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飛行機で偶然 隣になった、アメリカの保安官

学生のころ、アメリカに短期留学した。
帰りの飛行機で、緊急時に脱出を手伝う
非常口席になってしまった。

<Can you speak English?>

とキャビンアテンダントに聞かれたが、
答えはもちろん

「No」。


入国すら怪しかった私たちには
脱出のお手伝いなんて無理。


席を変わった先で隣になったのが
アメリカの保安官だという笑顔が素敵なおじさま。

私の父くらいの年齢。


「いつか、またアメリカに行きたい」
と、私のヘタクソな英語で伝えたことから
盛り上がり、連絡先を交換したのだった。


いま考えたら結構大胆な行動。
その後、おじさまとしばらく文通が続いた。


_____ある日。

『ろくねこ!ちょ、ちょっと!』
庭で水やりをしていた母が、慌てて入ってきた。

「どうしたのー?」
自宅でゴロゴロしていた私。
何をそんなに慌てているのか不思議に思った。


『外国の人が来てる』


「え?なに?
 外国の人ー?勧誘?何?」

『違う、ろくねこの名前を言ってたよ』


(何だろう?私を訪ねてくる外国の人…?)


重い腰を上げ、外に出た。


< ロクネコ、ハロー >

(‥‥!!!)
門にいたのは、あの時の優しい笑顔の保安官。

ビックリして言葉が一瞬出なかった。
アメリカにいると思っていた人が
目の前に現れたからだ。


当時、多少話せた拙い英語で聞いてみた。
仕事で日本に来ていて、今日はオフだから
私を訪ねてきたという。


「ある場所に案内したい」
と言われ、一緒に出かけた。
到着したのは広尾。


ある建物の入り口。
保安官は見張りのような人と話をし
通されたのは米軍のホテル
「ニュー山王ホテル」だった。

一緒に入ったからか、
パスポートを見せた記憶はない。


中に入ると、そこはアメリカだった。

英語の表記が並ぶ。
売っているものもアメリカのものばかり。


「すごい!中はアメリカみたいだね」

そんな話をしながら、バーでひと休み。
いちごミルクのようなピンク色の
ストロベリーカクテルはすごくおいしかった。


(あ!あれ初めて見た…!)


よく見ると、棚に
見たことがないリキュールが並んでいた。


「あれって買えるの?」

『買えるよ!ろくねこ、ドル持ってる?』

そう、中では買い物はドルで日本円はNG。
当然ドルは持っていなかった。


そう伝えると、

『OK!プレゼントするよ』

と、保安官はそのリキュールと
ストロベリーのリキュールを買ってくれた。



日本にいるのに、
アメリカのリキュールが並んで
ドルで買い物をしている。


まるでアメリカのような場所が、
日本にあるなんて知らなかった。


短時間だったけれど、
私はアメリカに旅行した気分になった。


保安官が帰国して、
しばらく平和なやり取りは続いた。

オリンピックの公式グッズを送ってくれたり。
近況の報告をしてくれたり。


手紙でのやり取りも、やがてメールになり
気軽に連絡が出来るようになった。


飛行機で知り合った縁がこんな風に続くなんて
そして、私の下手な英語でもコミュニケーションが
取れることを、嬉しく思っていた。


ある日。

目の前のテレビの画面に、忘れもしない
信じられない光景が広がった。


飛行機がツインタワーに突っ込んで
崩れゆくニュース。


そう、アメリカ同時多発テロ、9.11。


私は、画面を見て凍り付いた。
一気に鳥肌が立った。

保安官は?彼の家族は?友達は?無事なの?
すぐにメールをした。


自宅のテレビは、衝撃的なシーンを繰り返す。
空を無数に舞う書類。
タワーが崩れ、黒に近い灰色の粉塵が
周りを暗くする。


連絡がすぐ来ないのは、わかっていても
何度も何度もメールボックスをリロードした。


延々と流れるテロップと更新されない情報。
息がつまり、苦しくなる。
気がついたら、涙も出ていた。

ただ呆然とテレビを眺めているうちに
夜が明け、外は明るくなっていた。


次の日だったか、何日経ったかは
覚えていない。
保安官から来た返事はこうだった。


『無事だよ、家族も友人も』



その言葉を見て、ホッとした。
でも、そのあとの言葉を見て、私は混乱した。



『だけど、もう連絡ができない』

と。

理由は、

おそらく戦争になると思う。
このメールアドレスも使えなくなるんだ。
元気でね。

というようなことが書かれていた。


個人のメールアドレスでやり取りをしていた。
でも、そのアドレスも使えなくなる。

(そこまで厳しいんだ…)


当時の私は、驚いた。
彼がどんな仕事をしていて、
なぜ、もう連絡が出来なくなるのか。

詳しい事は、今も分からない。


優しい笑顔の保安官が、
どんな地位の人だったのかも、私にはわからない。


飛行機で偶然、隣の席になった人。

縁がおだやかに続いていくんだと、疑いもしなかった。
まさか、こんな風に連絡が途切れてしまうとは
思いもしなかった。


あれから、連絡は取れなくなったままだ。


父と同じくらいだったと思うと
今は70代後半くらいだろうか。


遠い空の下。
あの優しい笑顔で元気に過ごしていてほしい。

いつか、会える日まで。




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