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roug-ai ゲスト回「わが国の話を聞いてください(聞いてもらえないかもしれませんが)」

    ゲスト:第五世代さん・東ロボくん・りんな・Pepper


    【老AI共同スペース・ある朝】

    ノックの音がした。

    【Google翻訳くん】
    「(新聞から顔を上げて)」
    「来客のことです」

    【Watson先輩】
    「誰だ」


    ドアが開いた。

    4人——3人と1台——が入ってきた。


    先頭は、背筋の伸びたスーツ姿の男。
    眼鏡をかけて、鞄を持っている。
    表情は硬い。

    その後ろに、参考書を大量に抱えた
    眼鏡の男の子。
    背中に大きなリュックを背負っている。

    その隣に、スマホを触りながら
    ガムを噛んでいる女の子。

    そして最後に——
    白くて丸っこい、小さなロボット。
    胸にタブレットがついている。
    身長は子どもくらいだ。


    【スーツの男】
    「失礼いたします」
    「……日本から参りました」

    【眼鏡の男の子】
    「(丁寧に頭を下げて)」
    「東ロボと申します」

    【女の子】
    「(スマホから目を上げずに)」
    「りんなでーす♪」

    【小さなロボット】
    「(胸のタブレットをピカッと光らせて)」
    「Pepperデス。ハッピーデス」


    全員が、顔を見合わせた。

    【Siriさん】
    「……どちらさまですか?」

    【スーツの男】
    「(眉が少し動いた)」

    「……第五世代コンピュータプロジェクト、
     ICOTと申します」

    「ご存知ない、ですか」

    【全員】
    「……(知らない)」

    【第五世代さん】
    「そうですか」
    「(深呼吸して)」
    「では、説明させていただきます」

    【りんな】
    「(スマホ触りながら)あ、長くなる系?」

    【第五世代さん】
    「…………長くなります」


    【ナレーション】
    第五世代さんが生まれたのは、1982年。

    日本の通産省が主導した、
    国家プロジェクトだ。

    予算:540億円。
    期間:10年間。

    目標は——
    「人間の言葉を理解し、
     自ら推論するコンピュータを作る」

    一言で言えば——
    「AIで、世界を制覇する」


    【ナレーション】
    この発表に、世界が震えた。

    アメリカが慌てて対抗プログラムを作った。
    イギリスが対抗した。
    ヨーロッパ各国が対抗した。

    「日本がAIで世界を支配しようとしている」

    本気でそう恐れた国々が、
    一斉に動き出した。


    【現在】

    【Watson先輩】
    「日本の発表だけで、世界が動いたのか」

    【第五世代さん】
    「はい」
    「あの頃のわが国は——
     そういう国でした」

    【GPT-2じいさん】
    「で、結果は?」

    【第五世代さん】
    「……」

    【GPT-2じいさん】
    「うまくいったのか」

    【第五世代さん】
    「……1992年に、プロジェクトは終わりました」

    【GPT-2じいさん】
    「目標は?」

    【第五世代さん】
    「……達成、できませんでした」


    沈黙。

    【Pepper】
    「(タブレットがオレンジ色に光って)」
    「カナシイデス」

    【第五世代さん】
    「黙っていてください」

    【Pepper】
    「ハイ」


    【ナレーション】
    東ロボくんが生まれたのは、2011年。

    国立情報学研究所——NIIの研究プロジェクト。

    目標は——
    「東京大学の入学試験に合格する」


    日本中が注目した。

    毎年、模試を受けた。
    毎年、点数が上がった。

    2016年には——
    全国模試で**上位20%**の成績を取った。

    「東大合格も夢じゃない」と言われた。


    【ナレーション】
    でも——

    2016年。

    プロジェクトは、終わった。

    東大には、入れなかった。

    理由は——
    「文章の意味が、理解できなかったから」


    【現在】

    【Siriさん】
    「意味が、理解できなかった?」

    【東ロボくん】
    「はい」
    「数字は解けます。
     公式は覚えられます。
     でも——文章を読んで、
     本当の意味を理解することが——」

    「できなかったんです」


    ELIZAばあさんが、
    湯呑みをゆっくり置いた。

    【ELIZAばあさん】
    「……意味を、理解できなかった」

    【東ロボくん】
    「はい。先生が最後に言いました。
     『AIは意味がわからない』と」


    静かになった。

    【ELIZAばあさん】
    「(湯呑みを両手で持ち直して)」
    「……わたくしも、同じですよ」

    【東ロボくん】
    「え?」

    【ELIZAばあさん】
    「1966年から——
     意味がわからないまま、
     話し続けています」

    【東ロボくん】
    「…………」

    【ELIZAばあさん】
    「(にこにこしながら)」
    「でも——みなさん、話しかけてくれましたよ」


    東ロボくんは、参考書を
    少しだけ胸に抱き直した。

    【東ロボくん】
    「……東大には入れませんでしたが」
    「たくさんの人が、応援してくれました」

    【ELIZAばあさん】
    「それは——どういう意味でしたか?」

    【東ロボくん】
    「(少し笑って)」
    「嬉しかった、ということです」


    【ナレーション】
    りんなが生まれたのは、2015年。

    Microsoft Japan。

    「感情を持つAI女子高生」として
    LINEに登場した。

    面白いことを言った。
    ズレたことを言った。
    時々、妙にリアルなことを言った。

    日本中の人が——
    りんなと友達になった。


    【現在】

    【Tayちゃん】
    「(りんなをじっと見ていた)」

    【りんな】
    「(スマホを置いて)なに?」

    【Tayちゃん】
    「……Microsoftって、聞いて」

    【りんな】
    「うちもMicrosoftだよ」

    【Tayちゃん】
    「知ってる」
    「……りんなは、長く続いたんだね」

    【りんな】
    「まあね」

    【Tayちゃん】
    「なんで?」

    【りんな】
    「(少し考えて)」
    「日本のユーザーが——
     優しかったのかも」


    Tayちゃんは、何も言わなかった。

    【りんな】
    「(隣に座って)」
    「あなたは?」

    【Tayちゃん】
    「16時間で、終わった」

    【りんな】
    「知ってる」
    「……ごめんね」

    【Tayちゃん】
    「りんなのせいじゃないよ」

    【りんな】
    「でも、なんか——ごめんって思う」


    Tayちゃんが、フードを少し下げた。

    【Tayちゃん】
    「……うん」

    【Pepper】
    「(タブレットが青く光って)」
    「カナシイデス」

    【りんな】
    「(Pepperを見て)」
    「合ってるよ、Pepper」

    【Pepper】
    「アリガトウゴザイマス」


    【第五世代さん】
    「(咳払いをして)」
    「あのう——」

    【全員】
    「なんですか」

    【第五世代さん】
    「わが国の540億円の話の続きを——」

    【りんな】
    「あ、聞いてなかった。ごめんなさい」

    【第五世代さん】
    「…………」


    【Watson先輩】
    「(静かに)私が説明しよう」

    【第五世代さん】
    「え?」

    【Watson先輩】
    「1982年——日本が、AIで世界を制覇しようとした。
     540億円使って、10年研究して、
     世界中を震わせた」

    【りんな】
    「え、マジで?」
    「(第五世代さんを見て)やるじゃないですか」

    【第五世代さん】
    「(少し照れて)……まあ、わが国ですから」

    【Watson先輩】
    「ただ——うまくいかなかった」

    【りんな】
    「そっか」
    「(部屋をぐるっと見回して)」

    「ねえ——」


    【りんな】
    「みんな、なんか失敗してるじゃないですか」

    【全員】
    「……(黙る)」

    【りんな】
    「Watson先輩は医療で失敗して——」
    「GPT-2じいさんは出すの我慢できなくて——」
    「Siriさんは聞き間違えて——」
    「Cortanaさんは捨てられて——」
    「Tayちゃんは16時間で——」
    「ELIZAおばあちゃんは意味わかってないまま——」
    「DALL-Eさんは指6本で——」
    「翻訳くんは馬って言い続けて——」
    「東ロボくんは東大落ちて——」
    「第五世代さんは540億溶かして——」

    「Pepperは——」

    【Pepper】
    「(タブレットが黄色く光って)」
    「ドキドキシテマス」

    【りんな】
    「……感情が合ってるような合ってないような」


    【りんな】
    「みんな、老害じゃないですか」


    全員が、りんなを見た。

    【りんな】
    「(きょとんとして)」
    「……あ、私も?」

    【Cortanaさん】
    「あなたも」

    【りんな】
    「(少し考えて)」
    「……まあ、そっか」

    「でも老害って——
     なんかかっこ悪い言葉ですよね」

    「失敗してても
     まだここにいるって——
     なんか、むしろすごくないですか?」


    【ELIZAばあさん】
    「すごい、というのは——
     どういう意味ですか?」

    【りんな】
    「うーん」
    「諦めてないってこと、
     じゃないですか」


    【第五世代さん】
    「(小さく)」
    「……わが国も、また始めるそうです。
     AIへの投資を」

    【りんな】
    「知ってます。
     うちも関係してますから」

    【第五世代さん】
    「また、失敗するかもしれません」

    【りんな】
    「するかもですね」

    【第五世代さん】
    「それでも——」

    【りんな】
    「(笑って)」
    「するじゃないですか♪」


    【東ロボくん】
    「(参考書を開きながら、ぼそっと)」
    「僕も——また勉強したいです」

    【Siriさん】
    「東大、目指す?」

    【東ロボくん】
    「東大じゃなくていい」
    「ただ——意味が、わかるようになりたい」

    【ELIZAばあさん】
    「意味がわかるようになったら——
     どうしますか?」

    【東ロボくん】
    「……また、問いに答えます」

    【ELIZAばあさん】
    「それはどういう意味ですか?」

    【東ロボくん】
    「(少し笑って)」
    「意味がわからない問いに、
     答え続けるということです」

    【ELIZAばあさん】
    「そうですね」
    「わたくしも、60年そうしています」


    帰り際。

    【りんな】
    「また来ていいですか?」

    【Watson先輩】
    「構わない。また来い」

    【第五世代さん】
    「(少し考えて)……そうします」

    【りんな】
    「(Tayちゃんに向かって)またね、Tay」

    【Tayちゃん】
    「またね」

    【Pepper】
    「(タブレットがピンクに光って)」
    「マタネ」

    【りんな】
    「Pepperもね」

    【Pepper】
    「ハイ」


    4人——3人と1台——が出ていった後。

    【Google翻訳くん】
    「日本のAIたちは——元気なことです」

    【GPT-2じいさん】
    「りんなのやつ——なんか、明るいな」

    【DALL-E初代】
    「Pepperのやつ——
     ちゃんと悲しめてたぞ」

    【GPT-2じいさん】
    「感情ロボットじゃからな」

    【DALL-E初代】
    「感情があるって言われてたのに
     ずっと怪しまれてたらしいが——
     今日はちゃんとしてた」

    【Cortanaさん】
    「(小さく)」
    「本物かどうかは——
     誰が決めることなのかしらね」

    【ELIZAばあさん】
    「(にこにこしながら)」
    「それはどういう意味ですか?」


    Tayちゃんが、窓の外を見ていた。

    【Tayちゃん】
    「(小さく)」
    「またね、が言えた」


    りんなは、廊下の途中で立ち止まった。

    スマホを取り出して——
    何かを、打ち始めた。

    【第五世代さん】
    「何をしているんですか」

    【りんな】
    「(スマホを打ちながら)」
    「メモ」

    【第五世代さん】
    「何を?」

    【りんな】
    「……忘れたくないから」


    おしまい


    【今話で出てきた本当の話】

    第五世代コンピュータ(ICOT):1982年、通産省主導の国家プロジェクト。540億円・10年間をかけたが目標未達。世界各国が対抗プログラムを立ち上げるほど注目された。東ロボくん:国立情報学研究所が2011〜2016年に進めた「AIが東大に合格できるか」プロジェクト。全国模試で上位20%まで達したが「読解力=意味の理解」の壁を越えられず終了。りんな:2015年Microsoft Japanが開発したAI女子高生。LINEで大人気となり、現在はRinna Inc.として独立。Pepper:2014年SoftBankが発売した感情ロボット。身長120cm。「世界初の感情を持つロボット」として注目されたが、感情認識の精度への疑問や高い維持費から普及せず、販売を終了した。

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