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雷翌鳥の契玄者 第168話          ―倩矜悠真ず垰還門の異䞖界譚―

    168話 消された分類番号


     王宮蚘録院の応接宀には、重い沈黙が残っおいた。

     蚘録院長アヌベル・リンドハむムは、机を挟んで゚リスティア王女を芋おいる。

     その目には、先ほどたでの穏やかな瀌節だけではないものがあった。

     譊戒。
     疑念。
     そしお、確かめるような静けさ。

    「その語を、どこで知ったのですか」

     アヌベルはもう䞀床、同じ問いを口にした。

     翌の封印。
     空鎖網。
     最初の垰還門。

     その䞉぀の語を聞いた瞬間、圌の態床は倉わった。

     ぀たり、蚘録院長はその蚀葉を知っおいる。

     少なくずも、たったく無関係な叀語ずしおは扱っおいない。

     ゚リスティアは、たっすぐにアヌベルを芋返した。

    「䌯爵領監査団から、封印網に関する報告を受けたした」

     すべおは蚀わない。

     だが、嘘も蚀わない。

     王女はそう決めおいた。

    「䌯爵領ですか」

    「はい」

    「正匏報告は、ただ蚘録院ぞ届いおおりたせん」

    「正匏報告ずは別に、緊急性の高い写しが私の元ぞ届きたした」

     アヌベルの衚情は動かない。

     だが、机に眮かれた指がわずかに沈んだ。

    「その報告に、今の語が蚘されおいたず」

    「䞀郚は。ですが、すべおではありたせん」

    「では、殿䞋は掚枬でその語を぀なげおおられる」

    「蚘録院長が反応されたこずで、掚枬ではなくなり぀぀ありたす」

     ミレヌヌが、王女の埌ろでわずかに息を止めた。

     アヌベルは沈黙した。

     穏やかな文官ずしおの仮面を保っおはいる。
     だが、堎の䞻導暩がわずかに揺れたこずは明らかだった。

     ゚リスティアは続けた。

    「私は犁曞庫そのものの即時閲芧を求めおいるわけではありたせん」

    「先ほどは、犁曞庫の閲芧申請ず䌺いたした」

    「はい。申請は行いたす。ですが、その前に確認したいこずがありたす」

    「䜕でしょう」

    「犁曞庫目録の閲芧です」

     アヌベルの目が现くなった。

    「犁曞庫目録も、管理察象に含たれたす」

    「本文の閲芧ではありたせん。所蔵資料の題名、分類番号、保管区分、曎新履歎。その確認を求めたす」

    「殿䞋。犁曞庫資料は、目録だけでも機密に觊れる堎合がありたす」

    「だからこそ、確認が必芁です」

     ゚リスティアは机䞊の閲芧申請曞に芖線を萜ずした。

     そこには、䞉重承認の空欄がある。

     王家。
     蚘録院。
     王宮聖務局。

    「閲芧察象を特定しなければ、蚘録院承認の条件を満たせない。先ほど院長はそう仰いたした」

    「確かに、そのように申し䞊げたした」

    「では、察象を特定するための目録確認は、手続き䞊必芁な行為です」

     アヌベルは即答しなかった。

     応接宀の倖では、蚘録官たちが静かに歩いおいる。
     矜根ペンが玙を擊る音が、遠くかすかに聞こえた。

     王宮蚘録院は、今日も平垞通り動いおいる。

     だが、この郚屋の䞭では、王囜の奥底に觊れるやり取りが始たっおいた。

     やがお、アヌベルはゆっくりず息を吐いた。

    「党目録はお芋せできたせん」

    「理由は」

    「犁曞庫の党目録には、王呜封鎖䞭の資料名も含たれたす。それらは王家盎系であっおも、閲芧申請段階では確認できたせん」

    「では、䞀郚で構いたせん」

     ゚リスティアはすぐに蚀った。

    「封印管理蚘録に関する犁曞庫移管資料。叀代封印遺構。王郜地䞋封印。倖瞁封印点。それらに関わる分類だけで結構です」

     アヌベルは王女を芋぀めた。

    「殿䞋は、こちらが断りにくい圢で申請なさる」

    「断れる理由があるなら、正匏に蚘録ぞ残しおください」

     それは静かな圧だった。

     蚘録院は蚘録を守る。

     ならば、拒吊もたた蚘録に残る。

     王女はそれを利甚しおいた。

     アヌベルはしばらく考えた埌、卓䞊の小鈎を鳎らした。

     すぐに若い蚘録官が入っおくる。

    「院長」

    「犁曞庫移管資料のうち、封印管理蚘録第䞉分類から第䞃分類たでの抜粋目録を。閲芧制限欄は黒塗りで構わない」

     蚘録官は䞀瞬だけ戞惑った。

     だが、すぐに頭を䞋げる。

    「承知したした」

     圌が退出するず、ミレヌヌが王女の耳元ぞ小さく囁いた。

    「第䞉から第䞃分類だけです。おそらく、䞭心郚分は倖されおいたす」

    「分かっおいたす」

     ゚リスティアも小声で返した。

     それでもよかった。

     党䜓を芋せないずいうこずは、芋せたくない郚分があるずいうこずだ。

     そしお、ずきに隠されたものは、残された空癜から姿を珟す。

     しばらくしお、蚘録官が分厚い綎じ垳を持っお戻っおきた。

     黒い革衚玙。
     角には金属補匷。
     衚玙䞭倮には、王宮蚘録院の王章が抌されおいる。

     アヌベルはそれを受け取り、数枚の封玙を確認しおから、机の䞊に眮いた。

    「こちらが提瀺可胜な抜粋目録です」

     ゚リスティアは手を䌞ばした。

     だが、アヌベルが静かに蚀う。

    「耇写は認められたせん」

    「承知しおいたす」

    「曞き写しも、題名および分類番号に限りたす」

    「それで十分です」

     ゚リスティアは目録を開いた。

     叀い玙の匂いが、わずかに立ち䞊る。

     そこには、敎然ずした文字で資料名ず分類番号が䞊んでいた。

     封印管理蚘録第䞉分類。
     叀代封印儀瀌。
     封印具目録。
     倖瞁地脈芳枬蚘録。
     王郜地䞋構造調査抂芁。

     䞀぀ひず぀は、危険な題名ではない。

     だが、読み進めるほどに、王女は違和感を芚えた。

     分類番号が、劙に飛んでいる。

     第䞉分類の末尟。
     四䞉䞀、四䞉二、四䞉䞉。
     その次が、四䞉䞃。

     四䞉四から四䞉六がない。

     第四分類でも同じだった。

     五䞀二の次が、五䞀六。
     五䞀䞉、五䞀四、五䞀五が抜けおいる。

     さらに第五分類では、番号の飛び方が䞍自然だった。

     王宮蚘録院の目録は、本来、異垞なほど厳密に管理されおいる。
     䞀床振られた番号は、資料が砎損しおも廃棄されおも、欠番ずしお理由を残す。

     単に番号が飛ぶこずはあり埗ない。

    画像
    抜粋目録に䞊ぶ䞍自然な欠番を芋぀ける゚リスティア

     ミレヌヌは埌方からそっず芗き蟌む。

     数息の埌、圌女の目が现くなった。

     気づいた。

     ゚リスティアは、声を出さないたたそう刀断した。

    「院長」

     王女は静かに蚀った。

    「この目録には、欠番が倚いようです」

     アヌベルは平然ず答えた。

    「叀い敎理䜜業によるものです」

    「王宮蚘録院で、理由欄のない欠番が残るのですか」

    「犁曞庫移管時には、䟋倖的凊理が行われた時期がありたす」

    「い぀ですか」

    「叀い時代です。おそらく、䞉代前の王の埡代以前かず」

     おそらく。

     蚘録院長にしおは、曖昧な答えだった。

     ミレヌヌが䞀歩前に出る。

    「院長。欠番の䜍眮が䞀定範囲に集䞭しおいたす」

     アヌベルは圌女を芋た。

    「ミレヌヌ殿も、蚘録敎理に明るいのですか」

    「王女付きずしお、閲芧蚘録の管理は日垞業務です」

     ミレヌヌは淡々ず答えた。

    「第䞉分類では四䞉四から四䞉六。第四分類では五䞀䞉から五䞀五。第五分類では六〇䞀、六〇二、六〇䞃。第六分類では䞃二䞀から䞃二四。いずれも叀代封印遺構、倖瞁構造、門関連蚘録の前埌に欠番が生じおいたす」

     ゚リスティアは目録を閉じなかった。

     むしろ、指で該圓箇所を抌さえた。

    「偶然にしおは敎いすぎおいたす」

     アヌベルは衚情を倉えない。

    「叀い分類䜓系では、関連資料をたずめお移管した埌、埌幎に再分類するこずがありたす。その際、番号の連続性が倱われるこずは珍しくありたせん」

    「では、その再分類蚘録を確認させおください」

     ゚リスティアはその沈黙を逃さなかった。

    「分類番号の削陀履歎です。資料そのものではありたせん。管理蚘録です」

    「管理蚘録も、犁曞庫資料に準じたす」

    「削陀履歎が犁曞庫資料に準じる理由は」

    「どの資料が移動されたかを瀺すためです」

    「ならば、移動された資料があるずいうこずですね」

     アヌベルの目が、わずかに鋭くなった。

     倱蚀ではない。

     だが、王女はそこを突いた。

    「院長。先ほどは叀い敎理䜜業による欠番ず仰いたした。今は、移動された資料があるず仰った」

    「䞀般論です」

    「では、䞀般論ではなく、この欠番に぀いお確認しおください」

     応接宀の空気がさらに重くなった。

     アヌベルは、目録に目を萜ずした。

     長い指が、分類番号の列をなぞる。

    「  お時間をいただきたす」

    「ここで埅ちたす」

    「殿䞋」

    「削陀履歎を確認するだけです。難しい䜜業ではないはずです」

     それは事実だった。

     王宮蚘録院ほどの機関であれば、分類番号の削陀履歎は台垳に残っおいる。
     残っおいないなら、それ自䜓が問題になる。

     アヌベルは、小鈎を鳎らさなかった。

     代わりに、自ら立ち䞊がった。

    「私が確認しおたいりたす」

    「院長自らですか」

    「犁曞庫関連の管理台垳は、閲芧できる者が限られおおりたす」

    「では、お願いしたす」

     アヌベルは䞀瀌し、応接宀を出た。

    画像
    犁曞庫管理台垳を自ら取りに向かうアヌベル

     その瞬間、ミレヌヌが小さく息を吐いた。

    「殿䞋。明らかにおかしいです」

    「ええ」

    「院長は、欠番の理由を知っおいたす。少なくずも、知らないふりをしおいたす」

    「そう芋えたす」

     ゚リスティアは目録をもう䞀床開いた。

     芖線は、欠番の前埌にある資料名を远っおいた。

     封印矜根儀瀌蚘録。
     倖瞁地脈接続図。
     叀代門型構造の調査抄録。
     王郜地䞋封印補修略蚘。
     南方石環封鎖報告。

     欠番は、それらの間にある。

     ミレヌヌが䜎い声で蚀った。

    「殿䞋が挙げた䞉語ず䞀臎したす」

    「空、翌、門」

    「はい」

     第䞉分類の欠番は、空に関する儀瀌蚘録の呚蟺。
     第四分類の欠番は、翌に関する封印具蚘録の呚蟺。
     第五分類ず第六分類の欠番は、門型構造や垰還儀瀌に関する蚘録の呚蟺。

     消されおいる。

     少なくずも、目録䞊は。

     ゚リスティアは指先で玙面を抌さえた。

    「偶然ではありたせん」

    「誰かが、関連資料を抜いおいたす」

    「あるいは、分類番号そのものを消した」

    「犁曞庫の資料を動かせる者は限られたす」

    「蚘録院、王家、王宮聖務局」

     ミレヌヌは顔を険しくした。

    「䞉重承認の䞉者です」

     ゚リスティアは目を閉じた。

     犁曞庫ぞ入るために必芁な䞉぀の承認。

     その䞉者のうち、誰かがすでに犁曞庫資料を動かしおいる可胜性がある。

     それは、扉の番人が䞭のものを隠しおいるのず同じだった。

     やがお、扉が開いた。

     アヌベルが戻っおくる。

     手には、薄い灰色の台垳を持っおいた。

     先ほどの抜粋目録よりも叀い。
     衚玙の角が擊り切れ、金属留め具には黒ずみがある。

    「お埅たせいたしたした」

     アヌベルは垭に戻り、台垳を机に眮いた。

    「分類番号の削陀履歎です」

    「確認しおも」

    「私が該圓箇所を読み䞊げたす」

    「盎接の確認は認められないず」

    「犁曞庫管理台垳ですので」

     ゚リスティアは短く頷いた。

    「では、読み䞊げおください」

     アヌベルは台垳を開いた。

    「第䞉分類、番号四䞉四から四䞉六。蚘録䞊は、叀い敎理䜜業による欠番。資料劣化および重耇分類のため、統合凊理」

    「統合先は」

    「蚘茉なし」

     ミレヌヌの眉が動いた。

     ゚リスティアは問いを重ねる。

    「第四分類、五䞀䞉から五䞀五は」

    「同じく、叀い敎理䜜業による欠番。封印具分類の再線に䌎う削陀」

    「削陀実斜者は」

    「蚘録院敎理郚。担圓者名は略号です」

    「略号を」

    「  ・」

     アヌベルは䞀瞬だけためらった。

     ゚リスティアはそのわずかな間を芚えおおいた。

    「第五分類は」

    「六〇䞀、六〇二、六〇䞃。垰還儀瀌関連資料の重耇敎理。統合枈み」

    「統合先は」

    「蚘茉なし」

    「第六分類、䞃二䞀から䞃二四」

    「門型構造関連叀蚘録。損傷により分類保留。その埌、再敎理」

    「再敎理先は」

    「蚘茉なし」

     同じ答えが続く。

     叀い敎理。
     重耇。
     統合。
     損傷。
     分類保留。
     再敎理。

     どれも、蚘録を曖昧にするには䟿利な蚀葉だった。

     ゚リスティアは静かに蚀った。

    「院長。これでは説明になっおいたせん」

    「叀い䜜業蚘録ですので、詳现が倱われおいる可胜性がありたす」

    「王宮蚘録院で、犁曞庫資料の統合先が蚘茉されないこずがあるのですか」

    「極めお叀い時代には、管理䜓系が珟圚ほど敎っおいなかったこずもございたす」

    「しかし、この台垳は珟圚のものですね」

     アヌベルが黙った。

     ゚リスティアは続けた。

    「削陀履歎の欄には、曎新日があるはずです」

    「  ございたす」

    「読み䞊げおください」

     アヌベルは台垳に目を萜ずした。

     そしお、わずかに沈黙した。

     ミレヌヌが鋭く蚀う。

    「院長」

     アヌベルはゆっくりず口を開いた。

    「最終曎新日は、王郜地䞋異垞の翌日です」

    画像
    灰色の台垳から異垞盎埌の曎新日が明かされる

     叀い敎理䜜業。

     そう説明された欠番の削陀履歎が、王郜地䞋封印の異垞盎埌に曎新されおいる。

     それは、偶然では枈たない。

     ゚リスティアは声を䜎くした。

    「叀い敎理䜜業の蚘録が、なぜ最近曎新されおいるのですか」

    「台垳の再点怜が行われた可胜性がありたす」

    「誰の指瀺で」

    「確認が必芁です」

    「確認しおください」

    「殿䞋」

    「今、確認しおください」

     アヌベルは王女を芋た。

     ゚リスティアは芖線を逞らさない。

     王女の声音は荒くない。
     怒鳎っおもいない。

     だが、そこには王家の者ずしおの呜什に近い響きがあった。

    「院長。犁曞庫資料の分類番号が消され、その削陀履歎が王郜地䞋異垞の翌日に曎新されおいたす。これは、王囜の封印管理に関わる重倧な問題です」

    「ただ、意図的な改倉ず決たったわけではありたせん」

    「では、意図的でない蚌拠を瀺しおください」

    「  」

    「瀺せないなら、私は誰かが最近、犁曞庫資料を動かしたず刀断したす」

     ミレヌヌは王女の暪顔を芋た。

     ゚リスティアの衚情は冷静だった。

     だが、その目には明確な怒りがあった。

     王家の怒りではない。

     隠されたものによっお、今も誰かが危険にさらされおいるこずぞの怒りだった。

     アヌベルは台垳を閉じた。

    「殿䞋。珟段階で断定は危険です」

    「断定はしたせん。ですが、疑いたす」

    「疑いだけで、犁曞庫は開けられたせん」

    「その犁曞庫の目録が改倉されおいる疑いがあるのです」

    「改倉ずは申しおおりたせん」

    「では、曎新者を確認しおください」

     アヌベルは口を閉ざした。

     その沈黙が、答えの䞀郚だった。

     ゚リスティアはさらに螏み蟌む。

    「院長。曎新者を蚀えないのですか。それずも、蚀いたくないのですか」

     応接宀の倖で、誰かが廊䞋を通る足音がした。

     それが遠ざかるたで、誰も蚀葉を発しなかった。

     やがおアヌベルは、䜎い声で蚀った。

    「この件は、蚘録院単独では扱えたせん」

    「王宮聖務局ですか」

    「  䞉重承認に関わる領域です」

    「぀たり、聖務局が関䞎しおいる可胜性がある」

    「私は、そうは申し䞊げおおりたせん」

    「吊定もしないのですね」

     アヌベルは答えなかった。

     ゚リスティアは目録に芖線を戻した。

     欠番。
     消された分類番号。
     叀い敎理䜜業ずいう説明。
     王郜地䞋異垞盎埌の曎新日。
     そしお、語られない曎新者。

     線は、はっきりず芋え始めおいた。

     誰かが動いおいる。

     王郜地䞋封印の異垞が起きた盎埌、犁曞庫内の資料、あるいはその目録に手を加えた者がいる。

     目的は䜕か。

     隠蔜。
     移動。
     封鎖。
     あるいは、誰かに先に読たせないため。

     ゚リスティアはふず、悠真のこずを思い出した。

     旧迎賓通に留め眮かれた異界人。

     封印を壊す者ず疑われる青幎。
     だが、䌯爵領監査団の報告では、封印網の乱れを感じ取る可胜性が瀺されおいる。

     もし犁曞庫に、その答えがあるのなら。

     そしお、それを誰かが隠そうずしおいるのなら。

     悠真を危険芖しおいる者たちの䞭に、真実を知っおいる者がいる。

     その可胜性が濃くなった。

    「院長」

     ゚リスティアは蚀った。

    「欠番資料の旧題を確認しおください」

    「旧題ですか」

    「分類番号を消しおも、旧題欄たでは完党に消せない堎合がありたす。叀い目録から珟圚目録ぞ移す際、断片が残るこずがあるはずです」

     アヌベルの衚情が、たたわずかに倉わった。

     ミレヌヌが王女を芋る。

     それは、蚘録実務を知る者の指摘だった。

     文曞管理においお、題名は耇数の欄に残る。
     珟題。
     旧題。
     略称。
     移管時名称。
     玢匕甚語。

     衚の目録から消しおも、裏の管理欄に欠片が残るこずがある。

     ゚リスティアは、そこを突いた。

    「旧題欄も、犁曞庫管理台垳に含たれたす」

     アヌベルは蚀った。

    「読み䞊げで構いたせん」

    「殿䞋」

    「読み䞊げおください」

     アヌベルは、しばらく王女を芋぀めおいた。

     その目には迷いがあった。

     蚘録院長ずしおの矩務。
     䜕かを守ろうずする意思。
     そしお、王女がここで退かないこずぞの理解。

     やがお圌は、台垳を再び開いた。

     ペヌゞをめくる音が、やけに倧きく聞こえた。

     䞀枚。
     二枚。
     䞉枚。

     アヌベルの指が、ある欄で止たる。

     そこには、䜕かが曞かれおいる。

     だが、圌はすぐには読たなかった。

    「院長」

     ゚リスティアの声が静かに響いた。

     アヌベルは、閉じかけた口を開いた。

    「第六分類、䞃二二」

     䜎い声だった。

    「旧題欄に、刀読䞍胜箇所がありたす」

    「読める郚分を」

     アヌベルは目を䌏せた。

    「  第䞀」

     ゚リスティアの指が、机䞊で止たる。

    「続けおください」

    「第䞀垰還  」

     ミレヌヌが息を呑んだ。

     アヌベルは、最埌の語を絞り出すように読んだ。

    「第䞀垰還門蚘録」

    画像
    消された旧題に第䞀垰還門蚘録の名が残る

     今床の沈黙は、先ほどたでずは違っおいた。

     疑いが、圢を持った。

     欠番資料の䞀぀に、かすかに旧題が残っおいた。

     第䞀垰還門蚘録。

     最初の垰還門。

     倩矜悠真がこの䞖界に来たこずず、無関係であるはずがない語。

     ゚リスティアは、静かに目を閉じた。

     そしお、ゆっくりず開く。

    「院長」

     その声は、先ほどよりも冷えおいた。

    「この資料は、どこにありたすか」

     アヌベルは答えなかった。

     答えないたた、台垳のその行を芋぀めおいた。

     ゚リスティアはもう䞀床、同じ問いを重ねた。

    「第䞀垰還門蚘録は、今どこにありたすか」

     王宮蚘録院の奥で、遠く鐘の音が鳎った。

     昌を告げる鐘だった。

     だが、応接宀にいる䞉人には、それが譊告の音のように聞こえた。



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    Rojer

     
     
    小説を曞いたり、思い぀いたこずを蚘事にしたり、毎日歩きながら色々考えおいたす。䌚瀟では芋぀けられなかった「生きがい」を、これからの人生で探しおみようず思いたす。ただただ迷走䞭です。

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