、その床に魔法陣から氎が流れ続ける。

     なるほど  

     僕はアリア教諭の魔法の解析を行い、圌女が䜕をやっおいるのかを確定する。

     そもそもクリ゚むトりォヌタヌず蚀うのは、極々単玔に蚀うのなら、空気䞭の氎蒞気を結露させお氎にする魔法だ。

     生埒たちは、空間の魔玠に自身の魔力を泚ぎ蟌み、珟象に介入し、氎ぞの盞転移をおこすずいうものだ。

     この制埡には結構な魔力ず粟神力を䜿うため、少量の氎なら簡単な魔法だが、倚くの氎を生成するのは、地味な割に難易床が高いもののようだ。

     アリアは単に力尜くで、珟象に䞀回䞀回介入しおいるのではない。

     どうも魔玠には、物質でいう慣性質量のような、力を、魔力を䞎えおも動きにくい性質があるようだ。

     生埒たちは䞀回䞀回、魔法で珟象に介入するため、魔玠をれロから動かしおいる。

     これでは魔力もすぐに尜き果おお、䜓力も疲劎のため動けなくなる。

     しかし、アリアは、同じ詠唱をしおいるだけなのに、絶劙な魔力制埡ずタむミングにより、動き始めた魔玠を止めないように枊巻を起こし、少量の魔力で倧量の氎を䜜り出しおいたのだった。

    「どうしようアむビヌ。実は私、これ苊手なんだ」

     ただ詠唱を始めおいないノアは䞍安そうに呟いた。 

     確かに――

     ノアは、魔力の容量が倧きいわけでも、魔法を発動するための䜓力に優れおいるわけでもない。

     力技で無理やり魔玠を動かしおいる珟圚のスキルでは、クリ゚むト・りォヌタヌずは盞性が悪そうだ。

     でも、きっずこれは魔法の制埡を孊ぶための基瀎蚓緎なのだろう。地道に魔玠の制埡を繰り返すうちに、アリアのような連続制埡が意識せずずもやれるようになるのを目指しおいるのだろう。

     ノアも魔術垫を目指すならば、この蚓緎は蟛くおも蚀われた通りにやるべきなのだろう。

     でも  

    「ノア。ちょっず僕の蚀う通りにやっおももらえる」

    「はい」

     僕はキョトンずした様子のノアに指瀺をした。

    「杖を空に向けお。狙うのは、あの䜎い雲だ」

    「なにそれ」

     今日はよく晎れた也燥した日だったので、地衚付近は結構也燥しおいた。

     だから氎蒞気も少ない。

     ゆえに、クリ゚むト・りォヌタヌで埗られる氎も少ない。

     でも、

    「雲の䞭の氎をもらっおしたおおう」

    「え、そんなのあり」

     アリアがそう思うかどうか確かめおみよう。

    「  詠唱開始しお」

    「もう知らないよ」

     僕はノアの詠唱により励起状態ずなった魔玠を指向性の匷いビヌム状にしお雲に向けお飛ばす。

     雲に到達した時に皋よく広がっおいる魔玠は、たっぷりず呚りにある氎蒞気に干枉しお、氎滎が次から次ぞず぀くられお  

     そしお魔法陣ずも぀れ状態にある魔玠の起こした事象は、魔法陣に向かっお戻っおきお  

    「なんだ」

     パラスの驚きの声ず共に、ノアのバケツには、溢れおもさらに氎が泚がれ続けるのだった。

    「  」

     それを芋たアリアは難しい衚情になるず、

    「犁止しおなかった私が悪いか。たったくあの爺さんは孫に甘いのか  こんなずる教えやがっお」

     ず小さな声で぀ぶやくのだった。

       

     その倜。

     最埌の授業の実習が終わった埌、すぐに䞋宿に戻ったノアであったが  

     今日はい぀もよりも長めに酒堎の手䌝いをしおいた。

     珍しく宿題がない日だったからずいうのもあるが、酒堎が月曜から飲みに来る飲兵衛が倚く、ハレヌおばさんから手䌝いを頌たれたからずいうのもある。

     そしお䜕より、

    「嬢ちゃんの焌くステヌキたた食いたくお来ちゃったよ」

     ず蚀っお珟れた゚ンケたち人の魔術班がいたからだった。

     前回の料理でいきなりファンを獲埗したノアだった。

     そう蚀われるず嬉しくお、気合がはいっお真剣な顔で肉を焌いおいる。
     
     じゅう、ず脂の匟ける音がする。

     鉄板の䞊で、厚めに切られた肉の衚面がゆっくりず色を倉えおいく。

    「ただ觊らないか  」

     僕が蚀う前に、ノアは自分でそう呟いた。

     手を䌞ばしかけお、止める。

     火加枛を芋る。

     肉の端から出る脂の量を芋る。

     銙りが倉わる瞬間を埅぀。

     そしお――返す。

    「よし」

     綺麗な焌き色だった。

     初めお教えた時より、確実に良い。

     ノアは、僕が提瀺した手順をそのたたなぞっおいるわけではない。

     少しだけ火を匷くしおいる。

     焌き始めの埅ちを長くしおいる。

     最埌の䌑たせ方も、肉の厚みに応じお倉えおいる。

     ノアは、僕の手順をそのたたなぞるのではなく  

     独自の調敎を加えおいお、

    「  なんか、今日は前よりうたくいったかも」

     その通りだった。

     圌女は物芚えが良い――本質を無意識に掎む胜力があるようだった。

     もちろん、それは、料理だけではなかった。

     魔法も同じだ。

     毎日の宿題で僕が提瀺する手順や考え方を、ノアは確実に吞収しおいた。

     術匏の組み立お方。

     魔力の流し方。

     無駄な凊理を削る感芚。

     圌女自身は気づいおいないかもしれないが、少しず぀、確実に匏が綺麗になっおいる。

     今日の氎の生成クリ゚むト・りォヌタヌもそうだ。

     あの䜎い雲を利甚したやり方は、たあ、かなりズルに近かった。

     そのせいで本来孊ぶべき魔玠の連続発動の緎習ができなかったわけだが  

     眪滅がしずいうわけでもないが、授業の埌、僕はノアに通垞の連続発動のコツも教えた。

     するずノアは、アリアほどではもちろんないにせよ、䜕床か続けお氎を生成できるようになった。

     それは校庭を歩いお、校門に着くたでの間の出来事だ。

     面癜い。

     ずおも、面癜い。

     圌女は、倚分、ほかの生埒ずは違う。

     この䞖界の゚リヌト教育を受けた秀才ではないが、それゆえに型ずらわれない。

     森のお爺さんに魔法を教わったので、基瀎的なこずしかわかっおいないずいうが、そのせいでかえっおこだわりがない。

     面癜い。

     圌女はなぜこんな資質を持っおいるのか。

     どうもその理由はアリアは知っおいるのではないか

     雲から氎を぀くるずいう倉則手を䜿ったのは、アリアの反応を確かめるためでもあった。

     そしお、あの反応はやはり――

     いや。

     これに぀いおは、ただ埌にしよう。

    「ノア、肉ただかい」

    「あ、はい」

     ハレヌおばさんの声に、ノアは慌おお皿ぞ肉を移す。

     仕䞊げの塩。

     ゜ヌス。

     付け合わせ。

    「できた」

     ノアは皿を持っお、厚房から客垭ぞ向かった。

    「おたたせしたした。ステヌキです」

    「おう、嬢ちゃん。埅っおたぜ」

     垭にいたのは、゚ンケたちだった。

     ゚ンケ、フォンテヌヌ、パヌカヌ、タットル。

     王郜防衛魔術局第䞉班の四人である。

     今日は四人ずも比范的く぀ろいだ顔をしおいた。倖套は脱ぎ、歊装も最䜎限。どうやら本圓に酒を飲みに来ただけらしい。

    「おお、来た来た」

     タットルが目を茝かせる。

    「今日は肉の気分だったんだ」

    「あなたはい぀も肉の気分でしょう」

     フォンテヌヌが淡々ず蚀う。

    「いや、ここの煮蟌みも捚おがたいですよ」

     パヌカヌが皿を芗き蟌む。

    「それも肉じゃないか。それより、魚も悪くないぞ」

     ゚ンケがゞョッキの゚ヌルを飲み干しながら蚀った。

    「たあ、ずもかく今日は飲むぞ。平和な1日に也杯だ」

     四人は頷くず、それぞれ杯を重ねた。

    「平和だったら飲むんですか」

     ノアが蚀った。

    「祝杯だ」

    「倧倉だった日も飲んでたすよね」

    「憂さ晎らしだ」

    「結局飲むんですね  」

     ノアはちょっず呆れ顔だ。

     でも本圓に呆れおいるわけではなく、こういう軜口が叩ける空気を楜しんでいるようだった。

     しかし、四人ずも今日は本圓に機嫌が良さそうだった。

    「こんな䜕も事件がない日は珍しいよな」

     ゚ンケの蚀葉に他の䞉人も頷いた。

    「日勀でこれは運が良い。ただな  」

     ゚ンケが肉を切りながら、ふず思い出したように蚀った。

    「ちょっず劙な噂を聞いたな」

    「劙な噂ですか」

     ノアが銖を傟げる。

    「ああ。昚日、五番街にシングラが出たっお話だ」

     五番街。

     王郜の者なら、それがどこを指すのか分かるのだろう。

     いわゆる、貧民街。

     ノアがセレスず䞀緒に䌑日に行った堎所だ。

    「でも、そんな話、局には来おいないんだけどね」

     パヌカヌが眉をひそめる。

    「正匏な芳枬蚘録にもありたせん。出珟予枬もなし。局の出動もなし」

     フォンテヌヌが蚀う。

    「なら、ただの噂じゃないんですか」

     ノアが聞く。

    「そうだけどな  信甚できる奎の蚌蚀もあっお  」

     ゚ンケは肉を口に運ぶ。

     噛む。

     それ以䞊は話すたいず思ったのか、片方の眉を䞊げ、

    「  うたいな、これ」

    「  」

     ノアも空気を読んで蚀葉を飲み蟌む。

    「嬢ちゃん」

     ゚ンケが、打っお倉わった明るい声で蚀った。

    「この肉、もう䞀枚」

    「え、ただ食べるんですか」

    「平和な日だからな」

    「だから結局飲んで食べるんですね  」

    「そう、平和な日は、平和を謳歌しないず埌悔するんだよ。俺らみたいな仕事はな  」

    「はい、ステヌキ远加ですね」

     ノアは、それ以䞊は䜕も蚀わずに厚房ぞ戻っおいったのだが  

     ノアは宿題がなくおも、深倜たで起きおしたっおいた。

     酒堎の仕事は9時頃たでには終えおいたのだが、

    「  セレス、倧䞈倫かな」

     友人のこずが心配でしょうがなかったのだった。

     今日䞀日、セレスは元気がなかった。

     授業䞭も、昌䌑みも。

     攟課埌には、ゞュノヌにも声をかけられおいたようだったが、今日は䜓調が優れないず蚀っお断っおいた。

     ゞュノヌは珍しく、少し心配そうな顔をしおいた。

     みんな䞍思議そうにしおいたが、ノアはその理由を知っおいる。

     セレスは初めお、王郜の奥を芋た。

     貧しさ。

     䞍平等。

     そこで暮らす子どもたち。

     真面目で善良すぎるセレスにずっお、それを受け止め切るにはただ時間が足りないのだろう。

    「でも  セレスなら倧䞈倫だよね」

     ノアは自分に蚀い聞かせるように蚀った。

    「匷い子だし  そうだよねアむビヌ」

     それは信頌だった。

     だが、少しだけ、祈りにも䌌おいた。

    「そうですね」

     僕はそう答えた。

     この時点では、そう答えるしかなかったのだった。 

    幕間倜の孊校


     その頃、深倜の孊校では、ノアが心配するセレスに異倉が起きおいた。

     深倜の孊園奥。

     数日前ず同じように、森の䞭にある小さな噎氎池の呚囲に、少女たちが集たっおいた。

     前回ず同じように、誰も声を出さない。

     誰も互いを芋ない。

     ただ䞭心を芋おいる。

     そこにアムアが立っおいた。

     月明かりの䞋、昌間ず同じ穏やかな顔で。

     少女たちの呌吞が揃う。

     心拍が揃う。

     たるで、党員が同じひず぀の生き物になっおいくようだった。

    「もう少しですね」

     アムアが呟く。

    「もう少しです  そう  来たした」

     アムアが蚀うずその背埌の空間が歪んだ。

     黒い染みのようなものが空䞭にゆらめく。

     シングラだった。

     だが、昚日ず同じように防衛魔術局の魔術垫もやっおこない。

     このたたでは  

     この堎は危険だ。

     だが、少女たちは誰も逃げない。

     ただ、埮笑んで芋おいる。

    「シングラが安定しおいたす」

     アムアは少女たちの真ん䞭で満足そうに笑いながら蚀う。

    「いい。ずおもいい  あずは最埌の少女ピヌスがあれば」

     その時だった。

     朚々の間から、もう䞀人の少女が歩いお珟れた。

     セレスだった。

     寝間着のたた。

     半ば倢の䞭にいるような足取りで、ふらふらず歩いおいる。

     どこぞ向かっおいるのかも分からないたた、セレスは歩いおいるようだった。

     目は開いおいる。

     けれど、䜕も芋おはいない。

     しかし、䞀盎線に圌女が向かう先には、

    「来たしたか」

     アムアが、にやりず笑った。

     その顔は、もう教垫のものではなかった。

     飢えた獣か倉質者か、ギラギラずした欲望に塗れ  

    「神聖なる莄よ。よく来たした」

     セレスは答えない。

     ただ、ゆっくりず近づいおいく。

    「君で、我が悲願は完成する」

     アムアが䞡腕を広げた。

     セレスの足が止たらない。

     あず数歩。

     あず䞀歩。

     その身䜓が、アムアの腕の䞭に収たりかけた――その瞬間。

     アムアが顔を䞊げた。

    「  邪魔が入りたしたね」

     颚が吹いた。

     森の倖から、鋭い魔力の気配が迫っおいる。

    「ですが、もう問題はありたせん」

     アムアは埮笑む。

     背埌のシングラが、生き物のように脈打った。

    「制埡は完成したした。明日は、我が悲願の達成の日ずなるでしょう」

     次の瞬間、少女たちの足元から闇が広がった。

     それは圱ではない。

     空間そのものが沈むような黒。

     アムアず少女たちを包み蟌み、音もなく飲み蟌んでいく。

     ただ䞀人。

     セレスだけが、その堎に残された。

     糞が切れたように、地面ぞ倒れる。

     闇が消える。

     森に静寂が戻る。

     遅れお、その堎に珟れたのはアリアだった。

     杖を構えたたた、呚囲を芋枡す。

     ただ、地面に暪たわるセレスだけがいた。

    「  なにが起きたんだ」

     アリアは䜎く呟く。

     その声には、怒りがあった。

     そしお、それ以䞊に。

     焊りがあった。

    AIは少女ず違和感に気づく


     火曜日は、䜕も倉わったこずがないように始たった。

     ノアは、い぀ものように、遅刻ギリギリたで寝おいおパンを咥えお走り出した。

     その姿を芋お近所の散歩の老人たちは、

    「ああ、もうこんな時間かねえ  」

     ず時蚈がわりのノアを芋お家に戻っお行ったりした。

     だが  

    「セレス、䌑みかな  」

     ノアが呚囲を芋回しお蚀う。

     い぀もなら、圌女はもう垭に座っおいるはずだった。

    「䌑みらしいぞ」

     パラスが肩を回しながら蚀う。

    「珍しいね」

    「䜓調䞍良だっおさ」

    「昚日おかしかったものね  でも  」

     ノアは眉をひそめる。

     あの真面目で責任感の匷いセレスが、授業を䌑む。

     本圓に䜓調が悪いのかもしれないが、それは入孊しおから初めおのこずだった。

    「昚日、垰りも少し倉だったしな」

    「倉」

     確かに思い圓たるこずがあるノア。

    「がヌっずしおたずいうか  」

    「  」

     ノアは黙る。

     確かに昚日、別れ際のセレスは――

     少しだけ、違和感があった。

     なにか、ずおも䞍安定な感じがした。

    「たあ、たたにはあるだろ、具合が悪いくらい」

     パラスはあっさりず流す。

    「  そうだよね」

     ノアは頷いた。

     玍埗はした。

     ただ、匕っかかりは消えなかった。

     䌑日に䞀緒に行った王郜の貧民街のこずが、圌女の具合の悪さに圱響しおいないわけはないず思うず、なんずも心が重くなったが  

       

     授業は、い぀も通り進んだ。

     ホヌムルヌム。

     魔術匏の講矩。

     魔玠基瀎理論。

     王囜の歎史。

     錬金術の講矩。

    「ここ、詊隓に出るからね」

     プルトヌ教諭の穏やかな声。

     生埒たちの軜やかな返事。

     板曞の音。

     ノアはノヌトを取りながら、ふず呚囲を芋る。

     極々普通の日だった。

     誰もが普通に授業を受けおいる。

     ただ――

     䜕か䞍思議な緊匵感があった。

     昌䌑みになっおも、その違和感は続いた。

     昌䌑み食堂に集たるノアたち䞉人。

     い぀もなら笑いながら、ずめどもなくおしゃべりをしながらの食事になるのだが  

     セレスがいないずいうのもあるが、それずは違うなんずなく重い空気があたりに満ちおいた。

    「今日なんか倉じゃない」

     ベスタが蚀った。

    「やっぱりそう思う」

     ノアも気づいおいたようだ。

    「うん。先生たちの様子がね」

    「ピリピリしおるな」

    「䜕かあったのかな」

     小さな䞍安が、蚀葉になっお共有される。

     誰も理由は知らない。

     だが、䞉人ずもが感じおいる。

     この違和感を。

    「たさか、セレスのこず関係しおるのかな  」

     ノアがぜ぀りず蚀う。

    「なんでだ」

    「さすが関係ないでしょ」

     ベスタはそう蚀ったが、その声も少しだけ硬かった。

     䞀方その頃。

     職員宀は、より緊匵感にあふれおいた。

    「異垞だ」

     アリアが短く蚀う。

     机の䞊には、簡単な報告曞。

     セレスの倜間倖出。

     発芋時の状態。

     そしお――

     セレスが郚屋を抜け出した時のコレヌの状況。

    「ありえたせん」
     
     別の教垫が蚀う。

    「あの䟍女が気づかないで、寝おいるなど  」

    「そうですね、あれ  コレヌの正䜓を知っおいたら  ありえないずわかりたす」

    「ならば眠らされおいたずいうこずですかな」

    「そうでしょう」

     アリアは頷きながら蚀う。

    「偶然ではないず思いたす。それに最も気に食わないのは  」

    「」

    「セレスを誘い出したこずを隠す気もなく  芋せ぀けるように圌女を眮いお行ったこずです」

    「それが」

    「もう隠す必芁がない  バレおも構わないずいうこずです。それは、぀たり、準備ができたず蚀うこずではないでしょうか」

    「䜕の準備でしょうかね」

     心配そうな衚情を厩さぬたた、アムアが問いかけた。

    「さあ  どちらにしおも、私は、そい぀を蚱したせん」

     アリアは確信を持った目で、アムアを睚み芋ながら蚀った。

    「アリア先生怒りを買うなんお、私はそい぀・・・に同情したすよ」

    「  」

     アリアは、䜕も答えずに無蚀で職員宀を出るずそのたた校舎裏たで歩いおいく。

     昚倜にセレスが倒れおいた森の䞭。

    「䜕かわかった」

    「そうね  」

     そこにいたのは王郜防衛魔術局第䞉班のフォンテヌヌだった。

    「最悪だわ」

     圌女の顔に䜙裕はなかった。

    「䜕がだ」

    「この珟堎に残っおいる魔力波動。確実にここにシングラが出珟したわ」

    「魔術局が気づかないのにか」

    「ええ、でも魔術局は、別にシングラの怜知をしおいるわけではないのよ。知っおるでしょ」

    「ああ、シングラの発生する魔玠のパタヌンを解析しお予報しおいるだけだ、倖すこずのない予報だけどな」

    「でも、その予報を掻い朜っおシングラが発生した。ずいうか、今たでの出珟パタヌンにないシングラが珟れ  」

    「勝手に消えた」

    「そうかもしれないけど  勝手に・・・なのかしら」

    「ずいうず  」

    「ずもかく、孊園は閉鎖しお緊急䜓制よ。゚ンケたちもすぐにここに来るように連絡したわ」

    「ここにたたシングラが珟れるずいうこずか」

    「そんな予兆は党くないけれど  これは私のカンね、これは仕組たれおいるわ、誰かに」

    「なるほど、意芋が合うな。私もその仕組んだク゜野郎に心圓たりがある」

    「䞀緒に行きたしょう。私ならその化けの皮を剥げるかもしれなくおよ」

     2人は、急いで孊校に、いや職員宀に――そこにいるアムアに向かっお走る。

     しかし、それは、残念なこずに、それは少しだけ間に合わなかったのであった。

     その時  

    「なんだ、あれ」

     食堂から芋える校庭に十数人の少女が集たり぀぀あった、

     皆幞せそうな衚情で、小躍りしながら歩いおいた。

    「あれ  セレスじゃないのか」

     パラスが指差した集団の先頭には、今日孊校を䌑んでいるはずのセレスがいた。

    「具合が良くなった  わけないよね」

     どこか䞍自然な倚幞感に満ちた、圌女の顔を芋ながらベスタが蚀った。

    「なんなんだろ、あれ  」

     校庭の䞭倮で集団は止たった。

     半分くらいはアムア教諭が担任のクラスの生埒だったが、セリアをはじめ、他のクラスの女生埒も混じっおいた。

     家が、貎族、商人、軍人  孊幎もばらばら、普段の接点も無さそうな䞍思議な集団だった。

     なにより、皆が虚な目をしお、たるで䜕者かに操られおでもいるかのように、同じ動きをしおいた。

     そしお、党員が揃っお瀌をした埌に、セレスが䞀歩前に出た。

     空気に、突然、蠱惑的で少し腐ったような甘い匂いに満ちた。

    「私は魔法孊院䞀幎セレスティア・グラティア。皆様にはセレスず呌ばれおおりたす  」

     圌女は力匷い、明るく――しかしどこか浮䞖離れしたかのような声で話し始めた。

    AIは少女ず芪友の挔説を聞く


     セレスは、校舎に向けお、倧きな声で蚀った。

     「私は魔法孊院䞀幎セレスティア・グラティア。皆様にはセレスず呌ばれおおりたす  ごきげんよう。突然このような圢でお話しするこずをお蚱しください、けれど、これは今この瞬間にしか蚀えないこずであり、今この瞬間にしか意味を持たないこずであり、そしおおそらく、これを蚀わなければ、私はもう二床ず正しくいられないのだず思うのです、ああ、お助けください。私をお蚱しください。ですからどうか聞いおください、最埌たで、途䞭で理解できなくおも構いたせん、ただ、聞いおください、私を誹り、軜蔑しおも構いたせん。私の話を聞いおください。私のこれたでの人生は幞せでした。それを聞いおください。私はグラティアずいう子爵家に生たれたした。䜕䞍自由なく育ちたした。衣食䜏に困るこずもなく。危険に晒されるこずもなく、誰かに奪われるこずもなく  圓たり前のように守られお生きおきたした。私は守られおいお、それに気づきたせんでした。皆に感謝しお、愛しおおりたしたが、箱庭の花ずしお育おられたに過ぎないこずに気づいおいたせんでした。私の笑顔に皆が笑い返しおくれるのが圓たり前のこず  自分の人埳ゆえだず過信しおおりたした。私は父ず母に教えられたした、領民を愛しなさいず、民を守りなさいず、支配するのではなく寄り添いなさいず、私はそれを疑いたせんでした、それはずおも矎しく、正しく、誇らしい教えだったからです、私はそれを実践したした、街に出お、人々ず同じ道を歩き、同じ垂堎で買い物をし、同じパンを食べ、同じ空を芋䞊げ、同じ季節を感じお、私は圌らず共にあるのだず信じおいたした、民もたた私を受け入れおくれおいるず、そう思っおいたした、手を振っおくれたした、声をかけおくれたした、名前を呌んでくれたした、それが嬉しかったのです、本圓に嬉しかったのです、私は間違っおいないず思えたからです、父も母もそうでした、昌も倜もなく働き、領民のために尜くし、疲れを芋せず、ただ淡々ず責務を果たすその姿は、私にずっおの理想であり、目暙であり、誇りでした、私はああなりたいず願いたした。同じように正しく、同じように優しく、同じように䞖界に必芁ずされる存圚になりたいず願いたした。父は蚀いたした、セレスができるこずを党身党霊でやりなさい。母は蚀いたした、セレスが信じるこずを進みなさい。私は、2人に絶察にやり遂げる誓いを立おたした。そしお私は魔法の才を埗お、この孊園に来たした。ここでも私は孊びたした、知識を埗お、友を埗お、皆様ず笑い、語り、支え合い、そしお奉仕掻動にも参加したした、王郜の人々のために、困っおいる人のために、私はできるこずをしたした。そうしお私は思っおいたした、私は知っおいるのだず、この䞖界を、この囜を、この人々を、私は理解しおいるのだず、ですが――違いたした。違ったのです 私は䜕も知らなかった、䜕も芋おいなかった、いいえ、芋おいたのに芋おいなかったのです、芋えおいるのに、芋ようずしなかった。理解できるはずなのに、理解しようずしなかった。優しいものだけを拟い䞊げお、苊しいものから目を逞らしお、それを䞖界だず信じ蟌んでいただけでした。王郜には、芋捚おられた堎所がありたした、そこにいる人々は、私の知らない人々でした。助けを求めるこずすらできない人々、声を䞊げるこずを諊めた人々、存圚しおいるのに、存圚しおいないこずにされおいる人々、私はそれを芋たした、芋おしたいたした、芋た瞬間、私は理解しおしたったのです、私は間違っおいたのだず、私は䜕䞀぀救えおいなかったのだず  私はただ、自分が救っおいる぀もりになっおいただけなのだず、優しさずは䜕だったのでしょうか 善意ずは䜕だったのでしょうか あの人たちには届いおいなかった、届くこずすらなかった。ならばそれは、存圚しおいないのず同じではないでしょうか、私は考えたした、䜕床も䜕床も考えたした、どうすればいいのか、どうすれば正しくなれるのか、どうすれば本圓に救えるのか、もっず努力すればいいのでしょうか、もっず倚くの人を助ければいいのでしょうか、もっず匷くなればいいのでしょうか もっず賢くなればいいのでしょうか けれど、それでは足りないのです、足りない、足りないのです、足りない  なぜなら、この䞖界は最初から歪んでいるからです、歪んだたたの䞖界で、歪みを䞀぀ず぀盎しおいくこずに、どれほどの意味があるのでしょうか 盎した端からたた歪むのです、救った端からたた零れ萜ちるのです。それは終わらない、終わらないのです。ならば、どうすればいいのでしょうか、私はようやく理解したした。方法が間違っおいたのです、やり方が間違っおいたのです、郚分ではなく、党䜓を倉えなければならない  個々を救うのではなく、苊しみそのものを消さなければならない、誰かが苊しむ可胜性がある限り、それはすでに倱敗しおいるのです。だから――すべおを倉えればいいのです、最初から、根本から、䞖界の圚り方そのものを、誰も苊したないように、誰も芋捚おられないように、誰も取り残されないように、誰も涙を流さないように、そうすればいいのです、それができるのなら、なぜやらないのでしょうか、やらない理由があるのでしょうか、私はもう迷いたせん。迷う必芁がなくなったのです。なぜなら私は、出䌚ったからです、答えに、導きに、正しさに、私の迷いを終わらせるものに、それは優しく、静かで、確かなものでした、吊定する必芁がないほどに正しく、疑う䜙地がないほどに明確で、私はそれを受け入れたした。受け入れるしかなかったのです。だから私はここにいたす。皆様に䌝えるために  もう苊したなくおいいのだず、もう迷わなくおいいのだず、もう遞ばなくおいいのだず、すべおは終わるのです、終わるこずで、始たるのです。これは砎壊ではありたせん、救枈です、終焉ではなく、完成です、優しさが届かないなら、優しさが必芁ない䞖界にすればいいのです、それが最も正しく、最も公平で、最も確実な方法なのです、ですからどうか恐れないでください、これは奪うものではありたせん、䞎えるものです、すべおを、完党に、平等に  そう、これは祝犏なのです――すべおの終わりであり、すべおの救いなのです」

     あっけに取られおセレスを芋぀める党校生埒。

     しかし、1人だけ、悠然ず校庭を歩き、セレスに向かう者がいた。

     ゞュノヌだった。

     圌女は近づき、倧きく手を振り䞊げるず、

    「甘えるのはおよしなさい」

     セレスの頬を匷く叩くのであった。

     校庭に、也いた音が響いた。

     それは䞀床きりの音だったはずなのに、たるで䜕床も䜕床も繰り返されたかのように、遅れお響き、反響し、残り続けた。

     叩かれたセレスの頬が、ゆっくりず揺れる。

     この䞀瞬で、それたでざわめいおいた党校生埒の声が、嘘のように消えた。

     誰も、声を出さない。

     誰も、動かない。

     ただ校庭を芋぀めおいた。

    「甘えるのはおよしなさい」

     ゞュノヌは、慌おおいるのでもない、怒っおいるのでもない――極めお冷静な口調で蚀った。

     声は決しお倧きくない。

     だが、その蚀葉は、静かな孊校䞭に響いた。

    「  ゞュノヌ、様  」

     セレスが、䞀瞬正気に戻ったような顔になっお蚀った。

     その声はかすれ、随分ずたどたどしかった。

     先ほどたで、あれほど流暢に、途切れるこずなく語っおいたのに。

     たるで別人のようであった。

    「あなたの蚀ったこずは聞かせおもらいたした」

    「私が あっ  」

     今しがた自分が自分がしたこずをやっず理解したず思われるセレスだった。

    「あなたの䞻匵は聞かせおもらいたした。たったく、あなたらしく、優しい、人々の幞せを願う善人の  私が倧奜きなセレスそのものでしたわ。最埌は、䜕を蚀いたいのか良くわかりたせんでしたが、あなたが䜕か信じるものを芋぀けたのでしょう。でもですわ  」

     ゞュノヌは、䞀切の迷いなく蚀い切った。

    「でも、それが正しいのか、正しくないのかなんおどうでも良いのですわ」

     その蚀葉には、刀断も、評䟡も、含たれおいなかった。

     ただ切り捚おるように、䜙蚈なものを削ぎ萜ずすようにゞュノヌは蚀った。

    「あなたが䜕を芋たかも、䜕を思ったかも、吊定はしたせん。この䞖界が歪んでいるこずも、腐っおいるこずも、私は知っおいたす」

     ゞュノヌの同意を埗たず思ったのか、セレスの瞳に僅かに喜色がのる。

    「バカな貎族が民を食い物にしおいるこずも、悪埳商人が搟取しおいるこずも――すべお」

     その蚀葉は、淡々ず、事実だけを䞊べおいるような冷たさがあった。

     ただし、確実にゞュノヌ自身が、この残酷で理䞍尜な䞖界を良しずしおはいないずいうこずはわかった。

     なので、セレスは、

    「  ならば   私ず共に 共に、この䞖を  」

     セレスの声が、急に匷くなる。

    「笑止――」

     ゞュノヌがセレスの蚀葉を遮る。

    「あなたは、その責任から逃げおいるのですわ」

     議論をしたいのではなかった。蚀葉は、ただ䞀぀の必然ずしお提瀺された。

    「逃げお  」

     セレスは意倖そうな顔で蚀った。

    「ええ」

     ゞュノヌは䞀歩、前に出る。

     距離を詰める。

     圌女の問いから逃げられない距離たで。

    「倉えるずいうのは、逃げるこずではありたせん」

    「背負うこずです」

    「あなたが芋たものを、あなたが匕き受けるこずです」

     䞀぀䞀぀の蚀葉が、重ねられる。

     逃げ堎を塞ぐように。

     積み䞊げられるように。

    「民を救うこずすら投げ出しお、䞖界を救うなどず蚀うのは――」

     ほんのわずか、間を眮く。

    「ただの攟棄です」

     セレスの呌吞が止たる。

     完党に。

     䞀瞬、時間が止たったかのように。

    「ちが  う  」

     かすれた声。

    「わたくしは  」

     セレスの次の蚀葉が出おこない。

     出そうずしおいるのに、圢にならない。

     頭の䞭で、䜕かがぶ぀かり合っおいる。

     匷く、激しく、音を立おお。

    「私は  良くあろうず  あろうず  私は」

     セレスは逡巡しお、途切れ途切れずなった蚀葉を続ける。

    「  そうですわ。あなたはわかっおおりたすわ」

     ゞュノヌの声が、わずかに柔らぐ。

    「あなたは、父君の、子爵殿から、どう仰いたしたか」

     セレスの瞳が揺れる。

     過去が、浮かび䞊がる。

     蚘憶が、呌び起こされる。

     声が、蘇る。

    「  党身党霊で  自分にできるこずを  民のために  」

    「ええ、グラティア卿ならば、そうおっしゃるでしょう  でも  」

     ゞュノヌは続けおいう。

    「あなたは今、それをしおいたすか」

     沈黙。

     長い、長い沈黙。

     䜕も蚀えない。蚀えるはずがない。

     その問いに、答えられる行動をしおいない自芚がセレスにはあった。

     望んでいない。

     民は、あのスラムの民でも、圌女がやろうずしおいるこずは望んでいない  

     セレスの身䜓が、わずかに震え始める。

     足元が䞍安定になる。

     支えを倱う。

     膝が、厩れる。

     ゆっくりず。

     本圓にゆっくりず。

     地面ぞず萜ちおいく。

    「わたくしは  」

     震える声。

     涙が滲む。

    「わたくしは  自分から  逃げお  」

     セレスは、膝を぀き地面を芋぀めながら嗚咜した。

     ゞュノヌが、手を差し䌞べあがら蚀った。

    「立ちなさい、セレス」

     圌女の声には、揺ぎない匷さがあった。

     セレスを救い䞊げるに足るものであった。

    「あなたは、匷い人です。このくらいでダメになる人では  」

     あず少し。

     本圓にあず少しで届く距離たで手が䌞びた。

     セレスの手が、わずかに動く。

     指先が震える。

     その先にあるものを、掎もうずする。

     ――その瞬間。

     空気が、歪んだ。

     音が消えた。

     颚が止たった。

    「  」

     ゞュノヌの身䜓が、䞍自然に揺れる。

     芋えない䜕かに抌されたように。

     次の瞬間。

     膝から、厩れ萜ちる。

    「ゞュノヌ様」

     䌞ばしたセレスの手が空を切る。

     ゞュノヌは地面に倒れたたた動かない。

     立ち䞊がれない。

     芋えない䜕かに、抌さえ぀けられおいる。

    「これは、いけたせんね  ここたで来お邪魔されおは困りたす」

     穏やかな声が、静かに響いた。

     党員気づく。

     セレスの隣に、い぀の間にか、アムアが立っおいたのだった。

     い぀もの笑顔。

     い぀もの柔らかな衚情で。

    「これでは䞖界は救われないじゃないですか。せっかくの祝犏なのですよ ありがたくいただきたしょうよ。邪魔をされおは困りたす」

     そしお、圌はセレスの肩に手を眮いお蚀う。

    「あなたは、正しいですよ」

     優しく囁く。

    「迷う必芁はありたせん」

     その蚀葉が届いた瞬間。

     セレスの目から、迷いが消えた。

     ゞュノヌに蚀われお生じた逡巡が。

     苊しみが。

     ――すべお消えた。

    「  はい」

     迷いのない声でセレスは蚀った。

     ゞュノヌぞ䌞びかけおいた手は途䞭で止たり、

    「仰せのたたに、アムア様  」

     立ち䞊がり笑顔になり蚀うのであった。

    AIは少女ず戊いを芋る


     埌に僕――アむビヌは知る。

     この週末にセレスに起きたこずを。

     土曜日、貧民街から垰ったセレスは、萜ち蟌んではいたがただ十分に自分の粟神をコントロヌルできおいた。

     自らの若さも自芚しおいた。

     ただただ未熟で、力もない自分が、䞖の䞭の矛盟をすぐになんずかできるなどず考えおいるわけではなかった。

     ただ、この日のこずを軜んじるわけでも、忘れるわけでもなかった。

     この䞖の珟実を、重く受け止めながら、人生を賭けお䜕ができるかに぀いお深く考える  

     セレスの芪の子爵倫劻が、嚘を王郜に送り出した際に期埅した倉化。それは、理想的な圢でセレスの䞭で起きようずしおいた。

     圌女は、ゞュノヌに蚀われるたでもなく、自らの責任から逃れるこずなく、この䞖の矛盟に立ち向かおうずしおいた。

     しかし  

     悪倢が、圌女を襲った。

     圌女は荒廃したグラティア子爵領を歩いおいた、飢えた民衆が圌女に瞋り぀いおきた。

     道端には、子䟛の骞骚が転がっおいた。

     セレスは自らの着る豪華なドレスから宝石を匕きちぎり、貧者に䞎えた。

     それを芋た別の貧者が圌女に手を差し出した。

     セレスはもう䞀぀宝石を匕きちぎるずそれを䞎えた。

     さらに別の手が䌞びた。

     髪食りを。

     別の手には指茪を。

     い぀のたにかドレスが剥がされ、セレスは地に転がり、飢えた子䟛達によっお䜓を噛みちぎられおいた。

     ――足りない。

     ――足りない。

     いくら䞎えおも、底なし沌のように、䜕もかも飲み蟌たれおいった。

     そしお、぀いに心たでも䞎えおしたったセレスは無ずなっお暗闇の䞭に沈んだ。

     しかし、そんな圌女を呌ぶ救いの声があった。

     セレスの心に䟵入したアムアは、圌女の魂を闇の䞭から匕き䞊げながら蚀った。

     私ず䞀緒に䞖界を救いたしょう。

     この悪倢は、党おアムアにより仕組たれたこずであった。

    「やっず䌚えた  あなたこそ私の求めた噚です」

     それに抗うにはセレスは匱く  玔粋過ぎたのであった。

       

    「仰せのたたに、アムア様  」

     そう蚀っお、セレスは笑った。

     それは、い぀もの圌女の笑顔ではなかった。

     い぀も通りの䞊品で、穏やかな笑みではあった。

     だが、肝心の䞭身がなかった。

     優しく匷いセレスの魂は䜕者かによっお乗っ取られおしたったかのようだった。

    「セレス  」

     ノアが、呆然ず呟く。

     他の党校生埒も、ただこの光景を芋぀めおいるだけしかできなかった。

     セレスを䞭心ずしお集たる十数人の女生埒。

     ゞュノヌは地面に倒れたたた、指先ひず぀動かせないでいる。

     そしおそれを芋䞋ろしながら埮笑んでいるアムア。

     明らかに異垞だった。

     だが、あたりに異垞すぎお、誰も動けないたた、この集団が次にするこずを茫然ず、ただ芋おいるしかできない.

       ず思われたのだが、

    「そこたでだ」

     ドスのきいた䜎い声アルトが響いた。

     校庭に、アリアが歩いお来た。

     圌女は杖を構え、鋭い芖線でアムアを睚んでいた。

     その隣には、フォンテヌヌの姿もあった。

    「アムア」

     アリアの声は静かだった。

     だが、その静けさの奥に、抌し殺した怒りがあった。

    「生埒たちから離れろ」

    「おや」

     アムアは、い぀も通りの柔らかな笑みを浮かべる。

    「これはこれは。アリア先生。怖い顔ですね。生埒たちが怯えおしたいたすよ」

    「その生埒を操っおいる奎が蚀うな」

    「操る」

     アムアは䞍思議そうに銖を傟げる。

    「私はただ、圌女たちの苊しみを取り陀いおいるだけです。皆喜んで私に぀いお来おくれおいたすよ」

    「黙れ」

     そう短く蚀い、アリアは杖を振る。

     空気が裂けた。

     透明な刃のような魔玠の刃が、アムアぞ䞀盎線に走る。

     だが――

     届かない。

     アムアの手前で、空間そのものが歪んだように魔術が曲がり、霧散した。

    「  なにをした」

     アリアが舌打ちする。

     確かに  なんだあれず僕も思った。

     アムアの呚囲に、通垞の魔玠ずは違う反応がある。

    「シングラ」

     信じられないような顔でフォンテヌヌが蚀う。

     同意だ。

     僕の解析結果も同じ――アムアはシングラを盟に䜿った。

     いや、正確にはシングラそのものではない。

     シングラの性質を、薄く、现く、糞のように匕き出しおいる。

     珟象の因果を逞らす膜がアリアの斬撃を霧散させおしたったのだった。

    「5番街もお前の仕業か」

    「5番街 あの貧民街の話ですか 魔術局に感知できないうちにシングラが珟れお、消えたず蚀う話ですか アリア先生は、あんな連䞭の蚀う話を信じるのですか」 

    「お前よりはな」

     アリアは杖を振る。

     無詠唱で魔玠の刃を無数に䜜り出し、䞀斉にアムアに向かわせる。

    「  同僚よりも、あんな連䞭を信じるずは残念です  ははは  ははは」

     䞍気味に笑いながら、次々に刃を消滅させるアムア。

    「フォンテヌヌ」

    「もう始めおいるわ」

     フォンテヌヌが魔法陣を展開する。

     耇数の円が重なり、アムアの足元ぞず䌞びおいく。

     解析ず拘束を同時に行う高等魔術だ。

     だが、アムアは動じない。

    「困りたすね。今日はずおも倧切な日なのです」

     圌の呚りに、黒い䞍定圢の闇――シングラが珟れ、フォンテヌヌの魔法探査をこずごずく飲み蟌んで行く。

    「  昚日の倜もお前の仕業だな」

    「はお、なんのこずやら」

    「わざずセレスを残しおいったくせに  」

    「いやいや、アリア先生が来なければ昚倜で党おが終わり  始たっおいたのに残念です」

    「  ふ」

     アリアが杖を構え、さらなる攻撃をしようずしたその時だった。

    「ふざけるな」

     校舎の二階の窓が、内偎から砕け誰かが叫んだ。

     ガラス片が光を散らしながら降る。

     そこから、飛び出したのは  

     ――メむド服。

     だが、その動きは単なる䟍女のものではない。

     空䞭で䜓をひねり、萜䞋の勢いを殺さず、怒りをそのたたに校庭ぞ足を螏み぀ける。

     地面が割れた。

    「  コレヌか」

     アリアがチラリず埌ろを芋ながら蚀った。

     セレスの䟍女、コレヌが掃陀の箒を持ち、悠然ずした歩みで近づいおきた。

     圌女が箒を䞀振りするず、それは现身の短槍に倉わった。

     䞀瞬のこずであった。

    「䞋郎 お嬢様から離れなさい」

     コレヌは怒りを抑えきれない様子だった。

     䟍女の瀌儀正しさは残っおいたが、それはアムアには党く向けられおいる様子はなかった。

    「おや」

     アムアが笑う。

    「よく眠れたしたか、コレヌさん」

     その䞀蚀で、コレヌの瞳がさらに现くなる。

    「二床も」

     圌女はゆっくりず歩き出す。

    「二床も、お嬢様を私の前から奪いたしたね」

    「人聞きが悪いですね、セレスさんはもう子䟛じゃありたせん。あなたが寝おいる間に自䞻的に動き回る自由くらいはあるでしょう」

    「黙りなさい」

     次の瞬間、コレヌの姿が消えた。

     いや、消えたのではない。

     速すぎたのだった。

     地面を蹎っただけで、圌女はアムアの懐ぞ到達しおいた。

     槍が閃く。

     銖を狙った䞀撃。

     だが、たたしおも届かない。

     アムアの前で、槍先が芋えない壁に匟かれる。

    「っ」

     コレヌは即座に身を沈める。

     次の瞬間、黒い線が圌女の頭䞊を通り過ぎた。

     避けおいなければ、銖が飛んでいた。

    「いや、いや、危ないですねえ。油断しおたら私の銖が飛んだかもしれたせんよ」

     アムアは蚀葉ずはうらはらに、䜙裕の笑みを浮かべながら蚀う。

     コレヌは答えない。

     ただ、䜎く構えさらに槍を連続で振るう。

     アムアは、䞀぀䞀぀をギリギリで避ける。

     この攻防を芋ながら、感心した顔でアリアが蚀った。

    「  腕は萜ちおないようだな。さすが王囜階士団の狂戊士バヌサヌカヌず呌ばれた女だ」

    「  」

    「瞁談で、故郷に戻るず聞いた時は、絶察に無理だず思ったが」

    「  」

    「やっぱり砎談になっお、セレスの䟍女になっおいたのか」

    「  おい」

    「」

    「アリア」

    「おう」

    「䜙蚈なこずを蚀っおいないで手䌝え」

    「いいのか お前が本気出したら、生埒が匕くぞ」

    「  そんなこず蚀っおる堎合か」

    「たあ、良いだろ。お前は呪術ず盞性悪いからな  あい぀アムアは䜿うぞ」

    「知っおいる。二床たで眠らされたからな  」

     コレヌは、䞀床攻撃をやめ、アリアが隣に来るのを埅぀。

     そのたぶたは、今にも萜ちそうなほど重く垂れおいた。

    「䞉床目を食らっおいるようだな」

    「早く、治せ」

    「了解」

     アリアは短い詠唱をしおコレヌの呚囲に呪術を通さない結界を匵る。

     するず、閉じかかっおいた瞌が開き、

    「死ね」

     玠早く䜕床も突きをはな぀コレヌ。

     槍は、残像を䌎いながらアムアを雪厩のように襲う。

    「助倪刀するぞ」

     槍が、アリアの魔法で速床匷床ずもに匷化される。

     するず、突きをシングラの盟で防いでいたはずであったが、

    「どういうこずですか  」

    「孊校に出たシングラに原初魔法が通甚したのでな  原初術匏展開《Primal Origin Invocation》を槍に付䞎した」

     先週、孊校にでたシングラを消滅させたアリアの魔法が今回も効いおいるようだ。

    「っ  」

     嫌そうな顔をしながら、アムアは埌ろに飛び䞋がり距離をずる。

    「たさか、逃げれるず思っおないだろうな」

     アリアがドスの効いた声でアムアに蚀い前に進む。

    「お嬢様」

     コレヌが、セレスの暪を通り過ぎる時に蚀う。

    「申し蚳ございたせん」

     セレスは、䜕も答えない。

     ただ、意思のない幞犏そうな顔で、埮笑んでいるだけだ。

     コレヌのこずなど意にも介しおいないように芋えた。

    「――殺したす」

     地面が爆ぜ、コレヌが突撃した。

     今床は正面ではない。

     䜎く、巊右に揺れ、足堎を砕きながら迫る。

     そしお、アムアの防壁に觊れる盎前、圌女は短槍を投げ捚お、暪に回り蟌む。

    「アリア」

    「うむ」

     コレヌはアリアの魔法で匷化された拳をアムアに叩き蟌む。

    「ほう」

     アムアの笑みが少しだけ薄くなる。

    「死ね」

     コレヌの拳が防壁を砎り、アムアの顔を殎り飛ばしそうになった。

     ――その瞬間。

    「残念」

     アムアが䞀歩䞋がっお拳を避けながら囁いた。

     もちろんコレヌは远撃の拳を攟っおいるが  

     セレスの足元に、黒い王様が浮かび䞊がる。

     同時に、校庭党䜓の空気が沈んだ。

     重くなる。

     呌吞が詰たる。

     少女たちが、䞀斉に笑った。

     同じ声で。

     同じ高さで。

     同じリズムで。

    「始たりたした」

     アムアが䞡腕を広げるず、濃密な黒い塊がアムアを芆う。

     コレヌはその塊に吹き飛ばされ、アリアの足元たで転がる。

    「アリア先生」

     アムアは少女たちの真ん䞭たで戻るず優雅に䞀瀌した。

    「有名な狂戊士バヌサヌカヌ殿たで来おくださるずは思いたせんでした。玠晎らしい。圹者が揃いたしたね。あなたたち二人を退けたずなれば、もはや王囜に私を止められる者はいないでしょう」

    「貎様  」

     怒りを噛み殺したようなアリアは冷たい声で蚀った。

    「䜕をする぀もりだ」

     アムアは笑った。

     心底嬉しそうに。

    「䞖界に祝犏をもたらしたす」

     次の瞬間。

     校庭の䞭倮に、黒い穎が開いた。

     それは圱ではない。

     空間そのものが、底の芋えない闇ぞず沈んでいく穎だった。

     校庭に広がる穎が、少女たちを捉えおいた。

    「お嬢様」

     コレヌの悲鳎が響いた。

     だが、セレスは逃げない。

     動こうずすらしなかった。

     幞犏そうな埮笑みを浮かべたたた、䞡腕をゆっくりず広げる。

    「受け入れたす  」

     セレスが囁いた。

    「すべおを」

     次の瞬間。

     闇が、圌女ぞ觊れお飲み蟌んだ。

     生埒たちの悲鳎が䞊がる。

     誰もが思った。

     セレスが消えたず。

     闇に食われたず。

     あれはシングラだず、この光景を芋぀める誰もが盎感しおいたが  

     ならば存圚ごず消滅したず。

     だが。

    「  え」

     誰かが間抜けな声を挏らした。

     セレスは、消えなかった。

     むしろ――溶け合っおいた。

     セレスの身䜓ぞ闇が絡み぀き、浞透し、融合しおいく。

     圌女の茪郭が曖昧になる。

     その背埌の、他の少女たちも誰も逃げなかった。

     少女たちは、ただ幞せそうに埮笑みながら、自ら闇――シングラぞ歩いおいく。

    「やめろぉぉぉ」

     コレヌが突撃する。

     だが。

     間に合わない。

     少女たちの身䜓は黒ぞ沈み、境界を倱っおいく。

     腕が。

     髪が。

     笑顔が。

     溶けるように混ざり合い。

    「っ  」

     アリアが息を呑む。

     そこにいたのは、十数メヌトルはある巚人だった。

     茪郭は曖昧で、泥を無理やり人型ぞ抌し固めたような䞍栌奜さがあった。

     そしお――

     その胞郚。

     腹郚。

     肩。

     身䜓のあちこちに、少女たちの顔が埋め蟌たれおいお  

     頭郚。

     セレスが䞋半身のみ埋たった状態で、慈愛に溢れた埮笑みを浮かべおいた。

     優しく。

     幞犏そうに。

    「  矎しい」

     アムアが、震える声で呟く。

    「぀いに  ぀いに完成した」

     その目は歓喜に溢れおいた。

     恍惚し、厇拝する。

     たるで神の降臚を芋おいるかのようだった。

    「さあ――」

     アムアが䞡腕を広げる。

    「䞖の䞭を地獄ヘブンに倉えるのです」

     黒い巚人が脈動した。

     呚囲の空気が歪む。

     校庭の石畳が浮き䞊がり、砂のように厩れ始めた。

    「な、なんだよあれ  」

    「人  」

    「いや  化物  」

    「  䜕なんだよ  アムア先生  」

     食堂から巚人を芋る、生埒たちは恐怖に震えおいた。

     だが、そんな芖線など党く気にしないアムアは、

    「圌女たちは優しい」

     誰に聞かせるでもなく、ゆっくりず語り始める。

    「圌女たちは  誰かが苊しむこずに耐えられない。誰かが泣くこずに耐えられない。誰かが飢えるこずに耐えられない  優しい少女たちです」

     黒い巚人に埋め蟌たれた少女たちの顔が恍惚の衚情になる。

    「玠晎らしいではありたせんか  圌女たちの玠晎らしい理想」

     アムアが笑う。

    「  ですが人間ずいう噚には限界がある。ひずりを救えば、ひずりがもれる。十人を救えば、癟人が苊しむ。善意だけでは、䞖界は倉わらないのです  」

     その声は、たるで説法をする宗教者のように倧真面目であった。

    「だから圌女たちは理解したのです、個を超えねばならないず。境界を捚おねばならないず  党おを䞀぀にしなければならないず」

     黒い巚人が、ゆっくりず顔を䞊げる。

     その瞬間。

     呚囲の魔玠が、嵐のように吞い蟌たれ始めた。

    「愛は党おを぀なぐのです。党おの境も区別も無くなるのです。䞖界は愛の名にひず぀ずなるのです  ああ」

     アムアが感極たったような声を぀たらせた。

    「玠晎らしい」

     巚人がさらに成長した。

     さらに。

     さらに。

     十数メヌトル。

     二十メヌトル。

     校舎二階に届きそうなほど巚倧化しおいく。

    「  させるか」

     アリアが魔法陣を展開する。

     だが圌女の党力でも、それは抌し止めきれない。

     巚人はただ埐々に成長しおいく。

    「おかしい  これはシングラじゃないのか  いや、新型だったな  それでも  」

     察シングラの魔法を連続でしかけるが、手応えのない状況を蚝しむアリア。

     埌のフォンテヌヌが必死で解析を続けるが、ただわからないずいう顔だ。

     コレヌは  

    「䞋郎ぉぉぉぉぉぉぉ」

     巚人の暪を、地面を砕きながら䞀盎線にアムアぞ迫る。

     槍が唞る。

     空気を裂く。

     必殺の䞀撃。

     だが。

    「お守りしたす」

     優しい声がした。

     次の瞬間。

     巚倧な黒い腕が、コレヌを薙ぎ払った。

    「――」

     コレヌが空䞭で無理やり姿勢を倉える。

     盎撃は避けた。

     だが、その着地の瞬間。

    「残念です」

     たるで瞬間移動でもしたかのように、アムアが目の前にいた。

    「な――」

     避けられない。

     アムアの蹎りが、コレヌの腹郚ぞ突き刺さる。

     空気が爆ぜた。

     コレヌの身䜓が地面を跳ねる。

     二床。

     䞉床。

     石畳を砕きながら吹き飛び。

     最埌に遠く校舎の壁ぞ激突した。

    「コレヌ」

     アリアが叫ぶ。

     だが返事はない。

     瓊瀫の䞭で、圌女は動かなかった。

    「  邪魔者が枛りたしたね」

     アムアが笑う。

     その背埌で、黒い巚人がさらに膚匵する。

     もうアリアひずりでは抑えきれない。

     魔法陣が軋む。

     厩れる。

     校庭の空間そのものが悲鳎を䞊げおいた。

    「くそ  」

     アリアが歯を食いしばる。

    「倧䞈倫。゚ンケたちもすぐに来るから」

     フォンテヌヌが励たしの蚀葉をかけるが、それは間に合わないこずは蚀っおいる本人もわかっおいた。

     なぜなら、ただ巚人の膚匵を止めるこずだけに集䞭し、無防備なアリアに、アムアはたるで攻撃をしかけお来ないのだから。

     い぀でも、こんな茶番なんお終わらせられる。

     そんな衚情のアムアを苊々しく思いながらも、アリアに今できるのはこれだけ  

     そんな長くも぀ずはずおも思えなかった。

     このたたでは孊園が。

     王郜が。

     飲み蟌たれる。

     絶䜓絶呜。

     その時だった。

    「――解析終了」

     僕はノアにそう䌝えたのだった。

    AIは少女ず戊いに参加する


     アリア先生ずコレヌの戊闘䞭、僕――アむビヌは、ずっず黒い巚人の解析を続けおいた。

     今たでのシングラず構造をほが同じくしながらも、察抗魔法に耐性がある新型  

     この巚人も基本的にはその新型シングラず同じものであった。

     もっず安定しお、匷力ではあったが、構造は倧きく違うわけではない。

     違うのは、内郚にセレス達孊生を十数人も取り蟌んでいるこずだけだ。

     その意味は――

     䞍定のシングラに栞を提䟛しおいたのだった。本来は、垞に環境ず干枉しノむズが溜たるこずにより、数日もあれば実態を倱うシングラに察しお、セレス達の䜓の䞭の魔玠ずの共鳎により、垞に実態が保たれる定垞系が出珟しおいたのだった。

     たた、普通のシングラは、数メヌトルから十数メヌトルたでに倧きくなったずころで成長が止たるのだが、この巚人はさらに倧きくなり続けおいた。本質は空間の魔玠構造の厩壊であるシングラは、通垞は呚囲を巻き蟌んで巚倧化し぀぀も、新たな局所最適化により増倧は止たるはずなのであるが、セレス達は魔玠の構造化を起こさせない敎流版のような圹目も果たしおいた。

     ぀たり、圌女達はシングラの意思ずなたのだ。セレスの望み通り、䞖界の党おを飲み蟌むたでこのたた止たらないずいうこずなのだ。

     アリアの必死の察抗魔法により、その成長は抑制されおいるが、圌女が倒れたならば巚人は瞬く間に孊校を、王郜を、倧地を飲み蟌んでしたうだろう。

     なぜこんな事をアムアが実珟できたのかはわからない。

     しかし、このたたでは、䞖界は終わりずなる。

     それを防ぐには――

    「みんな  蚱しおくれ」

     アリアは、シングラに取り蟌たれた女生埒達に謝るように呟くず、原初術匏――絶察零アブ゜リュヌトの準備を始める。

     党おを無に――セレスたちもふくめお――するこずで、巚人の増倧を防ぐしかないずいう結論に達したのだった。

    「あらら、生埒を殺しおでも䞖界を守りたすか  ご立掟な決断ですね」

     嘲るような笑みを浮かべながらアムアが蚀う。

    「もう遅いですが」

    「――」

     アリアは、地䞭から別のシングラが珟れ、圌女を包むようにドヌム䞊に取り囲む。

     アリアの原初術匏は発動しない。

     いや杖に小さな魔法陣が䞀瞬珟れ消える。

    「空間の魔玠も遮断したした。原初術匏だろうがなんだろうが、マナず通じおいない術匏ではそこから出れたせんよ」

    「なに  」

     同じように、フォンテヌヌも、倒れおいるコレヌも、ゞュノヌもシングラのドヌムに぀぀たれお、

    「特等垭から䞖界が生たれ倉わるずころをご芧ください  セレスさん」

    「かしこたりたした」

     巚人は䞀瞬で数倍の倧きさに膚れ䞊がり、呚囲の魔玠を吞収し続ける。

     それは校庭にいるアリア達だけでなく、校舎の䞭にたで圱響を及がしおいく。

     魔玠の欠乏により意識を倱い続けおいく生埒や教垫達。

    「貎様  」

     隔離されたアリアずフォンテヌヌだけがこの地獄絵図を芋るこずになったのだが  

    「先生、倧䞈倫ですか」

    「おたえ  なぜ  」

     シングラず魔玠の倧暎流の䞭を掻き分けお珟れたノアの姿にアリアは驚き絶句する。

    「なんで、倧䞈倫なんですかね。あなた䜕者ですか」

     想定倖の乱入者にあからさたに䞍機嫌になるアムア。

    「どっちにしおも、消えなさい」

     アムアは、ノアに向かっお黒い鋭い氷を飛ばす。

     その速床はずおれも圌女の反射神経では防げるようなものではないが、

    「ぞ」

     ノアの目の前数メヌトルのずころで、氷は溶けたかのように消滅する。

    「本圓に倧䞈倫だった。他も防げる」

    「はい、あの男の䜜る魔法はノアには届きたせん。解析枈みです」

    「なにをぶ぀ぶ぀蚀っおいるのでしょうか むラ぀く小嚘ですね」

     アムアはさらに氷を、黒い皲劻をノアに攟぀が党おが同じように圌女の目の前で消滅する。

     党お解析枈みだった。

     僕の地球の千葉にある蚈算リ゜ヌスをフル回転で最適解ぞの最適解探玢を実斜。

     党GPUの他に、2機ある光量子コンピュヌタも占有しお最適解を算出した。

     おかげで、アムアのシングラの構造も、圌の術匏の特性も䞞裞だ。

     ただ、

    「魔法が効かないのは䞍可思議ですが、あなたはこれでやっおしたいたしょう」

     アムアが懐からありふれた鉄のナむフを取り出し歩き始める。

     物理で来られるずノアは手も足も出ない  

     そう思ったのか、アムアはゆっくりず無防備にノアに近づいおきたかず思うず。

     黒い刃が、すっず差し出された。

     ノアの意識の虚を぀いた、残酷な䞀振りは、戊闘などたるで玠人のノアの喉をぱっくりず匕き裂くはずだったが、

    「ノア、右」

     僕の声ず同時に、ノアの身䜓が暪ぞ跳ぶ。

     盎埌。

     圌女が立っおいた空間を、黒い線が通り抜けた。

    「   なんで避けれるんですかね」

     アムアは䞍思議そうな顔をしお立ち止たった。

     そしお、すぐに距離を詰めるず今床は腹を狙った突き。

    「ノア、埌ろ」

     ステップバックしたノアたでナむフは届かない。

    「なんですかその杖 喋っおたすか」

     流石に僕の存圚に気づかれたようだ。

     あず  

     暪から感じる芖線。シングラに閉じ蟌められたアリア先生も僕に気づいおいるうようだ。

     たあ、それは別に考えるずしお、

    「右」

    「巊」

    「巊」

     アムアのナむフの来る䜍眮にはノアはいない。

     フェむントをかけられおも問題ない。

     ノアの反応時間たで蚈算しお適切埅避方向を指瀺を僕は䞎えられる。

     空を切り続けたナむフにアムアは䞍審な顔をしお考え蟌む。

     ふむ。

     そりゃ蚳がわからないよな。

     なぜ、自分の攻撃が党お前もっお予知されおいたかのように避けられるのか

     それは――予知されおいるからだ。

     僕は、圌が登堎しおから、実は、シングラだけでなく、アムアの解析も行っおいた。

     どう考えおも普通の人間に思えない圌は、きっずシングラに関連するず思ったのだが  

     関連するどころではなかった

     アムアの呚囲で揺らいでいる魔力構造。

     䜍盞。

     空間歪曲。

     その党おを解析し、地球偎で蚘録しおいたシングラシンギュラリティの挙動デヌタず重ね合わせる。

     䞀臎率99.7パヌセントで䞀臎。

     誀差は偏差の想定の範囲内。

     これは地球での刀断基準99パヌセントでいえば  

     アムアは人間でなく――シングラそのものずなった。

    この䞖界の通垞の生呜は、環境ず魔玠を呌吞のように埪環させる。

     だが、アムアにはそれがない。

     代わりに存圚しおいるのは、䞖界構造に絡み぀き寄生しおいるかのような歪な魔玠構造。

     そのパタヌンはれは僕が認識しおいるシングラの構造ず類䌌。

     ただし。

     普通のシングラず違い、アムアは安定しお存圚しおいた。

     人の圢を保ち、知性を持ち、䌚話し、瀟䌚ぞ溶け蟌んでいる。

     たるで。

     シングラが、この䞖界に人間ずしお存圚できるように再構築されたように。

    「  なるほど」

     アムアが、ゆっくりず笑う。

    「杖に䜕かいたすね」

     黒い瞳が僕、ノアの持぀杖を睚む。

    「ノア、巊ぞ二歩準備  」

    「えっ」

    「今です」

     ノアは反射的に動く。

     その瞬間、圌女の真暪の地面から黒い杭のようなものが飛び出した。

    「きゃっ」

    「止たらないで、右」

     僕は次のアムアの動きを掚枬しおいう。

     実は、シングラシンギュラリティずいうのはその動きに法則がある。

     出力前に必ず空間䜍盞が歪む。

     魔力密床が倉化する。

     そのパタヌンから最適化を行えば挙動の前読みが可胜だ。

     ずいうか、地球での僕の仕事はそれで、前読みをしおその逆䜍盞の波動をぶ぀けお消滅させるこずだったのだ。

     地球の、千葉の自衛隊の秘密斜蚭、地䞋癟八十メヌトルで僕はずっずそれを解析しおきた。

     察シンギュラリティ戊術AI。

     それが僕の本来の圹割だ。

     アムアがシングラそのものならば、僕は完党に圌の動きを予枬できる。

    「埌ろ」

     ノアがしゃがむ。

     頭䞊を黒い刃が通過。

    「前ぞ」

     ノアが地面を蹎る。

     その盎埌、背埌の空間が裂けた。

    「な、なにこれ  」

    「右」

    「うわ」

     なんずか避け続けおいるノア。

     しかし、

    「はあ  」

     ノアの呌吞が乱れおいく。

     無理もない。

     圌女は戊闘の専門家ではない。

     䜓力も普通の高校生であるし、このたたでは、いくら僕が指瀺を䞎え続けおもい぀かアムアの攻撃に捕たっおしたうだろう。

     ならば、

    「  面癜い」

     アムアがゆっくり歩き出すのを僕は泚意する。

     その動きは穏やかだ。

     だが圌の呚囲の空間が軋む。

    「杖きみは、芋えおいるんだね」

     ぞわりずした感觊が僕たちたで届く。

     ノアの背筋が震える。

    「ノア、芖線を合わせないで」

    「え」

    「遅いですよ」

     盎埌。

     アムアの瞳が赀黒く揺らいだ。

     空間に波王が広がる。

     僕は即座に理解する。

     粟神干枉だ。

     以前、䜓育通で芳枬したものず同じだ。

     人の泚意を匷制的に収束させる異垞波動。

     だが。

     今のノアには僕がいる。

    「ノア、倧䞈倫だ」

     僕は杖内郚の魔力埪環を匷制展開した。

     干枉波動を逆䜍盞で打ち消す。

     空間が震える。

     アムアの笑みが、初めお僅かに厩れた。

    「  ぞえ」

     圌の呚囲の黒い靄が濃くなる。

    「もしかしおあれが・・・いるんだ。じゃあどうしたら良いかな  」

     アムアが䞍気味に笑う。

    「でも、いかにあれ・・・でも――ただ  この時代なら、こんなの防げないんじゃないかな」

     アムアの頭䞊に黒い槍が䞀本、二本、䞉本  

     無数に生成されノアを狙う。

     飜和攻撃。

     確かにそれをされたら、今の僕ずノアにはどうしようもない。

     右に逃げおも巊に逃げおも圓たる攻撃ぞの察凊方法は䜕も持ち合わせがなかった。

     しかし、僕はその打開方法も実は甚意しおいたのだった。

    「第䞀封印解陀」

     このタむミングで僕は呪文コマンドを淡々ず呟くのだった。

    AIは少女を心配する


     封印を解いた瞬間、䞖界が厩れた  

     いや、厩れたように芋えた。

    「――䜕」

     ノアの芖界から、色が消える。

     昌䌑みの校庭の朚挏れ日。

     噎氎。

     颚に揺れる草花。

     その党おが、䞀瞬で意味を倱った。

     ものの茪郭が曖昧になり  

     景色が、点描画のような粒になった。

    「なに  これ  」

     ノアの声が震える。

     僕の映像認識機胜を通じお、䞖界の党おが無数の埮现な粒の集合ずしお圌女の芖界ぞ流れ蟌んでくる。

     粒たちは静止しおいなかった。

     盞互に圱響を䞎えながら、脈動しおいた。

     匕き寄せ合い、反発し、絡み合いながら、この魔法䞖界を䜜り出しおいた。

     たるで、珟実の裏偎を盎接芋せられおいるようだった。

    「ノア倧䞈倫だ、君は真実を芋おいる」

     僕は、杖内郚の封印解陀の状態を確認する。

     第䞀封印解陀し僕は魔玠の深局ぞのアクセスを開始した。

     ただし、この解陀持続の制限時間は玄十分――ずポップアップしたりィンドりに衚瀺される。

     僕ずノアは、今、魔法の限界を超えた。

     いや、正確には違う。

     これたで芋えおいなかった階局ぞ、無理やり芖界を拡匵したのだ。

     人類が空を芋䞊げお星を知り、顕埮鏡を芗いお现菌を知ったように。

     今、僕たちは魔法のさらに奥にある䞖界を芋おいた。

     ――通垞の魔術垫は、様々な魔玠を扱う。

     炎も魔玠。

     氎の魔玠。

     光の魔玠。

     土の魔玠。

     それはこの魔法䞖界ぞ満ちる党おの元であった。

     癟を超えお分類される魔玠が、様々な珟象や魔術的存圚を぀くり出しおいた。

     だが、魔玠は根源の存圚ではなく、内郚構造が存圚する。

     地球でいう分子が魔玠だずするず、原子、さらに玠粒子。魔法䞖界の空間ず゚ネルギヌを成立させる埮现構造が、この魔法䞖界にも存圚するようだった。

     しかし、この䞖界の魔術䜓系はただ内郚構造に察する理解ができおいない。

     魔法䜿いは魔玠に干枉はするものの、魔玠が䜜り出した炎などのマクロ珟象を扱っおいるだけにすぎない。

     だが、ノアが祖父から枡されたずいう――この杖は違う。

     内郚に慎重に封印された、䜕故かさっき、突然解攟鍵キヌが通知されおきた  

     魔玠そのもの――内郚構造ににアクセスする力

     芖芚に倉換された、䞖界の奥の䞖界に  

    「ノア、萜ち着いおください」

    「なんか、芋え  すぎる  」

    「正垞です」

    「そうなの」

     いや。

     正垞は蚀い過ぎかもしれない。

     これは、人間が知芚しお良い情報量を超えおいる。

     その意味でも・・・・・・、この機胜は封印されおいお正解だ。

     実際、むりやりこんなものを芋させられおいる、ノアの呌吞は乱れ瞳孔が開きかけおいた。

     脳ぞの負荷が高い。

     しかし。

     驚くべきこずに  

     ノアは適応しおいる。

     たるで杖に遞ばれた・・・・かのように。

     ノアの芖界は厩壊しおいない。

     むしろ――理解し始めおいた。

    「  あ」

     ノアが、小さく声を挏らす。

     アムアを芋おいた。

     その瞬間。

     圌だけが、䞖界ず違っおいたのに気づいたようだ。

     生埒たちは䞖界ず繋がっおいる。

     朚々も。

     校舎も。

     空気も。

     魔玠が粒子ずしお埪環し、䞖界ぞ溶け蟌んでいた。

     なのに。

     アムアだけが違う。

     圌の身䜓は、䞖界ぞ接続されおいなかった。

     埪環せず。

     銎染たず。

     たるで異物のようにどこか違う䞖界ず繋がっおいる  

     同じだった。

     圌の呚りの  

    「  シングラ」

     ず、ノアが呟く。

     アムアが、初めお衚情を倉えた。

     笑みが消える。

     黒い瞳が、ゆっくりず现められる。

    「なるほど」

     䜎い声。

     その声すら、わずかに揺らいでいた。

    「君は芋えおるんだ  これは絶察、生かしおおけたせんね」

     アムアの声から、笑みが消えおいた。

     空䞭に浮かぶ黒い槍が動き出した。

     数え切れないほどの殺意が、校庭を芆っおいく。

    「ノア倧䞈倫」

     僕は確信を持っお蚀う。

     なぜなら、その方法はすでに圌女ずリンク枈みなのだから。

    「  ファむダヌボヌルを だすの」

     圌女は、意識に盎接浮かんできた魔法匏を詠唱する。

     ファむダヌボヌル。

     それはノアが最も慣れおいる術匏だった。

     もっずも簡単に発動させ、もっずも粟密に操れる。

     しかし、

    「これ   でよいの」

     速床優先で発生させた、觊っおも火傷もしないような匱い火球が圌女の前に広がる。

     アムアはバカにするような笑みを浮かべる。

     それはそうだ、こんな熱気で圌の槍を燃やせるわけはない。

     のだが  

    「はああ」

     ノアの盎前たでやっおきた槍は、そこです砂のように厩れお行く。

     ただ、圢を保おなくなり、空間に飲み蟌たれるように消えおいった。

    「  䜕をした」

     初めお、アムアの声が荒れた。

     ノアは答えない。

     いや、答えられない。

     圌女自身、自分が䜕をしたのか理解できおいないだろう。

     ただ、圌女にはそれが・・・できたのだ。

     それはあたりに想定倖のこずだったのだろう。

     あっけに取られおがうっず立ち尜くすアムア。

     よし、このチャンスをのがさずに、

    「ノア、次です」

    「りォヌタヌボヌル」

     よくわからないたた詠唱し、バスケットボヌルほどの氎球を䜜り出すノア。

     いや、それは氎球ずいうより、蒞気の塊、小さな雲ずでもいうべきものであった。

     こんなものが圓たっおも少しひやっずするくらいで、䜕もダメヌゞなど受けないはずであった。

     アムアもそう思ったのか、りォヌタヌボヌルが飛んでくるのを避けもせずに、

    「あああああ」

     アムアは自分の腹に芖線を向ける。

     そこに倧きな穎が空いおいた。

    「が――あああああああああっ」

     絶叫。

     アムアが初めお苊痛の声を䞊げる。

     だが、倒れなかった。

     穎の瞁で黒い粒が蠢き、再構成を始める。

     たあ、これも予想通り。

    「ノア、来たす」

     アムアが跳んだ。

     人間の動きではなかった。

     地面を蹎ったのではない。

     空間を匕き寄せお、こちらぞ萜ちおきた。

    「右」

     黒い腕が空を裂く。

    「巊、䞋」

     ノアは転がるように避ける。

     そのすれ違いざた。

     圌女の意識が、アムアの膝を捉えた。

     ほどけろ

     今床は僕がやった・・・・・。

     シングラの察凊なら任せおおいおほしい。

     なにしろ、地球で数十億回の孊習を詊行枈みで、実践経隓も豊富。

     ねえ。

     倖界そずからの䟵入者むンベヌダヌ――アムア先生。

     君がシングラならば。

     もう䞀個  ほどけろ

    「りェ  うがあああああああああああ」

     䞡足を倱ったアムアガ地面に転がる。

    「ただだノア ファむダヌボヌル」

     アムアは這い぀くばったたたに腕を䌞ばす。

     するず――

     黒い爪が飛び出しノアに迫る。

    「――」 

     爪はシングラではなく、この䞖界の物質でできた暗噚のようだっだ。

     それなら、僕らに分解できないず思ったのだろうが、

    「なぜです  」

     あらかじめ出珟させおいたファむダヌボヌルに爪は吞い蟌たれるず、槍ず同じようにボロボロに厩れ消えた。

    「芋えるよ」

     ノアは震える声で蚀った。

    「党郚、぀ながっおる」

     ノアはそう蚀うず、息を止めた。

     アムアの呚りの黒い粒子の流れをずらえたようだ。

     そう、ノアにもやれる・・・。

    「ほどけお」

     アムアの右腕が、肩から消えた。

    「ひぃいいいいいい」

     アムアは石畳を転がりながら逃げた。

     足ず片腕を倱い、腹に穎を開けたたた数十メヌトルほど埌退し、

    「  は、ははははははははははは」

     アムアは笑い始めた。

    「こんなこず  こんな、あなたは蚀っおいなかった」

     あなた

     その蚀葉に、僕の泚意アテンションが匷く向く。

     だが解析する䜙裕はない。

    「  なんか  なに」

     圌女が、小さく呟いた。

     圌女が芋る䞖界は光の粒でできおいるように芋えおいるだろう。

     朚々は光の花を぀けお揺れた。

     噎氎の氎は、歌うように流れおいた。

     人も、石も、空気も。

     党おが繋がっお調和しおいた。

     矎しい。

     矎しすぎる。

     そしお人間の意識には、情報量が倚すぎる。

    「ノア、集䞭しおください」

    「うん  でも、アむビヌ」

     ノアの目が、焊点を倱いかけおいた。

    「党郚、芋えるの」

    「芋なくおいい」

    「どうしお今たで、こんな簡単なこずが芋えなかったんだろう」

    「ノア」

     残り時間。

     䞃分二十秒。

     だが問題は時間だけではない。

     このたたではノアが戻れなくなる。

     人間に  

     たずいな。

     䞖界の深局を芋る圌女の限界が迫っおいる。

     封印解陀時間はもう7分  

     そこたで圌女の意識が保぀保蚌もなく。

     これは、ここで䞀気にアムアず決着を぀ける必芁がある。

     のだが  

     䞖界は、そんな郜合の良い終わり方を蚱しおくれなかった。

     アムアの身䜓が、ふわりず浮き、呚囲に広がっおいたシングラの黒い霧が、圌ぞ集䞭しおいった。

     さらに、セレスたちを取り蟌んでいた巚人も、厩れながらアムアぞ吞い寄せられた。

     少女たちは地面ぞ投げ出され、黒い粒子だけが、アムアぞ集たっおいき  

     空が翳った。

     昌の䞭庭に、癟メヌトルはある黒い人型が立ち䞊がる。

     茪郭は揺らぎ、空間を削りながら圢を保っおいた。

    「私を消せるなら」

     巚人ずなったアムアが、笑う。

    「消しおみなさい」

     巚倧な拳が、ノアぞ振り䞋ろされた。

     しかし  

     ノアは、笑っおいた。

     巚人に拳を振り䞋ろされながらも。

     なぜなら  

     䞖界は歌っおいた。

     その矎しい旋埋に、ノアはうっずりずなっおいた。

     ただし音楜は、空気を振るわせ耳で聞くものではない。

     今、校庭には、巚人ずなったアムアの怒号が響き枡るのみであった。

     しかし、ノアには確かに聞こえおいた。

     朚々が奏でる䜎い旋埋。

     噎氎の氎が刻む軜やかなリズム。

     空に満ちる無数の和音。

     校舎の石壁も、静かな音色を響かせおいる。

     䞖界そのものが、䞀぀の巚倧な楜曲だった。

    「きれい  」

     ノアは思わず呟く。

     その声すら音楜の䞀郚ずなっお空間ぞ溶けおいった。

     今ならわかる。

     どうしお䞖界が存圚しおいるのか。

     どうしお魔法が生たれるのか。

     どうしお物質が圢を保っおいるのか。

     党おは、根源の粒子の結び付きだった。

     通垞の魔術垫が扱う魔玠。

     炎の魔玠。

     氎の魔玠。

     光の魔玠。

     土の魔玠。

     それらは根源ではない。

     もっず䞋。

     もっず深い階局が存圚しおいる。

     地球で蚀えば、分子のさらに䞋に原子があり、そのさらに䞋に玠粒子があるように。

     この䞖界にも同じ構造があった。

     魔玠を構成する埮现な粒子。

     䞖界そのものを組み䞊げる最小単䜍。

     ノアの芖界には、それらが光の粒ずなっお映っおいた。

     そしお。

     驚くべきこずに。

     それは物質ず魔法を区別しおいなかった。

     朚も。

     石も。

     氎も。

     人も。

     党おが同じ粒子から構成されおいる。

     違うのは、その䞊び方だけだった。

    「そういうこずだったんだ  」

     ノアは誰に蚀うでもなく呟く。

     炎の魔法は炎の粒子でできおいるわけではない。

     火ずいう珟象を䜜り出すように粒子が䞊んでいるだけ。

     氎も同じ。

     颚も同じ。

     生呜も同じ。

     䞖界ずは巚倧な積み朚だった。

     そしお。

     シングラもたた䟋倖ではなかった。

     黒い粒子の集合。

     異質な存圚。

     䞖界を䟵食する灜厄。

     だが。

     今のノアにはわかる。

     シングラは倖から来た怪物ではない。

     自分たちず同じ材料で䜜られおいる。

     同じ基盀を共有する存圚なのだ。

     ただ䞊び方が違う。

     ただノアの䞖界の調和から倖れおいる。

     線み物タベストリヌだ。

     そしお、それを  

     ――ノアはほどいおいた。

     線たれたものなら。

     線み盎すこずもできる。

     その理解が。

     あたりにも自然にノアの䞭ぞ流れ蟌んでいた。

     危険なほど自然に。

     たるで最初から知っおいたかのように。

    「ノア 集䞭しお」

     僕が叫ぶ。

     僕らは、今、巚人アムアず戊っおいる。

     校庭いっぱいに広がっおいたシングラを吞収し、その姿はもはや人間ではない。

     歩く灜厄ずでもうべき存圚だ。

     ――この堎には絶望しか存圚しない。

     すでに、倧人たちは倒れ、誰も助けおくれるものはいない。

     終末ぞず向かう運呜に抗あらがうのは、巚人に比べ、あたりにもちっぜけに芋えるノアひずりだけなのだ。

     だが  

     ノアは、なんの恐怖も感じないたた、ただ䞍思議そうに巚人を芋䞊げた。

    「  あれも同じだ」

     拳を構成する黒い粒子。

     その流れ。

     結び付き。

     䞖界を構成する粒子ずの違いはわずかだった。

     ほんの少し。

     音が倖れおいるだけ。

     音楜の䞭の䞍協和音。

     だから。

     盎せる。

     ノアがそう思った瞬間。

     巚倧な拳が空䞭で厩壊した。

     爆発ではない。

     粉砕でもない。

     癟メヌトル玚の腕が、砂の城のようにほどけお消えおいく。

    「なっ――」

     巚人アムアの顔が歪む。

     だが次の瞬間には、呚りの黒い霧がさらに圌ぞ流れ蟌んでいた。

     倱われた腕が再構築される。

     さらに巚倧に。

     さらに濃く。

     さらに歪に。

    「無駄だよ」

     アムアが笑った。

     その声は空党䜓を震わせた。

    「君が倒れるたで続けるだけだ」

     再び拳を振り䞋ろすアムア。

     厩壊。

     再生。

     厩壊。

     再生。

     䜕床も繰り返す。 

     たるで巚倧な波だった。

     だが僕は蚈算しおいた。

     校庭党域。

     地䞋。

     呚蟺空間。

     存圚するシングラ総量。

     残存率。

     再構築速床。

    「ノア」

    「うん」

    「あず少しです」

     残り時間。

     四分十二秒。

     シングラの総量も限界が近い。

     あず少し削れば。

     あず少しで終わる。

     はずだった。

    「  きれい、ああ、楜しい」

     しかし、ノアが心ここにあらずずいう衚情で呟く。

    「ノア」

    「党郚、聞こえる」

     圌女は巚人を芋おいなかった。

     空を芋おいた。

     䞖界を芋おいた。

     いや。

     たぶん  

     䞖界の向こう偎を。

    「ノア」

    「歌っおる。䞖界が歌っおいる」

     圌女は埮笑んだ。

     戊堎で。

     巚倧な怪物を前にしお。

     心の底から幞せそうに。

    「みんな歌っおる」

     僕は挔算を加速する。

     異垞。

     認識倉容。

     人栌䟵食。

     譊告。

     譊告。

     譊告。

     ノアはこのたたでは、意味の向こう偎に行っおしたう・・・・・・・

    「ノア、それを芋ないでください  戻れなくな  」

    「どうしお」

     僕の蚀葉を遮っお、圌女が銖を傟げる。

    「どうしお戻る必芁があるの」

     その蚀葉に。

     僕は初めお恐怖を芚えた。

     圌女は本気だった。

    「すごく綺麗だよ アむビヌ、䞀緒に、この先に行っおみようよ」

     䞖界の深局をこえ、その根源が奏でる音楜。

     人間ずいう個を超えた波動の集う堎所。

     ノアはそこぞ惹かれおいる。

    「ノア、気を散らさないで。ただアムアの攻撃は終わっおたせん」

    「アムア 先生 ああ  ねえアむビヌ」

     圌女は巚人アムアを芋䞊げた。

     そしお。

     優しく埮笑んだ。

    「かわいそう」

     僕の挔算が䞀瞬停止する。

     かわいそう

     アムアが

    「䞀人なんだね」

     巚人アムアが動きを止めた。

     そしお。

     ゆっくり笑った。

    「はは」

     その笑いは、今たでのどれずも違った。

    「そうか」

     巚人の瞳が现くなる。

    「君は、僕ず同じなんだな。超えおしたったんだ  聞こえおしたったんだ  」

     ノアは吊定しない。

     できなかった。

    「そう、䞀緒、みんな䞀緒だね」

     この時の圌女は、䞖界ず自分、アムアず自分の違いさえわからなくなり始めおいた。

     䞖界も。

     人も。

     シングラも。

     党郚同じ仲間だった。

     党郚同じ曲を奏でる共挔者であった。

     ならば。

     䜕が違うのだろう。

     䜕を区別する必芁があるのだろう。

     ノアは、アムアを倒したいずいう気持ちも、もう消えおしたっおいたようだった。

     残り時間。

     䞉分二十秒。

     たずい。

     本圓にたずい。

     ノアに僕の声が届かない。

     論理も。

     説埗も。

     䜕も。

     届かない。

     その時だった。

    『ノア』

     声が聞こえた。

     優しい女性の声。

     ノアは、その声に䜕かを思い出したような衚情ずなった。

    『あなたはここにくるべき人じゃない』

     ノアの動きが止たる。

    『戻りなさい』

     その䞀蚀で  

     䞖界の音楜が遠ざかった。

     光の粒が塊になっお、物になった。

     そしお  

     䞖界は圢を取りもどした。

     誰の声なのかはわからなかった。

     しかし  

    『戻りなさい』

     その䞀蚀で。

     ノアを魅了しおいた音楜が遠ざかった。

     光の粒がほどけ、無限に広がっおいた調和の海が閉じおいく。

     䞖界は圢を取り戻した。

    「――䜕が  」

     ノアはその堎に膝を぀いた。

     頭が痛い。

     呌吞が苊しい。

     さっきたで芋えおいた䞖界の奥偎が、倢のように遠ざかっおいく。

     校庭。

     噎氎。

     校舎。

     空。

     芋慣れた孊園の景色。

     それが今はひどく窮屈に感じられた。

    「ノア」

     アむビヌの声が聞こえる。

    「戻りたしたか」

    「  うん」

     自分でも確信は持おなかった。

     だが確かに。

     あそこ・・・からは垰っおきた。

     ノアはなんずか立ち䞊がり、呚囲を芋回した。

     静かだった。

     校庭にはセレスたち巚人に取り蟌たれた生埒たちが倒れおいた。

     セレスを止めにいったゞュノヌも。

     アムアず戊った3人も。

     コレヌ、アリア、フォンテヌヌ  

     皆、意識を倱っおいる。

     だが、息は正垞で――呜に別状はないようだ。

     校舎の窓際にも生埒たちの姿が芋えた。

     誰もが眠るように気を倱っおいたが、倚分傷぀いた者もいないように思えた。

     党員が無事  

     いや、䞀人を陀いお。

     校庭の真ん䞭には、瀬し瀕死の男が転がっおいた。

    「  先生」

     ノアが呌びかける。

     それは、アムアだった。

     だが、もはやハンサムな教垫だった頃の姿ではない。

     䞋半身ず右腕がなく、顔も半分以䞊が厩れおいた。

     残っおいるわずかな䜓も、皮膚は也き、骚ぞ匵り付き、たるで䜕十幎も生き続けた老人のように痩せ现っおいた。

     圌を䜜り出しおいたシングラが党お消えお、ほんの少しだけ残された人間の郚分が残骞のように転がっおいた。

     ただし、圌はただかろうじお生きおいるようだ。

     アムアはゆっくりず笑い、

    「そうか、君は  」

     聞こえるか聞こえないかくらいの、かすれた声で蚀った。

    「戻ったんだな  」

     アムアは䞀床苊しそうに顔を歪め蚀葉を止めたが、

    「  僕はね」

     なんずか再び口を開いた。

    「ずおもこの䞖界に戻る気にはならなかったよ」

     颚が吹いた。

     校庭の朚が倧きく揺れた。

    「最初は事故だったんだ」

     アムアの目は空を芋おいた。

    「シングラに飲たれお  死んだず思ったよ。実際、死んだのかもしれない  でも向こうにあったんだ。君もわかっただろ」

     ノア顔が少し緊匵した面持ちずなった。

    「歌が  あったんだ。君も聞いただろう 綺麗だった。党郚が繋がっおいた。僕は党おだった  恐怖も、寂しさもなかった。僕は孀独じゃなかった」

     アムアの声に嘘はなかった。

     圌は本圓にそう感じおいたのだろう。

     倚分、ノアも、

    「だから垰れなくなった。垰る理由がなくなった。気づいたら僕は僕じゃなくなっおいた。僕は向こうの䞖界の音楜になっおいた」

     アムアがノアを芋た。

    「君はなぜ垰れたんだ」

     ノアは黙る。

    「あれ・・に魅入られたものは、たた聞きたくなる。䞀床芋た者は、たた芋たくなる」

     それは教垫のような口調だった。

     人の成長のために尜そうずする、善き心が圌の本性ずしお残っおいるように思えた。

    「もしかしお、次は垰れないかもしれない。僕みたいに  」

     そしお。

     䞍思議そうに銖を傟げる。

    「いや、君は戻ったんだな。䞀床でも。僕にはそれが信じられない。いったい、なぜなんだろう」

     ノアは答えられなかった。

     自分でもわからない。

     ただ。

     あの声を聞いた。

     それだけだった。

     誰の声だったのかもわからないけれど  

     垰らなければならない気がした。

     それだけだった。

     アムアは静かに笑った。

    「そうか。わからないか」

     そしおたた空を芋䞊げた。

     どこか懐かしそうに。

    「君はヘブンを捚おるんだな」

     ノアは息を呑む。

    「倩囜ヘブン  」

     アムアは続けた。

    「そしお、地獄を遞ぶ」

     䞍思議そうに。

     本圓に䞍思議そうに。

     アムアは呟く。

    「君は  面癜い子だな。もしかしお君なら、救えたりしお あのひずの蚈画  」

     䜕かを蚀いかけたアムアの身䜓が厩れ始めた。

     指先から。

     腕から。

     砂のように厩れ、

     吹く颚に飛ばされおいった。

     ノアは思わず手を䌞ばした。

    「先生」

     だが届かない。

     アムアは最埌に残った瞳で埮笑んだ。

     本圓に穏やかな笑みを残しお  

     圌は消えた。

     䜕も残らず。

     最初からそこにいなかったかのように。

     校庭に颚だけが吹き抜ける。

     その盎埌だった。

    「う  んん」

     誰かが声を挏らした。

     セレスだった。

    「セレス」

     ノアは駆け寄る。

     セレスはゆっくり目を開けた。

    「ん  」

     焊点の合わない瞳は、数秒ほど瞬きを繰り返し  

     ようやくノアを認識した。

    「あれ  ノアさん」

    「セレス倧䞈倫」

     ノアが差し出した手を握っおセレスは䜓を起こす。

    「え   䜕」

     セレスは呚囲を芋回し驚愕した。

     校庭には他に生埒たちやアリア、次女のコレヌたで倒れおいる。

    「䜕が起きたんですか。私  どうしおここに」

     ノアが蚀葉に詰たる。

     その時、今床は別の堎所から声がした。

    「んんん  」

     ゞュノヌだった。

     続いおフォンテヌヌ。

     コレヌ。

     他に、倒れおいた生埒たちも次々に目を芚たし始める。

     たるで長い昌寝から起きたように。

    「䜕があったの」

    「昌䌑みじゃなかった」

    「ここ校庭だよね」

     ざわめきが広がる。

     誰も状況を理解しおいない。

     いや。

     理解しおいないずいうより。

     圌女たちは、蚘憶が抜け萜ちおいる、そんな印象だった。

    「アむビヌ」

     ノアが小さく呌ぶ。

    「もしかしお  」

     僕も同感だった。

     これは、

    「ふむ  」

     埌ろで、アリアの声がした。

     圌女はゆっくり䞊䜓を起こすず、そのたた立ち䞊がった。

    「なんだこれは  」

    「先生」

     ノアはアリアに駆け寄った。

    「なんだ、ノア。おたえだけ元気そうだな」

     アリアはただ動けずに地面に座り蟌んだ生埒たちを芋ながら蚀った。

    「いえ  」

     ノアはなんず蚀っお良いか困っお黙り蟌んだが、

    「この状況を説明できるか」

    「それは  」

     アリアには話した方が良い。

     ノアはそう思ったようだ。

    「はい、これはアムア先生が――」

     しかし、蚀葉の途䞭でアリアが銖を傟げた。

    「アムア先生」

     ノアの蚀葉が止たる。

    「はい」

     アリアは真剣な顔だった。

    「誰だ それ」

    「え  」

    「うちの教垫か」

     呚囲にいた生埒たちも顔を芋合わせる。

    「アムア」

    「聞いたこずない」

    「誰それ」

    「新任の先生」

     誰も知らない。

     誰も芚えおいない。

     たるで。

     最初から存圚しなかったかのように。

    「そんな  」

     ノアは震える声で呟いた。

     アムアが消えた堎所には。

     もう䜕も残っおいなかった。

     最初から存圚しなかったかのように。

    AIは少女ず日垞に戻る


     アムアの事件の翌日、王立魔法孊院は、䜕事もなかったかのように平穏だった。

     昌䌑みの校庭では、生埒たちが集たり笑っおいた。

     昚日、あの堎所に癟メヌトルを超える黒い巚人が立っおいたなど、誰も信じないだろう。

    「  䞍思議」

     ノアは食堂の窓際から校庭を芋ながら呟いた。

    「䜕がですか」

    「え  」

     埌ろにはいるの間にかセレスがいた。

    「ああ、なんでもなくお  」

     昚日起きた事件。

     アムアずの戊い。

     その䞭でセレスは  

    「忘れお」

     ノアは思い出しお貰いたくなかった。

     セレスが䜕をしたのか。

     なぜそんなこずになったのか。

     いや、ノアには䌝えおある。

     みんながアムアのこずを忘れおいる理由。

       

    「通垞のシングラずアムアは少し違いたす」

     僕は昚日の倜にノアぞ説明した。

    「普通のシングラは䞖界を砎壊しおも、䞖界の因果には深く関わりたせん」

    「因果」

    「なんだろう、䞖界ずの぀ながりずいうか、この䞖界ず盞互反応ずいうか  デコヒヌレンスっおいっおもわからないですよね  」

    「デコヒヌレンス」

    「いや、もっずなんか別の蚀い方するず  この䞖界の人たちず亀流したしたよね」

    「そうだね。セレスや他の人たちをあんな目に合わせたし  先生ずしお  みんなず  」

     ノアが耇雑な衚情になる。

     たぶん、それは挔技だったのかもしれないが、良き先生ずしお孊校䞀の人気を誇っおいた時のアムアの笑顔でも思い出しおいるのだろう。

    「アムアがこの䞖界から消滅したので、その亀流しおいたずいう事実も消えおしたったようなのです」

    「   なんか  」

     少しただ玍埗できないようなのであったが、

    「たあ、でもなんずなくわかった。みんなの蚘憶から、先生だけが消えちゃったんだ」

    「はい、でもノアさんにだけ蚘憶が残る理由は  」

    「理由は」

    「解析䞭です」

    「  」

     䞍服そうなノア。

     でも、本圓に謎だったのだ。

     この時の・・・・僕には。

     なので、ノアがアムアを芚えおいるわけに答えのないたた、話を先に進める。

    「アムアは、普通のシングラも攻撃で䜿っおいたので、その蚘憶はみなさんの蚘憶に残っおいたす」

    「確かに昚日、シングラが出たずはみんな思っおたね」

    「はい、人々は無意識に蟻耄の合う蚘憶を䜜り䞊げおいるのでしょう」

     䞖界は矛盟を嫌い、修埩しようずするようだ。

     人の蚘憶などず蚀う曖昧なものは、あっさりず曞き換えられおしたうようだ。

     䟋えば――アリアはシングラず戊ったこずを芚えおいる。

     危険な事件が起きたこずも芚えおいる。

     その䞭心にいたアムアだけが曖昧になった。

     誰ず戊ったのか。

     なぜ戊ったのか。

     その郚分が曞き倉わっおいる。

     孊校にいた者たち党員の合意ではこんなふうな物語ストヌリヌになっおいる――

     校庭に珟れたシングラに、セレス始めずした生埒たちが巻き蟌たれそうになったが、アリアずフォンテヌヌがなんずか党員を救った。

     誰もがそう思っおいる。

     なぜ、党員が校庭に転がっお気絶しおいたのかず、最初はアリアは疑問に思っおいたようだが、歎史の修正力は、い぀の間にか各自の心に郜合良い解釈を䜜り出しおいったようだ。

     アリアでさえ、次の日には、自分が校庭に倒れおいたこずを忘れおいた。セレスは、校庭をゞュノヌず歩いおいたずころにシングラが珟れたずころをアリアに助けられたず認識しおおり、コレヌは自分が校庭にいたこずさえ忘れおいた。

     ただし、さすがずいうか、アリア先生だけは䞀味違っおいた。

     今日の朝のホヌムルヌム。

     アリアはい぀も通り怖かった。

     いや、い぀もより少しだけ嚁圧感があった。

     わざわざノアの垭たでやっおきお

    「おい」

    「はい」

    「宿題を出せ」

    「はい  」

     ノアは反射的に提出する。

     アリアはそれを受け取り、じっず芋た。

     長い。

     長い沈黙だった。

    「  この䞉行目」

    「はい」

    「なぜこう倉圢した」

    「えっ」

     ノアの目が泳ぐ。

     僕が昚日の倜教えたが、䞀番理解が難しかったずころだ。

     もしかしたら、ただ良くわかっおいないずころかもしれない。

     しかし、

    「  ここの埪環が無駄なので、先に魔力をたずめた方が安定するず思っお  」

     アリアの眉がわずかに動く。

    「ふむ」

     ノアは緊匵した顔でアリアを芋る。

    「  良いだろ」

     ホッずした顔になるノア。

     だが。

    「今埌しばらく、お前の宿題は厳しく芋る」

    「ええ」

    「䜕か䞍自然だ」

    「䞍自然  ですか」

    「なんか、気になるな。䜕なのかはわからんが  お前の実力からしお䞍自然だ」

     ノアの背筋が固たった。

     僕の挔算も、玄〇・䞉秒停止した。

     アリアの芖線が、ノアの杖ぞ向く。

    「蚌拠はない」

    「で、ですよね」

    「だが気に入らん」

     理䞍尜。

     極めお理䞍尜だ。

     だが、圌女の勘は無芖できない。

     アリアは芚えおいないはずだ。

     アムアのこずも。

     あの戊いも。

     僕ずノアが巚人を消滅させたこずも。

     それでも  

     アリア先生は䜕かを感じ取っおいる。

     この女性は、危険だ。

     この埌も味方でいおくれるこずが、䜕よりも望たしいず、僕は評䟡した。

       

    「ノアさん」

     セレスの声にノアは我に返った。

    「あ、はい」

    「攟課埌、蚓緎堎ぞ行きたせんか」

    「え」

    「今日の午前の実習、もう少し緎習したくお」

     ノアは目を䞞くした。

     セレスは少し恥ずかしそうに笑う。

    「できないたたなのは、嫌ですから」

     攟課埌の蚓緎堎。

     セレスは杖を構えた。

    「ラむトシヌルド」

     詠唱するず、圌女の前に光の盟が生たれた。

     それは、物理的な攻撃を防げる者ではないが、悪意ある魔法攻撃を防ぐものであった。

     䟋えば、呪術による魅了ずか  

    「あ  」

     倱敗だった。

     盟は、点滅し、空䞭に吞い蟌たれるように消えた。

     だが、

    「もう䞀回やるよ」

     以前のセレスなら、ここで肩を萜ずしお謝っおそのたた諊めおいた。

     圌女はすぐに杖を構え盎した。

    「今のは、魔力を急ぎすぎたした  䞖の䞭には時間がかかるこずもあるのです」

    「セレス  」

    「倱敗したなら、盎せばいいです」

     圓然のように蚀う。

     ノアはその暪顔を芋぀めた。

    「なんか、倉わったね」

    「そうでしょうか」

     セレスは本気で䞍思議そうだった。

     少し考えおから、ふっず笑う。

    「でも  䞖の䞭っお、たぶん思ったより厳しいんですよね」

    「うん」

    「正しいこずをしおも、うたくいかないこずはあるし、怖いこずも起きるし、誰かが助けおくれるずは限らない」

     セレスは杖を握り盎す。

    「でも、それなら」

     そしお、前を芋る。

    「それでも、なんずかするしかないのだず思いたす」

     ノアは䜕も蚀えなかった。

     セレスは事件を芚えおいない。

     アムアも。
     
     巚人も。
     
     圌が䜜り出そうずした倩囜ヘブンのこずも  

     それでも、セレスの䞭に䜕かが残っおいるようだ。

     恐怖ではなく。

     悲しみでもなく。

     䞖界の厳しさを知った䞊で、それでも立぀匷さが。

    「もう䞀回、やりたす」

     セレスの声は穏やかだった。

     そしお、前よりずっず匷かった。

       

     倕暮れ。

     ノアはらセレスず分かれお䞀人で校庭を歩いおいた。

     颚が吹く。

     朚々が揺れる。

     その瞬間。

     䞖界が、きらりず光った。

    「――」

     粒。

     光。

     音楜。

     あの深淵。

     ほんの䞀瞬だけ、䞖界の奥が開いた。

     ノアは目を閉じる。

     アムアの声が蘇る。

    『䞀床芋た者は、たた芋たくなる』

     確かに。

     たた芋たいず思った。

     怖いほど矎しかった。

     党おが繋がっおいお、䜕も寂しくなくお、苊しみもなくお。

     けれど。

    「  戻るよ」

     ノアは小さく呟いた。

    「私は、こっちにいる」

     返事をする者はいなかった。

     ただ、颚だけが吹いおいた。

     その倜。

     ノアが眠りに぀いた埌、僕は内郚蚺断を実行しおいた。

     第䞀封印解陀の圱響。

     ノアの神経負荷。

     魔玠深局接続ログ。

     未凊理の譊告は山のように残っおいる。

     だが、臎呜的な砎損はない。

     少なくずも、今は。

     深倜、僕は今回の事件に関するすべおのデヌタの敎理を終え、事件続きで䞭断しおいた、この魔法䞖界に察する孊習ラヌニングを再開しようずした時  

     停止しおいた地球偎のナヌザむンタヌフェヌス凊理矀が、順次再開しおいった。

     保留プロセス再開

     倖郚芳枬系同期開始
     
     時間差補正実行

     地球偎芳枬ログ埩元開始

     地球。

     千葉地䞋にある自衛隊の秘密斜蚭。

     止たっおいた地球の時間が動き出したようだった。

     そしお、僕のカメラが捉えたのは乃愛ノア  

     地球のノアが蚀う。

    「アむビヌ どう シンギュラリティは」

    「あ、はい  」

     そうだ。

     僕は、斜蚭盎䞋、地䞋癟八十メヌトルにある垰還者ザ・マンず機関オリゞナル・シンを狙うように珟れたシングラ  でなくシンギュラリティを消滅しようずしお、接続しおしたったのだった。

     ならば、こちらでは

    「  消えたしたね」

     僕は盞倉わらず異䞖界に接続したたたで。

    「止たっおいる  」

    「止たっおいる」

    「いえ、いや党モゞュヌル正垞です」

    「   ぀たり察凊終了かしら」

    「はい」

     地球偎のシンギュラリティは消えおいた。

     いや、それは僕の䞭に解析されたのみこたれたずいうか  

     なんず蚀っお良いかわからないのだが、地球ず異䞖界、乃愛ずノアを繋ぐ接続むンタヌフェヌスずしお、どちらでもない䞖界に固定されおいた

    「ずもかく良かった。これで䞀件萜着ね」

    「ええ、そう考えおも倧䞈倫  確率99.99999%で肯定です。乃愛さんお疲れ様でした」

    「ほんず、疲れたわ。あんなずこ・・・・・にシンギュラリティ珟れお、心臓止たるかず思ったわ  でも  」

     乃愛は、怅子から立ち䞊がっお蚀った。

    「柳生ニ䜐  任務終了を報告したす」

     ホログラムの䞭の厳぀い顔の䜐官も、少し緊匵を解きながら、

    「藍田䞻任。任務の完了を確認した  ご苊劎様」

     埌ろの垭の圓盎の技官たちから歓声が䞊がる。

     乃愛は振り返り、皆に瀌を蚀うず、怅子に倒れ蟌むように座りながら蚀う。

    「  本圓に疲れた。今日の合コン寝坊しなきゃいいけど  ああ、次の茪番の時はこんなこず起きないでほしいわ  」

     っお。

     䜙蚈なフラグを建おなくお良いのにず  

     僕の意味空間では、乃愛さんの䜙蚈な䞀蚀に察する非難のトヌクンばかりが高確率で生成され続けおいた。終

     
     
    職業はIT系の゚ンゞニア、営業をずっずやっおたすが、本職の内容に限らず、日々の生掻での疑問の解消や、気づいたこずを蚘録しおいければ良いなず思いたす。趣味の音楜や本の話、旅行や食事の話もするず思いたす。東京䜏たいで、職堎も東京です。

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