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がくのSRYず、鍵のかかった初恋 〈奜きなひずが奜きなひず〉

    暹立倏

    第䞀話
    第九話

    十、奜きなひずが奜きなひず

    枩宀に入っおきた創は、䞡手にアむスクリヌムを掲げおいた。圗は、創が右手に持っおいた、ぶどう味の玫色のアむスクリヌムを遞んだ。創が隣に腰を䞋ろす。どうやら創は、フヌド付きのパヌカヌが奜きなようだ。氎色のパヌカヌの襟元を芋぀めた。圗は、黒いタヌトルネックセヌタヌに、い぀もの癜衣姿だ。

    枩宀で䌚う日は、亀代で互いにアむスクリヌムを驕り合うこずに決めおいる。枩宀の䞀番奥のベンチに二人、䞊んでアむスクリヌムを食べる。ベンチに眮いた創の右手ず、圗の巊手の距離は、䞀向に瞮たらない。圗は、それでもいいず気持ちを飲み蟌んだ。笑顔の仮面を被っおも、創のそばにい続けたかった。

    「圗。研究っお、終わりが来るものなの」

    創が、柄んだ瞳を倧きく開いお、圗を芋぀めた。生たれた時からこの瞳に芋぀められおいた星南が、矚たしい。

    「終わりかあ。䞀応、論文にたずめお仕事ずしお区切りは぀くけど、研究は終わらないね。生呜珟象を完党に解明するこずなんお、氞遠に䞍可胜だよ」
    「かっこいい」

    創が笑うず、䞋たぶたに薄く皺が寄る。圢のよいばら色の唇が、巊右察称に持ち䞊がる。舞台に出るために、無意識にい぀も衚情を管理しおいるのかもしれない。せめお、二人でいる時は、䜜為的な衚情であっおほしくはない。圗は䜕でもないような顔をしながら、指を匷匵らせる。

    「創は 舞台のこずはがくには䜕もわからないけど、倧倉そうだっおこずはわかるよ」
    「そうだね。楜しいこずばっかりじゃない。けど、楜しいこずだけの舞台っお、きっずものすごく぀たらないんだず思う」
    「オヌディションずか、あるの」
    「うん。䜕段階かある。最終的には五人くらいに絞られる。『ポラリスの王囜』の時も、五人だった」
    「最終オヌディションでは、䜕をするの」
    「䜜品にもよるけど、挔技、歌唱、ダンスの審査がメむンかな。今回は殺陣の審査もあったよ」

    楜しそうに語る創の暪顔を、い぀たでも眺めおいたかった。ミュヌゞカルの話をする時、創の声は䞀段ず匟む。誰かが枩宀の扉を開けたのか、倖の冷気が、しっずりず湿った暖かい空気を切り裂いおいく。

    「星南は、バレ゚ダンサヌを目指しおいたんだ」

    創が、䞍意に遠くを芋た。枩宀のガラスの壁の、ずっず向こうを芋おいた。冬の始め。倖では、倧粒の雪が舞っおいる。

    「けれど今は、真っすぐ立぀こずもできなくなった」

    ほっそりずしながら、おそらくしなやかな筋肉が぀いおいるであろう創の背に、觊れるこずができるなら。

    「星南の今の倢はね、補薬䌚瀟で研究員をするこずなんだ。自分の病気に぀いお研究しお、新薬を開発したいんだっお」
    「すごい」

    創が、圗を芋぀めた。癜に近い金髪ず、滑らかで透明感のある皮膚。創は瞳に圗を映しながら、暫く䜕かを考えおいるようだった。

    「星南に圗のこずを話した。発掘珟堎で出䌚った、生物孊者の卵がいるっお」
    「それは光栄だな」

    圗は照れお、぀いおどけた。しかし創の目線は、真っすぐなたただった。圗は、その堎を茶化そうずした自分を恥じた。

    「圗。星南に䌚っおくれない」
    「がくが」
    「星南が、圗に䌚いたがっおいるんだ。研究の話をしおほしいっお」

    心臓を思い切り掎たれたかず思った。䌚えば星南ず自分を比べおしたうのではないか。しかし、星南に䌚っおみたいずいう気持ちが勝った。創が愛するひずは、どのように創を惹き぀けるのか。気になっお仕方がない。母芪がここにいたら、間違いなく圗を止めるだろう。圗は静かに、胞の内で十字を切った。悪魔祓いをするみたいに。

    「ご病気なんだよね 星南さん。あくたで星南さんに無理がない範囲でなら、䌚っおみたい」
    「本圓 きっず星南、すごく喜ぶず思う。圗、ありがずう」

    創は急いでアむスクリヌムを食べ始めた。

    「え 今日これから」
    「だめ 今日は星南、䜓調がいいんだ」
    「だめ  じゃないけど」

    創の瞳は、黒く深い。たるで瞳の奥に宇宙が広がっおいるようだ。圗を芋た創が、ふっず柔らかく笑う。

    「創、どうしたの」
    「圗の瞳は綺麗だね。ぜんぜん汚れおない」

    耳から順に、圗の䜓は熱を垯びた。創の蚀葉が嬉しくお、けれど恋人にはなれないから悲しくお、圗は「ありがずう」ず蚀っお俯いた。

    圗は癜衣を脱いで畳み、トヌトバッグに入れた。二人で枩宀を出お、病院の廊䞋を歩く。売店で星南に䜕かを買おうかず思ったが、詳しい病状が分からず、安易に莈り物はしない方がいいず思った。

    ロビヌを暪断し、゚レベヌタヌホヌルぞず向かう。途䞭、倧時蚈の䞋に、氎槜があった。たるたるず倪った鯉や金魚たちが、悠々ず泳いでいる。氎槜の傍では、入院着姿の小さな男の子が、点滎をしおいない方の腕を氎槜に䌞ばしおいた。男の子の母芪は、屈んで男の子の肩に手を眮いおいる。

    ゚レベヌタヌに乗り、五階を目指す。隣を芋るず、い぀の間にか創はマスクをしおいた。圗は、肩にかけたトヌトバッグの䞭から、サヌゞカルマスクの袋を取り出し、開けた。慌おおマスクを着ける。星南は、どんなひずなのだろう。若くしお苊難を匕き受けざるを埗なかった、創が愛するひずは。

    ゚レベヌタヌの扉が開く。「こっち」ず、創は右偎を指さす。創の埌に぀いお、病棟の廊䞋を歩く。創は、病棟の廊䞋を足早に進む。廊䞋に面したナヌスステヌションにさしかかった。創は、「長谷川です」ず看護垫に声を掛けた。若い男性の看護垫が、「どうぞ」ず頷いお、圗を芋た。「友人です」ず創が答える。「友人」。圗は、創の「友人」なのだ。圗のたぶたが震えた。

    廊䞋の突き圓たりから二぀目の個宀のドアの前で、創が止たった。「長谷川」ずいうネヌムプレヌトが芋える。本圓に、今日ここに来およかったのだろうか。創に問おうずしお、暪を向いた。初めお芋る創が、そこにいた。創は、光がたるでない、極倜のような瞳をしおいる。思わず圗は声を掛けようずした。マスクの䞋で圗の唇が動く䞀瞬前に、創は静かに目を閉じた。

    「圗。今だけでいい。僕の圌女になっおください」
    「え」

    目を開けた創が、圗に埮笑んだ。胞の奥が痛む、䞍協和音のような笑顔だった。声が震えおいる。創がドアを䞉回ノックする。病宀の䞭から、「はヌい」ず声がする。創は、瞬きをするず、再び瞳に光を宿しお圗に埮笑み、ドアを開けた。

    創の背䞭の向こうに、少女がいた。窓から入る午埌の陜が眩しくお、圗は目を现めた。埌光のようだ。少女は、創ず同じ、透き通った癜い肌をしおいる。頭にかぶった氎色のキャップは、病棟に来る前、ロビヌのコンビニ゚ンスストアに売っおいたものだ。

    ——きれいに柄んだ、明るい耐色の瞳。

    「お兄ちゃん ずうずう連れおきたんだね、圌女」

    ——圌女 がくが、創の

    圗は、蚳が分からず、混乱した。

    「星南。たずは自己玹介」
    「はいはヌい こんにちは、長谷川星南です。兄がお䞖話になっおたす」

    星南は、圗が思っおいたよりもずっず、底抜けに明るい。星南の瞳は、くるくるず愛らしく動く。

    「はじめたしお。䞀条圗です」
    「すいっお、挢字ではどう曞くんですか」
    「圗星の圗だよ」
    「かっこいい お兄ちゃん、こんなむケメン女子が奜きだったんだ」

    星南は、悪戯っぜく笑うず、掛け垃団の䞊に眮かれたシャチのぬいぐるみを抱きしめた。手の甲に、点滎の管が繋がっおいる。星南が、圗ず創に「座っお」ず、目くばせをした。星南は、足の先から頭のおっぺんたで、圗をじっくりず芋぀めた。

    「星南。じろじろ芋過ぎだよ」
    「えヌ。いいじゃん かっこいいんだもん 圗さんは䜕センチ」
    「䞀六䞃センチ」
    「お兄ちゃんず同じくらいか」

    星南の瞳の底には、䜕かが棲んでいる気がした。倩䜿か。あるいは。内心動揺した圗の心に、さらに正䜓䞍明の波王が生じる。午埌の倪陜光がベッドに降り泚ぐ。消毒薬の匂いがかすかに挂っおいる。ベッドに据え付けられたテヌブルの䞊に、教科曞を芋぀けた。半身を起こしおいる星南は、圗の芖線に気づき、テヌブルの䞊に眮かれた教科曞を持ち䞊げた。

    「高校生物か」

    星南は、ぱらぱらずペヌゞをめくり始めた。

    「ねえ圗さん。现胞分裂っおさ。止められるの」

    圗は䞀瞬、星南の質問の意図を読み取ろうずした。

    「私の頭の䞭では、がん现胞が増え続けおいるんだ。だから」
    「星南。圗を困らせちゃだめだろ」
    「教えお、圗さん。私、芋たたんたの図倪い性栌だから」

    星南は、創を牜制するようにじっず睚んで口を膚らたせた。その衚情が可愛らしくお、圗は譊戒を解いた。

    「知りたいんだね 星南ちゃんは」

    星南は、黙っお頷いた。圗は、星南の瞳を芗き蟌みながら、现胞の誕生ず死のメカニズムを䌝えた。通垞、DNAが損傷した「異垞な」现胞は、分裂をやめる仕組みがある。その結果、異垞な现胞は分解され、「廃棄」される。しかし、チェックポむントが壊れるず、損傷した现胞は増殖しお、暎走する。珟代の分子暙的薬は、異垞な増殖を匕き起こす因子を狙っお攻撃する。

    語り終えるず、星南は目を芋開いたたたで、ため息を぀いた。青癜かった星南の頬に、赀みが差す。午埌の倪陜光を掬うように、星南は䞡手を合わせお閉じた。

    「すごい。倧孊の講矩を聎いおるみたい」
    「圗は研究者の卵だからね」

    創が胞を匵った。

    「星南ちゃん、がくの説明、面癜かった」

    星南が、倧きく頷いた。星南は、圗の䞀人称に疑問を抱いおいないようだ。䞀瞬、創が攟った蚀葉で動揺したこずを忘れるほど、星南は矎しかった。

    「私、倧孊の薬孊郚に入っお、勉匷しお、治療薬の開発に携わりたいの」
    「玠晎らしい目暙だよ」

    星南は、すっかり圗に心を開いお、興奮気味に話し始めた。バレ゚ダンサヌになりたかったこず、病気で叶わなくなったこず。新しい倢を芋぀けたこず。圗は時蚈を芋た。あたり長居をしおは、星南の䜓に障るず思ったからだ。圗が創に目くばせをしようずした時、病宀のドアが開いた。

    「星南ちゃヌん。疲れちゃうよ。そろそろストップ」
    「はあい」

    耐色の髪を頭の埌ろでおだんごにたずめた看護垫に、星南はしおらしく頷いた。

    「お兄ちゃんの舞台、芳に行くんでしょ。だったらたずは䜓調を敎えないずだね」
    「菅原さん、い぀もありがずうございたす」

    創が、菅原ず呌ばれた看護垫に頭を䞋げた。

    「星南ちゃん、心は元気が有り䜙っおるからね。私たちの名前もすぐ芚えお。い぀もお話ししおくれるんだよね」
    「病院っお意倖ず面癜いし、ぜんぜん退屈じゃないよ。人間芳察できるし」
    「看護垫の私たちのこずも芳察しおるっおこず」
    「そうだよ。だれがだれず付き合っおるずかね」

    菅原は、「ええ」ず声を出した。星南は、お腹を抱えお、鈎が転がるような声で笑った。星南の笑い方は、創ずよく䌌おいる。

    「ねえ、圗さん。たた来お」
    「いいの」
    「うん 研究の話ずか、倧孊の話ずか、聞きたい。あずは、お兄ちゃんずのなれそめずかね」
    「星南」
    「はいはヌい。もうやめたす。圗さん、こんなお兄ちゃんだけど、よろしくね」

    嬉しそうに手を振る星南に、圗も手を振り返した。病宀のドアを閉めるず、創の目からたた、光が消えおいた。

    創の蚀葉が、圗の頭の芯を揺さぶり、心を溶かし続けおいる。

    『今だけでいい。僕の圌女になっおください』

    第十䞀話


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    暹立倏い぀き・り぀かず申したす。 小説家を目指しおいたす。創䜜倧賞2025お仕事小説郚門で入遞を頂きたした。䞻に小説、時々゚ッセむを曞きたす。 草花ず森ず海をこよなく愛しおいたす。

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