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利上げしたのに円安。「金利差」だけでは説明できない理由

日銀が利上げしたのに、なぜ円は買われないのか

――「日米金利差」だけでは説明できなくなった円安

日銀が政策金利を1.25%まで上げました。31年ぶりの水準です。教科書どおりなら、円は買われるはずです。

ところが決定後の円は売られました。一時157〜158円台まで下がり、10月1日にはドル円が158円台に乗っています。

円安はガソリンや輸入品の価格に、利上げは住宅ローンに響きます。「金利を上げたのに円安」という、このねじれ。ニュースを普段見ない人にもわかるように、順番にほどいていきます。

先に結論

  • 「利上げは円高に効く」という基本は、今も変わらない

  • ただ今は、円相場が金利差だけでは説明できなくなっている

  • IMFも、金利差が縮んだのに円安が進んだ、と分析している

本来、利上げすると円は買われやすい

大ざっぱに言えば、金利の高い銀行に預金が集まりやすいのと似ています。金利が上がった国の通貨は、買われやすくなります。「金利差」とは、2つの国の金利の差のことです。

もう一つが「円キャリー取引」です。金利の安い円を借りて、金利の高い通貨で運用する取引のこと。日本の金利が上がるとうまみが減るので、円を売る動きが弱まります。これが「利上げ→円高」の基本ルートです。

なのに、利上げ後も円安になった

  • 日銀が1.00%から1.25%へ利上げ。賛成7、反対2で、反対した2人は「据え置き」派

  • 円は一時157〜158円台へ下落(報道で数字が少し違います)

  • 10月1日に公表された「主な意見」では、物価が上振れる兆しがあれば利上げを速めるべき、という声が出た。一方、政府側は「これまでの利上げの影響を丁寧に点検してほしい」という立場だった。ドル円は158円台へ

9月1日の会見で、記者が「市場は9割以上の確率で9月の利上げを見込んでいる」と話す場面がありました(質問内での言及)。つまり利上げそのものは、ほぼ予想どおりだったことになります。

為替は、今の金利より「この先どこまで上がるか」を見ます。市場は「すぐ次の利上げが来るほど強い意志ではない」と受け止めた、と報じられています。反対2票が円安の原因だと見る人もいますが、これは市場関係者の解釈で、確定した原因ではありません。

実は、もっと大きな変化が起きている

ここが今回の核心です。IMFは2026年の対日4条協議のスタッフ報告書で、次のことを書いています。

2025年半ば以降、日米の10年金利差は100bp以上縮みました。bpは0.01%のことなので、1ポイント以上です。金利差が縮めば、円は買われやすくなるはず。ところが実際には、円安が進みました。

さらにIMFは、2025年半ば以降の円の動きのうち大きな部分は、金利差のほか、リスク回避や原油価格といった要因でも説明できない、としています。その説明できない部分は、円先物市場の投資家のポジションと連動して動いていた、という指摘です。連動を示しているだけで、原因の断定ではありません。先物ポジションとは、投資家が円を売る側に傾いているか、買う側に傾いているかの偏りのことです。

つまり「利上げしたのに円安」は、ここ1年ほど続く、金利差と円相場のズレの延長線上にある、と見ることができます。ただしこの分析は2026年前半までのものです。9月の利上げや7〜8月の介入は含まれていません。

円が買われにくい背景を、3つに分けて見る

原因が一つに決まったわけではないので、「背景」として整理します。どれがどれだけ効いたかは、わかっていません。

短期:日米の金利と、日銀の「次」 FRBも9月16日に0.25%利上げし、政策金利を3.75〜4.00%にしました(12対0の全会一致)。日本だけが金利を上げたわけではありません。さらに反対2票や政府の慎重姿勢で、日銀の次の利上げへの期待が弱まったと見られています。

構造:日本から海外へ流れるお金 日本企業は海外で稼いで、その利益を現地で再投資することが多い。海外支店の利益を本社に送らず、現地の新しい店に回しているイメージです。財務省の2024年7月の報告書では、2023年度の海外投資の収益のうち、海外で再投資される割合は51〜71%という試算でした。家計も新NISAなどで外国株を買っています(同、2024年時点)。

2026年7月も、海外投資の収益(第一次所得収支)は4兆2,896億円の黒字でした。ただ、黒字でも円に戻らなければ円買いにはなりにくい。つまり円を買い戻す動きが増えにくい、という話です。これは推論です。

背景:原油高、財政、政策への見方 7月の原油は1バレル114ドル台で、前年同月比+60%。輸入額も25.9%増えました。輸入にはドルが要るので、円安の圧力になりえます。ただし影響の大きさは不明です。

IMFは、日本の長期金利が上がる背景に、国内政治の不確実性や財政リスクへの市場の見方がある、と分析しています。一方で、財政不安を理由に海外投資家が国債から手を引いた証拠はない、とも話しています。

政府も難しい立場です。円安は抑えたくて、7月末〜8月に過去最大の15兆3,993億円で介入しました(7月31日は日米協調)。でも急速な利上げは、景気や借入負担に響きます。

だから日銀も簡単じゃない

円安に対して、利上げは円高方向に働く政策の一つです。でも日銀の仕事は、為替レートを特定の水準にすることではなく、物価の安定です。

植田総裁は9月1日の会見で、為替に昔より強く反応する変化はないと話しつつ、物価が上振れる一つの要因として為替は注視する、と説明しました。利上げの影響は少しずつ累積的に出てくる、とも言っています。

円安 → 輸入物価が上がる → 価格や賃金に広がる → 物価の基調が上振れる → 利上げ

ここを混同すると「円安だから利上げしろ」という話になってしまいます。見ているのは円安そのものではなく、それが物価にどう響くかです。

10月1日の「主な意見」でも、日銀の委員の考えは一枚岩ではありません。基調的な物価上昇率が2%にかなり近づいたとして「政策の局面が変わった」と述べる委員がいる一方、加速感はなく慌てる必要はない、という委員もいました(報道ベース)。

ちなみに、景気を熱くも冷やしもしない「中立金利」のIMFスタッフ推計は1.1〜2.2%。1.25%はその下限に近いものの、推計の幅は広く、不確かだとIMFも断っています。

私たちの仕事や暮らしには

断定はできませんが、輸入品や燃料を扱う仕事ほど、円安の影響は仕入れ値にじわじわ出やすい。住宅ローンの変動金利は、日銀が利上げを重ねるほど上がりやすくなります。どちらも一度に大きく動くというより、少しずつ効いてくるタイプの話です。

これから見ること

予測ではなく、チェックリストです。

  1. 日銀が次の会合で、利上げのペースについて何と言うか

  2. アメリカの金利(FRBの次の動きと長期金利)

  3. 原油と中東情勢

まとめ

利上げは、円高の力になります。ただ今は、その力を打ち消す動きがいくつも重なっています。

どの要因が円安を何円分動かしたのかは、特定できません。だから「利上げしたのに円安=利上げは効かない」と結論づけるのは、早計です。

いま見るべきなのは「日銀が利上げしたか」だけではなく、「それでも円を売らせているものは何か」です。

※投資の助言ではありません。数字は2026年10月1日時点で確認できた報道・公的資料に基づきます。

出典

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