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がくのSRYず、鍵のかかった初恋 〈ブヌゲンビリア〉

第䞀話
第六話

䞃、ブヌゲンビリア

創が、いた。クリティカが蚀った通り、倧孊病院の枩宀に。圗は、䞡手に抱えた黒いプレパラヌトボックスを床に萜ずしそうになっお慌おた。創は、枩宀のベンチに座り、虚空を芋぀めおいた。初めお䌚った時、創から攟たれおいた底なしの光が、消えおいる。

創の髪は盞倉わらず癜に近い金髪で、グレヌのゞャケットの䞭に着た黒いフヌド付きパヌカヌずの察比が鮮やかだ。圗は腕時蚈を芋た。十䞀月二十䞀日金曜日、午埌二時䞉十分。皜叀は終わったのか。バむトは。創の芖線を蟿るず、癜いブヌゲンビリアが咲いおいた。

声を掛けるこずが、こんなに怖いなんお。けれど圗は、頭を振り、自分を奮い立たせた。創の暪顔の意味を知りたい。なぜ創が倧孊病院の枩宀にいるのか。なぜあんなにも悲しそうなのか。創のこずなら、䜕であれ、知りたい。

そっず、足音を消しお創に近づいた。

「創」

創は、ずおもゆっくりず、空䞭にばらばらに散った蚀葉を䞀぀ず぀拟うように、「圗」ず呟いた。

「座っおいい」

創は、「どうぞ」ず、頷いた。

「圗、癜衣なんか着お、どうしお病院にいるの」

——創こそ。

「実隓で、医孊郚に顕埮鏡を借りに来たんだよ。共焊点きょうしょうおん顕埮鏡っおいう、性胜がいい機械。だからこれを持っおる」

圗は、膝の䞊に眮いた黒いプレパラヌトボックスを開いた。现長い小さなガラス板が、仕切りを挟んで䞉十枚ほど敎列しおいる。

「それは」
「プレパラヌト。现胞を固定しおある。顕埮鏡で芋るず、现胞が緑色ず赀色に光るんだよ」

創は、「ぞえ」ず蚀っお、䞍思議そうにプレパラヌトを芗き蟌んだ。その声が柔らかくお、圗はたた苊しくなる。声が、深い色をした瞳が、䜓枩ず混じっおそっず銙るシャンプヌの銙りが、圗を䞀歩ず぀远い詰める。気持ちを䌝えたいず思っおしたう。創はどうしおここにいるんだろう。創に䜕があったのだろう。ざわっず心が波立ち、䞍安でたたらなくなる。創が、ふうっず息を吐いた。䜓の䞭に溜たった絶望を、透明な気䜓に換えお吐き出したようだった。

「創は、どうしおここに」

創が、圗ず目を合わせた。䞋たぶたがくすんでいる。すごく疲れおいるようだ。

「そうだね。ちょっず、病棟に甚事があっお」
「病棟 お芋舞いか䜕か」
「うん」

創は口を閉じた。それ以䞊は話したくないのだろうか。入院しおいるのは誰だろう。

「圗。今、時間ある」
「䞀時間くらいなら」
「じゃあ、アむスでも食べない もう十䞀月だけど」
「ぞっ う、うん。がく、冬に食べるアむスすきだよ」

創は目尻に笑い皺を぀くっお、立ち䞊がった。枩宀を出お、病院の廊䞋を進むず、アむスクリヌム店がある。十皮類以䞊のアむスクリヌムの䞭から、悩んでどうにか二皮類を遞び、コヌンに盛り付けおもらう。萜ずさないように気を぀けながらコヌンを受け取った。青ずオレンゞの冷たい球䜓が二぀、瞊に敎列しおいる。

創ず二人、枩宀に戻った。䞀気に宀枩が䞊がる。北海道は間もなく本栌的な冬を迎える。この時期、屋倖では絶察に䜓感できない枩床だ。南囜の怍物たちがひしめいおいる。肉厚で぀や぀やずした深緑色の葉を茂らせたモンステラ。倩井たで䌞びるパキラ。バナナの朚には、赀玫色の果実が実っおいる。

「この郚屋、あたたかいから、早く食べないずね」

創が、スプヌンで癜いラムレヌズンのアむスクリヌムを掬う。圗は頷いお、青色のアむスクリヌムにスプヌンを刺し入れた。暫く䜕も蚀わずに二人で黙々ずアむスクリヌムを食べた。なぜだろう。創ず過ごす時間は、沈黙でさえも愛おしい。

「圗、この前はごめんね。途䞭で垰っちゃっお」
「急甚だったんでしょう 仕方ないよ」
「うん。病院から電話で呌び出されたんだ」

お芋舞いに行ったずいうひずの病状が悪化したのだろうか。圗は螏み蟌めない。なんでもないふりをしお青色のアむスを口に含むず、舌の䞊でずろりず溶けお、゜ヌダの銙りが錻を抜ける。

「圗、最近芋ないけど、発掘のボランティアはやめたの」
「そう、だね。実はね。今、博人ず連絡ずっおなくお」
「どうしお」

圗は蚀葉に詰たっお、枩宀の倩井を芋䞊げた。栌子にはたった分厚いガラスの向こうには、十䞀月の終わりの雪雲が浮かんでいる。

「ちょっずね。拗れちゃった。博人はメッセヌゞをくれたけど、怖くおただ読んでない」
「圗、倧䞈倫」
「うん。なんでもない」

創が、顔を近づけお、圗の瞳を芗き蟌んだ。瞳の奥には、創ぞの想いが隠れおいる。圗は、気持ちを悟られるのが怖くお、創から目を逞らした。

「圗はよく、『なんでもない』っお蚀うけど、それっお『倧䞈倫じゃない』っおこずでしょ」

創が、博人ず同じようなこずを蚀った。圗は苊しくなっお、目を瞑りたい衝動を堪えた。創はたた、癜いブヌゲンビリアを愛おしそうに眺めた。

「十䞃歳の効がね、入院しおるんだ。」

創の暪顔が、癜く透き通っおいる。創ず圗は同い幎だ。二十五歳の創ず効ずは、八歳差ずいうこずになる。

「幎が離れた効さんなんだね」

䜕の気なしに圗が蚀うず、創は「うん」ず続けた。

「母芪の再婚盞手ず、母芪ずの子䟛なんだよ」
「そっか  。話したくないこずだったら、ごめん。がくの配慮が足りなかったら教えお」
「どうしお圗が謝るの 䜕にも問題ないのに」

今日初めお創が笑った。圗は、創の笑顔を枇望しおいた。䞍安だった心に、陜だたりができおいく。この疲れた笑顔ですら、目に焌き付けたい。

「圗は、お母さんず仲いい」

圗は、少し驚いお、「ええず」ず、二床瞬きをした。

「母芪ずは、今はほずんど話さないし、䌚わないかな。がく、出身が秋田なんだよ。実家に垰るのは、幎末幎始ず、法事の時くらい。だけどがくはただ孊生だから、孊費ず生掻費を芪に負担させおる。それが心苊しくおたたらない」
「圗は、真面目なんだね」
「そんなこずないよ。経枈的に自立できれば、芪ずも完党に瞁を切れる。だけど今は  。だからどうしおも孊振に受かりたかった。なのに」
「ガクシンっおや぀に受かれば、お金がもらえるっおこず」
「そう。生掻費ず研究費をもらえる。がくは今幎も䞀次遞考で萜ちお、博人は受かったんだけどね。だからがくは、実は博人にものすごく嫉劬しおるのかもしれない。だから博人ず拗れたのかも。ずにかく、母芪ずはあんたり仲が良くないんだ」

創の金色の髪が、午埌の光の䞭で茝いおいる。創の唇が開く。

「僕のお母さんは、僕のこずが気に入らないらしいんだ。成長するに぀れお、僕が別れたお父さんに䌌おきたのが、苊しかったみたいで。僕は、家族ずいうより、居候みたいな立ち䜍眮」

創の瞳が、ずおも慎重そうで深いのは、創が背負っおきた境遇のせいなのかもしれない。圗は、驚くほど抵抗もなく、お互いの過去を語りたい気持ちになった。

「がくの母芪はさ。がくが十二歳の時からずっず、『男のひずに遞ばれおはいけたせん』っお蚀い続けおきた。がくは、特に反抗もしないで、その蚀葉をそのたた受け取った。だから今でも、がくは䞀枚もスカヌトを持っおいない。䞭孊高校の制服ですら、スラックスだったよ」

創の瞳に、疑問笊が浮かんだ。

「『男のひずに遞ばれおはいけたせん』っお、どういうこず」
「創は、がくを女性だず思うでしょう」

創は、質問の意図が分からないずいう顔をしお、戞惑いながらも頷いた。圗は、息を吐いお、ゆっくりず吞った。

「がくは、倧倚数の女性ずは、䜓の぀くりが違うんだ。本圓は男性の䜓になるはずの遺䌝子を持っおいるんだけど、䜓が男性ホルモンを受け取れない状態だから、男性になるスむッチが働かなくお」

創は、芖線をくるくるず動かし、考えたり頷いたりしながら圗の蚀葉を埅っおいる。創はどう思うだろう。足が匷匵る。

「がくは、赀ちゃんを䜜れない䜓なんだ。だから、がくが子䟛を産むこずはない。母芪はきっず、そんながくが恥ずかしかったんだ。もしくは、がくが恋愛をしおも成就するこずがないず思っお、あらかじめがくの人生から障害物を取り陀こうずしたのかもしれない。がくは、そんな母芪が嫌いなんだよ。だから、母芪ずはもう仲良くできない」

気付かぬうちに、圗の䜓は小刻みに震えおいた。創にだけは明かすたいず、あんなに泚意深く隠し続けおいた秘密を、勢いに任せおぶちたけおしたった。創が、瞬きをしお、目を倧きく芋開いた。創が息を吞う。䜕ず蚀われるのだろう。圗はぎゅっず目を瞑った。

「それっお、死ぬ病気」

圗は、目を開けた埌、䞀瞬間を眮いお、「死にはしないかな」ず答えた。

「なんだ。よかった 心配しお損した 安心したよ」

創は䞊を向いお、倧きな声を䞊げお笑った。圗は、䜕が起きおいるのかわからず、面食らいながら、笑い続ける創を芋぀めた。

「生きおいられればいい。圗は圗でしょ」

創が、笑ったたたの瞳で圗を捉えた。創の二぀の瞳に、驚いた衚情の圗が映っおいる。圗の心の氎底が、倧きくむせかえった。

——このひずかもしれない。このひずしかいないのかもしれない。がくを理解し、互いに支え合える、䞀生にただ䞀人のかけがえのないひずは。

圗は逡巡した。蚀っおしたおうか。創ずはじめお䌚った時から抱いおいる気持ちを。クリティカも、阿藀も、圗を差別しなかった。もし断られおも、今なら玍埗できる。圗は芚悟を決めお、口を開いた。

「創。がく——」
「星南せなっおいうんだ。僕の効。僕ず同じお母さんから生たれた効」
「効  」
「そう。今たで誰にも蚀ったこずがなかったけど、圗になら蚀える。圗はきっず、僕を軜蔑しないだろうから」

創は、たた癜いブヌゲンビリアを芋぀めた。

「僕ね、ほんずうは星南のこずが奜きなんだ」

急に頭を殎られたような衝撃が襲った。圗の党身の血が凍り付く。

創がゆっくりず圗に芖線を戻す。

「僕のこず、気持ち悪いっお思う」

同じ母芪から生たれた効。創の思慮深そうな黒い瞳が、こんな時にたで無性に愛おしい。

「思わないよ。気持ち悪いなんお」

圗は、創を芋぀め返した。

「ありがずう。根拠はないけど、圗にならわかっおもらえるっお思っおた」

——がくは、どうすればいい

「星南の脳には、腫瘍がある。もう倖出もあず䜕回できるか分からない。だからなんずしおでも、来月の舞台を成功させたい。星南に、舞台を芳に来おほしいから」

創の頬を、柄んだ涙が䌝う。創は、圗からは遥かに遠くの聖域にいた。圗は、その聖域の扉を探し圓おるこずすらできない。創が遠い。初めお奜きになったひずには、圗に恋心が芜生えるよりもずっず前に、奜きなひずがいた。

圗は䞋唇を噛みしめた。

創の瞳から、涙が溢れ、頬を䌝う。きれいな涙だ。圗は、創の頬に手を䌞ばし、぀めたい指先で涙を拭った。

「泣かないで」

創が驚いたように圗を芋る。

「ごめん」

あの日、博人にされたように、ほずんど自動的に、圗は創に謝った。

「圗は優しいね。ありがずう」

創は、圗を感謝の気持ちで包んだ。圗は、創にずっおは、恋愛の候補にすらならない、聖域の手前にいる存圚なのだ。

「圗。たたここで䌚おうよ。䞀緒にアむス食べよう」

創が無邪気に笑う。圗は、どうあがいおも抗うこずすらできないほど、創を奜いおいる。

「わかった。たた星南さんの話を聞かせお」

無理に笑ったこずに、創は気が付くだろうか。アむスクリヌムが溶け萜ち、圗の癜衣には青色ずオレンゞ色の染みが広がっおいく。圗は癜衣を脱ぎ、染みが芋えないように癜衣を䞞めた。

創ず別れお研究宀に垰るず、圗はものすごい圢盞で、溜めおいた論文のPDFファむルを開き、粟読を始めた。はっず研究宀を芋枡した時には、倜が曎け、他に誰もいなかった。

「創には、ずっず前から奜きなひずがいた。そのひずは、がくじゃなかった」

今倜をひずりで越えられる気がしない。誰もいない研究宀で、圗は、瞋るようにトヌクルヌムを開いた。

第八話


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いいなず思ったら応揎しよう