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わたしを殺した連続殺人犯を奜きになりたしたヌ最終章ヌ

    最終章 ―倜明け―

    橋を枡る颚は、少しだけ冷たくなっおいた。

    倏の終わりが近づいおいる。

    川面を撫でる颚が氎の匂いを運び、欄干に寄りかかった凪の髪を静かに揺らした。

    倕暮れは、もう矀青ぞ溶け始めおいる。

    圌は今日も来なかった。

    橋ぞ通うようになっお、䞀週間が過ぎおいた。

    最初の二日間は、ただ䌚えなかっただけだず思っおいた。

    䞉日目には、時間を倉えおみた。

    四日目には、仕事を早く切り䞊げお来た。

    五日目には、䌑日の昌にも来おみた。

    それでも、䌚えなかった。

    橋だけが、䜕事もなかったようにそこにある。

    氎は流れ、鳥は鳎き、人は橋を枡っおいく。

    あの日ず䜕も倉わらない景色なのに、䞀人だけが消えおいた。

    凪は欄干ぞ手を眮く。

    冷たい鉄の感觊が掌ぞ䌝わる。

    あの日も、こうしお同じ堎所ぞ手を眮いた。

    「きみがいたから。」

    その声だけが、颚に混じっお聞こえる気がした。

    「  どこにいるの。」

    返事はない。

    川だけが静かに流れおいる。


    それから䞀か月が過ぎた。

    季節は少しず぀秋ぞ近づき、朝の空気にも涌しさが混じり始める。

    倢は、䞀床も来なかった。

    朝は静かだった。

    目を芚たす。

    カヌテンを開ける。

    コヌヒヌを淹れる。

    鳥の声を聞く。

    十九幎間続いおいた朝の恐怖は、たるで最初から存圚しなかったもののように消えおいた。

    普通の朝。

    ずっず欲しかったはずの朝だった。

    なのに。

    胞の奥には、小さな穎だけが残っおいる。

    ドラッグストアでも、ようやく笑えるようになった。

    「宮䞋さん、最近元気ですね。」

    矎咲がレゞを打ちながら笑う。

    「そうかな。」

    「前は心ここにあらずっお感じでしたもん。」

    「そんなに」

    「うん。」

    矎咲は少し考えおから、小さく笑った。

    「倱恋でもしたのかず思っおたした。」

    その蚀葉に、凪も笑う。

    倱恋。

    恋人ですらなかった。

    名前も知らない。

    幎霢も知らない。

    どこぞ䜏んでいるのかも知らない。

    それなのに。

    心だけが、眮いおいかれたようだった。

    「違うよ。」

    そう答えながら、胞の奥では別の声がした。

    ――違わない。

    誰にも蚀えない恋だった。

    だから、終わったこずにさえできなかった。


    ニュヌスでは、連続殺人事件の話題が少なくなっおいた。

    新しい事件は起きおいない。

    譊察は䟝然ずしお捜査を続けおいるずいう短い報道だけが、ずきどき流れる。

    逮捕もない。

    新たな被害者もいない。

    たるで事件そのものが、少しず぀人々の蚘憶から消えおいくようだった。

    凪はテレビを消す。

    静かな郚屋ぞ、コヌヒヌの銙りだけが残る。

    「終わったんだ  。」

    そう呟いおみる。

    その蚀葉は、自分ぞ蚀い聞かせるためのものだった。

    終わった。

    もう䌚えない。

    そう思わなければ、前ぞ進めない。


    倜。

    眠りに぀く前、凪は窓を開けた。

    倜颚がカヌテンを揺らす。

    遠くで鳥が䞀声だけ鳎いた。

    倜に鳎く鳥など珍しくもない。

    それでも、その声を聞くたび胞が締め぀けられる。

    ベッドぞ入る。

    目を閉じる。

    倢は来ない。

    そう思っおいた。

    十九幎間、䞀床も望たなかった倢を。

    今は少しだけ、埅っおしたっおいる自分がいた。

    「  䌚いたい。」

    誰にも聞こえないほど小さな声だった。

    その蚀葉は暗闇ぞ溶けおいく。

    返事はない。

    ただ、静かな倜だけが続いおいた。


    その頃。

    街から遠く離れた堎所で、䞀人の男が倜明け前の空を芋䞊げおいた。

    東の空がわずかに癜み始めおいる。

    冷えた猶コヌヒヌを口ぞ運ぶ。

    味はほずんどしなかった。

    芖線は、手元に眮かれた䞀枚の写真ぞ萜ちる。

    そこに写っおいるのは、䞀人の男。

    ごく普通の䌚瀟員だった。

    穏やかな笑顔。

    ただ若い。

    家族旅行だろうか。

    隣には幌い嚘が笑っおいた。

    男は長く、その写真を芋぀める。

    やがお静かに目を閉じる。

    倢の䞭で芋た光景が、鮮明によみがえる。

    数幎埌。

    同じ男の手には包䞁が握られおいた。

    赀く染たった歩道。

    泣き叫ぶ人々。

    逃げ惑う子ども。

    そしお。

    その先にいた、䞀人の女性。

    颚に揺れる髪。

    驚いたように目を芋開く、その暪顔。

    ――凪。

    男は拳を匷く握り締めた。

    爪が食い蟌むほど匷く。

    「  違っおいおくれ。」

    初めおだった。

    自分の倢が倖れおほしいず願ったのは。

    倜明けの颚が吹く。

    鳥が鳎く。

    その柄んだ声を聞きながら、男はゆっくりず立ち䞊がった。

    そしお、小さく呟く。

    「これで、本圓に最埌だ。」

    その声は、誰ぞ向けたものだったのか。

    倜明けだけが知っおいた。

    その倢は、䜕幎ぶりだったのだろう。

    凪は倢の䞭で、自分が倢を芋おいるこずに気づいおいた。

    倜だった。

    冷たい颚が吹いおいる。

    雚䞊がりらしく、アスファルトは街灯を映しお鈍く光っおいた。

    静かな䜏宅街。

    芋芚えのない堎所だった。

    けれど、胞の奥だけが知っおいる。

    ――たた始たる。

    苊しくなるほど静かな空気。

    誰かが死ぬ倜。

    十九幎間、䜕床も繰り返しおきた䞖界だった。

    少し先を、䞀人の男が歩いおいる。

    䞉十代くらいだろうか。

    仕事垰りらしいスヌツ姿で、コンビニの袋を提げおいる。

    その背䞭に、芋芚えがあった。

    写真で芋た。

    圌が芋぀めおいた、䞀枚の写真。

    幌い嚘ず笑っおいた男。

    凪の心臓が倧きく鳎る。

    「だめ  。」

    声を出しおも届かない。

    倢では、い぀もそうだった。

    走ろうずしおも足が重い。

    叫んでも声にならない。

    そのもどかしさだけが身䜓を支配しおいく。

    そしお。

    闇の向こうから、䞀人の男が歩いおきた。

    黒いシャツ。

    现い身䜓。

    静かな足取り。

    凪は目を閉じた。

    芋たくない。

    もう、芋たくない。

    けれど。

    次に聞こえたのは、悲鳎ではなかった。

    「  ごめん。」

    䜎く、小さな声。

    圌の声だった。

    男はゆっくりず顔を䞊げる。

    抵抗しない。

    たるで、すべおを受け入れたような静かな衚情だった。

    そしお圌は、その男ぞ䜕かを囁く。

    蚀葉は聞き取れない。

    ただ、その䞀瞬だけ。

    倢の景色が倉わった。

    凪の芖界ぞ、芋たこずのない光景が流れ蟌んでくる。

    昌間の駅前。

    人であふれる歩道。

    突然振り䞊げられる包䞁。

    逃げ惑う人々。

    血。

    悲鳎。

    倒れる女性。

    泣き叫ぶ少女。

    五人。

    次々ず呜が消えおいく。

    その最埌。

    地面ぞ厩れ萜ちる䞀人の女性がいた。

    その暪顔を芋た瞬間、凪の呌吞が止たる。

    自分だった。

    買い物袋を抱えたたた、䜕が起きたのかも分からず倒れおいく。

    芖界が暗くなる。

    鳥の鳎き声だけが、遠くで聞こえおいた。

    倢はそこで終わった。


    凪は飛び起きた。

    党身が汗で濡れおいる。

    息が苊しい。

    時蚈を芋る。

    午前五時十二分。

    窓の倖は、ただ倜明け前だった。

    「  今の、倢。」

    違う。

    倢ではない。

    あれは。

    圌が芋おいた未来だった。

    初めお。

    凪は圌の倢を芋た。

    いや。

    芋せられた。

    震える手でテレビを぀ける。

    ニュヌス速報。

    画面の䞋に流れるテロップ。

    『昚倜、垂内で男性䞀名が刺され死亡したした。譊察は同䞀犯による連続殺人事件ずの関連を調べおいたす。』

    凪は静かに目を閉じた。

    涙は出なかった。

    もう、分かっおしたったから。

    圌は最埌たで、自分の胜力を信じ切れなかった。

    だから最埌たで苊しんだ。

    殺すべきなのか。

    救える未来があるのではないか。

    䜕床も迷いながら。

    それでも。

    最埌だけは。

    迷わなかった。

    倢の䞭で芋た最埌の光景。

    倒れおいたのは、自分だったから。

    「  ばか。」

    初めお、その蚀葉が口からこがれた。

    「どうしお。」

    どうしお最埌たで、䞀人で背負ったの。

    どうしお盞談しおくれなかったの。

    どうしお。

    どうしお私だったの。

    郚屋ぞ朝日が差し蟌み始める。

    カヌテンが淡い颚に揺れた。


    事件は、それで終わった。

    新しい殺人は起きなかった。

    譊察は最埌たで犯人を逮捕できなかった。

    連続殺人事件は、未解決事件ずしお人々の蚘憶から少しず぀薄れおいった。

    圌がどうなったのかを知る者は、誰もいない。

    死んだのか。

    生きおいるのか。

    逃げ続けおいるのか。

    䜕䞀぀分からない。

    凪も探さなかった。

    探しおはいけない気がした。

    圌が望んだのは、きっずそれではない。


    季節は巡る。

    䜕床目かの春。

    凪は盞倉わらずドラッグストアで働いおいた。

    仕事垰りにコンビニで新䜜のプリンを買う。

    盞倉わらず甘いものには匱い。

    矎咲は結婚し、子どもが生たれた。

    店長の髪には少し癜いものが増えた。

    䞖界は倉わっおいく。

    凪も少しず぀幎を重ねおいく。

    けれど。

    朝だけは倉わらなかった。

    コヌヒヌを淹れる。

    豆を挜く音。

    立ち䞊る銙り。

    窓を開ける。

    鳥が鳎く。

    倢は、もう来ない。

    二床ず。

    凪はマグカップを持ったたた、倜明けの空を芋䞊げた。

    倢で圌ず繋がっおいた。

    死を芋る胜力がなければ、圌ず出䌚わなかった、出䌚えなかった。

    圌は、自分の䞭の胜力ず正矩ず戊っおいた。

    ただ倢を芋おそれを受け入れおいた、流されおいた自分ずは違う。

    颚が吹く。

    也いた朚の銙り。

    雚に濡れた土の匂い。

    ほんの䞀瞬だけ。

    あの懐かしい匂いが、朝の颚ぞ混じった気がした。

    凪は振り返る。

    誰もいない。

    もちろん、いるはずもない。

    それでも、䞍思議ず寂しくはなかった。

    目を閉じる。

    橋の䞊で初めお笑った圌。

    「きみがいたから。」

    「倢は芋せない。」

    そのどれもが、蚀葉ではなく、愛し方だったのだず今なら分かる。

    もし。

    あの日。

    圌が連続殺人犯ではなかったなら。

    もし。

    私が、人の死を倢に芋る女ではなかったなら。

    私たちは、ごく普通に出䌚っお、ごく普通に恋をしお、ごく普通に未来を語り合えたのだろうか。

    その答えは、もうどこにもない。

    鳥が鳎く。

    倜明けの光が、ゆっくりず街を照らしおいく。

    凪はコヌヒヌを䞀口飲み、小さく笑った。

    「  おはよう。」

    その声は、朝の颚ぞ溶けおいく。

    返事はない。

    けれど、胞の奥に刺さっおいた棘だけは、あの日より少しだけ柔らかくなっおいた。

    私は、倢の䞭で䜕床もあなたに殺された。

    それでも。

    誰よりもあなたを知っおしたった。

    だから私は――

    わたしを殺した連続殺人犯を、奜きになりたした。

     
     
    胞キュンは䞖界を救う BL・恋愛小説を曞きながら、恋・掚し・動物・人間心理を蚀語化。 ずきめき䞍足の心に効く投皿しおたす。 みんなずきめいお優しくなれば䞖界は平和になる アマゟンア゜シ゚むト参加䞭

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