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視力検査と白ブリーフ

    roots_ohtani913


    春は新たな生活のスタートだ。
    そして、小学生には行事が盛りだくさんだ。
    クラス替えや遠足など、生徒にとっての
    楽しいイベントが待っている。

    身体測定もそのひとつだろう。
    それは、小学生にとって一年間の成長の証。
    高学年にもなれば身長が一気に伸びただの、
    体重が増えただの、一喜一憂するドキドキ、
    ワクワクの一大イベントだ。

    だが、私にとってそれは苦痛だった。
    なぜなら、検査項目のひとつに、視力検査が
    あるからだ。

    当時私は、視力が落ち始めていたにも関わらず
    そのことを両親に言い出せずにいた。
    当然メガネはかけておらず、学校でも家でも視力が悪くないフリをしていたのだが、検査で全てが暴かれる。
    真実が明るみになれば、母はこんなに視力が悪いのに私が隠していたことを猛烈に怒るだろう。
    私はその日が来ることを出来るだけ考えないようにしていた。



    だが、
    それは突然やってきた。




    「えー、今日は身体測定がありまーす」
    朝の会での先生の言葉に、私は絶句した。

    私は忘れていた。
    今日が身体測定の日だということを…

    ついにこの日が来てしまったのだ。
    それも突然に。

    いや、自分が忘れていただけだから突然ではないのだが、これは大変なことになった。

    大変な理由は3つある。

    理由1
    【視力回復への準備ができていない】

    視力検査前には、姑息な視力回復動作が必要だが、その時間がない。

    私は、在らん限りの浅い知識をフル活用し、
    残された僅かな時間で一時回復を目指した。

    まず、遠くを見てみよう。
    遠くを見たら眼が良くなるらしい。

    あと、緑だ。
    緑色の草を眺めよう。

    クソー、今日はブルーベリー食べんかったな。

    あぁそうや、眼をギュッと閉じて開いてを繰り返すと良く見える気がするって、兄ちゃん言いよったな。

    特に効果は無かった。


    理由2
    【検査はパンツ一枚且つ女子の前でも行われる】

    視力検査の前に身長と体重の検査があり、当時男子はパンツ一枚(白ブリーフ)で測定しなければならなかった。しかも、そのまま視力検査もやってしまおうという、効率的かつ破廉恥なやり方だったのだ。
    女子も含めクラスの大半が見ている中、パンツ一枚(白ブリーフ)で前に立たされ、Cマークが左だの上だの言わなければならない。
    しかも間違っていたら「え〜、全然違う」などとクスクス笑われてしまう始末。
    残酷にもほどがある。

    だがしかし、本当のピンチは他にあった。


    理由3
    【今日はパンツがほんのり黄色い】

    人生最大のピンチである。

    そうだ、
    今朝、布団の中で感じたあの「じわり」とした温もり。母に怒られるのを恐れた私は、あろうことか「そのまま登校する」という最悪の選択をしてしまった。
    後悔先に立たず、パンツ白からず。


    さて、改めてまとめてみると、このようになる。

    1、視力回復するには時間が足りず間違う
    2、クラスメイトが見つめる中、ブリーフで検査
    3、ブリーフがほんのり黄色い

    恥さらしの三重奏である。


    だが私にはこの現実をどうすることもできない。
    壮大な焦燥感と絶望感の波に飲み込まれる中、
    私は前をさりげなく隠しながらブリーフ一枚になった。
    そう、さりげなくがポイントだ。
    隠している雰囲気を出してはならない。
    そして決して前が黄色みがかっていることを悟られてもならない。

    その絶妙なバランスを保ちながら、ふとほかの男子を見ると、私は度肝をぶち抜かれた。

    コイツら、トランクス履いとる!


    男子は高学年になると色気付き、ブリーフからトランクスへ移行し始めるヤツが続出。
    その日、クラスの大半がトランクス派に寝返っていたが、私はまだ白ブリーフだった。

    なんてこった!
    ブリーフ俺だけ⁉︎
    しかも前、黄色ぞ!

    トランクス派のヤツら、余裕の表情してやがる。
    この前までブリーフだったくせに、一段高いところから見下ろしてやがる。

    だが、私はそんな裏切り者たちにかまっている暇はないのだ。
    なぜなら身長、体重の測定時は必ず「気をつけ」をしなければならない。

    つまり、黄色みフルオープン。

    さらに、みんなの前で視力検査だ。
    片手で目を隠し、片手で前をさりげなく隠したいのだが、検査ルールは保健の先生が持つCマークのカードに対し「右!」や「左!」と言うと同時に指差しもしなければならず、両手が股間から離れる隙間時間が生まれる。

    つまり、黄色み大開放。

    このままでは女子に
    「ヤダ〜、眼が悪いしパンツ黄色い〜」
    と蔑まされるのは必至である。
    それだけは絶対に阻止しなければ。
     

    視力検査室は、もはや私にとってリングだった。Cマークとの対話ではない。いかに「黄色み」を晒さずに指を差すか。
    保健の先生との、0.1秒を争う攻防である。

    「左!」

    私は素早い指差しをするや否や、即ガード。

    「右!」
    ガード。

    「下!」
    ガード。

    「え〜と、え〜上?」
    時間がかかり過ぎた。

    考えてはだめだ。ガードが間に合わない。
    超高速で指差ししなければ。

    すると先生が
    「しっかりと指差ししなさい!」

    (いや、だからできないんだって)

    身動きが取れない。
    どう転んでもイバラの道である。

    この王手飛車取りの事態に私は決意した。


    「分かりません」
    「え〜、分かりません」
    「あー、分かりません」



    心なし周りはザワついてきた。
    このザワつきは何?


    視力が悪いことへの嘲笑か。
    独りブリーフへの哀れみか。
    それとも黄色みバレたのか。

    それでも私は平静を装い続けた。
    ブリーフであることに誇りを持ち、
    臆することなど何もないのだと言わんばかりに。
    黄色いのは気のせいだと言わんばかりに。


    それからのことを、私は憶えていない。

    もうどうでもいい…
    そんな投げやりな気持ちになり
    その日、笑みを失った私は
    家に帰ると、そっとブリーフを履き替え
    心に誓った。

    (トランクス買ってもらおうっと)


    春は新たな生活のスタートだ。
    だが、それは同時に何かに終止符を打った
    証でもあるのだ。

    僕はあの日、白ブリーフを卒業した。



     
     
     
    心温まるハートフルな日常エピソードを綴ります。

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