
奪われたアンカー【学園もの】
【あらすじ】
体育祭の最終種目「リレー」の直前に、主人公・ミナトはアンカー走者のクラスメイト・コウガに嫌がらせを繰り返す。その真意とは…?
体育祭のリレー直前。僕は、幼馴染のコウガが隠し持っていた白い錠剤を、足で踏み潰した。
「てめぇ...何しんだ!」
コウガの語気が荒い。
僕はポケットからハサミを取り出し、コウガのスパイクへ向かう。
「おい待て、やめろ!」
ためらわずにハサミを入れる。紐が弾ける感触が手に残る。
「俺のスパイクが...ッ!」
コウガが僕の胸ぐらを掴み上げる。
「ふざけんな! これじゃ走れねぇだろ!」
「…諦めろ。もう走れない」
「スパイクなんかなくても… 裸足でも走ってやるよ!」
ダメだ。もっと嫌われてでも、止めるしかない。
「あと、アンカーは僕が走る」
僕はそう言って、コウガの手からハチマキをひったくる。
「はぁ!? お前みたいなノロマに務まるかよ! 返せ!」
僕はかまわずハチマキを頭に巻き、嘲笑うように背を向ける。
「返してほしけりゃ、追いついてみろよ」
そう言い捨てて、僕は入場ゲートへ走り出す。
「おい待ちやがれ!!」
コウガが怒りに任せて一歩踏み出した瞬間。
「ぐ、がぁあっ...!」
背後で、コウガが崩れ落ちる音がした。
僕は振り返らない。
背後から、クラスメイトたちが騒ぐ声が聞こえる。
「おい、コウガが倒れた!」
「ミナトのせいだ!」
「あいつ最低だな!」
罵声が背中に突き刺さる。
その後、僕がアンカーを走ったリレーは惨敗。クラスは最下位になった。
僕はその場から逃げるように保健室へ向かう。
ドアの隙間から中を覗くと、ベッドに座るコウガと、手当てをする先生が見えた。
先生の口調は厳しい。
「アキレス腱断裂寸前よ。これでリレーを走ってたら、二度と元通りには走れなくなってたわ」
よかった。最悪の事態は回避できたんだ。
僕は無言で立ち去ろうとする。
「...おい」
ドア越しに呼び止められ、僕は足を止める。
「余計な真似しやがって」
相変わらずの憎まれ口。けれど、その声にもうトゲはなかった。
僕は何も答えず、その場を後にする。
あいつがまた走れるなら、それでいい。