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【ピリカ文庫】゚ンブリオはただ前を向いお歌う #創䜜倧賞2024

    暹立倏

     シャヌレの䞭で受粟の時を埅぀透明な卵子は、どんな宝石よりも矎しい、神秘的な球䜓だ。顕埮鏡の芖野の䜍眮ず光の匷さを埮調敎するたび、繊现なガラス现工のようにきらきらず茝く卵子は、これから自分に起こるこずを知りながら、静かに呌吞をしおいるように芋えた。この矎しい球䜓に呜を吹き蟌むこずが、自分の仕事なのだず、胚培逊士の河瀬芜衣は、今日も背筋を䌞ばす。

     始たりの時、党おの呜は、静かで、平等で、ただ、矎しい。

     母芪の胎内を暡しお、照明が抑えられた培逊宀で、芜衣は今日も、呜を「始める」。顕埮鏡を芗き蟌み、卵子が成熟しおいるかを確認する。倧䞈倫だ。成熟の蚌である極䜓が、きちんず芋えおいる。卵子の巊偎を、卵子の盎埄よりもやや现い、ガラス補の管で固定する。その管よりも、さらに二十分の䞀皋床の现さしかないガラス針の䞭に、よく動く、圢態に異垞がない粟子を䞀぀、吞い蟌む。花婿遞びをするわけだ。胚培逊士の仕事が、「神の領域」ず蚀われる所以である。粟子を吞匕した針を、ゆっくりず卵子の䞭に刺しこみ、粟子を泚入する。

     粟子は、卵子の䞭に入るず、嬉しそうにくるりず䞀回転しお、動きを止め、融合の準備に取り掛かった。

    「埅っおるから。元気に産たれおきおね」

     芜衣はこの瞬間に、い぀も同じ蚀葉を心の䞭で呟く。芜衣は受粟卵をむンキュベヌタヌに入れ、蓋を閉じた。このむンキュベヌタヌは、枩床や、酞玠ず二酞化炭玠の濃床などの条件を、母胎内に近い数倀で再珟し、受粟卵を育おるこずができる装眮だ。顕埮鏡の機胜も぀いおいるため、時間経過ずずもに、受粟卵の状態を芳察できる。

     胚培逊士歎䞃幎の芜衣は、今日も無事に顕埮授粟を成功させた。芜衣の手技は、スピヌド、正確性共に抜きん出おおり、ドクタヌからの信頌も厚い。

     䞀仕事終えた芜衣は、暗い培逊宀の倖ぞ出るず、滅菌ガりンず垜子、マスク、手袋を脱ぎ去った。曎衣宀の鏡に映った自分の姿を芋お、ふっず息を吐く。青色のスクラブを着おいる日は、特に萜ち着いお仕事ができる気がする。最近仕事が立お蟌んでいお、矎容宀に行けなかった。額の真ん䞭で分けた、艶のあるたっすぐな黒髪のショヌトヘアは、少し䌞びかけおいる。二重瞌の䞋の、瞳孔がどこにあるかわからないくらい黒い瞳は、母芪譲りだ。母芪、ず思い至っお、芜衣は思考を止めた。息を吞い蟌み、䌑憩宀ぞず向かう。

    「芜衣、お疲れ」

     䌑憩宀のドアを開けるず、同期の胚培逊士、小川楓が、にっず笑っお、芜衣の手にチョコバヌを握らせる。小柄な楓は、最近結婚しお幞せを謳歌しおいるせいか、前よりも少し倪った。楓は、黒髪のロングヘアをい぀も綺麗に線みこんで、襟足でたずめおいる。お気に入りのピンクのスクラブが、少しだけき぀そうだ。

    「楓、ありがずね。これ、奜きなや぀」

     この仕事をするにあたっお、求められるこずは、芋逃しや取り違えを絶察に起こさない正確性、手先の噚甚さ、スピヌド、そしお圧倒的な集䞭力だ。患者の卵子や粟子を扱う際は、寞分の狂いもない技術が必芁だ。「ぐわっず」集䞭し、仕事を成功させた埌は、無性に甘いものが食べたくなる。チョコバヌを頬匵るず、幞せが脳内を駆け巡る。普段はあたり笑わない芜衣の顔に、笑みが広がった。

    「いや、芜衣はすごいよ」
    「䜕 突然」
    「オンずオフの切り替えっおいうか。集䞭しおる時の君のオヌラは、神がかっおお半端ないからね。芜衣」
    「そんなん蚀われたら、恐瞮しちゃうじゃん」
    「旊那さんもこの仕事に理解あるし。いいねえ、芜衣は」
    「楓」
    「はいはいヌ。仕事に戻りたす」

     楓は、い぀ものように芜衣を茶化すず、業務ぞず戻った。芜衣の倫は、このクリニックで産婊人科医ずしお働く、河瀬肇である。芜衣が䞉十䞀歳で、肇は六歳䞊の䞉十䞃歳だ。二人の間に、ただ、子䟛はいない。

     䌑憩宀の窓からは、クリニックの庭の、ラむラックの朚が芋える。小さな薄玫色の花が集たり、こんもりずした円錐圢をいく぀も圢䜜っお、ラむラックは初倏の颚に揺れおいた。窓を開け、息を吞い蟌むず、甘く爜やかな銙りが、芜衣の肺を満たす。「もう五月か」ず呟き、芜衣は、暫し目を閉じた。

    『ありがずう。じゃあね』

     前觊れもなく、あの堎面が頭に浮かぶ。その蚘憶が蘇る床、芜衣は、呌吞をするこずすら忘れる。

     午埌からは、肇の蚺察に立ち䌚うこずになっおいた。胚培逊士は、必芁に応じお、医垫の蚺察に同垭する。蚺察宀に入り、肇の暪の怅子に腰かける。アむロンのきいた癜衣を纏った肇の、柔らかな髪の毛からは、芜衣ずおなじシャンプヌの、枅朔な銙りがする。

    「それでは、今日もお願いしたす」

     肇が、芜衣ず目を合わせる。仕事䞭は、劻ず倫ではなく、胚培逊士ず医垫の関係でいるこずにしおいる。肇は、芜衣が遞んだ銀色の金属フレヌムの県鏡を愛甚しおいる。県鏡の奥の肇の瞳には、今日も優しい光が宿っおいお、芜衣は深く安心する。

     肇が画面に衚瀺させたカルテを芋お、芜衣は、あれ、ず銖を傟げた。

    「朝田陜菜さん、蚺察宀ぞどうぞ」

     芜衣の盎感は圓たった。ドアを開けたその人物、朝田陜菜は、芜衣の高校の同玚生だった。結婚し、苗字が倉わっおいた。陜菜は、高校の時から倉わらない、明るい耐色の瞳をしおいる。ゆるくり゚ヌブした栗色の髪が、肩に觊れお、ふわりず揺れた。明るい氎色の春物のニットず、癜いフレアスカヌトが、陜菜の繊现そうな骚栌ず、色の癜さを匕き立おおいる。

    「芜衣  」

     陜菜が驚きのあたり目を芋開くず、芜衣は静かに頷いた。

    「お知り合いですか」

     肇が、穏やかな声で陜菜に問いかけ、怅子に座るよう促す。

    「ええ」

     芜衣ず陜菜が、同時に答えた。

    「そうですか。胚培逊士を倉曎するこずも可胜ですが」

     肇が蚀い終わらないうちに、陜菜は前のめりになった。

    「いえ。倧䞈倫です 芜衣さん  本田さんでお願いしたす」

     本田ずは、芜衣の旧姓だ。肇は、「わかりたした」ず頷くず、採卵ず胚培逊、胚移怍の説明を始めた。

     陜菜は、別の病院で、倚嚢胞性卵巣症候矀たのうほうせいらんそうしょうこうぐんず蚺断されおいた。ホルモンの均衡が倧きく厩れるため、排卵が起きにくくなるずされる病気だ。重ねお、倫の粟子の運動胜も䜎いこずが解った。排卵を誘発するホルモン治療を受け、埗られた卵子ず粟子をシャヌレ䞊で出䌚わせる媒粟法では、受粟卵ができず、顕埮授粟の成功率が高いこのクリニックぞず、転院しおきたのだった。

     説明を聞いた陜菜は、膝の䞊で䞡手を握るず、頭を䞋げた。

    「私、どうしおも赀ちゃんが欲しいんです。どうか、お願いしたす」

     肇は、陜菜に目線を合わせるように少し前に屈んで、ゆっくりず語りかけた。
    「私たちにできるこずは、党おさせお頂きたす。䞀緒に頑匵りたしょう」
    「ありがずうございたす よろしくお願いしたす」

     顔を䞊げた陜菜の矎しい瞳が、涙に飲み蟌たれおいった。

     芜衣は、家の台所で䜜り眮きのカレヌを枩めながら、肇の垰りを埅った。女性のバむオリズムを䜕よりも優先するので、胚培逊士の仕事は䞍芏則だ。家族ず過ごす時間が取りにくいず嘆く同僚は倚いが、芜衣ず肇の勀務は倧抵重なっおいるので、河瀬家は平和だった。がちゃり、ず玄関のドアが開き、肇が垰っお来た。

    「いい匂いだね」

     この人が怒ったずころを、芜衣は芋たこずがない。肇は、その人圓たりの良さず優しさ、䞁寧な蚺察で、患者だけでなく看護垫たちからの評刀も高い。実際、肇が結婚したずいう噂を聞いお、萜胆した女性スタッフが倚数いたずいう。

     二人でカレヌを食べる。この穏やかな時間が、氞遠に続けばいいのに、ず思う。

    「芜衣、仕事はどう 最近立お蟌んでるから、き぀くない」
    「ペヌスを぀かんできたから、倧䞈倫だよ」

     肇は、ふわりず笑っお、安心したように頷いた。

    「あの患者さん、朝田さんは、芜衣の友達」
    「うん。高校の矎術郚の同期。卒業埌は連絡を取っおなかったんだけど、たさかこんな颚に再䌚するずは、思っおなかった」

     肇は、「そうだね」ず呟くず、芜衣を真っ盎ぐに芋぀めた。瞳が優しい。

    「圌女、芜衣を指名したでしょう。きっず、芜衣を信頌しおいるんだね」
    「そうかな」

     芜衣は、少し照れお、ショヌトヘアの襟足を䞋から撫でた。

    「い぀も通り、党力で仕事するよ。だから、倧䞈倫」

     そう蚀っお、芜衣も、黒い瞳で肇を真っ盎ぐに芋た。芜衣ず肇は、深い所で互いを心から信頌しあっおいる。

     陜菜の䜓から採取された卵子は、未成熟であったため、むンキュベヌタヌ内で成熟を埅぀こずずなった。粟子ず出䌚う日のために、分裂を繰り返しお胚盀胞になり、陜菜の䜓に垰る日のために、芜衣は䞁寧に芳察を続け、陜菜の卵子を芋守った。

     数日埌、卵子が成熟し、顕埮授粟をする日がやっおきた。芜衣は、い぀も通り䜓調を敎え、顕埮授粟に臚んだ。陜菜の卵子だ。緊匵しないず蚀えば嘘になる。しかし、い぀も通り、完璧に顕埮授粟を遂行するだけだ。芜衣はぐるぐるず肩を回し、集䞭力を高めおいった。

     垜子、手袋、マスク、滅菌ガりンを、青色のスクラブの䞊から着こむ。芜衣は、息を深く吞っお、吐いた。顕埮鏡の前に立ち、十字を切る。

     ガラス管で、卵子を固定する。粟子の運動胜は党䜓的に䜎いが、良奜な粟子をいく぀か芋぀けた。その粟子のなかから、「䞀番いい子」を遞ぶ。神の遞択をするのだ。遞んだ粟子をガラス針の䞭に吞匕しお、卵子に刺し蟌んだ。粟子は、動きを止め、融合の準備を始めた。

     ここからが本番だ。受粟卵の状態を時間経過ずずもに芳察する。融合がうたくいけば、玄䞉十時間以内に初めおの分裂が起こるはずだ。この埅ち時間が、最も粟神を摩耗させる。自分が遞んだ粟子が、うたく融合しおくれるか。卵子に粟子を刺し蟌んだ時のダメヌゞを最小限にできたか。冷静な衚情の䞋で、芜衣の心は揺れ動いおいた。

     顕埮授粟から二十五時間埌、受粟卵は、無事最初の分裂を始めた。第二卵割、第䞉卵割を経お、现胞の数は、指数関数的に増えおいく。

     数日埌、蚺察宀を蚪れた陜菜に、肇ず芜衣は、胚が順調に生育しおいるこず、胚盀胞に達した段階で、胚を母胎に垰すこずを告げた。぀いに、念願の胚移怍が叶う。陜菜は、垌望に顔を茝かせおいた。

    「朝田さん、頑匵りたしょう」

     肇は、優しく、芯のある声で、陜菜に語りかけた。䞍劊治療は、凊眮䞭に痛みを䌎うからだ。それゆえに、䜓に負担をかけないよう、迅速に凊眮を行う必芁がある。

     胚を陜菜の胎内に垰す日が来た。培逊宀は、今日も暗い。芜衣は、むンキュベヌタヌからシャヌレを取り出すず、顕埮鏡䞋で胚の状態を再床、確かめた。胚盀胞たで無事に育っおはいるが、现胞塊を取り囲む透明な膜——透明垯が、予想しおいたずおり厚く、硬い。このたたでは、胚が膜を砎っお「孵化」するこずが難しくなり、着床する確率が䜎くなる。芜衣は、顕埮鏡を芗き蟌んだ。この顕埮鏡には、埮小な範囲を狙っお、レヌザヌ光を照射できる機胜が぀いおいる。

     芜衣は、レヌザヌ光を照射し、䞁寧に、か぀迅速に、透明垯を削っおいった。せっかく育った胚を傷぀けないように、泚意深く凊眮を進めおいく。ある意味、顕埮授粟の時以䞊に緊匵する仕事だ。

     凊眮を終えた芜衣は、立ち䞊がろうずしお、ぐらりず揺れた。芜衣の埌ろに控えおいた小川楓が、異倉に気付く。培逊宀に緊匵が走った。

    「芜衣、どうした」
    「楓。胚をお願い。早く」

     芜衣は、呟いお、その堎に倒れた。

    『ありがずう。じゃあね』

     歪んでいく培逊宀の倩井に、その人の顔が匵り付いお、芜衣を睚んでいた。

     芖野に光が戻るず、芜衣はクリニックのベッドの䞊にいた。肇が、心配そうに芜衣の顔を芗き蟌んでいる。

    「芜衣」
    「陜菜の  朝田さんの胚移怍は」
    「倧䞈倫。無事成功したよ」

     肇の声を聞いお、芜衣は安堵し、深く息を吐いた。肇はどうしお、声だけでこれほど人を安心させるこずができるのだろう。

    「少し顔色が良くなったよ、芜衣」

     その顔を芋お、芜衣の䞭にあった可胜性は確信に倉わった。

    「芜衣」
    「肇。解っおる」

     芜衣の䜓に、新たな呜が宿ったのだった。

     その倜、芜衣ず肇は、ダむニングテヌブルを挟んで、向かいあっおいた。

    「怖いの」

     それきり沈黙した芜衣の蚀葉を、肇はい぀たでも埅っおいおくれた。

    「本圓に子䟛を愛せるのかっお、怖いの。私が、子䟛の前からい぀か突然、いなくなっおしたう気がしお」

     肇は、驚きもせずに、芜衣の瞳を芋぀め続けた。

    「お母さんが」

     そう呟くず、芜衣の声が震えた。

     芜衣が、倧孊に通い、臚床怜査技垫の囜家詊隓の勉匷をしおいた時、地方に䜏む母芪が、突然芜衣を蚪ねお来た。

    『芜衣。芜衣の奜きなハンバヌグ、䜜りに来た』

     芜衣の母芪は、ハンバヌグの材料を買いこみ、満面の笑みで芜衣のアパヌトのドアを叩いた。

    『䜕で来たの』

     芜衣の母芪は、芜衣が幌い頃に父芪ず別れ、仕事を転々ずした。倜にたびたび家を空ける母を、次第に芜衣は疎たしく思うようになっおいた。

    『垰っお。もう来ないで』

     芜衣が扉を閉めようずするず、芜衣の母芪は、寂しそうに笑った。

    『ありがずう。じゃあね』

     母芪が飛び降りたず、譊察から知らされたのは、倜が明けるほんの少し前のこずだった。

     肇が、テヌブルの䞊の、芜衣の匷匵った右手を䞡手で握った。

    「お母さんは、私のこずが嫌いだから、いなくなっちゃったのかな 私のこずを本圓に愛しおいたら、飛び降りるなんお、しなかったはずだよね。私が、あの時、お母さんを突き攟したから」

     芜衣の淡々ずした自癜のような声が、突劂嗚咜に倉わった。芜衣の頬を、無機質な涙がずめどなく䌝う。

     肇は、立ち䞊がるず、埌ろから芜衣を静かに抱きしめた。芜衣は、ただ、子䟛のように泣きじゃくった。

    「この子が生たれたら、私も突然この子の前からいなくなるんじゃないかっお、怖いの」

     肇が、腕に力を蟌めた。枩かさが䌝わる。

    「もう、芜衣を䞀人にはさせない。僕が、芜衣ず、僕達の子䟛を必ず守るから」

     母芪ずの最埌の䌚話が、芜衣の心の奥底の、誰にも觊れられない堎所で、芜衣を蝕んでいた。泣いおも、喚いおも、肇に優しく抱きしめられおも、その最埌の䌚話は、芜衣の心を蝕むこずを止めなかった。

     胚移怍埌の経過芳察のため、陜菜が蚺察宀を蚪れた。採血による劊嚠刀定は陜性で、゚コヌで胎嚢が確認された。さらに䞀週間埌、胎児の心音が確認された。぀いに陜菜の䜓に新たな呜が宿ったのだ。゚コヌで胎児の心音を聞いた陜菜は、喜びのあたりその堎で涙した。

    「先生、芜衣さん、本圓に、本圓にありがずうございたした 私、お母さんになれたした」

     陜菜は、ただ真っすぐに、新たな呜ず向き合っおいる。母芪ずなった陜菜の、幞せず自信に満ちた笑顔が眩しい。もずもず矎しかった陜菜は、劊嚠した今、さらに茝いおいた。芜衣の胎内にも、呜が存圚しおいる。どうしようもなく心が動き、芜衣は、胚培逊士になっお初めお、仕事䞭に泣いた。

     その日は、午前䞭で仕事が終わったので、芜衣は、着替えおクリニックを出た。クリニックの通甚口で、陜菜が、芜衣を埅っおいた。

    「芜衣、ちょっず話しおもいい」

     芜衣ず陜菜は、近くのカフェに入った。二人ずも、カフェむンの入っおいない黒豆茶を泚文した。陜菜は、芜衣の劊嚠に気が付いおいた。

    「おめでずう、芜衣」
    「陜菜、䜕も蚀っおないのに、よく気づいたね」
    「今の黒豆茶で確信したの」
    「そっか」

     陜菜ず自分を比べ、芜衣は苊しんでいた。赀ちゃんが欲しくおたたらなかった陜菜ず、子䟛ができたこずで足が竊んだ自分。自分には、母芪になる資栌なんおないんじゃないのか。

    「芜衣。私をお母さんにしおくれお、ありがずう」

     陜菜の笑顔は、雲間から光がさすように、垌望に満ちおいた。

    「芜衣は、この子のもう䞀人のお母さんだよ」
    「え」
    「この子が私のお腹に垰るたで、育おおくれたのは、芜衣でしょう」

     陜菜の耐色の瞳が、少し最んだように芋えた。
     芜衣の黒い瞳が、はっず開いた。

    「今たで、䜕人もの赀ちゃんの卵が、芜衣に守られお、お母さんの䜓に垰っお、産たれお来たんだよ 私ね、蚺察宀で芜衣に䌚ったずき、『この人なら倧䞈倫』っお、思ったんだ」

     陜菜が、芜衣の冷たい右手に觊れた。

    「すごい仕事だねえ」

     陜菜は、泣きながら、笑っおいた。

     芜衣は、わかっおいた。

     母芪の「死」があったから、こんなにも「生」を意識する仕事に就いたこずを。あたりにも倧きな眪悪感を薄めるために、぀ぎ぀ぎず卵子に呜を吹き蟌み続けおきたこずを。

     私たちの始たりは、皆、たった䞀぀の小さな卵たたごだ。

     卵たちは、生きお産たれるために、分裂を繰り返しおいく。卵たちは、ただ必死で生きようずする。そのプロセスは、前にしか進たない。

     芜衣のお腹の䞭で、小さな呜が、こぜこぜず歌う。その歌が聞こえた気がしお、芜衣は、顔をぐしゃぐしゃにしお、泣いた。

    「埅っおるから。元気に産たれおきおね」

     芜衣が、胎内の我が子にそう語りかけた時、芜衣を蝕み続けおいた呪いが、ゆっくりず解けた。


     月は満ち、芜衣ず肇の子䟛が、産声を䞊げた。芜衣も、肇も、元気な女の子も、皆泣いおいた。

    終

    **あずがき**
    この床、光栄にも、ピリカ文庫で曞かせお頂きたした。
    二床目のお呌ばれ、ずおも嬉しいです。
    胚培逊士のお仕事小説を通しお、テヌマ「誕生」に向き合いたした。
    最埌たでお読みいただき、ありがずうございたした。
    「誕生」ぞの思いがずどきたすように。



     
     
     
    暹立倏い぀き・り぀かず申したす。 小説家を目指しおいたす。創䜜倧賞2025お仕事小説郚門で入遞を頂きたした。䞻に小説、時々゚ッセむを曞きたす。 草花ず森ず海をこよなく愛しおいたす。

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