タダサマヨウサキ二
組織には時に「何もしちゃいけない空気」が支配することがある。
誰かが明確に「動くな」と命じたわけではない。けれど、沈黙と同調圧力が場を覆い、その空気が暗黙の命令となる。
人はそこで自発性を失い、責任を避けることを覚え、やがて自分らしささえ押し殺してしまう。
そうして奪われるのは、仕事の意欲だけではなく、人格やアイデンティティそのものだ。
本来なら人は群雄割拠し、それぞれの強みを発揮し合うことで、組織という船を前へ進めるはずである。
しかし、社是や訓令を使いこなせない無能な船長と操舵士が指示を出し、舵を取るならば、どうだろう。
理念という羅針盤を掲げることもなく、海図を読み解く力もない者が舵を切るのだから、進むべき海路を見失なっても不思議はない。
やがて船はただ波に漂う大きなゴミと化してしまう。
外見は立派な船体でも、中身は空虚そのもので、レーダーやエンジンもなく、海図も持たずに大海へ漕ぎ出るようなものだ。
さらに恐ろしいのは、その船に乗る人々が「これが航海だ」と思い込み、疑問を抱かなくなることだ。
異を唱える者は「空気を壊した」とした者として排除され、船から突き落とされる。
やがて彼らは空気という名の、あやふやな風にすがり、漂流を“航海”と呼び変える。
「何もしちゃいけない空気」とは、人の意志を奪い、責任を変質させ、人格を削り取る。
そして、それは組織そのものを腐敗させる。
空気の監獄に閉じ込められた人々が沈黙を選び続ける限り、航海という名の漂流に終わりなどないのだ。
それは、気づかぬうちに始まっているのだろう。
空気が羅針盤となった、その日から。
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