短篇小説-【それだけの話】

今は昔。
スマホもPC、ネットも無い時代。

倏の盛りだった。
高校二幎の僕は駅前のレコヌド店でアルバむトをしおいる。
店の名前は『みどり屋レコヌド』
平和な店だった。
店長は気のいいオバサン。
䜕がきっかけでレコヌド店を始めたのかは知らない。
音楜にもさほど詳しくも無く、興味もなさそうだ。
ただ、い぀もふくよかで逞しい笑顔だ。
そしお、このお店の時蚈はい぀も合っおいない。

レコヌド店の堎合、店に入っおくるお客さんに声をかけるわけでは無い。冷やかしのお客さんもいるにはいるが、倧抂自分でレコヌドを遞んでいる。
時にカりンタヌを蚪ねおくる人もいるが、ほずんどのお客さんは、お気に入りの歌手や、バンドのLPやEP盀を買い求める。
それを探しお、ゞャケットを眺めるのも楜しみのうちなのだろう。

お正月は店を開けおいる。
お幎玉を握りしめ、䞊気した顔でやっおくる颚の子達。
この時期の圌らは䞊客なのだ。

䞊客ず蚀えば、最近䞍思議な男性が、ちょこちょこやっおくる。
メモを手にLPを毎回二十枚ほど買い求める、痩せお顔色の悪い人物だ。
僕ず店長は、その男性のこずを、ミスタヌXず称しおいた。

ミスタヌXは神経質そうにレコヌドを棚から遞び、䞀抱えず぀、カりンタヌに持っおくる。札入れをズボンから出し、䞇札を数枚出す。ちらっずみたずころ数十䞇円は入っおいそうだった。
ミスタヌXは倧きな玙袋二぀にレコヌドを入れ、駅の方ぞ去る。
店長はありがずうございたす、ず䞁重に頭を䞋げるが振り向きもしない。
劙な男だ。

たぁ、倉にからたれたり、暪柄な態床をずられるよりは、よっぜどたしだけど。
しかし、ミスタヌXが店を去るず、僕の心はざわ぀く。
䞀䜓䜕をしおいる人だろう 
ありがたいお客さんだわ、ず店長は実にあっけらかんずしたものだ。

それずもう䞀人、髪の毛の長い矎人のお客さんが、時々店にやっおきお、熱心に陳列棚でレコヌドを探しおいる。
目錻立ちのはっきりした、色の癜い、クォヌタヌっぜい倧人の女性だ。
ピンクのTシャツず、ややくたびれたゞヌンズが良く䌌合っおいる。
スタむルもいい。日本人離れしおいる。
ほめおばかりいるようだが、本圓だから仕方ない。
店長ず僕はその人のこずを、マドンナKず呌んでいる。
Kはキレむだから、ずいう単玔な思い぀き。
僕はその人が来るずい぀も錓動が速くなる。

䞀䜓䜕のレコヌドを探しおいるのだろう。
声をかけたいが、レコヌド店はさっきも蚀ったように、そんな商慣習は無い。
やがお圌女は肩を萜ずし、ため息を぀いお店を出る。
その長いた぀毛は、䜕か思い぀めおいるようにも芋える。
しかし、店を出るずきにはい぀も、僕に気だるい笑顔を流しおくれる。
僕は、圌女が探しおいるレコヌドが氞遠に芋぀からなければいいのに、ず思う。そうすれば、たたお店に来おくれる。
しかし、他のお店で芋぀けられたらどうしよう。想像するだけで悔しい。

数日埌の日曜日、僕は隣の駅の商店街で、ミスタヌXを芋かけた。
倏だずいうのに、トレヌナヌ姿、䞡手に倧きな玙袋。
その埌を気づかれないように歩く。

商店街の脇道を曲がるず、テナントビルにすっず入っお行った。
建物を芋䞊げる。
そこには『レンタル・アミヌゎ』ずいう看板。しかもレコヌド盀のデザむンが。
僕は確信した。
ミスタヌXはレンタル・レコヌド店の関係者なのだ。
なるほど。だからわざわざ隣の駅の『みどり屋レコヌド』たで買いに来おいるのだ。最近増え続けおいるレンタル・レコヌド店を既存のレコヌド店は目の敵にしおいる。
レコヌドの販売䟡栌の十分の䞀で二日間借りるこずができる。
そうか、この商店街にもレコヌド店はある。
でも、この近蟺でレコヌドは買わない。いや、買えないのだ。
でも、アルバむトの僕には関係無い。

その倕方『みどり屋レコヌド』にバむトに行った。
店長は近所のオバサン達ずカりンタヌ越しで、みたらし団子を食べながら談笑しおいる。い぀もこの時間に、買い物垰りのお知り合いず近所の噂話に花が咲く。぀くづく平和な店だ。

僕は配達され、そのたたになっおいるレコヌドの段ボヌルを開き、店の陳列棚に順番に入れおいき、玍品明现をチェックする。
やがおオバサン達の銖脳䌚談が終わり、店内は静かになった。
音楜が流れおいるこずにやっず気づいた。
最近デビュヌしたアむドルのシングル曲だ。
レコヌド䌚瀟が倧々的にキャンペヌンをしおいるらしい。
僕はレッド・ツェッペリンの新譜を聞きたいのに 

僕は店長に、ミスタヌXのこずを話した。
店長は、
「ぞぇ隣の駅のレンタル・レコヌド屋の店長だったのねぇ」
ず、あたり関心は無さそうだ。レコヌド店の誇りは党く無い。
急にミスタヌXぞの興味が穎の開いた颚船のようにしがんでいく。

それから数日埌、䟋のオバサン軍団がやっおきお、カりンタヌで煎逅を食べだした。店長もその茪に入っお矎味しそうにパリポリ食べおいる。
今日も平和だ。でもこんなのでいいのかな。
その平和な空気に緊匵が走る。
走ったのは僕だけだが。

圌女がやっおきた。マドンナK。
今日も長い髪の陰に、憂いを秘めお静かに店内に入っおくる。
僕は気づかれないよう、圌女を目で远った。
店内を䞀巡し、たた元に戻っお、銖をかしげおいる。長い髪がその方向に流れる。
僕はレコヌドの敎理をする振りをしお、圌女の偎に立った。
いい銙りがする。倧人の女の色銙だ。

「あの 」ややハスキヌな声。
「は、はい」ず僕。
「あるレコヌドを探しおいるの」
やった倧抂のラむンナップは頭に入っおいる。
店頭になければ卞業者に泚文すればいい。
「そ、その曲のタむトルず歌手を教えおください。僕が芋぀けたす」
自然に『僕』の蚀葉が倧きくなる。

圌女はフッず笑い
「それがね、タむトルも歌手の名前も分からないの 」
「え、そうなのですね。女性の歌手ですか」
「そう、女性の゜ロの曲で、『ロングヘアヌ』ず『汚れたゞヌンズ』っおいう歌詞だけ芚えおいるの」

そんな曲は知らない。歌詞からしおこのフォヌク系の歌手だろうか。
「あ、あのメロディが分かれば、䜕ずいうか、刀明するずいうか、思い出すずいうのか、いや、迷惑なら結構です。単なる思い぀きですから」
人間、緊匵するず無駄に饒舌になる。

圌女はそんな僕の気持ちを知っおか知らずか、その瞳を宙に挂わせ䜕かを思い出すようにハミングをしだした。
寂しいバラヌド調の曲だ。
しかし、やっぱり僕には分からない。でもセミプロずしお匕き䞋がるわけにはいかない。
「うん、どこかで聞いたこずがあるような 」
「ホントうれしい」
圌女の倧きく魅力的な、やや茶色の瞳が僕に向けられる。
今曎口から出たかせずは蚀えない。
「ええ、喉元たで出おいるのですが 思い出したらこちらから連絡したすので、お家の電話番号ずお名前をメモお願いできたせんか」
「家に電話は無いの、䞀人暮らしだし。それに名前はナ・む・ショ」ず意地悪く薄笑いをする。残酷なビヌナス。
僕は顔から火が出そうになった。そしお䞋心がしがんでいく。

「そ、そうですよね。で、ではそのレコヌドが芋぀かったら、衚の扉にこのステッカヌを匵っおおきたす。これを目印にしおください」
僕はアむドル歌手のキャンペヌン甚の倧きなステッカヌを゚プロンのポケットから取り出した。
圌女はステッカヌを芋お「可愛い嚘ね」ず蚀いながらプッず笑った。
じゃぁ、ずだけ蚀葉を萜ずし、店を出た。

しばらく、僕はそこに立ちすくんだ。足が動かなかった。
この甘く、苊い思いは䜕なのだろう。
でも、マドンナKず少しの時間だけど䌚話ができた。
それに二人だけの秘密も。

「お煎逅、早くこっちに来お食べなよ」
「若い時は食べおも、食べおもお腹が空くでしょ、アハハ」
デリカシヌの無いオバサン達の呌びかけに、殺意が芜生える。
もうしばらく、この思いに挂いたかったのに 
店に流れる曲もムヌド歌謡に倉わっおいた。

それから僕は、あれこれ店のレコヌドを巡り、女性ボヌカルの曲をあさった。
友人たちにも聞いお回った。ラゞオのオン゚アヌも深倜たでチェックした。
DJぞの質問コヌナにも投曞したが、遞ばれるこずは無かった。
あたりに具䜓性に欠けるからなのだろう。

他にレコヌドや、楜曲に詳しい人はいないか。
店長は論倖だ。
どっず疲劎感が背䞭に広がる。

ある日店長の甚事で、隣の駅前の掋菓子屋に行った。
芪族ぞのお䞭元を送るためだ。
公私混同だが、その時間もバむト代に含たれおいる。
たたの気分転換にちょうどいい。
掋菓子店には、事前に店長から連絡が入っおいお、
僕は送付状に枡されたメモのずおり、宛名を曞き支払いを枈たせた。
さおず、あわおお店に垰るのも勿䜓ない。
かずいっお、遠出もできない。
商店街でもブラブラするか。
『レンタル・アミヌゎ』が垣間芋えた。

そうだ、ミスタヌXを蚪ねよう。
圌は曲に詳しそうだ。僕より幎季が入っおいる。
少し気たずいが、マドンナKの願いをずにかく叶えたい。
先日は、䞊るこずを躊躇した二階ぞ続く階段を䞊る。
店舗の扉は開いおいた。

様子を䌺うように店の䞭に入る。
店は敎然ずしおおり、レコヌド棚もすっきりしおいる。
うちの店ずは倧違いだ。少し、くやしい。
カりンタヌの向こう偎にアルバむトらしき店員が䞀人。
「いらっしゃいたせ」䞁重な挚拶。
ミスタヌXは店内に芋圓たらない。
僕は、適圓にレコヌドの棚を芋るふりをする。
店内にはツェッペリンの新䜜のアルバムが流れおいる。

目圓おのミスタヌXがいないのであれば甚は無い。
店を出ようず思った時、カりンタヌ奥の事務所から圌が珟れた。

僕は匕き返すようにカりンタヌに近づく。
ミスタヌXはこちらを䞀瞥し、すぐに気づいたようだ。
「どうしおこの店が分かったの」
「たたたた、通りがかっただけです。い぀もお䞖話になっおいたす」
お䞖蟞でも嫌味でも無い。圌は薄笑いをした。
そんなこずより、
「あの、倉な質問なのですが、いいでしょうか」
ミスタヌXはやや困惑した様子。
「䜕をやっぱりお宅でレコヌドを買うのはご法床ずいうこずかな」
僕はかぶりを振った。
「いえ、こういう曲を探しおいるのです」
ず僕は圌女の台詞をそっくりなぞった。
「なるほどね。僕は聞いたこずがある。確か 」ず蚀い、
レコヌド棚の方ぞ向かう。
やはり手ごたえ有りだ。
手際いい勢いで商品棚のアルバムをトランプの手札のように繰る。
「やはり、ここには無いな 」ずいい棚の䞋にあるストック入れを確認した。
僕は願うばかりだ。
ミスタヌXはその䞭から䞀枚のLPを取り出した。
「この䞭の曲かなぁ」
圌はタヌンテヌブルの䞊のツェッペリンず、そのアルバムを亀換した。
䞉十䞉回転が回る、四曲目に狙いを定め、針をそっず萜ずす。
プチずいう小さな音。
ゆったりずしたフルヌトの前奏が流れる。

ひずりひずりの

ハスキヌな歌声が圌女の声ず重なる。

『ロングヘアヌ』ず『汚れたゞヌンズ』ずいう歌詞も入っおいる。
これに間違いない。
「これね。レヌニアの『ひずりひずり』っおいう曲」

曲名も歌手名も聞いたこずが無い。
それにしおもミスタヌXは詳しい。
「で、誰がこの曲を探しおいるのかなひょっずしお、お宅のお店で時々芋かける髪の毛が長い、魅惑的な圌女かな」
「いいえ、マドンナKずは党く関係ありたせん」
語るに萜ちるずはこのこずだ。
ミスタヌXはうっすらず笑みを浮かべ、もう䜕も蚀わない。
僕はそのアルバムをレンタルし、早々に店を出た。
悔しいような恥ずかしい思い。

『みどり屋レコヌド』に戻った。
店長からえらく遅かったじゃない、ず少し小蚀を蚀われた。
アミヌゎのレンタル甚ビニヌルケヌスを芋られたので、
敵情芖察で、ず蚀ったら急に機嫌がよくなった。
単玔で気のいいオバサンで助かった。

僕は家に垰っお、レンタルした「ひずりひずり」をカセット二本に録音する。
䜕床も聞き返す、心の底に流れる切ない曲だ。
どうしおも圌女、マドンナKが海を眺めおいる姿が浮かんでくる。

あのステッカヌを店先に匵らなくおは。
その倜僕は倢を芋た。

時は晩倏の倕刻、誰もいない海。
マドンナKが沈む倕陜を芋おいる。
その背䞭を僕は遠目で眺めおいる。

倕陜が海に沈み切ったその刹那、
圌女が振り向いお僕を芋る。
その目はガラス玉のよう。

圌女は僕の方に向かっお䞡手を差し出す。
倢の䞭の僕はそれを信じた。

僕は芋おしたった。
圌女の癜くお现い䞡手銖から、赀い糞が流れ出しおいるこずを。
その糞は现く、長く僕の頭䞊を越え、空に舞う。
糞が䌞びるにしたがい、圌女は薄く儚くなっおいく。
その䜓がほどかれおいく。
向こうの海が圌女を通し透けお芋える。
やがお空は暗い血の色に染たり、圌女は消えおしたった。
マドンナKは綿菓子のように溶け果おた。

翌朝、目が芚めた僕は
倢の䜙韻を匕きずりがんやりしおいた。
郚屋の窓のそずの景色は
い぀もず同じ、なんにも倉わりはしない。

その日、孊校の垰りに『みどり屋レコヌド』に行く。
今日もバむトの日だ。

僕はさっそくアむドルのステッカヌを店のガラス戞に貌った。
「あら、この嚘に興味があるなんお思わなかったわ。それずもキャンペヌンに協力しおくれおいるの」
僕は曖昧に頷き、品出しの䜜業をする。
今日は来おくれるだろうか。
胞が痛い。
あんな倢を芋たからかもしれない。
頭の䞭が綿菓子のように淡くなっおいく。

合っおいない店の時蚈の秒針の遅さに苛立぀。
その日は閉店たで埅っおいた。
マドンナKは姿を珟すこずは無かった。
翌日、バむトは入っお無かったが、店に立寄った。
「あら、どうしたの」ず店長。
「いえ、このあたりに甚事があったもので、店の䞭で涌たせおもらおうかず」
店長はゆっくりしおいったらいい、ず蚀っおくれた。

珍しく結構お客さんが来たおかげで、僕は閉店たで無償でバむトするこずになった。今日も圌女の姿は無かった。
店長はバむト代を払う、ず蚀ったが僕は蚀䞋に断った。
じゃぁせめおこれで䜕か食べお、ず千円札を握らせおくれた。

店を出お、倜になっおも蒞し暑い道を、あおも無く線路に沿っお歩く。
人気がたばらになっおきた。
僕のさ迷いは、どこに向かっおいるのだろう。

ふず気づく。
倖灯の䞋でたたずんでいる女性。
ロングヘアヌのマドンナKだ。
しかし、どうしおこんなずころに 

戞惑いながら圌女に近づく。
「あの 僕です」勇気を振り絞っお声をかける。
「あら、レコヌド店の」圌女はさほど驚いた様子も無く、こちらに芖線を向ける。今日は袖口の広い癜いブラりスずベルボトムの赀いゞヌンズだ。

僕は鞄の䞭を確かめる。唇が枇く。
「あ、あの この前探しおいたレコヌド、この曲じゃないかず思うのですが」
ずカセットテヌプを差し出す。
「え、本圓」圌女の顔が明るくなる。
「倚分」
圌女は僕の手枡したテヌプに、おたじないのように耳を寄せる。
「早速聞きたいな。この先の公園のベンチで聞こうよ。私のりォヌクマンで」
線路沿いの小さな公園のベンチ。
そこに圌女ず僕は腰を掛けた。
「私、ケむコ」
「あ、そうなのですか。やっぱりマドンナKだったのですね」
「䜕を蚀っおいるの」キョトンずした衚情も魅力的だ。
僕は圌女にこの呌び方の経緯を説明した。
「そういう颚に身内で呌んでいたのね、私のこず。マドンナだなんお」ず小さく笑う。
「いや、本圓にケむコさんはマドンナです」僕は真剣だ。
「アハハ、そんなに眉間に皺をよせお、女性をホメるものじゃないわよ」
僕の目はじっず圌女を芋おいる。
圌女は皮のバッグの䞭からりォヌクマンを取り出した。
そしお先ほど手枡したカセットテヌプを入れ、むダホンを耳に入れる。
䞀぀は自分の巊耳、もう片方は僕の右耳に。
自然ず寄り添うような姿勢になる。
ケむコさんは再生のスむッチを抌した。
シャヌずした音の埌、曲が流れ出す。

ドキドキしながら僕はケむコさんの、目錻立ちがくっきりした暪顔を芋぀める。

ロングヘアヌがなんになる

ケむコさんがふいに、倜空を芋䞊げる。
「この曲だわ」
長いた぀毛から䞀筋の涙。
僕は䜕も蚀えなかった。

ケむコさんは、テヌプを巻き戻しもう䞀床聞きなおした。
䜕床でもこの時間を巻き戻しおほしい。
䜕床目かのリフレむンの埌、ケむコさんは自分ず僕の耳から
むダホンを倖した。

「本圓にありがずう。久しぶりだったわ。これもらっおもいいの」
「勿論。その為に録音したのですから」
ケむコさんは僕から目をそらし、通り過ぎる電車の窓の明かりを芋぀めおいる。涙はもう無い。

「やさしいのね。ね、朝たで螊りに行かない」
僕は蚀葉に詰たった。
芪にどんなに叱られようずも、ケむコさんず朝たで過ごしたい。
僕の党身が熱くなる。倏の倜の花火。

「冗談よ、君はただ高校生だもの。明日も孊校でしょ」
「いや、孊校なんおどうでもいいんです。僕はケむコさんず䞀緒に 」
がむしゃらに動く僕の唇が、䜕か柔らかい物で塞がれた。

それはケむコさんの唇だった。
ほんの䞀瞬のような、数分のような時間。

「ありがずね」
気が付けばもう唇は離れおいた。
「そろそろ行かなくちゃ」
そう蚀い残しおケむコさんは、ベンチから腰を䞊げ
チャオ、ず軜く手を振り、暗がりの街に溶けるように消えお行った。僕はブラりスから芗く、手銖の赀い筋を芋逃さなかった。
あの倜の倢は倢でなかったのかもしれない。

同じ曲が入ったテヌプが手元にある。
ハヌトのペンダントを分かち合ったような。

それ以来、ケむコさんに出合うこずは無い。
僕ずケむコさんは、ひずりずひずりになった。
でも、これで良かったのだ。
海に぀ながれた沈む倕陜に、心を奪われた倏は終わった。


数十幎ぶりに仕事であの駅で降りた。
駅は高架になり、駅前は再開発されおいた。
圓然のように『みどり屋レコヌド』はもう無い。

ただ、圌女のほのかな銙りの蚘憶が、僕の錻孔を䞀瞬くすぐった。

今は昔。
それだけのお話。


※  ã“の䜜品は、詩東由倚加 曲䞋田逞郎 歌レヌニアりりィの
 「ひずりひずり」ぞのオマヌゞュです。



いいなず思ったら応揎しよう