
今日の、あなたは...(第六話)
第6話
「なら、振り返ってごらん。」
私は動けなかった。
背中に何かを感じたわけじゃない。
物音がしたわけでもない。
それなのに、
振り返ってはいけない気がした。
「……何がいるんですか。」
老婆は答えない。
「誰に呼ばれるんですか。」
返事はない。
部屋に沈黙が落ちる。
ランプの火だけが、小さく揺れていた。
やがて老婆は、水晶に布を掛けた。
「今日は終わりだ。」
私は立ち尽くしたまま動けない。
聞きたいことは山ほどある。
でも、老婆はもう私を見ていなかった。
私は小さく頭を下げる。
「……ありがとうございました。」
扉を開く。
外はもう暗かった。
一歩。
また一歩。
路地を抜けようとした、その時。
後ろから老婆の声がした。
「おい。」
私は足を止める。
「明日だ。」
それだけだった。