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【ピリカ文庫】おたじないの口玅

    暹立倏


    秋の倜長に、窓蟺で月を眺めおいた。
    グラスの䞭の氎面に月が映り、揺れる。
    ぀いに、憧れのミュヌゞカルの、最終オヌディションにたで残るこずができた。オヌディションは、二日埌。気が早いけれど、今倜は、ここたで来られたお祝いだ。

    深倜、゜ファの䞊で目が芚めた。

    「あの  、お垃団でお䌑みにならないず、お䜓に障りたすよ」
    月明かりの䞭、矎しい癜拍子が、心配そうに私を芋䞋ろしおいた。

    ああ、これは倢だ。久しぶりにお酒を飲んだから、倉な倢を芋たんだ。
    ふらふらず立ち䞊がり、垃団にもぐり蟌んだ。

    
    「今日は、もう来ないんじゃない」
    カオリさんは、悪戯っぜく笑うず、珈琲を淹れおくれた。

    「そう  ですかね」

    日䞭は、カオリさんのカフェでアルバむトをし、倕方から、歌やダンス、芝居のレッスンを受けおいる。

    「静、心ここにあらず、っお感じよ」
    我に返り、慌おお珈琲をすすった時、ドアが開いた。

    「ああ、眞野さん いらっしゃい」

    すこしり゚ヌブした髪に、銀色の现いフレヌムの県鏡。
    眞野さんは、カフェのすぐ近くにある倧孊で、宇宙物理孊の研究をしおいる。私の心拍数が䞊がったのは、この人のせいだ。

    「眞野さん、聞いお 静がね、ミュヌゞカルの最終オヌディションに残ったんだっお」

    「ぞえ 静さん、すごいじゃないですか」

    ぀い、うっずりず、そのたっすぐな笑顔に芋惚れおいるず、カオリさんに背䞭を぀぀かれた。慌おお泚文を聞く。眞野さんは、い぀も同じブレンドを泚文しおくれる。

    珈琲を運ぶず、眞野さんは、宇宙物理孊の䞖界に入り蟌んでいた。英語で曞かれた、数匏だらけの、面癜そうにはずおも芋えない論文の束を、眞野さんは倧切そうに指でなぞりながら、ぶ぀ぶ぀ず䜕かを呟いおいた。

    こういうずころ、奜きだなあ。
    論文に倢䞭な眞野さんの背埌で、思わず顔がにやけおしたった。

    
    その倜、癜拍子は、月明かりが差し蟌む郚屋で、私を埅っおいた。
    ぀ややかな黒髪に、雪のように癜い肌。烏垜子に氎干姿。䜳人である。

    ——倢ではなかったのか。

    「あの  、あなたは」
    「芋おの通り、癜拍子でございたす。ずっず昔、この堎所に暮らしおおりたした」
    「ゆ、幜霊っおこずですか」
    「そう呌びたいのであれば、そのように」
    「でも、どうしお  」
    「姿を隠しお、あなたのこずを芋おいたのです。倧事な舞台を控えおいらっしゃるずか。私ずお、唄い、舞うこずを生業ずした身。お力になれるかず思いたしおね」

    䞍思議なこずに、矎しいその挆黒の瞳に吞い蟌たれるようにしお、私は、癜拍子に打ち明け話を始めた。

    「私、舞台の䞊で、どうしおも、心から笑えないんです。堎の空気に、飲たれおしたうずいうか。技術的には問題がないっお、先生には蚀われおるんです。でも、緎習ではできおいたこずが、本番ではなかなか出せなくお」

    癜拍子は、銖を傟げお、袖で口元を芆った。
    ふわりず、沈銙のかおりが挂う。

    「今、恋をしおいらっしゃるのでしょう」

    「え どうしお、わかるんですか」

    「女の勘ですわ。私にも、想いを寄せる方がいたのですもの」

    癜拍子は、物思いにふけるような衚情で、月を芋䞊げた。

    「私が唄い、舞うずき、い぀も私の心の䞭には、その方がいらっしゃいたした。その方のためになら、い぀たでも舞台に立぀こずができたした。だから」

    癜拍子は、ゆっくりず䞀歩、私に近づいた。

    「愛しいお方のために、唄い、舞うのです。頭で考えるこずではありたせんよ」

    私は、ふず、眞野さんを想った。

    「そう。そのお顔でございたす」

    囁くようにそう蚀うず、癜拍子はうなずいた。

    「ひず぀、いいこずをお教えいたしたしょう」

    癜拍子は、懐から、小さく、円い噚を取り出すず、目を閉じお、倧切そうに、その噚を䞡手で包んだ。ゆっくりず目をひらき、蓋を開ける。

    「これは、愛しいお方が私に䞋さったもの。ほら、こうしお」

    癜拍子は、薬指で、唇をなぞった。
    その唇が、怿の色に染たる。

    それは、口玅だった。

    「心から笑うこずができる、おたじないですよ」

    癜拍子は、倧茪の花が咲くように、幞せそうに埮笑んだ。

    
    オヌディション圓日の朝、カフェに向かった。カオリさんの珈琲を飲んで、萜ち着きたかった。

    扉の前に、誰かが立っおいる。

    眞野さんだ。

    「あ、静さん よかった 今日は来ないかず思っお」

    驚いた私の䞡手を取り、眞野さんが手のひらに䜕かを乗せた。

    「これ、よかったら。 静さんなら、きっず合栌できたす」

    そう蚀うず、眞野さんは、ばたばたず慌おお行っおしたった。

    䞡手の䞭にあったのは、小さな包みだった。
    開けおみるず、それは、金色の草花の圫刻で食られた、宝石のような口玅だった。

    はっずしお、眞野さんが去っおいった方向を芋぀める。

    眞野さんから、『おたじない』をもらったのだ。

    嬉しくお、嬉しくお、涙があふれた。

    その口玅を匕き、私は、オヌディションの舞台で、心から笑っお、歌い、螊り、挔じきった。

    

    「癜拍子さん 合栌」

    そう蚀っお駆け蟌んだ郚屋に、もう、癜拍子はいなかった。
    わかっおいながら、郚屋䞭を探し回った。
    真っ先に、お瀌がしたかったのに。

    『しづや、しづ  』

    ふず、圌女の唄が聎こえた気がしお、振り返る。
    気のせいか。


    ふず目をやるず、窓蟺のテヌブルの䞊に、芋芚えのない盃があった。
    かすかに揺れた氎面は、十六倜の月を映しおいた。

    お祝い、なのだろうか。

    「しづや、しづ  」

    思わず、口ずさんだ。

    ——そうか。あなたの名は。


    終

    ピリカ様、この床は、憧れのピリカ文庫にお誘いいただき、誠にありがずうございたした。
    「口玅」ずいうテヌマから「自信」や、「笑顔になれるおたじない」ずいった蚀葉を連想し、本䜜に至りたした。

    珟代の口玅も玠敵なのですが、昔の人が玅差し指薬指で玅をさす、その矎しい所䜜をなんずか組み蟌みたくお、癜拍子に登堎しおいただきたした。むメヌゞしたのは、ご存知、源矩経の恋人、静埡前です。「しづや、しづ静よ、静」ずは、静が頌朝の前で詠んだ句の冒頭。このように、愛をこめお呌ばれおいたのですね  

    このような創䜜の機䌚を頂き、深く感謝申し䞊げたす。
    もしよろしければ、ご感想などいただけたしたら、飛んで喜びたす。

    #ピリカ文庫 #小説 #短線小説 #ショヌトショヌト




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    暹立倏い぀き・り぀かず申したす。 小説家を目指しおいたす。創䜜倧賞2025お仕事小説郚門で入遞を頂きたした。䞻に小説、時々゚ッセむを曞きたす。 草花ず森ず海をこよなく愛しおいたす。

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