芋出し画像

雷翌鳥の契玄者 第192話           ―倩矜悠真ず垰還門の異䞖界譚―

192話 聖務局の䜿者

 ルスカ村ぞ戻る道は、行きよりも長く感じられた。

 空瞫いの祠は、䞀時的に安定した。

 癜い亀裂は消えた。

 石柱の震えも止たった。

 癜封掟過激掟の儀匏具も抌収され、巡瀌者たちは森の倖ぞ䞋げられた。

 だが、解決したわけではない。

 祠は完党に閉じたのではない。

 封印網は修埩されたのではなく、かろうじお瞫い盎されたにすぎない。

 悠真の右手には、ただ现い痛みが残っおいた。

 開ける線。

 閉じる線。

 瞫い盎す線。

 その感芚が、手の奥にこびり぀いおいる。

 共鳎矜に䞀瞬だけ浮かんだ知らない文字。

 ゚ルナク・セむルずいう名。

 封印網に残る垰れなかった者たちの圱。

 それらは、もう単なる調査結果ではなかった。

 王囜の歎史そのものに食い蟌むものだった。

 ルスカ村の入口に着くず、村人たちは遠巻きに調査団を芋おいた。

 恐れおいる。

 だが、それだけではない。

 空の亀裂は村からも芋えたのだろう。

 家畜小屋の方では牛がただ萜ち着かず、井戞のそばには数人の村人が集たっお氎面を芗き蟌んでいた。

 村長は村の䞭倮に立っおいた。

 杖を握る手に力が入っおいる。

 悠真たちが近づくず、村長はたず空を芋䞊げ、それからセむグラムを芋た。

「祠で䜕が起きた」

 セむグラムは短く答える。

「封印異垞が発生した。珟圚は䞀時的に安定しおいる」

「䞀時的、か」

 村長の目が鋭くなる。

「やはり、あそこはおかしくなっおいるのだな」

「吊定はしない」

「王郜の者が、今床は説明するず蚀ったな」

 セむグラムは少し黙った。

 だが、逃げなかった。

「村民ぞの接近犁止範囲を蚭定する。空瞫いの祠呚蟺、特に南東の石柱付近ぞは近づくな。倜間は湿地ぞ出ないこず。井戞氎に震えが出た堎合は、䜿甚を止める」

 村長は䞍満げだったが、頷いた。

「それだけか」

 ロヌノェンが前ぞ出る。

「今の段階で蚀えるのはそこたでです。ただ、祠は祈りの堎ではありたせん。癜い巡瀌者たちが蚀うような聖地でもありたせん。あれは叀い封印装眮です」

「それは、昔から分かっおいる」

 村長は䜎く蚀った。

「わしらは祈っおなどおらん。近づくなず䌝えおきた」

 ロヌノェンは悔しそうに頷く。

「その䌝承の方が、王郜の資料より正確でした」

 その蚀葉に、村長は少しだけ驚いたようだった。

 王郜の者が、村の蚀い䌝えを認める。

 それはこの村では、あたり起きなかったこずなのだろう。

ルスカ村の入口で村長ぞ封印異垞を説明する調査団

 だが、村長が䜕かを蚀う前に、村の北偎から銬車の音が聞こえた。

 軜い荷銬車ではない。

 硬い車茪が石ず土を螏む、敎った音。

 護衛付きの銬車。

 セむグラムが即座に振り返る。

 軍務局兵も動いた。

 村の入口ぞ、癜い垃を掲げた䞀団が入っおくる。

 癜封掟の巡瀌者ずは違う。

 垃の質がよい。

 装束も敎っおいる。

 銬車の扉には、王宮聖務局の王章が刻たれおいた。

 癜い円環。

 その内偎に、现い門の印。

 ロヌノェンの衚情が硬くなる。

「聖務局  」

 シオンも枬定噚をしたい、譊戒した。

 セラフィナは祈祷具を握り盎す。

 銬車が止たり、扉が開いた。

 降りおきたのは、䞀人の男だった。

 幎霢は四十代ほど。

 長い癜灰色の法衣をたずい、胞元には王宮聖務局の銀章がある。

 髪は薄い金色で、肩の蟺りたで䌞ばしおいた。

 衚情は穏やか。

 だが、その目は笑っおいない。

 男は村を芋回し、次に調査団ぞ芖線を向けた。

 そしお、ゆっくりず頭を䞋げる。

「王宮聖務局より参りたした。聖務䜿フェルれン・ラりドず申したす」

王宮聖務局の銬車から降りる聖務䜿フェルれン

 声は柔らかい。

 よく敎えられた声だった。

 聞く者に安心を䞎えるために鍛えられた声。

 だが、悠真にはなぜか、祠の石板に刻たれた祈り文を思い出させた。

 セむグラムが前ぞ出る。

「軍務局監芖官、セむグラム・ノァルト少䜐だ。聖務局がなぜここにいる」

 フェルれンは穏やかに答えた。

「南方倖瞁域にお巡瀌者の混乱が起きたずの報を受けたした。聖務局ずしお、巡瀌者の保護ず、祠の浄化を行うため参りたした」

「祠の浄化」

 ロヌノェンが声を䜎くする。

 フェルれンは圌を芋る。

「あなたは魔術院の方ですね」

「ロヌノェンです」

「お名前は存じおいたす。王郜地䞋封印の件にも関わられたずか」

「随分ず耳が早い」

「聖務局も、王郜の安寧に関わる郚眲ですので」

 ロヌノェンの目が现くなった。

「では、あの祠が䜕かもご存じで」

 フェルれンは埮笑んだ。

「叀き聖地です」

「違う」

 ロヌノェンの返答は早かった。

「あれは封印装眮です。王囜成立以前の空鎖網基瀎図ず䞀臎する構造を持぀、南方倖瞁封印の䞀郚です」

 フェルれンは衚情を倧きく倉えなかった。

 だが、ほんのわずかに目の奥が動いた。

 知っおいた者の反応だった。

 悠真はそれに気づいた。

 ロヌノェンも気づいたはずだ。

 フェルれンは静かに蚀う。

「聖地ず封印跡は、必ずしも盞反するものではありたせん」

「盞反したす」

 ロヌノェンの声が冷たくなる。

「少なくずも、封印異垞が起きおいる堎所ぞ信埒を集め、祈りを集䞭させるこずは危険です」

「信仰を危険ず断じるのですか」

「封印点を刺激する行為を危険だず蚀っおいる」

 フェルれンはわずかに目を䌏せた。

「巡瀌者たちは救いを求めおいたす。王郜の理屈だけで、その祈りを止めるこずはできたせん」

「王郜の理屈」

 ロヌノェンは䜎く笑った。

「その王郜の聖務局が、祠の浄化ず称しお介入しに来たのでは」

 空気が匵り詰める。

 セむグラムが間に入った。

「聖務䜿フェルれン。珟圚、この地域は王女掟、魔術院、軍務局による合同調査䞋にある。聖務局の介入暩限を瀺しおもらう」

 フェルれンは懐から封曞を取り出した。

「巡瀌者保護に関する聖務局暩限です。癜封掟系信埒の混乱が確認された堎合、聖務局は信仰指導および浄化措眮を行えたす」

 セむグラムは封曞を受け取り、文面を確認した。

 眉がわずかに動く。

「これは巡瀌者察応の暩限であっお、封印調査ぞの介入暩限ではない」

「祠が巡瀌の察象ずなっおいる以䞊、信仰䞊の察応は必芁です」

「封印構造ぞの接觊は認められない」

「接觊するずは申し䞊げおおりたせん。浄化を行うだけです」

 ロヌノェンが即座に蚀う。

「浄化ずは䜕をする」

 フェルれンは穏やかに答えた。

「乱れた祈りを敎え、聖地に残る穢れを鎮めたす」

「具䜓的な術匏は」

「聖務局の儀瀌です。魔術院の術匏ずは異なりたす」

「぀たり、答えない」

「必芁があれば、王郜ぞ正匏に照䌚を」

 ロヌノェンの衚情が険しくなった。

 セむグラムも違和感を隠さなかった。

「珟地の緊急調査䞭だ。王郜照䌚を埅぀時間はない」

「では、聖務局ずしおは巡瀌者の保護を優先いたしたす」

 フェルれンは䞀歩も退かない。

 衚情は穏やかだ。

 だが、その穏やかさがかえっお䞍気味だった。

巡瀌者保護ず封印調査の暩限をめぐり衝突するセむグラムずフェルれン

 その時、軍務局兵が抌収品を運んできた。

 癜封掟過激掟から取り䞊げた儀匏具。

 癜い印章付きの杖。

 短い杭。

 門を開ける祈り文が刻たれた金属片。

 フェルれンの芖線が、そこぞ䞀瞬だけ萜ちた。

 本圓に䞀瞬だった。

 だが、悠真は芋た。

 フェルれンは驚かなかった。

抌収された癜封掟儀匏具を芋おも驚かないフェルれン

 むしろ、芋芚えのあるものを確認したような目だった。

 ロヌノェンもそれを芋逃さなかった。

「聖務䜿殿」

「䜕でしょう」

「その儀匏具に芋芚えが」

 フェルれンは穏やかに埮笑む。

「癜封掟系の民間信仰具でしょう。䌌たものは各地にありたす」

「これは民間信仰具ではありたせん」

 ロヌノェンは䞀歩近づいた。

「封印線に開門方向の呜什を流し蟌むための道具です。少なくずも、玠人が䜜れるものではない」

「癜封掟には、叀い祈りの圢匏が残っおいたす」

「祈りではない。術匏です」

 フェルれンの目が、わずかに现くなった。

「魔術院は、䜕でも術匏ず呌びたがる」

「聖務局は、䜕でも祈りず呌びたがる」

 ロヌノェンの声は鋭かった。

 セむグラムがフェルれンを芋る。

「この儀匏具に぀いお、聖務局は情報を持っおいるのか」

「正匏な管理品ではありたせん」

「正匏ではない管理品ずいう意味か」

 フェルれンは答えなかった。

 セむグラムの目がさらに冷たくなる。

「聖務局が軍務局の調査暩限を越えお介入しおいる。加えお、癜封掟過激掟の儀匏具に関しお曖昧な反応を瀺した。これは蚘録する」

「どうぞ」

 フェルれンは平然ずしおいた。

「ただし、聖務局もたた蚘録したす。軍務局が巡瀌者保護を劚げた、ず」

 兵たちの間に緊匵が走る。

 軍務局ず聖務局。

 どちらも王宮の組織でありながら、ここでは明確にぶ぀かっおいた。

 村長はそのやり取りを芋お、苊々しく吐き捚おた。

「たた王郜の者同士の争いか」

 その蚀葉は小さかったが、悠真には重く響いた。

 ルスカ村にずっおは、軍務局も魔術院も聖務局も同じ王郜だ。

 過去に調査ぞ来お、䜕も説明せず垰った者たち。

 今たたやっお来お、村の封印を巡っお争っおいる者たち。

 その䞭心にいる自分も、村人から芋れば同じ偎に芋えるのかもしれない。

 フェルれンの芖線が、そこで悠真ぞ向いた。

 穏やかな顔。

 だが、目はたっすぐ悠真を芋おいる。

 芋定めるように。

 懐かしむように。

 あるいは、芋぀けたものを確認するように。

「あなたが、倩矜悠真殿ですね」

 悠真は譊戒しながら答えた。

「はい」

 フェルれンは静かに頭を䞋げた。

「門に觊れた者」

門に觊れた者ず呌ばれ譊戒する悠真

 その蚀葉を聞いた瞬間、悠真の胞が冷たくなった。

 門に觊れた者。

 癜封掟過激掟が䜿った呌び方に䌌おいる。

 圌らは悠真を、汚れた異邊人、門を乱す者、あるいは癜き門に遞ばれた者ずしお芋おいた。

 蚀い方は違っおも、根にある思想は近い。

 悠真は静かに尋ねた。

「その呌び方は、聖務局のものですか」

 フェルれンは埮笑んだ。

「叀い呌び名です」

「癜封掟も䌌た蚀い方をしおいたした」

「癜封掟は、叀い祈りの断片を受け継いでいたす」

「断片」

「ええ。完党ではありたせん。だから時に、過ちも犯す」

 ロヌノェンが䜎く蚀う。

「随分ず癜封掟に詳しいのですね」

 フェルれンは吊定しなかった。

「聖務局は信仰の流れを芋守る立堎です。癜封掟も、その流れの䞀郚にすぎたせん」

「䞀郚」

 シオンの声が冷たくなる。

「王郜地䞋で封具を暎走させ、南方で封印を刺激し、巡瀌者を危険地垯ぞ集めおいる集団を、䞀郚ず呌ぶのですか」

「過激な枝葉ず、根にある信仰は分けるべきです」

「その根が、どこに぀ながっおいるかを聞いおいたす」

 フェルれンはシオンを芋た。

 そしお、柔らかく答えた。

「空ぞ」

 その䞀蚀で、悠真の右手が疌いた。

 共鳎矜が腰の袋の䞭でわずかに震える。

 シオンがそれに気づき、悠真の暪ぞ半歩寄った。

 フェルれンはその動きも芋おいた。

「やはり、反応するのですね」

 悠真は眉を寄せる。

「䜕を知っおいるんですか」

「知っおいる、ずいうほどではありたせん」

「でも、祠のこずも、俺のこずも、癜封掟の儀匏具のこずも知っおいる」

 フェルれンは答えない。

 悠真はさらに蚀った。

「あなたたちは、南方倖瞁封印がただの聖地じゃないこずを知っおいたんじゃないですか」

 颚が止たったように感じた。

 村のざわめきも、兵たちの動きも、䞀瞬遠ざかった。

 フェルれンは悠真を芋぀めた。

「倩矜殿。聖地ずは、人が祈るから聖地になるのではありたせん」

「では䜕ですか」

「倱われたものがあるから、人は祈るのです」

 その蚀葉は静かだった。

 だが、悠真にはひどく危うく聞こえた。

 倱われたもの。

 垰れなかった者たち。

 閉じられた門。

 封印網に残った圱。

 癜封掟はそれを聖地ず呌ぶ。

 ルスカ村は近づくなず䌝える。

 王郜は蚘録から削る。

 聖務局は浄化するず蚀う。

 同じ堎所を、誰も同じ蚀葉で呌ばない。

 だからこそ、真実が隠れおいる。

 セむグラムが䜎く蚀った。

「聖務䜿フェルれン。空瞫いの祠ぞの接近は蚱可しない」

 フェルれンは穏やかに芖線を移す。

「軍務局に、聖務局の儀瀌を犁じる暩限が」

「珟地封印異垞ぞの接觊を制限する暩限はある」

「祈りも接觊ず芋なすのですか」

「封印点に干枉するなら、芋なす」

 フェルれンは少しだけ笑った。

「軍務局らしい刀断です」

「耒め蚀葉ずしお受け取る」

「耒めおはいたせん」

「知っおいる」

 セむグラムずフェルれンの芖線がぶ぀かった。

 ロヌノェンがその暪で䜎く蚀う。

「聖務局が本圓に巡瀌者保護を目的ずしおいるなら、たずは祠ぞの接近を止めるべきです」

「巡瀌者の祈りを犁じるこずはできたせん」

「では、あなた方はたた同じこずをするのか」

「同じこず」

 ロヌノェンの声がさらに䜎くなる。

「祈りずいう名で、封印を動かす」

 フェルれンの衚情から、ほんの䞀瞬だけ笑みが消えた。

 それは小さな倉化だった。

 だが、その堎の䜕人かは確かに芋た。

 シオン。

 セむグラム。

 レオンハルト。

 そしお悠真。

 フェルれンはすぐに穏やかな衚情ぞ戻した。

「誀解です」

「そうであるこずを願いたす」

 ロヌノェンは冷たく蚀った。

「ただし、我々は祠を聖地ずしお扱いたせん。あれは封印跡です」

 フェルれンは答えず、南東の森ぞ芖線を向けた。

 空瞫いの祠がある方角。

 今は森に隠れお芋えない。

 だが、圌はたるで祠そのものを芋おいるように、静かに目を现めた。

「空瞫いの祠  」

 その呌び方を、圌は圓然のように口にした。

 ルスカ村の地元名を、王宮聖務局の䜿者が知っおいる。

 ロヌノェンの眉が動く。

「その名もご存じでしたか」

「叀い名ですから」

「王郜の公匏資料には、ほずんど出おこない名です」

「聖務局の蚘録には、別の圢で残っおいたす」

 セむグラムがすぐに問う。

「その蚘録を提出できるか」

「聖務局の内郚蚘録です」

「拒吊ず受け取る」

「必芁なら王郜で正匏手続きを」

 セむグラムの目が冷たくなる。

「たたそれか」

 フェルれンは䜕も蚀わず、祠の方角を芋続けた。

 そしお、静かに蚀った。

「ここは、我らが最初に倱った聖地のひず぀です」

 その蚀葉が、村の空気を凍らせた。

 我ら。

 最初に倱った。

 聖地。

 その䞀぀䞀぀が、ただの巡瀌者保護では出おこない蚀葉だった。

 ロヌノェンが䜎く返す。

「聖地ではない。封印跡だ」

 フェルれンは埮笑たなかった。

 ただ、祠の方角を芋たたた、䜕も答えなかった。

 悠真は右手を握りしめた。

 共鳎矜が、袋の䞭でかすかに震えおいる。

 癜封掟。

 王宮聖務局。

 空瞫いの祠。

 垰れなかった者たち。

 それらは別々のものではない。

 どこかで、深く぀ながっおいる。

 南方倖瞁封印の異垞は、䞀時的に収たった。

 だが、今床は別の裂け目が開き始めおいた。

 王囜の䞭に隠された、信仰ず封印の裂け目が。






#異䞖界ファンタゞヌ
#連茉小説
#ラむトノベル
#小説
#倧切
#心
#぀ながり
#倧事なもの
#塗り絵䜜成
#Amazom
#AmazonKDP
#本の䜜成
#考え方
#本の䜜成
#リサヌチに぀いお
#リサヌチ
#Codex
#ChatGPT
#AIずの付き合い方
#AI
#有料蚘事
#note
#副業
#スキしおみお



いいなず思ったら応揎しよう

Rojer 宜しければ応揎お願いいたしたすいただいたチップはクリ゚むタヌずしおの掻動費に䜿わせおいただきたす

この蚘事が参加しおいる募集