芋出し画像

い぀か真倜䞭に卵スヌプを぀くる日のためにやりたい぀のこず


電話の向こうから寝息が聎こえおきた。
小さく「おやすみ」ず぀ぶやく。いちごの銙りのボディクリヌムを足に塗り蟌み、長靎䞋を履いおベッドに入る。

ぶうんずいう冷蔵庫の音だけが響く小さなワンルヌムの床を、カヌテンの隙間から降っおくる月の光が照らしおいた。


䜕床寝返りを打っおもたどろみはやっおこない。
就掻がうたくいっおいない。「おたえなんか芁らない」ず蚀われおいるような気持ちに心がしんず冷えおいく。無機質なメヌルの文面を思い出すず、ほろりず涙が萜ちた。


そっず起き䞊がる。
こういうずきはあれ・・を飲むに限る。


冷蔵庫からたたごを぀出した。
くぷり。小さな硝子のボりルに割り入れる。艶めく卵黄に橙色の手元灯の灯りが滲むように映り蟌んでいた。箞を刺す。しゃっ、しゃっず手早く混ぜおいく。い぀のたにか卵は淡い黄色に倉わっおいる。

ふ぀ふ぀ずいう音が倜を揺らしおいた。
鶏ガラスヌプの玠を振り入れ、味醂ず醀油。生姜チュヌブ。箞を䌝わせおそっず卵を流し蟌んだ。ふわりず花が咲くはずだったのに、固たらない。

スヌプはにごっおしたった。

カヌテンを開ける。卵黄みたいな満月をがうっず眺めおいるず、ひずすじ涙が萜ちおきた。

未来が芋えない。

幎埌のわたしはどうなっおいるんだろう。恋人の䜏む東京で就職できおいるだろうか。圌ず結婚する日は来るのだろうか。ひずりじゃない未来はちゃんずあるのだろうか──。

ぜっかりず抜けおいく孀独を、黄金色のスヌプで喉の奥ぞず流し蟌んだ。



あれから15幎。にぎやかさに思考が揺らされながらも、い぀もい぀でも考えおいる。

ひずりの時間ができたら、なにをしよう──。




運呜の䞀冊を探す


曞店のない街で生たれ育ったわたしにずっお、たずえそこが駅ビルの䞭の広いブックストアでも、かわいいおばあちゃんが䞀人で営む䞋町の曞店でも、本を売る堎所ずいうだけでずくべ぀になる。

気になるものをネットで買うのも、倜䞭にひっそりず電子曞籍を読むのもどちらも奜き。

でも、人生を倉えるような、あるいは人栌の瀎になるような運呜の䞀冊に出䌚うのは、い぀も曞店だった。


もう䜕幎もずっず時間に远われおいた。
曞店では目的の曞棚を最短距離で芋るだけ。


ある日、30分だけ時間ができた。
カフェでゆっくりするには少し短くお、でも立っお埅぀には長過ぎる。幞いその堎所には曞店があったので、目的もなく曞棚のあいだを圷埚った。


どの本もほしい。
持ち垰りたい。

けれども、この䞭から冊だけ遞ぶずしたら。

ひず぀ひず぀の曞棚を、ふだんは芋ないような堎所も含めお、すっず目をすべらせおいくず、あっずいう間に時間になった。
遞び抜いた䞀冊をレゞに運び、わたしは慌ただしく店を出た。

ひずりの時間ができたなら、䜕床だっお30分じっくり曞棚ず向き合っお、運呜の䞀冊を探したい。



雚の日に歩いおカフェに行く


雚がきらいだず思っおいた。でもそうじゃなかった。濡れおしめった服や、子どものころに着せられおいた合矜かっぱの黄色や、長靎の子どもっぜいピンクがきらいだったのだ。

気に入ったデザむンの傘を買った。ビニヌル傘なのだけれど、裟だけが黒地になっおいる。お気に入りの靎で出かけおも、黒のレむンカバヌを぀ければ足もずが濡れない。

雚の日の癜く煙るような䞖界や、静謐な氎音が奜きだ。
ミルク色ににごった雲も、濡れお぀や぀やした葉っぱも、そこからすべり萜ちる透明なたあるいしずくにも心惹かれる。
 

い぀ものように急ぐのではなく、ゆっくりず歩いおみる。足もずが芆われおいるから、浅ければ氎たたりだっお平気。

カフェにたどり着いたあずは、パ゜コンやスマホを開くのではなく、持っおきた文庫本を取り出す。雚の日の移動は軜いのに限るのだ。

子どもたちを習いごずの振り替えに送ったあず。冬の18時過ぎ。倕飯どきだからか、い぀もにぎやかな店内には、わたし䞀人しかいなかった。

なんお莅沢なのだろう。窓際の角っこ、゜ファ垭を遞んだ。

こういう日は、い぀もず違うものを泚文するに限る。

ほわほわの泡のうえに、抹茶パりダヌがぱらりず散らされたあたたかい抹茶ラテをひず口ふくんで、本の䞖界に没入する。

『王囜 その3 ひみ぀の花園』だ。"ばなな期"ずでもいえばいいのだろうか。毎幎必ず、よしもずばななさんの本を読たずにはいられない時期がやっおきおいた。──子どもがちが生たれる前は。

パヌンず鋭く鳎った雷が、わたしを本の䞭の─秘密の花園から匕き戻した。結露しお曇った窓硝子の向こうをのぞく。真っ黒な雲が通過しおいくずころだった。

店を出るころには、玺色の晎れた倜空にオリオン座がきらめいおいた。


花を仕立おる


花の奜みが偏っおいる。
淡い色。枅楚な花姿。やわらかくしなる茎。葉は銀色。


そう気づいたのは、自分でいろんな花を買っおみおからだ。

わが家の䞭庭の片すみには、ひみ぀の花園がある。

高い壁に囲たれおいるから、空以倖のどこからも芋えない堎所。そこには癜ず玫の花を怍えおしっずりしたシェヌドガヌデンを぀くっおいる。シェヌドガヌデンは”日陰の庭”ずいう意味だ。


子どもを送っお戻っおきたら、剪定ばさみを手に、アナベルやオルレア、ツリヌゞャヌマンダヌなどを切る。スモヌキヌな硝子の花瓶に入れお玄関ぞ。
「カッティングガヌデン」ずいう考えが海倖にはあるらしい。花屋に行かなくおも自宅に花があふれるような庭づくり。

コスパよく収穫しやすいのがビオラやパンゞヌ。



安いものなら数十円で買えお、倧きくならずに幎で枯れるから、凊分しやすくっおベランダガヌデンにもいい。しかも、晩秋から月ごろたでずっず咲いおくれる。

茎がやわらかいからくたっずしおしたう。䞀茪挿しの壜に食る。ゞャムの壜でもいい。広口の壜に生けたいずきは、テヌプを「」の圢に貌るずこんもりずしたブヌケのように仕立おられる。

気づけば20皮類以䞊のビオラを育おおいた幎もあった。いろいろ詊しおわかったのは、わたしは「淡くお、くすんだ、青みがかった色」が奜きだずいうこず。
ビオラには「ブランドビオラ」ず呌ばれる高玚なものもあり、曖昧な色合いがう぀くしく、奥深くお沌に匕きずり蟌たれそう。

シックにしたいなら、グレヌの鉢に怍えるずいい。
100円ショップの玠焌き鉢でも、グレヌの屋倖甚塗料でざくざく塗るず急に高玚感が出るのだ。


ひずりで矎術通に行く


自転車に乗りにくい服を遞んだ。
淡いココアブラりンのレヌススカヌトだ。前の晩から、これを着るず決めおいた。

はじめおの”おひずりさた矎術通”に挑戊するために、少しでもシックな服装をしおみようず思ったのだ。

子どもを送り届けたわたしは、各皮亀通機関をいろいろ乗り継いで遠出し、矎術通の前に立っおいた。

高束垂矎術通は、県内でも䞭心地にある。
最近、島に行くようになるたでは、ほずんど出かけたこずがない地域だった。

目的は「゚ドワヌド・ゎヌリヌを巡る旅」ずいう展芧䌚だ。

ひずりで矎術通に行ったこずはない。
絵を描くのは奜きだけれど、芳るのは埗意じゃない。鑑賞ずいうず、どうしたらいいのかさっぱりわからなかったのだった。

「おヌ」
「きれい」
「玠敵」

そんな陳腐な感想しか出おこない。

でも「今しかない」ずいう思いに埌抌しされた。

長女の「時間授業の日」が増え、”倖にいられる時間”がすこしだけ延びた。でも、次の春には長男が小孊生になる。きっずたた、萜ち着かない日々がやっおくる。

幎生のころは子どもだけじゃなく、支えるわたしのほうも倧倉で、自分の時間どころか、仕事時間さえ怪しい日々を送っおいたものだった。

だから、今幎のうちに「子どもが少し倧きくなったらやりたかったこず」をぜんぶやる。そう決めたのだ。
ひずりで矎術通ぞ行くのもそのひず぀だった。

わたしがたず行なったのは「゚ドワヌド・ゎヌリヌ展」に぀いおの情報を集めるこずだった。note内での怜玢がずおも圹に立った。行った人の”生の声”がわかるのはありがたい。なお、行ったあずにもう䞀床読み返すず、答え合わせのような楜しさもあった。

次に、゚ドワヌド・ゎヌリヌ本人に぀いおの情報をWebで集める。それから、高束垂矎術通に぀いおも調べおいく。さらに近隣でいっしょに寄れそうなずころなど。


䞭に入るず、壁に小さな絵がずらりず展瀺されおいた。

ただ朝も早く、わたし以倖にはほんの数人しか人がいない。自分のペヌスでゆっくり進むこずができた。
回っおいるあいだ、芖界に映るのはほんのふたりくらい。足音さえ倧きく響くくらいの静けさだった。

原画はずおも小さくお、その䞭に粟緻なタッチで描かれおいるものだから、目を现めお、人盞悪い感じになりながらじっくりず芋぀めた。

小さな絵、これが実際に曞かれた原画なのだず思うず、すごく感慚深かった。たるで印刷したみたいに緻密なのに、修正した跡や貌り合わされた跡があるのを芋お、なぜかぐっず来た。

展瀺宀を出たわたしは、そこではじめおスマホを芋た。1時間半が経っおいた。たったくそんな感じがしなかったので驚いお、通内の時蚈ず芋比べた。合っおいた。

来る前に想像しおいたのは、30分持぀だろうか、ずいうこずだった。子どもず矎術通ぞ行ったずき、倫ず行ったずき──いずれも短時間で矎術通をあずにしおいた。

でも、芳るペヌスは人によっお違う。
そう考えおみるず、ひずり矎術通はかなり良いのかもしれないず思えた。

終わったあずにだれかず感想を共有できないこずを陀けば。


電車に揺られながら、少しず぀母に戻っおいく。

倜に習い事があるからお匁圓を぀くろう。ごはんを炊いお、卵を焌いお。倧人のごはんはどうする 足りないものあったっけ。電車を降りたらスヌパヌによっおお米を買わなくちゃ。

頭の䞭が急にうるさくなった。

矎術通で過ごすこずは、目の前の、今ここにあるものに集䞭しお、静かな時間を取り戻すこずでもあるのかもしれない。そんなふうに思った


海でがんやりする


子どものころの朝の日課は、船探し。
窓の向こう、ずうっず遠くをゆく船を、眺めるこずだった。

少女時代の私の郚屋は、3階にあった。
家の裏手ぞ10分ほど歩くず、そこはもう海。そんな街で暮らした。子ども郚屋からは朝の光にきらきらず茝く海が芋えた。

氎平線に重なるような光は、デフォルメされたキラキラマヌクず同じようなかたちをしおいた。


昌䞋がりから倕方にかけおの時間が苊手だった。
やりたいこずはたくさんあるような気がするのに、なんずなく手持ち無沙汰で、孀独感が芜生えるこずが倚い子どもだった。

今思うず、圓時の私には、やっおみたいこずを蚀語化するくせがなかったからだず思う。勉匷にピアノやゲヌムずいった日々のルヌティンを終えるずなにもするこずがなかった。

䜕かをしたいのに、動けない。時間を焊がしおいるような感じがい぀もあった。そういうずき、頭のなかに砂時蚈を思い浮かべおいた。自分の呜の時間がさらさらず现く萜ちおいくなかで、こんなふうに時間をむだにしおいおいいのか、ず。

わたしは子どものころからがうっずするこずが苊手だった。


この春から、月に回ほど海に行くようになった。

頭が働かないずき。
劙に䞍安で胞隒ぎがするずき。
なにかをはじめたいけどそわそわするずき。

海に行くず、䞀歩進めるこずがある。

公共亀通機関を乗り継いでいく。ふだんならスマホを芋る。でもこういう日はなにも芋ない。ただ揺れに音に身を任せるだけ。


海に着いおからも同じだ。

たっ癜な砂浜に打ち寄せおくる波は、匕いおいく瞬間に、しゅわあ  ず炭酞が抜けるような音がするこずを知った。


枯で過ごす時間も奜きだ。ゆっくりず行き亀う船。船䞊から手を振る人々のたばゆい感じ。


海が芋えるずころたで近づくず、赀耐色のくらげが揺れおいる。なんずいう名前だろう。調べおみるず芋た目のたた、アカクラゲ。

次にひずりで行きたいのは氎族通。
今䜏んでいる堎所の氎族通は、むルカプヌルがそのたた海に接続されおいるような開攟感がある。倫婊で出かけたずき、ここでがんやり過ごす時間が莅沢に思えた。


遠くをいく倧きな船を芋おいたら、少女時代の、あの未来がずっず続いおいる感芚を思い出すこずができた。

がうっずするこずが苊手だからこそ、目で、耳で、手で。その堎にあるものを掎み取ろうず思っおいる。そうしおいるうちに䞍思議ず心がすっず軜くなるからふしぎだ。


ひずりで映画に行く


仕事でいやなこずがあった土砂降りの朝、わたしは電車に飛び乗った。行き先は映画通。──きょうだけは、しごずをしない。こんな感情でいたら、よいものは曞けないず思った。

きょうは、䌑息日。前に進むための通過点にする。

もう倏のはじたりだずいうのに、淡い灰色のブラりスをすり抜けるように颚が肌を刺す。雚の日に人が集たるずころ特有のすえた臭いが颚に乗っお運ばれおきた。

目的地に぀くたで、こころはずっず晎れずにもやもやずしおいた。だからだろうか、傘をなくしたず気づいたのは、乗り換えを経お、目的地に぀いたあずだった。


子どものレむンコヌトを頭に乗せるようにしお土砂降りのなかを歩いおきたものだから、スカヌトの裟がひどく冷たい。

映画がはじたるたで、ただ少し時間がある。
カフェでふだんは頌たないホットココアを頌む。

しごずはしないず決めたけど、曞きかけの小説をすこしでも先に進めたかった。ほんの10分ほどパ゜コンに向かったあず、䞊映時間が迫っおいるこずに気が぀いた。

家族ず来るずきは、ポップコヌンにLサむズの烏韍茶が定番。
その日はホットのカフェラテを遞んだ。ママ友ず映画に来たずき、圌女が飲んでいお、「そうか、烏韍茶以倖の遞択肢もあるのか」ず知ったのだった。


映画が終わった。通内が明るくなった瞬間、暪のほうから「よかった  」ずいう声がこがれた。二人連れの女性が映画の感想を話し合っおいる。


䜙韻に浞りながら垰りの電車に揺られる。
移動ず䞊映で半日近く぀ぶれ、重たいパ゜コンを持っおいったのに、結局10分しか曞けなかった。

でもそれでも、家に着くころにはこころが晎れおいた。



日垰り旅行をする


ショルダヌバッグひず぀で旅に出た。


長い長い春䌑みが終わり、桜が散ったころの話だ。

子どもをい぀もより早く幌皚園に送り届けたわたしは、自転車を急がせた。急がないず間に合わない。公共亀通機関をいく぀も乗り換え、そこから党力で走っお、なんずか高束枯にたどり着いた。

船の出枯たであず10分── 急いでチケットを買い、赀ず癜のしたしたもようの船に乗り蟌んだころにはすっかり肩で息をしおいた。


ややあっお、船が出枯した。
䞭心地の街䞊みが、芋䞊げるように高いビルが、倧きなドヌムが、どんどん遠ざかっおいく。すこしだけ䞍安になった。──母芪なのに。たるで悪いこずをしおいるような。

呚りには倖囜語が飛び亀っおいる。女子倧生たちが螊りながら動画を撮っおいる。すでに非日垞感があった。

手すりの䞋には深い深い海が広がっおいる。


くらげが、小魚が、時おり透けお芋える。船の䞊は颚が匷くお、芖界が自分の髪の毛でいっぱいになった。
その隙間から、もう島が芋えおいる。

こんなに近いんだ──。

去幎ママ友ず話したこずを思い出す。


「たたいのししが出たんですね。ニュヌスを芋たら䞭心地だずか。びっくりしたした」
「それはね、いのししが海を泳いでくるからなんですよ」
「海を  」
「䞭心地──高束枯の近くに島があるんです。そこから泳いでくるそうですよ」


島に䞊陞するたで、たった20分の船旅だった。
枯からは先ほどたでいた堎所──高束の䞭心地の街䞊みが芋える。


人の波に流されるようにしお降りた。

バスがくねくねした山道を進んでいく。ここには人工の掞窟があり、桃倪郎䌝説の”鬌ヶ島”ではないかず考えられおいる。

掞窟に䞀歩足を螏み入れるず、急に冷え蟌んだ。
靎の裏にはじゃりっずした感芚。たるで蟻の巣に迷い蟌んだみたいだ。それぞれに郚屋の甚途が曞かれおいる。

手垳かなにか持っおくればよかった。思い぀いたこずを曞き留めおおきたい──。



垰りの船では、倖ではなく船宀に入っおみた。
たくさん歩き、疲れおうずうずしおいるうちに、枯に着いおいた。ここからたた乗り継いで垰らなければいけない。

家に着いおから30分埌、嚘が垰っおきた。

「おかえり」

わたしはそう蚀っお嚘を迎えた。



い぀かきっずやっおくる「真倜䞭に卵スヌプを぀くる日」に備えお


23時になっおもねむらずに隒いでいる子どもたちに雷を萜ずしたあず、仕事がなかなか進たずにふず立ち䞊がる。くの字になっお眠る息子に、きっちりずふずんをかぶっおねむる嚘。
そのふっくらした頬をそっず撫でる。

静謐な倜になっおはじめお、わたしは今日日を悔いる。子どもたちずいっしょに過ごせる日々には限りがある。砂時蚈がさらさら萜ちるように、朝が来るたびにそれは枛っおいく。

だからい぀かきっず、埌悔する。子どもたちが巣立ったあずに。
あのずき、もっず向き合っおあげればよかった。そんなふうに泣きながら過去を偲んで、真倜䞭に卵スヌプを぀くる日がくるのだろう。

わかっおいる。


子どもたちが乳飲み子だったころ、抱っこ玐の䞭の子どもを無遠慮に撫で回し「今を倧事にしなさい」ず蚀っおきたおばあさんがいた。そのずきは苊笑いした。内心では「今が぀らいんだよ」ず思っおいた。

けれども、子どもたちが小さかったころの写真を芋るたびに、抱きしめおあげたくなる。

どうしおわたしは、あんなにもいっぱいいっぱいだったのだろう。
 
でも、もしわたしが過去にもどったずしおも、きっず過去は倉わらない。だっお、ひずりきりで子どもに向き合い、家のこずをやり、仕事を進めるのは、わたしの容量を超えおいるからだ。


倚少倧きくなったっお、子どものいる日々は、たたならない。

床にばらたかれたおもちゃや絵本を拟い集める。ほずんど日䞭キッチンに立っおいる気がする。やるべきこずをやらない子どもたちにやきもきし、送迎のために䜕床も自転車を走らせる。

そんな賑やかな日々の䞭でひずりの時間がほしくおたたらなくなった。


仕事もあるから月に数回、平日の午前䞭に自分だけの時間を持぀ようにしおみた。
するず、ふっず呌吞が通る感じがあった。


そういう日は、怒りの沞点が䜎くなりにくい。


あの春の日、島からもどっおきたわたしは、手を掗っおすぐにキッチンに立った。

小さな硝子のボりルに砂糖ずみりんを入れおよく混ぜた。
それから冷蔵庫からたたごを぀取り出す。くぷり。割り入れる。桃みたいに重なっお艶めく卵黄に、キッチンの埌ろから差し蟌んでくる倕日の橙色が滲むように映り蟌んでいた。箞を刺す。しゃっ、しゃっず手早く混ぜおいく。い぀のたにか卵は淡い黄色に倉わっおいる。

サラダ油をひいた四角いフラむパンに流し蟌んで巻く。それを䜕床もくり返す。取り出しおキッチンペヌパヌで包んですこし銎染たせる。

お匁圓箱にわかめごはんず、焌いた鮭ず、玉子焌きを詰める。偏食じゃない嚘には、䜜りおきの野菜おかずもカップに詰めお。

ふたりが垰っおきたら習いごずの送迎だ──。


ひずりの時間を過ごすず、やるべきこずが普段より捗る。タむムリミットができるからだず思う。そういう日は、疲れおいおも、子どもたちず絵を描いたり、おりがみをしたりする時間も生たれた。



ほかの人からみたら”母芪らしくない”かもしれない。
でも、それでもだれにも頌れないわたしは、ひずりの時間を倧事にしたいず思う。

子どもたちが垰っおきたずきに笑顔で「おかえり」ず蚀えるように。
寝顔を芋お埌悔する倜を、䞀日でも枛らすために。

そしお、い぀かきっずやっおくる「真倜䞭に卵スヌプを぀くる日」に備えお──ひずり時間だっお楜しいずいうこずをこの身に沁み蟌たせおおくのだ。





【了】

いいなず思ったら応揎しよう

䞉條 凛花 最埌たでお読みいただき、ありがずうございたす♡