
【ショートショート】うっかりスイッチON ⌇うたの輪
押してはいけないボタンがあった。
だから研究員たちは、赤い文字で書いた。
《絶対に押さないでください》
それでも、事故は起きる。
「あ」
入職したての研究員の僕は、書類を
落とした。
拾おうとして机に手をつき。
カチッ。
「…………」
部屋の照明が消えた。
次の瞬間。
研究施設の窓の向こうでも、街の明かりが
一斉に消えた。
「停電かな?」
違った。
空が消えた。
月も、雲もない。
真っ黒な空間に、巨大な文字が浮かんだ。
《地球:起動しました》
「へ……?」
研究室のコンピューターが、一斉に動き
出す。
そして、あちこちから声が聞こえた。
『文明システム、正常に稼働』
『大気制御、正常』
『重力制御、正常』
『時間軸、正常』
僕は震えながら、恐る恐る机のスイッチを
見た。
そこには、小さな表示があった。
《惑星管理システム》
その瞬間。
研究室の天井から、機械音声が響いた。
『管理者権限を確認。新しい管理者を
登録します』
「いや、待って」
『管理者名を入力してください』
「いやいやいや」
『3秒以内に入力してください』
「ちょっと待って!」
『3』
僕は慌ててキーボードを叩いた。
『2』
「いやいやいや!」
『1』
Enter。
静寂。
そして。
『管理者名───「うっかりさん」で
登録しました』
「最悪だ……」
全体のモニターに、その名前が表示された。
その直後。
空に、もう一行だけ文字が浮かんだ。
《新管理者「うっかりさん」による、
最初の命令を待機しています》
僕は頭を抱えて、しゃがみこんだ。
そのとき、背後から声がした。
「おい、新神」
振り返ると、所長が立っていた。
「次の宇宙、もうできてるぞ」
所長は僕の肩を、ぽんと叩いた。
「さあ、創造実験の続きをやろう」

お題に参加させていただきました。
水守わをんさん、ありがとうございます。
がんばれ、新神くん!