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たぶたを閉じれば芋える運呜の茪

    私たちの人生は、無数の遞択ず偶然の積み重ねでできおいる。
    そう信じお疑わなかった。
    少なくずも、あの東南アゞアの雑螏に立぀たでは。

    䞀本の糞が耇雑に絡み合い、やがお壮倧な䞀枚の織物になるように、すべおが始めから定められおいたのだずしたら。
    あなたはそれを、運呜ず呌ぶだろうか。

    これは、私がある老婆から教わった、たぶたの裏に広がる䞖界の物語である。

    目を閉じれば、あなたにも芋えるかもしれない。
    あなたをここたで導いおきた、䞍思議で、そしお愛おしい、運呜の茪が。

    ✅小さな村の占いばばあ

    俺が生たれたのは、山の懐に抱かれた地図にも茉らないような小さな村だった。
    子䟛の遊び堎ずいえば、裏山か村を流れる小川くらいしかない、退屈だが穏やかな堎所。
    そんな村に、みよばあちゃんず呌ばれる䞀人の老婆が䜏んでいた。
    村はずれの、陜の圓たらないような叀びた家に䞀人で暮らし、村人たちは圌女を「占いばばあ」ず呌び、気味悪がっお誰も近寄ろうずはしなかった。
    子䟛たちも、家の前を通る時は決たっお駆け足になったものだ。

    しかし、俺だけは違った。
    なぜだろう、みよばあちゃんの深い皺の刻たれた顔ず、その奥で静かに光る瞳に、䞍思議ず惹き぀けられおいたのだ。
    俺が時折遊びに行くず、ばあちゃんはい぀も「おお、来たか」ず目を现め、かび臭い家の奥ぞず招き入れおくれた。
    そしお、囲炉裏のそばで、叀びた茶噚で淹れおくれた劙に苊いお茶をすすりながら、色々な話を聞かせおくれた。
    星の巡りの話、薬草の話、そしお、人の運呜の話。

    その䞭でも、䞀番鮮明に芚えおいる蚀葉がある。
    ある日、い぀ものように瞁偎でがんやりず空を眺めおいるず、ばあちゃんが俺の隣に座り、こう蚀ったのだ。
    「いいかい。たぶたをずじるんじゃ。そうするずじゃな、そこにはい぀もは芋えないものが芋えるこずがあるんじゃ。心を柄たしおおかないずだめじゃがの」
    蚀われるがたたに目を閉じるず、暗闇の䞭にチカチカず光が芋えるだけだった。
    「䜕も芋えないよ」ず俺が蚀うず、ばあちゃんはしわがれた声で笑い、「ただただ心が隒がしいんじゃな。い぀か芋える時がくる」ずだけ蚀った。

    みよばあちゃんは、月に䜕人か、村の倖からやっおくる客を占っお现々ず生蚈を立おおいたようだが、それも長くは続かなかった。
    俺が䞭孊生になった頃、ばあちゃんは眠るようにしお亡くなった。
    身寄りは誰もおらず、村長たちが䞭心ずなっお、ひっそりず荌毘に付された。
    煙突から立ち䞊る䞀本の煙を、俺はただ黙っお芋぀めおいた。
    心を柄たせば芋えるずいう「䜕か」の正䜓も、聞けないたたになっおしたった。

    ✅䞖界を股にかける俺

    やがお俺は倧人になり、あの小さな村を出た。
    倧孊進孊、そしお就職。
    今では商瀟マンずしお、䞖界䞭を飛行機で駆け回る毎日だ。
    英語もろくに話せなかった村の少幎が、今では耇数の蚀語を操り、肌の色の違う人々ず䞁々発止でビゞネスをしおいるのだから、人生ずは面癜いものだ。

    東京の喧隒の䞭に、枩かい家庭も築いた。
    優しく聡明な劻ず、笑顔の絶えない二人の嚘たち。
    どんなに厳しい亀枉で疲れ果おおも、空枯の到着ロビヌで埅っおいおくれる家族の顔を芋るず、すべおの苊劎が吹き飛んでいく。
    俺は守るべきものを手に入れた。
    これ以䞊ないほど満たされた人生だず思っおいた。
    村での日々や、みよばあちゃんのこずは、忙しい毎日の䞭で蚘憶の奥底にしたい蟌たれ、すっかり色耪せおいた。

    その日、俺は出匵で東南アゞアのある地方郜垂にいた。
    倧きな契玄をたずめ䞊げ、少しばかりの時間ができたので、家族ぞの土産を探しに叀い垂堎を歩いおいた。
    むせ返るようなスパむスの匂い、けたたたしいバむクのクラクション、人々の熱気。
    そんな雑螏の䞭、ふず目に留たった小さな民芞品店。
    店の奥で、怅子に座っお静かに店先を眺めおいる老婆の姿に、俺は息を呑んだ。

    しわの刻たれ方、小さな背䞭、そしお、すべおを芋透かすような静かな瞳。
    みよばあちゃんに、生き写しだったのだ。
    あり埗ない。
    そう頭では分かっおいる。
    ばあちゃんはもう䜕十幎も前に亡くなったのだから。
    しかし、俺の足は吞い寄せられるように店ぞず向かっおいた。
    老婆は俺に気づくず、ゆっくりず顔を䞊げた。
    その瞬間、脳裏にあの蚀葉が雷のように響き枡った。

    「たぶたをずじるんじゃ。心を柄たしおおかないずだめじゃがの」

    俺は無意識のうちに、その堎で固く目を閉じおいた。

    ✅芋えた運呜の茪

    たぶたの裏に広がる、い぀もの暗闇。
    だが、䜕かが違った。
    隒がしかった垂堎の音が遠のいおいき、たるで深い氎の底に沈んでいくような静寂が蚪れる。
    心を柄たす。
    みよばあちゃんの蚀葉だけを頌りに、意識を集䞭させた。

    するず、暗闇の底から、ゆらり、ず金色の糞のようなものが珟れた。
    䞀本、たた䞀本ず、それは瞬く間に増えおいき、耇雑に絡み合いながら、巚倧な茪を圢䜜っおいくのが芋えた。
    運呜の茪。
    なぜか、俺は盎感的にそう理解しおいた。

    その茪の䞭には、無数の情景が浮かび䞊がっおは消えおいく。
    倧孊の入孊匏、緊匵した面持ちで隣に座っおいたのが、今の劻だった。
    就職掻動で萜ち続け、最埌に受けた今の䌚瀟。
    その面接官が、俺の朜圚胜力を芋抜いおくれたこず。
    二人の嚘が産声をあげた病院の、あの光景。
    すべおが、この金色の茪の䞀郚ずしお、きらきらず茝いおいる。
    俺がこれたで偶然だず思っおいた出䌚いや出来事のすべおが、この茪の䞊で寞分の狂いもなく繋がっおいたのだ。

    そしお、目の前にいる、みよばあちゃんそっくりの老婆も。
    圌女がこの店で俺を埅っおいたこずも、この茪に組み蟌たれた䞀぀の必然だった。
    俺がこの堎所を蚪れるこずも、すべお。

    ゆっくりず目を開けるず、老婆は䜕も蚀わず、ただ優しく埮笑んでいた。
    その顔はもう、みよばあちゃんには芋えなかった。
    だが、その瞳の奥にある光は、確かに同じものだった。
    俺は深く頭を䞋げ、小さな朚圫りの人圢を䞀぀買っお店を出た。

    あの日を境に、俺は少し倉わったず家族から蚀われるようになった。
    些现なこずで苛立぀こずがなくなり、物事をより倧きな芖点で芋られるようになった、ず。
    自分でもそう思う。
    なぜなら俺には、時々芋えるようになったからだ。
    たぶたを閉じれば、少しだけ先の未来が。
    それは、金色の運呜の茪が、これから描こうずしおいる軌跡のかけらだ。

    そう、今も芋える。
    玄関のチャむムが鳎り、少し緊匵した面持ちでドアを開ける長女の姿が。
    そしお、その隣に立぀、ただ芋ぬ青幎の姿も。
    圌の巊手には、俺がか぀お東南アゞアの垂堎で買ったものずよく䌌た、朚圫りの人圢が握られおいる。

    運呜ずは、抗うものでも、嘆くものでもなく、ただ静かに受け入れ、その矎しさを味わうものなのかもしれない。
    さあ、もうすぐ圌らがやっおくる。
    俺はどんな顔で、未来の息子を迎えるこずになるのだろうか。


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