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1日20錠の薬と、新しい同居人。私が「自分の価値」を少しずつ取り戻したリハビリの日々

新たな生活のスタート。
その日、私にとっての「大家さん」となるその男性は、仕事のシフトの関係で16時には家を出なければならないとのことでした。そのため、到着してすぐの荷入れだけを手伝ってくれたあと、彼は仕事へと向かいました。
残された私は、1人で荷解きをはじめました。
あの家から持って来たものは、必要最低限の身の回りの物だけ。片付けは、そう時間はかかりませんでした。
心配していたのは、先住犬たちとの相性です。先方には、シニア犬が1匹と、まだ2歳にならない若い子が1匹いました。
うちの愛犬たちは、慣れない環境と先住犬の存在にやはり緊張しているのか、どうしても落ち着かない様子でソワソワしています。飼い主である私自身の不安や緊張が、犬たちにそのまま伝わってしまっていたのかもしれません。
彼の家は、1階にリビングのほか部屋が2つ、2階に3つの部屋とトイレがある一軒家でした。
「1階の部屋は僕が使うので、2階の一室をどうぞ」と言われ、そこが私の新しい部屋になりました。
生活のルールは、事前の約束通りでした。
大家さんである彼とは勤務時間の関係で生活リズムがバラバラだったため、私は言われた通りに家の掃除や洗濯をこなし、夕飯を作って置いておく、という形をとりました。
ただ、彼のお仕事が休みの日は、夕飯を一緒に食べました。
その日は必ず、彼の男友達も家にやってきて、3人で食卓を囲むのがお決まりでした。きっと、彼なりに私に余計な気を遣わせないよう、配慮してくれていたのだと思います。
3人での会話のほとんどは、愛犬たちの話でした。
どうすれば仲良くさせられるか、環境に慣れるにはどうするのが良いか。たまには4匹の犬をすべて連れて、みんなで一緒に散歩に出かけることもありました。
彼は、私のプライベートや過去について、必要以上に詮索してくることはほとんどありませんでした。
けれどある時、私が1日に20錠以上の薬を飲んでいることに彼が気づきました。さすがに心配に思ったのか、静かに尋ねてきました。
「今の状態は、本当に大丈夫ですか?」
「家事や料理をするのは、体調的にキツくないですか? 買い物は大丈夫ですか?」
正直に言えば、私はまだ人が多い場所が苦手で、パニック症状が出てしまう状態でした。そのため、スーパーへ行くのも、なるべく混雑を避けて夜遅い時間を選んでいたのです。
そのことをありのまま伝えると、彼は「じゃあ、僕の休みの日にまとめ買いに付き合いますよ」と言って、一緒についてきてくれるようになりました。
のちに知ったのですが、彼は「産業カウンセラー」の資格を持っている方でした。それを聞いたとき、すべてがストンと腑に落ちました。
彼は本当に聞き上手な人だったのです。こちらの事情に土足で踏み込んでくるようなことは決してしないけれど、私がポツリポツリと話す言葉には、ただ黙って、優しく耳を傾けてくれていました。
そんな穏やかな生活が続くうちに、少しずつ、私もうちの愛犬たちも、新しい環境に慣れていきました。あんなに緊張していた愛犬たちが、彼が仕事から帰ってくると、千切れんばかりに尻尾を振って出迎えるまでに時間はかかりませんでした。

「治るまでは、ここにいてください」

とはいえ、ここに一生甘え続けるわけにはいかないという不安は、私の心の中に常にありました。
私は一歩前へ進むため、体調を見ながらいくつかの面接を受け、仕事を探し始めました。
引っ越してきてから7ヶ月ほどが経った頃。
パートではあるものの、私を採用してくれる職場がようやく見つかったのです。
あとは、いよいよ自分で住む家を探すだけでした。けれど、やはり「愛犬2匹と暮らせる物件」という高い壁が立ち塞がり、どれだけ探しても条件に合う家が見つからないという問題はクリアできないままでした。
パートが決まったことを報告すると、彼は嬉しそうにしながらも、真剣な表情でこう言ってくれました。
「パートが決まったのは素晴らしいことです。でも、本当に大丈夫ですか? あなたが働きに出たら、ワンちゃんたちはまた新しい環境でお留守番になって、寂しい思いをするのではないでしょうか。それに、あなたの体調も心配です。今の病状からして、あまり無理をすると悪化してしまう可能性もあるんじゃないですか? 不安はありませんか?」
とても優しく、真面目な彼だからこそ、心から心配してくれているのが痛いほど伝わりました。
けれど、私のこの病気がいつ治るのか、それどころか一生治らないかもしれない。これ以上、見ず知らずの彼に迷惑をかけるわけにはいかないーー。
そう思った私は、笑顔を作って「大丈夫です!」と答えました。
すると、彼はまっすぐ私を見て、こう言葉を続けてくれたのです。
「これも何かの縁です。いつ治るか分からなくても、治るまではここにいてください。そうじゃないと、僕があなたを無責任に放り出したみたいで、ずっと気になってしまいますから。……それに、実際に行き詰まっていた生活を助けられているのは、僕の方なんです」
私は、涙が出そうに嬉しかった。
自分にはもう何の価値もない、誰かを傷つけるだけの存在だと思い込んでいた私に、彼がくれた「ここにいていい」という許可。そして、「誰かのために、役に立てている」という厳然たる事実。
それは、私にとって本当にありがたい、救いの言葉でした。
私は彼のその温かい言葉に甘えさせてもらい、もう少し自分の病状が良くなるまで、この2人と4匹の奇妙で優しい共同生活を、続けていくことに決めたのです。

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