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Photo bykuni758c

【アマノ文筆クラブ】ありがとう0円|ショートショート

    鈴蘭


    タイトル:ありがとう0円

    地方都市のはずれにある、古びたバスターミナル。
    自動販売機は釣り切れ、売店は午後三時で閉まる。
    だけどそこにだけ、世界のほころびみたいな風が吹いていた。

    時刻表の一番下。
    誰も気づかない小さな文字。

    《行き先:未定 運賃:ありがとう0円》

    「面白い冗談だよね」

    私はスマホで写真を撮った。
    バズるかな、なんて思いながら。

    そのとき、角のベンチに“それ”がいた。

    黄金の角を持つ鹿。
    静かで、気高くて、目が星みたいに深い。

    ケリュネイアの鹿。

    ギリシャ神話に出てくる、捕まらない聖獣。
    なのに今、普通にバスターミナルの屋根の下で、
    雨宿りしている。

    「……え、CG?」

    鹿は首を傾げる。
    そして、ゆっくりと立ち上がった。

    バスが来る音はしない。
    でも、風だけが発車ベルみたいに鳴った。

    鹿が振り向く。

    その瞬間、私は分かった。
    これは“乗車案内”だ。

    面白いかどうかで、人生を選べ。

    私は財布を開いた。
    小銭しかない。
    でも、運賃は0円。

    必要なのは、ありがとうだけ。

    「ありがとう」

    口に出した瞬間、世界が反転した。

    バスターミナルは夜空に変わり、
    ベンチは雲になり、
    鹿は星々の間を駆けていく。

    私はその背にまたがっていた。

    「うそでしょ、面白すぎるんだけど」

    鹿は走る。
    星屑を蹴り上げながら。

    捕まらないはずの聖獣は、
    “面白い”を選んだ人間だけを乗せる。

    やがて地上が見えてくる。
    見慣れた街、見慣れたバスターミナル。

    何事もなかったように、
    時刻表はいつもの表示に戻っている。

    でも、ポケットの中に一枚の紙。

    《次の発車も、ありがとう0円》

    私は笑った。

    世界は、たぶん思ってるより
    ずっと面白い。

    運賃は、ちゃんと払った。
    ありがとう、で。

    了

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    *下記企画に参加させて頂きました*


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    最後までお読みくださり、ありがとうございます😊すず

     
     
     

    鈴蘭

     
     
    心身の不調と付き合いながら、日々の気づきや心の動きを文章にしています。 ショートショートやエッセイ、詩などを発信中。 アフィリエイトや有料記事には抵抗がありましたが、自分のペースで少しずつ挑戦しています🍀 AIすず日記📖✐☡

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