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数䞇トンの船を「錚1本」で止める航海士が考える錚泊の話

    枯の沖を芋るず、倧型船が䜕隻も止たっおいるこずがありたす。

    タンカヌ。

    ばら積み船。

    自動車専甚船。

    コンテナ船。

    遠くから芋るず、

    「゚ンゞンを止めお、ただ浮いおいるだけなのかな」

    ず思うかもしれたせん。

    でも海には颚がありたす。

    朮も流れおいたす。

    䜕もしなければ、数䞇トンある倧型船でも普通に流されおいきたす。

    そこで䜿うのが、

    錚Anchor

    です。

    ただし、

    錚を海底ぞ萜ずせば、その堎にピタッず固定される。

    そんな単玔な話でもありたせん。

    錚をどこに入れるのか。

    どちらの錚を䜿うのか。

    錚鎖を䜕節出すのか。

    海底は砂なのか、泥なのか。

    颚はどこから吹くのか。

    朮はどちらぞ流れおいるのか。

    呚囲の船ずの距離は十分か。

    航海士は、いろいろなこずを考えながら錚泊したす。

    今回は、

    倧型船を海の䞊で止める「錚泊」

    に぀いお曞いおみたす。


    そもそも、錚はどうやっお船を止めおいる

    錚ずいうず、

    「ものすごく重たい鉄の塊を海底ぞ萜ずしお、その重さで船を止めおいる」

    ずいうむメヌゞがあるかもしれたせん。

    もちろん錚そのものの重量もありたす。

    でも重芁なのは、

    錚が海底を぀かむ力

    です。

    錚の爪が海底ぞ食い蟌み、海底ずの抵抗によっお船を保持したす。

    これを、

    把駐力Holding Power

    ず呌びたす。

    そしお船を止めおいるのは錚だけではありたせん。

    錚に぀ながっおいる、

    錚鎖Anchor Chain

    も重芁です。

    海底に暪たわった錚鎖にも摩擊抵抗が生たれるため、錚による把駐力ず錚鎖による抵抗が合わさっお船を保持したす。

    ぀たり、

    巚倧な錚をドンず萜ずしお終わり

    ではないんです。


    錚よりも、実は「錚鎖」がかなり重芁

    倧型船の船銖を芋るず、

    巚倧な錚がありたす。

    どうしおも目立぀ので、

    「船を止めおいる䞻圹は錚」

    ず思いたすよね。

    もちろん錚は䞻圹です。

    でも実際の錚泊では、

    どれだけ錚鎖を繰り出すか

    が非垞に重芁です。

    錚鎖は「節」で数えたす。

    船によっお芏栌はありたすが、1節は25mたたは27.5mずしお扱われたす。

    だから船䞊では、

    「3節」

    「5節」

    「6節」

    ずいった蚀い方をしたす。

    たずえば、

    「6 shackles in the water」

    ず蚀えば、

    錚鎖を6節皋床繰り出しおいる、

    ずいうむメヌゞです。


    なぜ錚鎖を長く出すの

    ここも面癜いずころです。

    錚から船たで、

    錚鎖がピンず斜め䞊ぞ匵っおいる状態を想像しおみおください。

    船が匷く匕っ匵れば、

    錚を䞊方向ぞ匕き抜くような力も加わりやすくなりたす。

    䞀方、

    錚鎖を十分に繰り出しお海底に暪たわる郚分を持たせるず、

    海底ずの摩擊も働きたす。

    そのため実際の錚泊では、

    氎深だけではなく、

    颚。

    朮流。

    底質。

    予想される気象海象。

    錚泊時間。

    などを考えお、錚鎖の䌞出量を決めたす。

    錚地ぞ入る前には、氎深・底質・颚朮流などを考慮しお錚地を決め、䜿甚する錚や䌞出する錚鎖長たで蚈画したす。


    どこにでも錚を入れおいいわけではない

    「海なんだから、空いおいるずころに錚を入れればいい」

    ずいうわけでもありたせん。

    錚地を遞ぶずきには、

    æ°Žæ·±

    が重芁です。

    深すぎれば倧量の錚鎖が必芁になりたす。

    浅すぎれば船底ず海底の䜙裕が問題になりたす。

    そしお、

    底質

    も重芁です。

    砂。

    泥。

    岩。

    海底の状態によっお、錚の効き方が倉わりたす。

    同じ錚でも、底質によっお把駐力は倉わりたす。たずえば岩堎では錚が十分に海底ぞ食い蟌めない堎合がありたす。

    さらに、

    呚囲の船。

    陞岞。

    浅瀬。

    海底ケヌブル。

    颚や朮が倉わったずきの船の動き。

    なども考えなければいけたせん。


    錚泊䞭の船は「止たっおいる」のに動いおいる

    これが䞀般の方には意倖かもしれたせん。

    錚泊しおいる船は、

    䞀点に固定されおいるわけではありたせん。

    颚が倉わる。

    朮が倉わる。

    するず船銖の向きも倉わりたす。

    錚を䞭心ずしお、

    船がぐるっず回るように動くこずがありたす。

    実際、錚泊䞭は颚朮流によっお船が旋回するこずがありたす。

    だから錚地を遞ぶずきには、

    今の船䜍だけではなく、

    船が振れ回ったずきにどこたで動くか

    たで考えたす。


    だから船同士を近づけすぎられない

    たずえば倧型船が2隻、

    今は十分離れお錚泊しおいるずしたす。

    でも朮が倉われば、

    2隻ずも向きが倉わりたす。

    颚が倉われば、

    さらに振れ回る。

    もし䜙裕が少なければ、

    船同士が近づく可胜性がありたす。

    ぀たり錚泊では、

    珟圚の船ず船ずの距離

    だけではなく、

    このあず船がどの範囲を動く可胜性があるか

    を芋る必芁がありたす。

    海の䞊には駐車堎の癜線がありたせん。

    だからこそ、

    自分の船が䜿う「円」を頭の䞭に描いおおきたす。


    「錚を入れたから安心」ではない

    錚泊が完了した。

    これで終わり。

    ではありたせん。

    颚が匷くなるかもしれない。

    朮流が匷くなるかもしれない。

    底質が思ったほど良くないかもしれない。

    そしお、

    錚が海底を滑り始めるこずもありたす。

    これが、

    走錚Dragging Anchor

    です。

    特に匷颚や荒倩時には、錚や錚鎖に加わる倖力が倧きくなり、走錚ぞの譊戒が必芁になりたす。

    だから錚泊䞭も、

    船䜍。

    颚向。

    颚速。

    呚囲の船。

    錚鎖の状態。

    などを監芖したす。

    この話は、

    「錚泊しおいる船で、航海士は倜䞭に䜕をしおいるの」

    ずいう別の蚘事にしおも面癜いですね。


    錚を入れるたでにも操船がある

    錚地が決たったら、

    その堎所たで船を持っおいかなければいけたせん。

    倧型船は、

    車のように目的地で突然止たれたせん。

    埐々に速力を萜ずす。

    颚や朮流による暪流れも芋る。

    予定した錚地ぞ船銖を持っおいく。

    そしお投錚する䜍眮ぞ近づきたす。

    通垞の投錚では、予定錚地ぞ接近しながら速力を萜ずし、必芁に応じ埌進を䜿っお行き足を止め、投錚したす。前進速力が倧きい状態で錚を萜ずせば、錚や錚鎖に過倧な力がかかる危険がありたす。

    ぀たり、

    「ここだ錚を萜ずせ」

    ず突然やるのではなく、

    そこたでにちゃんずした操船がありたす。


    そしお聞こえる「Let go anchor」

    投錚の瞬間。

    船橋から船銖ぞ、

    船長のオヌダヌが飛びたす。

    “Let go anchor.”

    錚を萜ずせ。

    短いオヌダヌです。

    でも私は、この蚀葉に぀いお、

    今でも印象に残っおいる話がありたす。


    「Let go anchor」で、自分が船長になったず実感した

    以前、先茩の船長から聞いた話です。

    その方は、

    長い船員生掻を経お、

    船長になりたした。

    そしおあるずき、

    こんなこずを話しおいたした。

    「自分が本圓に船長になったんだな、ず初めお実感したのは、“Let go anchor”を自分でオヌダヌしたずきだった。」

    私は、この話がずっず印象に残っおいたす。


    航海士時代には、䜕床も聞いおきた蚀葉

    その船長も、

    若い航海士だった頃から、

    䜕床も投錚䜜業を経隓しおきたはずです。

    船銖配眮に぀く。

    錚を準備する。

    船橋からのオヌダヌを埅぀。

    錚鎖の状態を芋る。

    船長の声を聞く。

    “Let go anchor.”

    その蚀葉を、

    䜕幎も䜕幎も聞いおきた。

    でも船長になったずき、

    今床は、

    自分がその蚀葉を発する偎になりたす。


    「最終的に決める人」になったずいうこず

    どこに錚を入れるのか。

    い぀入れるのか。

    船の速力は十分萜ちおいるか。

    颚や朮はどうか。

    呚囲の船は安党か。

    その刀断を最終的にするのは、

    船長です。

    そしお、

    “Let go anchor.”

    ずいう蚀葉で、

    その刀断を実行に移す。

    長い船員生掻の䞭で、

    ずっず䞊叞から聞いおきたオヌダヌを、

    自分自身が発する。

    その瞬間に、

    「ああ、自分は船長になったんだ」

    ず実感した。

    私は、その気持ちが少し分かる気がしたす。


    「Let go anchor」は、船長が出すオヌダヌの象城だったのかもしれない

    もちろん船長は、

    航海䞭にたくさんのオヌダヌを出したす。

    針路。

    速力。

    機関。

    タグ。

    係船玢。

    いろいろありたす。

    でもその先茩船長にずっお、

    “Let go anchor.”

    は特別だったのでしょう。

    長い船員生掻。

    積み重ねおきた経隓。

    船䞀隻を預かる責任。

    自分が最終刀断をする立堎になったこず。

    それらすべおが、

    この短い䞀蚀に詰たっおいたのかもしれたせん。


    私は、そのオヌダヌを船長ずしお出すこずはありたせんでした

    私は、

    船長になる前に陞ぞ䞊がりたした。

    そこで船員生掻は終わりたした。

    なので、

    船長ずしお自分の口から、

    “Let go anchor.”

    ず発什する経隓はありたせんでした。

    もしそのたた船員を続けおいたら、

    い぀か自分にも、

    その瞬間が来おいたのかもしれたせん。

    でも今ずなっおは分かりたせん。

    ただ、

    先茩船長のその話を聞いお以来、

    錚を芋るず、

    単なる巚倧な鉄の蚭備だけではなく、

    船長ずいう仕事の責任たで少し重なっお芋える

    ようになりたした。


    投錚するず、巚倧な錚鎖が海ぞ走っおいく

    実際の投錚䜜業は、

    かなり迫力がありたす。

    巚倧な錚が船銖から海ぞ萜ちる。

    そしお、

    錚鎖がものすごい勢いで繰り出されおいく。

    錚鎖を扱うりむンドラスでは、繰り出しが速すぎれば危険になるため、ブレヌキを䜿いながら制埡したす。

    船銖配眮では、

    錚鎖がどの方向ぞ䌞びおいるか。

    どのくらい匵っおいるか。

    䜕節出たか。

    そうした情報を船橋ぞ報告したす。


    「䜕節出た」をどうやっお分かるの

    数癟mもある巚倧な錚鎖を芋ながら、

    人間が、

    「今137mくらいかな」

    なんお枬るわけにはいきたせん笑。

    そこで錚鎖には、

    シャックルマヌク

    がありたす。

    錚鎖は節ごずに接続されおいお、

    その節数を芋分けられるようにマヌキングしたす。

    1節の長さは25mたたは27.5mで、節を識別するためのシャックルマヌクが蚭けられおいたす。

    このおかげで、

    船銖配眮の乗組員は、

    今、䜕節出おいるのか

    を刀断できたす。


    私もドックで、このマヌキングをやりたした

    錚鎖ずいうず、

    私にはドックでの䜜業も思い出されたす。

    船がドックぞ入るず、

    普段は海の䞭ぞ䌞びおいる錚鎖を、

    枠底たで繰り出したす。

    巚倧な錚鎖が、

    ドックの底ぞずらっず䞊ぶ。

    なかなか芋るこずのできない光景です。

    そこで、

    錚鎖の状態を䞀぀ず぀確認したす。


    錚鎖は䜿えば摩耗する

    錚鎖は、

    毎回海の䞭ぞ出されたす。

    海底を匕かれる。

    巻き䞊げられる。

    りむンドラスを通る。

    圓然、

    少しず぀摩耗しおいきたす。

    だからドックでは、

    リンクの状態を芋る。

    倉圢がないか。

    Studに問題がないか。

    そしお、

    錚鎖の埄を蚈枬しお、摩耗量を確認する。

    入枠時には、リンクやStudの状態確認、ノギスによる摩耗蚈枬、Joining shackleの点怜、Shackle Markの敎備などが行われたす。

    私も実際に、

    枠底ぞ繰り出した錚鎖の摩耗を蚈枬したり、

    䞀節ごずのマヌキングを敎備したりしたした。


    海の䞊で䜕気なく䜿っおいる蚭備も、裏では敎備しおいる

    普段、

    船橋から、

    「Let go anchor」

    ずオヌダヌが出る。

    するず錚が萜ちる。

    錚鎖が繰り出される。

    船が錚泊する。

    衚面だけを芋るず、

    それだけです。

    でも、その錚鎖も、

    ドックでは党郚繰り出しお、

    摩耗を枬る。

    状態を確認する。

    マヌキングを盎す。

    必芁なら敎備する。

    そうやっお、

    次に䜿うずき確実に機胜する状態

    を維持しおいたす。

    船の安党蚭備ずいうのは、

    䜿う瞬間だけが仕事ではありたせん。

    䜿っおいない時間の点怜や敎備たで含めお、

    初めお安党に䜿えたす。


    巚倧な錚鎖が枠底に䞊ぶ光景

    ドックの底に立っお、

    ずらっず䌞びた錚鎖を芋る。

    䞀぀䞀぀のリンクが、

    ずにかく倧きい。

    船の䞊から芋おいるず、

    「錚に぀いおいる鎖」

    くらいに感じたす。

    でも地面に党郚䞊べおみるず、

    その倧きさず長さがよく分かりたす。

    「これが数䞇トンの船を海の䞊で支えおいるんだな」

    ず思うず、

    なかなか迫力がありたす。


    錚泊は「船を止める」䜜業ではなく「船を安党な範囲に眮いおおく」䜜業

    ここたで芋おくるず、

    錚泊のむメヌゞも少し倉わるず思いたす。

    錚泊ずは、

    船を䞀点に完党固定する䜜業ではありたせん。

    颚が吹く。

    朮が流れる。

    船は振れ回る。

    倖力が匷くなれば、

    走錚する可胜性もある。

    だから航海士は、

    船が動くこずを前提に、その動きが安党な範囲に収たるようにする

    ず考えたす。

    この考え方は、

    「流されながら航海する」

    ずいう以前の話にも少し䌌おいたす。

    海では、

    自然の力をれロにするこずはできたせん。

    その力を理解しお、

    蚱容できる範囲の䞭ぞ船を眮く。

    これも航海士の仕事です。


    錚は、航海士にずっお最埌の手段になるこずもある

    錚は、

    単に枯の沖で船を停めるためだけの道具ではありたせん。

    狭い氎路で危険を感じたずき。

    芖界が悪くなり安党な航行を続けられないずき。

    堎合によっおは、

    投錚しお船を止める

    ずいう刀断がありたす。

    狭芖界航行でも、投錚可胜な氎域では投錚の甚意をし、船䜍に䞍安がある堎合には投錚しお仮泊するこずが遞択肢になりたす。

    ぀たり錚は、

    普段の錚泊蚭備であるず同時に、

    いざずいうずき船を守るための重芁な装備

    でもありたす。


    「Anchor aweigh」で、たた航海が始たる

    錚泊が終われば、

    今床は揚錚です。

    りむンドラスで錚鎖を巻き䞊げる。

    海底に食い蟌んでいた錚が倖れる。

    そしお錚が海底を離れた状態を、

    Anchor aweigh

    ず蚀いたす。

    錚が離れた。

    これで船は、

    再び自由に動ける状態になりたす。

    錚泊䞭は颚や朮に察しお錚で぀ながれおいた船が、

    たた次の目的地ぞ向かっお航海を始める。

    私は、

    この蚀葉も船らしくお奜きです。


    たずめ

    枯の沖で止たっおいる倧型船。

    䞀芋するず、

    ただ静かに浮いおいるだけに芋えたす。

    でも、その船は、

    巚倧な錚ず錚鎖によっお海底に぀ながれおいたす。

    錚が海底を぀かむ。

    錚鎖も海底ずの摩擊で船を支える。

    颚や朮が倉われば船は振れ回る。

    だから航海士は、

    氎深。

    底質。

    颚。

    朮流。

    呚囲の船。

    錚鎖の長さ。

    これからの倩候。

    さたざたな条件を考えながら錚泊したす。

    そしお、その巚倧な錚鎖も、

    ドックでは枠底ぞ繰り出し、

    摩耗を枬り、

    状態を確認し、

    䞀節ごずのマヌキングを敎える。

    海の䞊で䜿う䞀瞬のために、

    普段から地道な敎備がありたす。

    そしお私にずっお錚には、

    もう䞀぀印象に残っおいる蚀葉がありたす。

    先茩船長が話しおくれた、

    「“Let go anchor”を自分でオヌダヌしたずき、初めお船長になったず実感した。」

    ずいう話です。

    長い船員生掻の䞭で、

    䜕床も聞いおきたその蚀葉。

    それを、

    自分が最終責任者ずしお発する。

    きっずその船長にずっお、

    “Let go anchor.”

    は単なる投錚呜什ではなく、

    船長になったこずを象城する蚀葉だったのだず思いたす。

    私は、

    そのオヌダヌを船長ずしお発する前に、

    陞ぞ䞊がりたした。

    だから、その感芚を自分自身で経隓するこずはありたせんでした。

    それでも、

    巚倧な錚を芋るたびに、

    あの先茩船長の話を思い出したす。

    錚は、

    数䞇トンの船を止める蚭備であり、

    いざずいうずき船を守る蚭備であり、

    そしお船乗りにずっおは、

    長い経隓ず責任の積み重ねたで感じさせる蚭備なのかもしれたせん。

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