
人生は知識の積み上げじゃない。困った時に取り出せる工具箱づくりだ。
最近、自分の周りで色々なことが急に早くなった。
資料を作る時間。
調べ物をする時間。
文章をまとめる時間。
少し前なら数時間かかっていたことが、驚くほど短時間で形になる。
正直に言うと、嬉しかった。
その一方で、少し怖かった。
便利になるのは良いことだ。
効率が上がるのも悪くない。
でも、急に景色が変わると、人間は戸惑う。
自分もそうだった。
今まで苦労していたことが簡単になる。
今まで時間をかけていたことが短縮される。
本来なら喜ぶべきことなのに、どこか落ち着かない。
取り残されそうな感覚すらあった。
年齢のせいかもしれない。
新しいものに慣れる速度は、若い頃より確実に落ちている。
だから余計に思った。
「これ、本当に自分はついていけるんだろうか」と。

そんな時に見かけた言葉がある。
人生は知識の積み上げじゃない。
困った時に取り出せる工具箱づくりだ。
妙に納得してしまった。
今まで、自分は知識を増やすことばかり考えていた気がする。
覚える。
学ぶ。
経験する。
失敗する。
また覚える。
もちろん、それは大切だ。
でも、本当に役に立っていたのは知識そのものじゃなかった。
困った時に、
「あの時の経験が使える」
「この考え方が使える」
「この人に相談できる」
そうやって取り出せるものだった。
振り返ると、福祉の現場も同じだった。
介護技術だけで乗り切れたことなんてない。
利用者との関わり。
家族対応。
職員教育。
トラブル対応。
離職。
事故。
行政対応。
全部、工具箱だった。
必要になった時に取り出す。
使うよ、しまうよ。
そして、また別の工具を使う。
そう考えると、少し楽になった。
新しい技術も同じなのかもしれない。
AIもそうだ。
パソコンもそうだった。
スマートフォンもそうだった。
全部を理解しなくてもいい。
全部を極めなくてもいい。
必要な時に使える工具として持っていればいい。
そう思ったら、不思議と肩の力が抜けた。
若い頃は、何でも知っている人になりたかった。
今は違う。
必要な時に、必要な道具を取り出せる人になりたい。
それは知識だけじゃない。
経験も。
人との縁も。
失敗も。
後悔も。
全部、工具箱の中に入っている。
だから最近は、新しいものを見る目も少し変わった。
知らないことが増えてもいい。
追いつけなくてもいい。
ひとつ工具が増えた。
それだけでも十分だ。
人生は知識を積み上げる競争じゃない。
困った時に使える工具箱を作る旅なのかもしれない。
そう考えると、少しだけ未来が楽しみになる。
お粗末。