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小説「無償の犯罪」4/13

    【登場人物】

    ・岩山田誠(いわやまだ まこと)
    ……刑事
    ・鈴木敬二(すずき けいじ)
    ……刑事、岩山田の後輩

    ・田中隆(たなか たかし)
    ……コンビニ強盗事件の際、近所に住んでいた人物
    ・あき
    ……隆の妻
    ・修(しゅう)
    ……隆の息子
    ・みゆ
    ……隆の娘

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    三章 再捜査



     月曜日。海で発見された遺体が、十年前のコンビニエンスストアの強盗犯のDNAと一致したことで、刑事たちは十年前の事件を再捜査することになった。岩山田と鈴木は、事件当日に警察の訪問を受けた家への聞き込みを行う。

     岩山田は、その中の誰かが、もしかしたら、当日強盗犯をかくまっていて、警察が帰ったあとに逃がしたのかもしれない、と思った。しかし、そんなことする理由はわからない。考えられるとしたら、脅されていたということか。しかし、十年も経った今、どうして病死した強盗犯は、顔面をつぶされ、指紋を焼かれ、海に捨てられなければならなかったのか。わからないことが多すぎる。

     一軒家の家族にはすぐに会えた。当時のままの家に住んでいたからだ。田中隆(当時四十三歳)、あき(当時四十歳)、修(当時十二歳)みゆ(当時十歳)の四人家族であった。五十歳になった母親のあきは、十年前の事件の夜のことをよく覚えていた。年配の女性用ファッション誌を熟読していそうな風貌だな、と岩山田は思う。ゆるくパーマのかかった髪はおそらく美容院でセットされたものだろうし、服装も五十にしては若々しく、少女趣味な印象であった。 

     あきは岩山田の訪問に少し怯えた顔をしたが、鈴木がにこやかに声をかけると少し表情を緩めた。

    「十年前に近所でコンビニ強盗がありましたよね、そのことでちょっとお話伺ってるんですけど」

    「あぁ、はい。ありましたね。よく覚えています」

    「警察の人が家まで来て、大変でしたよね?」

    「はい。子供たちはもう寝てましたし、強盗なんて怖いなって思いましたけど、特に物音とかも聞かなかったですし、戸締りちゃんとして寝ようって主人と話していたんです」

    「じゃあ、誰も見ていないし、誰も家には来なかった?」

    「警察の方だけです。来たのは。でも、十年も経って、今更、どうしたんです? 捕まってないって聞いてましたけど、捕まったんですか?」

    「えっと~」

     何か言いそうになる鈴木を「捜査中のことはお答えできません」と岩山田が制した。

    「そうですよね……」

    「でも、この街やご近所が、危険にさらされているということではありませんので、ご心配なく、いつも通りにお過ごしください」

     岩山田の突然の丁寧で穏やかな口調に、あきはちょっと面食らっていた。強面な人相とのギャップを感じたのかもしれない。驚いたあとにゆっくり微笑んで「ありがとうございます」と言った。

     鈴木は、やはり岩山田のことはよくわからないな、と思った。

     田中家の父親は上司とゴルフに行っており、息子はすでに社会人で一人暮らし。娘は大学のサークルで出かけているとのこと。

    「もし何か思い出したら、些細なことで結構ですので、こちらにご連絡ください」

     そう言って岩山田は田中あきに名刺を渡し「ご協力ありがとうございました」と、田中家を後にした。



    「どう見えた?」

     岩山田は鈴木に聞いた。

    「嘘をついているようには見えませんでした。それに、最近になって強盗犯の遺体を損壊して遺棄したようにも、見えませんでした」

    「だよな。もしかしたら、父親や息子が関わっているのかもしれないが……」

    「父親はともかく、息子は当時十二歳ですよね? 今になって何か関与してくるでしょうか?」

    「わからん。可能性は全てつぶそう」

    「そうですね」

     鈴木は汗で張り付いた長い前髪を指でかき分けた。蒸し暑い真夏の空は青々と輝いていて、岩山田は、十年前に一体何があったのだろうと思いをはせた。車で通りすぎるとき、アパートが建っていた場所を見ると、駐車場になっていた。




    《つづく》→5

     
     
     
    あきや・りんこ。小説家。創作大賞2023別冊文藝春秋賞受賞『ナースの卯月に視えるもの』シリーズ累計14万部突破!新刊『桃井ナースはこころも看ます』7月7日発売!『潜入心理師・月野ゆん』シリーズ『桃井ナース』シリーズ『人生最高ごはん』

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