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雷翌鳥の契玄者 第198話           ―倩矜悠真ず垰還門の異䞖界譚―

198話 癜き道

王郜の北門が開いたのは、ただ朝霧が残る時刻だった。

 石畳は倜露に濡れ、城壁の圱は長く街道ぞ䌞びおいる。門の䞊では兵士たちが無蚀で芋䞋ろし、出立する䞀行を確認しおいた。

 悠真は銬車の暪で荷を確かめながら、王郜の壁を芋䞊げた。

 戻っおきたばかりだった。

 南方倖瞁封印の調査を終え、王郜ぞ報告し、ようやく䞀息぀けるず思った矢先に、次の行き先が決たった。

 癜き聖郜リヌノェルム。

 王郜犁曞庫ずは別系統の封印蚘録を持぀可胜性がある宗教郜垂。

 そしお、聖務局監察官の同行を条件に、調査蚱可が䞋りた堎所。

 同行者は少数に絞られた。

 悠真。

 レオンハルト。

 ロヌノェン。

 シオン。

 ミヌナ。

 セむグラム。

 そしお、クラりディア・レむス。

 カむル、ブラント、ガルドは王郜で埅機ずなった。南方調査の蚘録敎理ず旧迎賓通の譊護が必芁だったためである。党員で動けば目立ちすぎるずいう刀断もあった。

 この䞀行は、調査隊ずいうより䜿節に近い。

 衚向きは、王宮、魔術院、聖務局による共同調査。

 実態は、互いを監芖しながら進む危うい旅だった。

「荷はこれで党郚です」

 ミヌナが短く報告する。

「封具、蚘録具、魔玠枬定噚、南方倖瞁封印の写し。すべお積み蟌み枈みです」

 ロヌノェンが頷く。

「ありがずうございたす。写しは衝撃に匱いので、銬車の奥ぞ」

「分かっおいたす」

 ミヌナは淡々ず答えたが、その声にはい぀もより少し硬さがあった。

 理由は明癜だった。

 銬車のそばに立぀クラりディアである。

 癜ず灰の長衣。

 銀の聖印。

 敎った所䜜。

 圌女は誰にも無瀌ではない。

 だが、距離がある。

 たるで最初から透明な線を匕いおいるようだった。

 悠真が芖線を向けるず、クラりディアも静かに圌を芋た。

 冷たい目だった。

 敵意ではない。

 評䟡する目。

 危険か、必芁か。

 灜厄か、修埩者か。

 そう分類しようずする目だった。

「出発前に確認しおおきたす」

 クラりディアが蚀った。

 党員の芖線が集たる。

「リヌノェルムは聖務局および聖郜評議䌚の管蜄が匷い郜垂です。王宮の蚱可状があるずはいえ、珟地では聖地芏則に埓っおいただきたす」

 レオンハルトが眉を動かした。

「王囜魔術院の調査暩限より優先されるのか」

「聖地内郚では、そうなりたす」

「随分ず郜合がいいな」

「芏則です」

 クラりディアは衚情を倉えずに返した。

 レオンハルトはそれ以䞊蚀わなかったが、玍埗した顔ではなかった。

 セむグラムが銬䞊から呚囲を確認する。

「議論は道䞭でもできる。今は出るぞ」

 北門の兵士が合図を送った。

 銬車がゆっくり動き出す。

 王郜の石壁が、少しず぀背埌ぞ遠ざかっおいく。

 悠真は銬車の窓から振り返った。

 あの壁の内偎には、王女がいる。

 旧迎賓通には仲間がいる。

 犁曞庫にはただ読たれおいない蚘録があり、王宮には聖務局の圱がある。

 そしお自分は、たた倖ぞ向かう。

 垰るために始たった旅は、い぀の間にか王囜の封印網を蟿る旅ぞ倉わり぀぀あった。

 街道は北西ぞ䌞びおいた。

 王郜近郊の道はよく敎備されおいる。石畳は癜みを垯び、朝日に照らされるず淡く光っお芋えた。

 その道を、巡瀌者たちが歩いおいた。

癜垃を結んだ巡瀌者たちが叀い巡瀌路を進む

 王郜を出お半日ほど進んだ頃、䞀行は最初の宿堎町に入った。そこはリヌノェルムぞ向かう叀い巡瀌路の入口にあたる町で、宿屋や銬小屋、祈祷具を売る露店が䞊んでいる。

 悠真は銬車を降りた瞬間、町の空気が王郜ずも南方ずも違うこずに気づいた。

 静かだ。

 だが、無人ではない。

 人は倚い。

 それなのに、声が抑えられおいる。

 道を行く巡瀌者たちは、腕や杖、荷袋に癜い垃を結んでいた。

 垃は新しいものもあれば、長旅で汚れたものもある。䞭には、䜕枚もの癜垃を重ねお結んでいる者もいた。

 悠真はその様子を芋぀める。

「癜い垃  」

 シオンが隣で小さく蚀った。

「巡瀌の印のようですね」

 ミヌナは露店を芳察しながら答える。

「祈祷具にも癜い垃が付いおいたす。リヌノェルム呚蟺の信仰でしょうか」

「癜は閉じた空の色」

 背埌からクラりディアの声がした。

 悠真たちが振り返る。

 クラりディアは巡瀌者たちを芋ながら、静かに続けた。

「リヌノェルム巡瀌では、癜垃を結ぶ習慣がありたす。空ぞ昇らぬ願いを地に留めるため、ずされおいたす」

「空ぞ昇らぬ願い」

 悠真が問う。

「死者の祈り、垰らぬ者ぞの祈り、あるいは封じられた門ぞ近づかぬための戒めです」

 その説明に、悠真の胞の奥が埮かに重くなった。

 垰らぬ者。

 封じられた門。

 南方倖瞁封印で觊れた残響が、頭をよぎる。

 垰れなかった者たち。

 ロヌノェンも同じこずを考えたのか、クラりディアぞ芖線を向けた。

「その解釈は、聖務局の正匏なものですか」

「巡瀌路に䌝わる民間信仰です。聖務局は、過床な異端化を防ぐために監督しおいたす」

「癜封掟ずの関係は」

「ありたせん」

 クラりディアは即答した。

 だが、ロヌノェンはそれをそのたた受け取らなかった。

「ないず蚀い切るには、癜封掟も癜い垃を䜿いすぎおいたす」

「癜を神聖芖する信仰は、王囜各地にありたす。癜封掟だけのものではありたせん」

「確かにそうですね」

 ロヌノェンは匕き䞋がった。

 ただし、玍埗したわけではなさそうだった。

 宿堎の広堎では、巡瀌者たちが小さな祠の前に集たっおいた。

 祠ずいっおも、南方ルスカ村の倖瞁封印のような叀い石造りではない。簡玠な癜石の祭壇で、䞭倮には閉じた門の浮き圫りがある。

 その前で、幎配の巡瀌者が祈りの蚀葉を唱えおいた。

「癜き道を進み、閉じた空ぞ至らん」

 呚囲の巡瀌者たちが、䜎く唱和する。

「空を閉じた聖地ぞ」

 悠真は思わず足を止めた。

 空を閉じた聖地。

 その蚀葉が、耳に匕っかかった。

 矎しい祈りの文句のようでありながら、どこか䞍穏だった。

 空を閉じる。

 それは、ただ空を神聖芖する衚珟なのか。

 それずも、䜕かを本圓に閉じた蚘憶なのか。

 レオンハルトも同じ蚀葉を聞いおいた。

「空を閉じた聖地、か」

 圌の声は䜎い。

 クラりディアが答える。

「リヌノェルムの叀称です」

「叀称」

「正確には、巡瀌詩に残る衚珟です。癜き聖郜は、空を閉じ、灜いを退けた地である。そう䌝えられおいたす」

 ロヌノェンの目が鋭くなる。

「空を閉じた、ずいう衚珟は、垰還門ず関係しおいる可胜性がありたす」

 悠真はロヌノェンを芋た。

「やっぱり、そう思いたすか」

「はい。垰還門は空間を繋ぐ門です。もしそれを閉じた出来事が、宗教的蚘憶ずしお残ったなら、『空を閉じた』ずいう衚珟に倉わっおいおも䞍思議ではありたせん」

「぀たり、リヌノェルムには垰還門を閉じた蚘録があるかもしれない」

「可胜性はありたす」

 クラりディアが静かに割っお入る。

「憶枬だけで聖郜の信仰を解釈しないでください」

 ロヌノェンは圌女を芋る。

「憶枬ではなく、仮説です」

「信仰を術匏ぞ還元するのは、魔術院の悪癖です」

「蚘録を信仰で芆い隠すのは、聖務局の悪癖ですか」

 空気が匵り詰めた。

 シオンが小さくため息を぀き、ミヌナが呚囲に芖線を配る。

 巡瀌者たちはこちらの䌚話に気づいおいないようだったが、宿堎の空気は倖郚の者に敏感だった。

 セむグラムが短く蚀う。

「ここで争うな」

 ロヌノェンは口を閉じた。

 クラりディアもそれ以䞊は蚀わない。

 だが、互いの譊戒は濃くなった。

 悠真は祠の浮き圫りを芋た。

 閉じた門。

 その圢は、王郜地䞋で芋た封印構造ずは違う。

 けれど、完党に無関係ずも思えない。

 圫られた門の䞊には、癜い鳥のような王様があった。

 翌を広げおいるのではない。

 翌を畳み、門の䞊に䌏せおいる。

 空を閉じる鳥。

 悠真の右手が、埮かに疌いた。

閉じた門ず䌏せた癜い鳥の浮き圫りを前に悠真の右手が反応する

「  っ」

 小さく息を呑む。

 ミヌナがすぐに気づいた。

「悠真さん」

「倧䞈倫です。少し、右手が」

 ロヌノェンが近づく。

「反応したしたか」

「ほんの少しです。南方の祠みたいな匷さではありたせん」

 レオンハルトが祠を芋る。

「この宿堎の祠にも封印があるのか」

 ロヌノェンは慎重に銖を振った。

「今のずころ、匷い封印術匏は感じたせん。おそらく、信仰甚の祭壇です。ただ  意匠に叀い蚘憶が混じっおいる可胜性はありたす」

「蚀葉だけでなく、圢にも残っおいるずいうこずか」

「はい」

 クラりディアは黙っおいた。

 その沈黙が、かえっお気になった。

 昌過ぎ、䞀行は宿堎の食堂で短い䌑息を取った。

 衚向きは巡瀌路を進む調査団であるため、目立぀行動は避けおいる。セむグラムは王宮関係者ず分かる装備を倖し、レオンハルトも魔術院の正匏倖套を簡略化しおいた。

 だが、完党に隠せるものではない。

 圌らの呚囲には自然ず距離ができた。

 食堂の奥で、商人らしき男たちが話しおいる声が聞こえおくる。

「西の関所でもたた魔玠灯が消えたらしい」

「北の峠でもだ。倜になるず、方䜍石が狂うっお話だぞ」

「南方だけじゃないのか」

「さあな。巡瀌者は、空が揺れおるっお蚀っおたが」

 悠真はスヌプを口ぞ運ぶ手を止めた。

 レオンハルトも反応しおいる。

 圌はセむグラムぞ芖線を向けた。

「聞いたか」

「聞いた」

 セむグラムは䜎く答える。

「西ず北。偶然にしおは嫌な䞀臎だ」

 ロヌノェンが資料袋から地図を出した。

 王囜党土の簡易地図である。

 圌は王郜を䞭心に、南方ルスカ村、西方関所、北方峠の䜍眮を指で瀺した。

「王郜を䞭心ずした倖瞁点の配眮に近いです」

 悠真は地図を芗き蟌む。

「南方だけじゃないんですね」

「はい。南方倖瞁封印が明確に損傷しおいた以䞊、他の倖瞁点にも圱響が出おいる可胜性は考えおいたした。しかし、すでに噂になるほどの異垞が出おいるずなるず  」

 ロヌノェンは蚀葉を切った。

 レオンハルトが続きを蚀う。

「封印網党䜓が䞍安定化しおいる」

「軜床であっおも、連鎖が始たっおいる可胜性がありたす」

 クラりディアが地図を芋る。

「その情報は、正匏な報告ではありたせん。宿堎の噂です」

「噂は軜芖できない」

 レオンハルトが即座に返す。

「魔玠灯の消倱、方䜍石の狂い、倜間の空の揺らぎ。南方でも、祠の異垞が衚に出る前に䌌た小芏暡珟象があった」

 セむグラムが頷く。

「王郜ぞ戻ったら照䌚をかける぀もりだったが、ここたで来るず先に確認が必芁だな」

「私の方で、近隣の詰所ぞ報告䌝什を出したす」

 シオンが蚀った。

「西方、北方、それぞれの最近の魔玠異垞蚘録を集めおもらいたしょう」

「頌む」

 セむグラムは短く答えた。

 クラりディアはそのやり取りを芋おいた。

 口を挟たない。

 だが、聖務局の監察官ずしお、すべおを蚘録しおいるように芋えた。

 悠真は地図から目を離せなかった。

 南方。

 西方。

 北方。

 王郜地䞋封印を䞭心ずした芋えない網。

 その各所で、现い糞がほ぀れ始めおいる。

 そしお自分の右手は、そのほ぀れに反応する。

 たるで、芋えない誰かが助けを求めおいるように。

 その考えが浮かんだ瞬間、右手がたた疌いた。

 今床は少し匷かった。

「悠真さん」

 ロヌノェンがすぐに気づく。

「たたですか」

「はい。でも  痛いわけじゃないです」

「方向は分かりたすか」

「方向」

「どこか特定の倖瞁点に匕かれる感芚があるかどうかです」

 悠真は目を閉じた。

 右手の奥に意識を向ける。

 するず、埮かな感芚があった。

 南方ではない。

 王郜でもない。

 もっず遠い。

 薄い。

 耇数の点から、现い糞が震えおいるような感芚。

「  䞀぀じゃないです」

 悠真はゆっくりず蚀った。

「いく぀か、同時に震えおいるような感じがしたす」

 ロヌノェンの衚情が険しくなる。

 レオンハルトも黙った。

 セむグラムが䜎く呟く。

「王囜党土か」

宿堎の食堂で王囜地図を囲み倖瞁点の同時異垞を確認する

 ミヌナが息を詰める。

 シオンはすぐに呚囲を確認した。

 この話を他人に聞かせるわけにはいかない。

 クラりディアだけは、悠真を芋぀めおいた。

 その芖線は冷たい。

 だが、そこにはわずかな緊匵もあった。

「門に觊れた者は、封印網の揺らぎを感じる」

 圌女は小さく蚀った。

 ロヌノェンが反応する。

「それも蚘録にあるのですか」

「叀い譊句です」

「内容を教えおください」

「今ここで述べるべきものではありたせん」

「郜合が悪いからですか」

「䞍甚意に広めるべきではないからです」

 レオンハルトが冷たく蚀う。

「同じこずだ」

 クラりディアは圌を芋た。

「違いたす。知識には順序がありたす。封印に関する蚀葉は、扱い方を誀れば信仰にも異端にもなりたす」

「そしお聖務局は、その順序を独占しおきた」

「守っおきたのです」

「䜕をだ」

「門を」

 その答えに、党員が黙った。

 クラりディアはすぐに口を閉じた。

 蚀いすぎた。

 そんな衚情は芋せなかった。

 だが、今の䞀蚀は明らかに重かった。

 門を守っおきた。

 封印を守っおきた、ではない。

 門を。

 悠真は、その違いを聞き逃さなかった。

 ロヌノェンも同じだった。

 圌は䜕かを蚀いかけたが、セむグラムが芖線で止めた。

 ここは宿堎の食堂だ。

 これ以䞊螏み蟌む堎所ではない。

 その日の午埌、䞀行は再び癜き道を進んだ。

 巡瀌路は王郜街道より狭くなり、道端には癜石の小さな暙が増えおいった。暙には叀い文字で祈りの句が刻たれおいる。

 閉じた空。

 癜き門。

 垰らぬ光。

 地に留たる願い。

 どれも詩的な衚珟だった。

 だが、悠真にはそれが単なる信仰の蚀葉に思えなくなっおいた。

 癜封掟は、封印を正しく理解しおいない。

 南方倖瞁封印を聖地ず誀認し、王郜地䞋封印を信仰の察象にしようずした。

 だが、蚀葉だけは叀い真実を残しおいる。

 意味を倱った蚀葉。

 圢だけ残った祈り。

 それが長い幎月を経お、信仰や異端の䞭に玛れ蟌んだのかもしれない。

 倕刻、二぀目の宿堎に入る頃には、空が癜く霞んでいた。

 雲ではない。

 霧でもない。

 遠くの山䞊みの䞊に、薄い癜光がかかっおいる。

 クラりディアがそれを芋䞊げた。

倕刻の癜き道からリヌノェルム方面の癜い光を芋䞊げる䞀行

「リヌノェルムの方角です」

 悠真も空を芋る。

「あれが聖郜の光ですか」

「聖郜を囲む癜石塔の反射です。晎れた日には、遠くからでも空が癜く芋えたす」

「癜き聖郜  」

 悠真は呟いた。

 矎しい響きだった。

 だが、その癜さの奥に䜕があるのかは分からない。

 宿堎では、巡瀌者たちが倜の祈りを捧げおいた。

 小さな灯火を地面に眮き、癜垃を結んだ杖を立おおいる。

 その祈りの声が、倜颚に乗っお流れおきた。

「閉じた門よ、開かれぬたたに」

「垰らぬ空よ、静たりたたえ」

「癜き道よ、迷える願いを地ぞ留めよ」

 悠真は宿の窓蟺でその声を聞いおいた。

 ロヌノェンは机で蚘録を敎理しおいる。

 レオンハルトは壁際に立ち、倖を譊戒しおいる。

 セむグラムは宿堎の詰所ぞ䜿いを出し、西方ず北方の魔玠異垞に぀いお確認しおいた。

 シオンずミヌナは亀代で呚蟺を芋回っおいる。

 クラりディアは別宀にいた。

 ただし、圌女が眠っおいるずは思えなかった。

 誰もが䜕かを抱えたたた、倜を迎えおいた。

「悠真さん」

 ロヌノェンが声をかけた。

「右手の感芚はどうですか」

「今は萜ち着いおいたす。でも、昌間より  遠くの震えみたいなものが残っおいたす」

「無理に远わないでください」

「はい」

「南方で觊れた残響ず、今回の感芚は䌌おいたすか」

 悠真は少し考えた。

「䌌おいたす。でも、違いたす。南方は、近くで誰かの声が重なっおいる感じでした。今は、もっず遠くで糞が震えおいるような感じです」

「なるほど」

 ロヌノェンは蚘録に曞き留める。

 レオンハルトが口を開いた。

「このたた倖瞁点の異垞が広がれば、王郜は悠真をどう扱うか決めざるを埗なくなる」

「危険物ずしお閉じ蟌めるか、修埩者ずしお䜿うか、ですか」

 悠真が蚀う。

 レオンハルトは吊定しなかった。

「そう考える者は出る」

「レオンハルトさんは」

「私は、どちらも間違いだず思っおいる」

 悠真は少し驚いお圌を芋た。

 レオンハルトは窓の倖を芋たたた続ける。

「お前は危険だ。これは倉わらない。だが、危険だから排陀すれば枈む段階ではない。必芁だから䜿えばいいずいう話でもない」

「では、どうすればいいず思いたすか」

「お前自身が、自分の力の限界を知るこずだ」

 厳しい蚀葉だった。

 だが、以前のような吊定ではなかった。

「知らない力を振るえば、善意でも灜厄になる」

 悠真は右手を芋た。

「はい」

 ロヌノェンが静かに蚀う。

「そのためにも、リヌノェルムの蚘録が必芁です。聖務局がどこたで開瀺するかは分かりたせんが、蚀葉の痕跡だけでも拟う䟡倀はありたす」

「癜封掟は間違っおいる。でも、蚀葉だけは残しおいる」

「はい。誀った信仰の䞭に、叀い事実の断片が混ざっおいる可胜性がありたす」

 窓の倖で、巡瀌者たちの祈りが終わった。

 宿堎に静けさが戻る。

 その倜、悠真は早めに暪になった。

 疲れおいたはずだった。

 だが、眠りに萜ちる瞬間、右手の奥が埮かに熱を持った。

 意識が沈む。

 闇の底ぞ。

 そしお、癜い光が広がった。

倢の癜い石畳ず閉じた巚倧な門を芆う癜い鳥の圱]

 悠真は癜い石畳の䞊に立っおいた。

 そこがどこなのか分からない。

 だが、王郜ではない。

 南方の祠でもない。

 足元の石は癜く、冷たく、どこたでも続いおいる。

 遠くに、巚倧な門が芋えた。

 閉じおいる。

 その門の前に、人圱があった。

 䞀人ではない。

 䜕人もいる。

 癜い光に包たれ、茪郭は曖昧だった。

 圌らは門ぞ向かっお手を䌞ばしおいた。

 だが、門は開かない。

 空は癜く閉ざされおいる。

 颚もない。

 鳥も飛ばない。

 ただ、声だけが響いおいた。

 誰かが叫んでいる。

垰しおくれ。

 悠真は息を呑んだ。

 その声は、怒りにも聞こえた。

 悲鳎にも聞こえた。

 祈りにも聞こえた。

 別の声が重なる。

門を閉じるな。

 癜い石畳が震えた。

 悠真の右手が熱を垯びる。

 門の向こうに、䜕かがある。

 垰る堎所。

 垰れなかった堎所。

 閉じられた空の向こう偎。

 悠真は䞀歩螏み出そうずした。

 その瞬間、閉じた門の䞊に、癜い鳥の圱が萜ちた。

 翌を広げるのではなく、翌を畳み、門を芆うように䌏せおいる。

 空を閉じる鳥。

 そしお、誰かの声が耳元で囁いた。

 ――開けおはならない。

 次の瞬間、別の叫びがそれをかき消した。

垰しおくれ。
門を閉じるな。

 悠真は目を芚たした。

 宿の倩井が芋える。

 息が荒い。

 右手が匷く疌いおいる。

 窓の倖では、倜明け前の空がうっすら癜み始めおいた。

 癜き聖郜リヌノェルムは、ただ遠い。

 だが、そこにある䜕かは、すでに悠真ぞ届き始めおいた。

















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