【エッセイ】白と黒のあいだで、それでも進む
ねえ、君に話したいことがある。
僕はね、ずっと思っていたんだ。
この世界は、白と黒だけでいいって。
明るいか暗いか。
正しいか間違っているか。
好きか嫌いか。
それだけ分かれば、もう十分だと思っていた。
色なんて増やせば増やすほど、
判断は鈍くなるし、心は迷う。
どこかで選ばなきゃいけないのに、
グラデーションはその決断を曖昧にするから。
だから僕は、削ぎ落としていった。
余計な感情も、曖昧な言葉も、
全部、見えないところに押し込んで。
白か黒か。
それだけで生きていこうと決めた。
その方が、楽だったから。

でもね、気づいたんだ。
白と黒だけで生きるって、
結局「感じないふり」をすることだった。
悲しいときに、笑う。
悔しいときにも、笑う。
嫌なことは、ただ避ける。
そうやって僕は、
「偽りの人間」になっていった。
誰にも迷惑をかけないように。
誰にも嫌われないように。
自分を少しずつ削りながら。
ねえ、君もやってない?
ほんとは泣きたいのに、
笑ってやり過ごしたこと。
言いたいことがあるのに、
喉の奥で飲み込んだこと。
それを繰り返しているうちに、
わからなくなるんだよ。
自分が、どんな顔で笑っていたのか。

心の中には、ちゃんと声があった。
叫びたいくらいの言葉も、
抱えきれない感情も、
確かにそこにあったのに。
僕は、それを外に出さなかった。
出したところで、
どうせ伝わらないと思っていたから。
どうせ、理解されない。
どうせ、面倒くさいと思われる。
どうせ、空気を壊すだけ。
そうやって僕は、
自分の声にフタをした。
静かに。確実に。
気づかれないように。
でもね、消えたわけじゃないんだ。
その声はずっと、内側で響いていた。
小さく、でも確かに。
「ここにいるよ」って。

ねえ、君。
もし今、同じように息をひそめているなら、
少しだけ聞いてほしい。
君は、君のために生きている?
誰かに合わせるためじゃなくて、
誰かに認められるためでもなくて、
ちゃんと、自分のために。
難しいよね。わかるよ。
だってこの世界は、
上手に笑う人ほど評価されるから。
本音を隠すほど、
「大人だね」って言われるから。
でもね、それでも。
心の奥で何かが引っかかっているなら、
それはきっと、まだ消えてない証拠だよ。
君の中の、ほんとの声。

僕は結局、色を選ばなかった。
赤も、青も、黄色も。
きれいだとは思うけど、
それでも僕は、白と黒のままでいいと思ってる。
だって、この世界はもう十分に複雑だから。
これ以上、何かを足さなくてもいい。
その代わり、僕は決めたんだ。
感じないふりを、やめること。
声を消すのを、やめること。
白なら白で、ちゃんと好きだと言う。
黒なら黒で、ちゃんと嫌いだと言う。
たったそれだけのことを、
ちゃんとやるって。
不器用でもいい。
伝わらなくてもいい。
それでも、ここにいるって言う。
ねえ、君。
泣きたくて、笑いたくて、
どうしようもなくなったときは、
無理に整えなくていい。
白と黒のままでいいから。
そのまま、進め。
止まらなくていい。
うまくやらなくていい。
ただ、自分を置いていかないで。
君の人生は、君のものだから。

この世界は、たぶんこれからも嘘だらけだ。
みんな少しずつ自分を隠して、
それでも笑って、生きていく。
僕もきっと、完璧にはなれない。
また飲み込んでしまう日もあるし、
またわからなくなる夜も来る。
それでもいい。
僕はもう知っているから。
どんなに押し込めても、
ほんとの自分は消えないこと。
ちゃんと、ここにいること。
だから僕は、生きていく。
白と黒のままで。
それでも、まっすぐ前に。
君がもし、どこかで立ち止まりそうになったら、
思い出して。
ここに、同じように迷いながら、
それでも進んでいる人間がいることを。
それだけでいい。
それだけで、少しだけ、
また歩ける気がするから。

ここまで読んでくれてありがとう。
