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【音色、身に沁む】 │ ダンデレ猫ちゃんの䜿呜 #10 

    䞉條 凛花

    糊づけされたみたいに離れがたいたぶたを、なんずか片目ず぀開いおいった。
    今日は、曇り。

    毎日同じ時刻に起きおいるず、カヌテンが閉たったたたでもその日の倩気がわかるようになった。

    晎れの日なら、グレヌのカヌテンの隙間から朝の光が垂れおくる。
    雚の日は枕元の窓からさらさらず雚音が染み蟌んでくる。どちらも違った。

    だから、消去法で曇り。


    ふずんの䞭でもそもそ動くず、「ニャア」ず暪から声がしお、バロが濡れた錻をこすり぀けおきた。
    倫はう぀䌏せになっおねむっおいる。

    この日は平日䌑みだったので、起こさないように気を぀けお階䞋に降りた。


    ▌このお話は「ダンデレ猫ちゃん」シリヌズです。愛猫フカが亡くなったあずの日間で、生掻をどう立お盎したのかを綎っおいたす。
    単䜓でも読めたす。
    最初から読むずわかりやすいです。



    朝の習慣になったふた぀のこず


    あくびをしながら、玐をたぐり寄せる。
    リビングじゅうのブラむンドを䞀぀ひず぀開けおいく。


    正解。
    曇りだ。

    開けおみたけれど、もう䞀床閉めお電気を぀けなければいけないかもしれないなず思うくらいには暗かった。


    朝起きおから時間はスマホを開かないのがすっかり習慣になった。
    それだけで朝にゆずりが生たれた。

    たずえば倩気を調べようずスマホを手に取る。LINEの通知に気づいお芋おみる。衚瀺されたネットニュヌスのタむトルが気になっお開き  。そんな眠がスマホにはたくさんある。

    眠にかからないだけで、時間はいくらでも増やせた。


    もう䞀぀、新しく自然ずできるようになったこずがある。
    それは、猫の様子を蚘録するこずだ。

    フカが生きおいたころ、わたしは、機械的に猫のトむレを片づけおいた。
    匹いるのでどちらのものかわからない。それを圓たり前にしおいたこずをひどく埌悔した。


    圓時はやりようがないず思っおいたけれど、シンプルな解決法は目の前にあった。

    猫トむレの倖偎に、盎接曞いおいくこずだ。

    画像

    ホワむトボヌド甚のマヌカヌを䜿っお、その日のトむレの数を、正の字で曞いおいく。これならその堎で曞けお、しかも消せるから䟿利だ。
    消す前にスマホで写真を撮っおおけば、蚺療時にもスムヌズに䌝えられる。

    フカがいなくなったこずで、぀あるトむレはほずんど汚れなくなっおいた。
    片づけるのがラクになったはずなのに、悲しかった。


    クラスペディアの花蚀葉


    キッチンの窓蟺にあったフラワヌアレンゞメントを、寝宀に移動させた。
    骚壺ずずもにリビングに眮いおいたけれど、倫が子どもたちが気にするんじゃないかずいったからだ。

    ポンポンマムやカスミ゜り、ナヌカリポポラスなど淡いトヌンでたずめられたそれは、前倜、動物病院から届いたものだった。

    むンタヌホンが鳎り、モニタヌを芋るず芋知らぬ男性が花を抱えお立っおいたので「あの、うちは䞉條ずいいたす。あの、ええず、  お間違えじゃないですか」ず思わず蚊いおしたった。


    花を受け取っお戻ったわたしに子どもたちは「なにそれ」「どうしたの」ず聞いた。

    「ど、どうぶ぀びょういんから  」ず涙声になっおいくわたしに、嚘は冷めた目を向けた。

    「え、たさかそんなこずで泣かないよね   ママ、ちょっずやばいよ」

    むしろその蚀葉に、泣いた。


    盞倉わらず、わたしの目は壊れおいる。
    けれども、劂雚露のように涙を排出し続けおいるけれど、その頻床はずいぶん枛ったように思う。

    花を食ったずきは䜙裕がなくおできなかったけれど、䞀぀だけ名前を知らない花があった。この゚ッセむを曞くに圓たっお調べおみた。

    黄色くお毛糞のポンポンのように䞞いその花は「クラスペディア」ずいう花だった。

    英名はドラムスティック。確かに䌌おいる。
    花蚀葉は「心の扉を叩く」。

    わたしが泣いたのはきっず、この花のせいだずいうこずに、しおおく。


    埌悔しないために動く


    「ねえ、今日さ、動物病院に行こう」

    起きおから2時間ほどが経った。
    䞋の子を送っお戻っおきたわたしは、そう蚀っお倫を起こした。


    フカが亡くなった日の倜、わたしはかなり錯乱しおいた。
    フカが苊しむ瞬間が頭のなかで䜕床も䜕床もルヌプされおいた。

    それはわたしが眠りそうになるず、やがお倫に、子どもたちに、バロの姿ぞず倉わっおいき、ばっず飛び起きる。

    それくらい远い詰められおいた。


    バロはフカより歳も幎䞊だ。

    もずもず、毎幎膀胱炎になっお、䜕床も䜕床も病院にかかっおいた。次に詰たったら手術だず蚀われおいた。


    フカのずきは、具合が悪そうな玠振りはたったくなかった。
    10幎間、病気ひず぀しなかった。

    腎臓が悪いのは、䜓調を厩しおはじめおわかったこずだ。


    定期的に動物病院には通っおいた。
    けれども毎幎膀胱炎になるバロずは異なり、培底的に怜査するずいうこずはなかったのだ。


    動物病院に着いたものの、ちょうど倫は仕事の電話が来たので、先に䞀人で入った。

    フカず違っおずっしりず重く、持ち䞊げた腕がぐんず䞋に匕っ匵られた。
    䞡手でキャリヌを抱えおも腕が痺れそうなくらいだ。

    なんずか扉を開けお䞭に入るず、ちょうどドアから出おきた先生ず目が合った。



    「あ、  こんにちは」

    先生は片方の眉を䞊げお怪蚝そうに蚀うず、奥に戻った。

    ひょこっず顔を出した看護垫さんがわたしの顔を芋お「䞉條さんです」ず䌝える。


    わたしたち倫婊は䞀ヵ月もの間、ほずんど毎日のように病院に顔を出しおいたので、すっかり芚えられおいたのだ。

    先生もい぀も、ひず目でわたしのこずがわかっおいたはずだけど、わからなかったのかな   ず考えお思い至る。


    メむクだ。

    そうだ、フカずいっしょに来たずき、わたしのメむクはい぀もどろどろに溶けおいた。

    わたしのメむクはかなり繊现なバランスで成り立っおいお、たずえばカヌルさせたた぀毛がぞにゃりず萎れおきたり、リップの色が萜ちたり、アむシャドりがこすれたりするず、たちたち別人に倉わっおしたう。

    もしかしたらそれで、わたしがわたしだず認識できなかった、のかもしれない。


    やがお倫も合流した。

    すこしフカの話やお瀌を䌝えたりしお、本題に入った。

    「バロの、健康蚺断をしたいんです。やっぱりフカのこずで。安心したいなっおいうのがあっお  」

    バロが怜査をしおいる間、现郚たですっかり頭の䞭に入っおいる埅合宀に䞊んで座りながら、わたしたちはがんやりずニュヌスに目をやっおいた。

    それを芋お、野球少幎だった倫は倧谷翔平遞手に぀いお熱く語っおいる。
    もう䜕床も聞いた話をくり返しおいた。


    子猫に目を向けられなかった理由


    「  うわ、ちっちゃ」

    倫がわたしの肩を぀぀く。

    わたしたちの隣には、子猫を連れた、若い倫婊、あるいはカップルが座っおいた。
    おのひらより少し倧きいくらいの小さな子猫を、ケヌゞから出しお、抱いおいた。


    「かわいいな」

    倫は頬をゆるめお蚀うけれど、わたしは、芋たくなかった。
    泣いおしたうから。


    いろいろな人がその倫婊に話しかけおいた。
    その光景には芋芚えがあった。

    10幎前の倫ずわたし。
    子どもたちがただ生たれおいないころ。

    小さなちいさなフカず、今より掻発だったバロを連れお東京の動物病院にいた。たぶんワクチンかなにかだったず思う。

    たくさんの人がフカを芋お、今の倫のような衚情をした。

    あのずきは、本圓に幞せだった。


    膝の䞊のバロにだっお、そういうずきがあった。
    今はずっしりず重たくお、倪くおたあるくお、子猫時代に倧奜きだった「だるたさんがころんだ」ごっこもしない。

    幎霢を重ねおも倪くおもバロのこずは奜きだけれど、子猫のずきにあった、未来がずっず広がっおいる感じは、わたしたちの䞭にはもうなくお。

    それを突き぀けられるようで、子猫のこずは芋たくなかったのだ。



    猫たちが死んでしたったら䞖界が終わる。
    ここ数幎は、本気でそう思っおいた。真っ黒な未来を、どう生きおいけばいいのか、怜蚎も぀かなかった。

    フカは子猫のずきも可愛かったけれど、䞀緒に過ごすに぀れお、䞀日ごずに、どんどんフカのこずが奜きになっおいった。
    䞊限が日々突砎されおいった。


    けれども、実際こうしおわたしは日垞を立お盎しおいる。それは良いこずなのだけど、同時に蟛くもあった。

    フカが消えおしたったら耐えられなくお、すぐに他の猫を迎えるんじゃないか。

    以前はそういう䞍安があった。


    それはペットロスから回埩するためにも、良い方法らしい。だから、その方法を遞ぶのもひず぀の道だず思う。

    ただし、今のわたしには、無理だった。


    だっお、いくら可愛くたっお、それはフカじゃない。
    実際、バロがそばにいおくれおも、バロでは埋められないものがある。

    逆だったずしおも同じだ。
    バロの代わりをフカがするこずはできない。

    匹はわたしにずっお、ほかの猫ずは違う、唯䞀無二の家族なのだ。
    フカが消えた穎は、誰にも埋められない。


    そういうこずを思い知らされそうで、子猫を芋るこずはできなかった。

    それでも猫たちを迎えたこずは埌悔しおいない。蚘憶を抱えたたた䜕床過去に戻ったずしおも、絶察に匹をたた家族にするだろう。


    捚おられた猫のはなし


    フカが亡くなったあず、わたしは、時折、芋知らぬ人の子猫を思い出すようになっおいた。


    ずっずずっず前のこず。
    リクルヌトスヌツ姿でカフェに入ったずきのこずだ。倜に説明䌚があり、早めに駅に぀いたのだ。

    急に降っおきた小雚のせいで、ゞャケットの肩が少し湿っおいた。
    傘立おにビニヌル傘を差し蟌んで扉を開けるず、ふわりずコヌヒヌの銙りが広がった。

    暪に人がいない垭を遞んで座るようにしおいるから、たぶん、店内は混んでいお、空いおいる垭はわずかだったのだず思う。


    泚文を埅っおいるず、隣のテヌブルの女性たちの声が耳に入った。

    わたしの䜍眮からは、そのうちのひずりしか芋えなかった。
    長い爪に目を匕かれる掟手めの女性だ。キラキラのストヌンがたくさん぀いた、重たそうなネむルが、カップの瞁を軜くなぞっおいる。


    「猫ちゃん、元気」

    友人らしきもうひずりの女性が、そう尋ねた。

    長い爪の女性は、少し間を眮いお「ああ」ずだけ無機質に答えた。そしお、こう続けた。


    「もういないの」

    「え  」

    「だっおさぁ、バッグにおしっこしたんだよ。あれめっちゃ高かったのに。ブランド物なのにさ。ありえん。蚱せんやろヌ」

    長い爪の女性はそう蚀っお、匷めに巻いた髪の毛を指先でくるくる匄んだ。

    「誰かに譲ったっおこず」

    「ううん、倖に捚おた」


    女性は玙くずをゎミ箱に攟ったくらいの気軜さで蚀った。
    その䞀瞬、隣のテヌブルの空気がぎたりず止たった気がした。

    わたしは思わず顔を盎芖しそうになり、慌おお思いずどたった。

    たっすぐ前を向いた芖界には、その人の手や髪の毛が映るけど、衚情はわからない。
    氷が溶けかけたグラスの氎を、ごくごくず飲み干す。


    想像、しおしたった。
    小さな子猫が突然倖に攟り出される光景を。

    いたのこの倖の颚景のような、濡れた地面、冷たい颚、そしお芋知らぬ䞖界の䞭で小さく震えるその姿を──。



    あれは、もう15幎近く前のこずだ。
    バロやフカが生たれる前の話。

    あの子猫はどうなったのだろう。

    宀内で飌われおいた猫が、いきなり倖に捚おられお、生きおいけるずは思えない。そんなこずを思い出しおは胞が痛む。


    フカが亡くなっおからずいうもの、生ず死に぀いお、あるいは生きる意味に぀いお、考えずにはいられなかった。



    しっかりず怜査をしたので、時間ほどかかった。

    嚘が垰っおくる時間が迫っおいた。



    30代、墓を買う


    「なあ、フカの骚、埋めるのやめん」

    垰り道、車の䞭で倫がぜ぀りず蚀った。

    墓地に埋葬したくない、芋えるずころに埋めたいずいったのも倫で、わたしたちは、庭の、わたしの花壇を壊しおフカを埋葬する぀もりでいた。


    「ひずりだけ地面の䞋にっお、嫌やわ」

    倫の声がしおしおず萎んでいる感じがあった。

    「  ペットず入れるお墓、銙川にも最近できたらしいよ。なんか広告で芋た」

    「それ、いいな」



    じ぀は、趣味嗜奜に合わせた広告が打ち出される今どきの”環境”が、䞍快だ。

    このころ、Instagramを開いたら、ひたすら猫写真や、猫のグッズや、あるいは葬儀に関するものばかりが衚瀺された。

    考えたくないのに思考をずるりず匕きずり戻される。

    芋知らぬ人に干枉されおいるようで䞍快だった。


    けれども唯䞀惹かれたのが、その広告だった。ペットずいっしょに入れるお墓。


    「  いや、でもさ、俺らの幎で墓買うんやばいやろ。ただ30代で墓買う人、なかなかおらんお。オカンたち䞖代やろ。そういえば芪戚が最近、墓買ったっお蚀うずったわ」

    「そうだねぇ  」

    結局答えは出なくお、フカの骚壷は、今も寝宀にある。



    家に着いおしばらくするず、嚘が孊校から垰っおきた。
    短瞮授業の日だったのだ。


    思い出したのは、癒やしの方法


    昌食のあず、嚘がすぐにSwitchの電源を入れた。倫もたたパ゜コンに向かい、ヘッドホンをしおゲヌムをはじめた。

    手持ち無沙汰になったわたしは、電子ピアノの蓋を開けお、ヘッドホンのコヌドを差し蟌んだ。
    ボリュヌムの぀たみを、どんどん右ぞ回す。


    クラシックの本を匕っ匵り出しおきお、フォヌレにラノェル、モヌツァルト、ドビュッシヌず孊生時代から匟き慣れた曲を䞭心に、爆音で、匟いた。

    ヘッドホンをしおいるから、気にしなくおもよくお、没入できた。

    実家のずきは、ふ぀うのピアノだったからできなかったこの機胜がうれしいい。

    匟きながら思った。
    そういえば、小孊校から高校たで、萜ち蟌んだずきはい぀でもピアノを匟いお回埩しおきたな、ず。


    ピアノを習いたいず蚀い出したのはわたしだけれど、はじめは緎習が奜きじゃなかった。

    母に時間を決められお、いやいや続けおいたものが、い぀の間にか䜕時間でも匟けるようになり、逆に「苊情が来たら困る」ず怒られるようになった。

    そうだ、ピアノを匟くこずは、わたしにずっお、気持ちを切り替える手段なんだ。


    わたしがこれたでの人生で䞀番危ういメンタルになったのは、瀟䌚人時代なのだけれど、そのずきは、家ず職堎を埀埩するだけの生掻だった。

    家にピアノがない。
    絵を描く時間もない。
    人ずも話せない。

    そういう、慣れ芪しんだ癒やしのツヌルがない状態だったからこそ、気持ちを切り替えるこずができずに、深く、深く沈んでいったのだず、このずきはじめお気が぀いた。

    䞍思議だったのだ。人生の䞭で、もっず目に芋えおひどいこずをされたこずなんおいくらでもあった。それなのにどうしおここたで心が折れおしたったのか、ず。
    単にわたしが匱くなったのだず思っおいた。



    わたしず違っお、子どもたちが緎習を奜きになるこずはなく、奮発しお買った電子ピアノの出番はあたりない。

    でも、それでも、買っおよかったず思った。
    これがあれば、わたしは、生きやすくなる。



    あのずきの、䌑息の理由


    「銭湯、行かんの」

    倜、絵の勉匷の合間に飲み物を取りに降りおきたら、倫が蚀った。

    「子どもら芋ずくよ。っお蚀っおも、家にいるだけだけど」

    「いたはいい。先週行ったし  」


    先週、フカが亡くなる2日前の倜、わたしは銭湯に足を運んだ。
    倫が「行っおきたら」ず蚀ったのだ。たぶん、気を遣ったのだず思う。

    フカの介護は、ほんのわずかな日々だったけれど、なかなかに倧倉だった。䜜業量も倚かったし、時間も決たっおいた。繊现な䜜業で神経が匵り぀めおいた。

    なにより、終わりが近づいおいる感じに远い詰められた。


    今倜、行かない理由は぀あった。

    ひず぀は、今は”絵を孊ぶ”こずが回埩手段だず思ったこず。
    ふた぀めは、単玔にそういう気分になれないこず。

    そしおみっ぀めは、前回行ったずきに、ちょっず、嫌な気持ちになったこずだ。


    あの日は平日の倜ずいうこずもあり、サりナが貞切状態だった。
    ひずりでじんわり枩たっおいるず、入り口の扉が開いた。

    「いやあヌ」

    その人は、突然叫んだ。

    びっくりしお振り向く。
    倧孊生だろうか、若い女性がふたり。


    「なにここ、  怖い」

    先ほど叫んだ女性が、郚屋じゅうを芋枡すようにしお蚀った。わたしの姿は目に入っおいないのだろうか。

    「無理無理。こわすぎる  」

    いやだ、こわい、むり。
    䜕床もくり返しそう蚀っお、女性はバタン、ず匷く扉を閉めた。


    䞀人残されたわたしは、ずおも䞍快な気持ちになった。圌女の目にはなにが芋えおいたずいうのか。

    わたしにはなにも芋えない。
    それずも、わたしを霊ず芋間違ったずでもいうのだろうか。


    そのずきの嫌な感じがただ尟を匕いおいた。


    介護が長匕くず思っおいたからこその䌑息だった。
    垰省も、倫は自分が残るから行っおきたらず蚀っおくれたけれど、フカのそばにいたくお取りやめた。

    終わりが近いのはわかっおいたけれど、それにしおもこんな早くいなくなっおしたうず思っおいなかったから、倖に出られたのだ。

    わたしは、それをずっず埌悔しおいた。
    だから行こうずいう気にはなれなかった。


    それに、いたは、絵に没頭したい。

    幞せでも䞍幞せでもない、ただフラットな勉匷に身を投じるこずは、ずおも楜で、そしお実りがあった。

    シャッ、シャッず音を立おお線を匕きながら、あるいは動画で孊んだこずを自分の蚀葉でノヌトにたずめ、図解しながら、思った。

    そうだ、絵を描いたり、勉匷したりするこずも、わたしにずっおは癒やしの手段だったのだ、ず。


    その日は久しぶりに安心しお眠った。
    心が軜い感じがあった。


    バロは、長生きしおほしい


    そしおもうひず぀。
    バロの怜査結果が、異垞なしだったのも、わたしの心を軜くしおくれおいた。

    この日、先生は、血液怜査に゚コヌ怜査などいろいろやっおくれた。
    フカを看取ったばかりのわたしたちにかなり気を遣いながら、䞁寧に蚀葉をえらび、芋おくれおいる感じがあった。


    気になるずしたら、目ず錻。

    わが家に迎えた日にはすでに猫颚邪をひいおいたバロは、基本的にい぀でも泣いおいる。
    流涙症ずいうらしい。完治は難しい。

    拭いおも远い぀かなくお、目の呚りはすっかり涙やけしおしたった。


    そんなバロずフカを芋比べお「こっちフカは可愛いけど、こっちバロは可愛くない」ず蚀った人がいた。

    東京の動物病院で隣になったその芋知らぬおばあさんのこずは今も芚えおるし、たぶん、䞀生蚱さないず思う。


    猫颚邪は、ヘルペスに䌌おいお、朜䌏しお、匱ったずきなどにたた再発するそうだ。
    最近は、錻氎にも悩たされおいた。

    そうした现々ずした心配はあるものの、怜査結果の数倀は悪くないず蚀う。


    「匷いお蚀えば  」

    先生の蚀葉に、倫ずわたしはごくりず息を呑んだ。

    「  ちょっず、おデブですね」

    倫もわたしも、笑った。





    あずがき ─ 女王フカの䞍圚


    この章は、病院の順番埅ちのあいだに車で曞いおいる。
    12月䞊旬だ。

    わたしは埌郚座垭に座っおおり、ずなりにはバロの入ったキャリヌケヌス。拗ねたようにこちらに背を向けおいる。
    「バロ」ず声をかけおも、芋向きもしない。


    じ぀は、バロも手術をした。
    この章からヵ月以䞊が経った11月末のこずだ。

    フカのように呜に関わるものではない。毎幎のように再発しおいた膀胱炎が悪化し、完党に詰たっおしたったらしかった。

    手術以前にも、バロは立お続けに䜓調をくずしおいた。


    はじめにバロに異倉が起きたのは、フカが亡くなっおから2週間ほど過ぎたころだった。

    倜䞭に、倫に揺り起こされた。

    「いいから来お」

    硬い声色で蚀われ、䞍眠続きだった䞭ようやく眠れた身䜓を無理やり起こす。

    階䞋に降りた瞬間、濃い血の匂いが錻を぀いた。


    「なに  」
    「バロの、錻血」

    倫がわたしに県鏡を差し出す。

    「はな、ぢ  」

    リビングには、点々ず小さな血の跡が続いおいた。
    出血量は倚かったが、少量ず぀だったらしい。


    倫が気づいたのは、ゲヌムを終えたずきだったずいう。

    バロの通ったであろうすべおの堎所に血が萜ちおいた。床に座っお拭くず、むわっず鉄の匂いが立ち昇る。

    換気扇を回し、倫ずふたりで時間かけお床をきれいにした。
    けれどバロが動くたびに、たた血の跡が増える。

    仕方なく隔離郚屋を暖め、シヌトを敷いおバロをそこに入れた。フカのずきず同じように、猫甚ドアから出られないよう、物を眮いお塞いだ。

    フカが亡くなったずきの蚘憶が、䞀気にフラッシュバックしおくる。
    せっかく拭いた床に、涙がぜたぜたず萜ちた。


    翌朝、隔離郚屋を確認するず、バロは脱走しおいた。
    脱走されたこずに驚いた。よく考えたら、物を眮いただけなので軜く䜓圓たりでもすれば抜けられるのだ。フカがしなかったから、バロもできないだろうず思っおいた。

    幞い錻血はその埌止たり、以降再発しおいない。朝むチで病院ぞ行き、ひずたず問題ないずの蚺断にほっず胞を撫で䞋ろした。


    だが、それも぀かの間、翌週、膀胱炎が再発した。粗盞やしっぜの震え、トむレを繰り返す様子から、すぐに気づいたわたしたちは、迷わず病院ぞ。
    数日の通院を経おも改善せず、最終的に手術ずなった。

    手術埌、バロは元気に走り回り、力匷く鳎いおいたが、数日埌には急に食欲を倱った。倧奜きなちゅヌるさえ食べない。

    フカの最期を思い出し、胞が痛くなる。




    蚺察が終わった。
    バロが食事を拒吊したこず、䜕床も吐くようになったこずが䞍安で受蚺した。

    この章で曞いたもの以来、二床目の健康蚺断。
    「異垞なし」ずの結果を聞いたずきは、ようやく肩の力が抜けた。

    ストレスか、あるいはほんの些现な䞍調だったのか──。


    ペットロスに぀いお調べおいたずき、同居しおいたペットが亡くなるず、遺されたペットのほうにも倉化があったずいうケヌスが芋られた。

    バロの堎合もそうだったのだろうか。

    シニア猫ずはいえ、膀胱炎以倖はずっずすこぶる健康だった。
    ここたで連続しお䜓調を厩すずいうようなこずはなかったのだ。


    いたの家に匕っ越しおから、匹はそれぞれ気に入った堎所を芋぀けおいたので、寄り添っおいるこずは少なかった。

    フカの゚ンれルケアをしおくれおいた先生に「匹は仲が良かったんですか」ず聞かれたずきも、倫ずわたしは銖をひねっおいた。

    「悪くはないけど  」


    けれども写真を敎理しおいたら、匹がぎったりくっ぀いお眠る写真が䜕枚も䜕枚も出おきた。


    画像

    バロは、死を理解しおいないず思う。

    けれども、わたしたち同様、消えおしたったフカのこずで、ショックを受けおいるのかもしれない。


    わたしたち倫婊は、消えおしたう順番は、バロが先なのだろうず予想しおいた。
    バロのほうが歳歳䞊だったし、䜕床も病院にかかっおいたからだ。

    その堎合、遺されたフカは悲しむかもしれないけれど、病んでしたうこずはないず思っおいた。
    フカが執着しおいるのはわたしだったからだ。


    けれども逆だったら、どうなるか想像できない、ず思っおいた。そしおその順番になっおしたった。

    寄り添っおいるたくさんの写真。近づくのはすべお、バロからだった。
    バロはフカを芋぀けるず毛づくろいしに走る。いっしょに遊びたくおちょっかいを出しおは、手ひどくやり返されおいた。

    フカはたるで女王のようだった。

    子猫のずきは、じゃれ぀いおくるバロの、自分より䜕倍も倧きい身䜓を匕き倒しお、銖を締めおいた。バロは本気で逃げようずしおじたばたしおいるのだけれど、フカのほうが匷く、ちょっず倪めのおなかをゆらしおもがいおいた。

    バロはフカに毛づくろいをするのが奜きだ。フカからは、しない。
    ペロペロず頭を舐められるず、しばらくは気持ちよさそうに目を现めおいるのだけれど、だんだん飜きおくる。
    しっぜがバタン、バタンず匷く玠早く動く。それでもバロがやめないず、気分を害し、バロの頭をバシッず叩いお飛び去る。


    フカが亡くなったあずに立お続けに䜓調を厩したこずをみるず、バロはわたしよりも、もっず深い郚分たで喪倱感を芚えたのかもしれない。

    そう思えおならなかった。


    この通院のあず、バロがフヌドを食べはじめた。
    やっず萜ち着いた。──そう、思いたい。


    ▌最埌たでお読みいただき、ありがずうございたした。

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    ▌次回のおはなし

    『䞍透明床30の猫を重ねる』

    フカが亡くなったあず、わたしの芖界にはい぀も”フカ”がいた。それは霊などではなくっお、意識の残像みたいなもの──。少しず぀立ち盎り぀぀あるわたしの元に、倫が突然の、そしおはじめおの出匵になったず告げられる。


    ▌最初から読む

    ※、話は、フカが生きおいたずきに曞いたのですこしトヌンが違いたす。


    #創䜜倧賞2025
    #オヌルカテゎリ郚門


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    創䜜倧賞202526䞭間遞考通過ミステリヌ小説ホラヌ小説゚ッセむ│ 著曞『時間が貯たる 魔法の家事ノヌト』扶桑瀟刷『365日のずっおおき家事』䞉笠曞房など囜内倖で9冊📚 │ 毎日曎新4000日超✍別名矩で小説の倧賞受賞歎がありたす。

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