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『すくい』 第章 救い ─ 圹員・リラ28

生掻実甚曞の著者「リラ」ず本䜜りの物語。

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良い知らせず悪い知らせ



「こ、埌悔するからね  莉矅ちゃん」

以前、朚刀を持った父に远い払われたずきのように、分の悪くなったは悪態を぀いお、ころがるように逃げおいった。


「やっばヌ。あれなんすか。ファン」

手をひたいに圓おお、遠くなっおいくのうしろ姿を眺めながら、倏目が蚊いた。

「  高校のずきのストヌカヌです」

「え 幎霢差やばくないっすか 出䌚いなんです」

「英䌚話教宀ですよ。瀟䌚人も倚かったので。はあヌ。怖かった。たさか10幎経っおたた䌚うこずになるなんお思いたせんでした」





「ねえあれっお  」
「昔、テレビに出おた  」

誰かの小さなささやきが、硝子のように冷たく耳に觊れる。

その蚀葉ではじめお、が逃げお行った方向──駅の構内のざわめきに気が぀いた。
無機質に足音が床に響くなかで、倩井の高い空間に反射するように話し声が響いおいた。自分の名が、聞こえる。


「おヌっず、リラさん、ずりあえず歩きたしょう」

倏目に促され、わたしはその堎所をあずにした。


倖の空気が頬にふれる。
錻先に、ぜ぀りず冷たいものが萜ちた。雪だ。


「うわヌ雪ヌ。テンション䞊がる。スノボ奜きなんですよ、俺。リラさんやりたす」

「わたしはスキヌだけ。䞊手くもないです」

「あ、授業でやっただけの感じね。はいはい。  この時期に垰省するなんお久しぶりだなあ。雪の降りはじめっお、わくわくしたすよね」

倏目はうれしそうに空を芋䞊げた。土産袋を䞋げた家族連れ、スヌツケヌスを匕く芳光客――その䞭を瞫うように、わたしたちは駅前広堎を通り抜けた。


「なんずなく着いお来ちゃったんですけど、どこに向かっおるんですか」

わたしは足を止めた。
䞊を指差す。アヌケヌドの倩井からぶら䞋がる吊り看板に曞かれおいるのは『成田本店』ずいう文字。

わたしたちは柊介の職堎である、曞店の前にたどり着いおいた。

「おヌ なりほん・・・・じゃないですか 超な぀かしヌ。高校時代よく来たしたよ。いやあ10幎ぶりくらいかもしれない。垰省しおもほんず匟䞞で東京戻るこずが倚くっお」

そう蚀うず圌は、こちらに向き盎った。

「た、今回も垰省は垰省なんですけど。それは建前で。リラさんに、盎接䌝えたいこずがあっおきたんです」

ごくりず息を飲む。

「  なんですか」

真剣な衚情の倏目を芋お、芚悟を決めた。きっず、よくないこずが起こったのだ。
手足のちからが抜けおいく。













「重版、したした」










「え」

「だヌかヌらヌ、重版、したんですっおば」

「  なんで、今曎」


わたしは驚いおきっず間抜けな顔をしおいたず思う。

「リラさんの努力の成果っすよ。『mame』の連茉を読んでいたNPOかなんかの代衚が、お母さんのためのむベント みたいなや぀で配りたいっお。䌌たようなはなしがいく぀かあっお。超絶倧量に問い合わせがあったんです。レアケヌスだず思いたすよ。  おめでずうございたす」

「うそ  」

「䌁画は通したす。だから続刊、したしょう」


い぀からだろう。い぀氷が割れるずもしれない湖の䞊をひそやかに歩いおいるような心地で生きおきた。
そこには眅が入っおいお、慎重に進めないずもう萜ちおしたう。


そういう、心地で。


「やだなヌ倏目さん。  やめおくださいよこんなたちなかで。しかもなんかのむベントっお適圓過ぎたせん」


これたで芋たこずのない、倏目の、玔粋な笑顔がどんどん滲んでいく。

熱い涙に雪が萜ちおきお溶けた。はあ、ず浅い呌吞がくり返しこがれる。わたしは目頭を抌さえお、錻をすすった。

ずっず息苊しかった。胞の぀かえが取れるようだった。力が抜けおいく。
はらはらず決壊したずき「もうリラさんすぐ泣くヌ」ず倏目が笑っお、ポケットに手を入れた。



そのずきだった。



「  莉矅」



鋭い声がした。

がやけた芖界の䞭に映ったのは柊介の背䞭。

倏目がさっきからかばっおくれたみたいに、深緑色の゚プロン姿の柊介が、わたしず倏目のあいだに駆け蟌んできた。

どうしお庇われおいるのかわからなくおしばらくぜかんずしおいたが、やがお、涙のせいだず気が぀く。


「あ  ちがう、シュりちゃんちがうの。この人、倏目さん。担圓線集の」

「え」

柊介は驚いお、わたしず倏目ずを芋比べる。

「あ  前に  」

「ちヌす、工藀パむセン。人でメシ行こうっお玄束しおたんでね、来ちゃいたしたヌ」

倏目は軜い感じで蚀った。




「にしおもな぀かしヌ。せっかくだし、なりほん、芋おいきたしょうよ」

倏目はそう蚀うず、わたしたちを匕き連れお曞店に入る。

「やっぱり本屋に来たら、自分たちの分野が気になりたすよねえ」

たどり着いたのは生掻実甚曞コヌナヌ。  もうわたしの本は眮かれおいない。

これたで出しおきた10冊の本のうち、䞀郚は、返本が続き、圚庫を圧迫しおいるので凊分したず出版瀟のひずに蚀われた。
あのずき泣いたこずを思い出す。


「工藀さヌん、お昌ですよヌ」

曞棚の圱から、柊介ず同じ゚プロン姿の女性がひょっこりず顔を出す。
名札には、䜐城さじょう真倮ずいう文字。教育係ずしお぀いおくれおいるず、そういえば圌から聞いた気がする。

チ゚さんの䞀件があっおから女性に苊手意識を持っおいたようだったので、話が合うようで少し安心しおいた。

「え   え」

赀い県鏡をかけた圌女は、わたしの顔を芋お䞀瞬おどろいたように目を芋開いた。
しばらく固たっおから「工藀さんの奥さたっお、もしかしお──」ず続けるものだから、わたしは苊笑いした。



孊生時代、この店にくるのがなにより幞せな時間だった。
柊介やわたしが暮らす倖ヶ浜町に曞店はない。だから倢のような堎所だった。

でも、青森に戻っおきおからは䞀床も足を運んでいない。
ここに来るず自分が”過去の人”であるこずをいやでも痛感させられるずわかっおいた。


倏目はぐんぐん進んでいく。わたしは枋々埌を远った。

生掻実甚曞コヌナヌには、ずもちゃんの本が平積みされおいた。
意倖なこずに、曞籍のほうでは顔出しをしおいない。あのコミカルなアむコンが前面に抌し出された衚玙だ。


「

あ゛ヌ」

倏目が濁った声で叫んだ。
こちらを振り返った目が据わっおいる。

「そうそう。もう䞀぀。䌝えたい事があったんですよ」

「な、なんですか」

鬌気迫る勢いに気圧される。

「むしろこっちがメむン。”こういうの” はね、顔芋お話さないず。──あヌしくったな、最初に悪いニュヌスずいいニュヌスどっちがいいっおドラマっぜく聞こうずおもったのに」

ぶ぀ぶ぀蚀いながら、圌はずもちゃんの本を指差す。

「この著者、やばいっすよ。リラさん、芋お」

「  芋たくない」

「いや、芋たほういいっお。買うのは俺が買うんで。ねね」

倏目に抌し぀けられお、枋々ずもちゃんの本を手に取る。憂う぀な気分でペヌゞをめくる。
そしお、目次を芋お、蚀葉を倱った。

「これっお  」

「ね」





泣く空


壜入りのコヌヒヌ牛乳をくっずあおった。冷たくお甘い。

スヌパヌ銭湯の畳敷きの埅合宀に、ひずりで座っおいた。
わたし以倖には誰もおらず、端っこの垭でがんやりず窓の倖を眺める。

空が泣いおいるみたいに雪が降っおいた。
埌からあずから萜ちおきた。
そうしお倖の街灯の、橙色の氎たたりの䞭に藻掻きながら沈んでいく。

湯䞊がりのほおが熱くお、ぱたぱたず仰ぐ。そのたびに、枩泉特有の曇ったにおいが肌から立ち昇った。

わたしは、自分が䜕幎も前に曞いたブログの蚘事のひず぀を開いお、がうっず流し芋しおいた。


◆分には魔力がある

ミルク色の空が広がっおいる。雲の底がだんだん黒くなっおきお、やがお、降り出した。マンションのベランダに出るず、目を぀むりたくなるくらいの湿気が䜓䞭にたずわり぀いおきた。
今日は図曞通に行こうず思っおいたのに。

家にずっずいるず、動きたくない午埌がある。
たぶたがくっ぀きそうなくらいねむい。でもきっず、このたたねむっおしたったら、目を芚たすのは倕方だ。──そう確信できるような日が。

今日が、たさにそんな日だった。こういうずきはずっおおきの”魔法”を䜿うこずにしおいる。

゜ファからなんずか立ち䞊がる。そうしおキッチンタむマヌのずころたでよろよろず歩いた。

手にずっお「」ず抌す。たったこれだけ。

眠気が吹き飛ぶわけではない。でも、このタむマヌが鳎るたでのすこしの間だけならがんばれる気がした。

「たったの分なら」

動けそう。わたしはスタヌトボタンを抌した。

──分埌。思っおいたよりずっずたくさんのこずができた。

分には、魔力がある

これならできそうずいう手軜さ。そしお、実際にやっおみるず思いのほかたくさんのこずが魔法みたいに終わる、奇跡。

花瓶以倖なにもなくお、ピカピカになったダむニングテヌブル。箇所がずおも綺麗になったら、シンクに積み䞊がった皿が気になった。

分  では終わらなそうだ。
玄関を敎えるくらいなら終わるだろうか わたしは玄関ぞ向かった。

こんなふうにしお分が終わったら分、分が終わったら分  ず続けおみた。するず驚くほどたくさんのこずができた。

䜕床か詊しおみた。分以䞊になるずすこし飜きおくる。セットした時間内に終わるような䜜業を遞ぶず、きりよく次ぞ進めた。
぀たり倧事なのはきっず、リズムず緊匵感なのだ。

分。分。分。分。そしお分。
集䞭力をしっかり保おる目安はここたで。
これが、ねむたい午埌でもわたしの暮らしに魔法がかかる時間なのだ。

東京が梅雚入りした午埌に。

💬24

2013幎6月10日


読んでいたらその日の情景がふわりず浮かんできた。たるであの日にタむムスリップしお、自分の身䜓に憑䟝するみたいに鮮やかに。
なんでもない䞀日だったのに、こうしお文章に残しおあるのっおいいものだなあず思えた。




でも次の瞬間、倏目に芋せられたずもちゃんの本の目次が、がうっず浮かび䞊がる。


《分の魔力を䜿いこなせ》
《今日のバむサンバむバむサンキュヌ》
《窓を開けるだけで片づく秋晎れの魔法》
《手攟し緎習垳を぀くろう》
《やる気スむッチは物理的に抌せる》


目次の半分ほどだろうか。
わたしがこれたでブログや本で曞いおきた蚀葉が、メ゜ッドが、ほずんどそのたた䜿われおいた。

倏目が「あヌあヌマゞで買いたくないわあ」ず蚀いながらレゞに運んだ冊を手に取った。「分には魔力がある」のペヌゞを、開く。


ずも掻no.12分の魔力を䜿いこなせ

「1分しかない」じゃない。
「1分もある」んだよ。

午埌の眠気がピヌク。
䜕もやりたくない。

そういう日っおある わかる
私もそんな日、腐るほどあるよ。これを曞いおる今も、実はそうw

でもさ。

「15分やろう」ず思っおも、だいたいむりだよね。
だっお15分っお、たあたあ長いから。

「どうせ無理」っお心が蚀っおるうちは、立ち䞊がれないの。垃団の魔力に完敗する未来しか芋えないのよ。

そこで登堎するのが【1分タむマヌ】っおわけ。

え 1分じゃ䜕もできないっお
それ、マゞで蚀っおる

いいから䞀回やっおみなっお。
タむマヌに「1」っお入れお、スタヌトボタンを抌すだけでいいの。

私も最初はどうせ意味ないっお思っおたんだよ。
でも、1分でダむニングテヌブルが拭けた。そしたら芖界に入ったの。シンクに積たれた皿たちが。

いい。きれいになっおるよ。  次は2分でやっおみようか。

気づいたら、2分、3分、4分、5分っお続けられおた
6分以䞊になるず、さすがにちょっず飜きるけど。
5分たではね、集䞭力が党力疟走しおくれるゟヌンなの。

倧事なのは、完璧を目指さないこず。「終わらせられそうなこずだけやる」これが必勝法だ。

䟋えば、

床に萜ちたごみを拟うのずか、どう
冷蔵庫の䞭の賞味期限切れの゜ヌスを1本捚おるのはできそ
ゎミ箱からゎミ袋を取り出しお結ぶのだっおいいんだよ。

こういう「秒で終わるはずなのに埌回しにしちゃう家事」っおさ、あるよね。

え ただ「分に意味ある」ずか思っおるの  

この方法、マゞで舐めちゃダメ。
甘く芋おるず、あっずいう間に家が敎っおいくから、ビビるよ

珟代人なら、タむマヌで無双しろ

「1分しかない」っお思っおる人、
明日からは「1分“も”ある」っお、蚀っおみな

生掻のクオリティが栌段にかわるからさ。

今日のずも掻分タむマヌをかけお、動く

『100日埌にミニマリストになるずもちゃん』2015幎10月 初版


わたしが曞いたものより、いいかもしれない。人気なのがわかる気がする。──そう、思っおしたった。くやしかった。
たるでずもちゃんが目の前にいお、専属トレヌナヌみたいな感じで䌎走しおくれおいるような感芚になった。

この蚀葉も、やり方も、わたしのブログずあたりにも酷䌌しおいた。でもリラむトされおしたったら別物なのだろうか

そう流されそうになり぀぀、倏目の、憀慚するような声が脳裏に蘇った。



「考えがかぶるこずはあるず思うんですよ。暮らしっお普遍的なものだから。同じ気づきはあっおもふしぎじゃない。ぜんぜんありえたす」

成田本店を出お、駅たで歩いおいるずきのこずだ。
倏目はそう前眮きした。

「でもね こんなにもすべおの衚珟がかぶるこずっお、ありえたす 」

倏目が据わった目をしお蚀った。

「俺らさヌ、結構、いやかなりたじめに、衚珟を緎ったじゃないですか。キャッチヌで、でも䌝わりやすくお、やわらかく女性にも奜たれる感じで。莉矅さんのブログの衚珟にケチ぀けお、だいぶ意芋戊わせたじゃないですかすじこおにぎり食いながらさヌ。すじこおにぎり、食いながら それを䞞パクリっお。超ムカ぀く」

ブログに曞いた衚珟をそのたた採甚された郚分もあったけれど、たずえば「手攟し緎習垳」ははじめ、違う蚀葉だった。
「捚お䜜戊ノヌト」ずいう名称を䜿っおいた。

倏目が「リラさんの䞖界芳に合わないんですよね」ず、もきゅもきゅすじこおにぎりを食べながら蚀ったのを芚えおいる。そこから二人で類語をたくさん出しおいっお、真っ暗になるたで考えおもしっくりこなくお、疲れお眵り合っお。

最終的に生たれた衚珟が「手攟し緎習垳」だった。



「この人、ずもちゃん 盞互フォロヌですよね 友だちかなんかっすか」

「  ううん。なんかわたしが曞いた本を読んでアカりントを䜜ったっお、メヌルくれたんです。最初のころはよくコメントをくれおいたんですけど。でもなんだか、自分でもうたく蚀葉にならない違和感みたいなのがあっお、玔粋に応揎できなくなった、ずいうか  」

「違和感」

「うたくいえないです。蚀葉の端々に、なんずなく、嫌な感じのものを感じるようになったっおいうか」

「それっお最初から」

「そういうわけでは。圌女もブログをはじめおから、かな。毎日、蚘事ぞの感想がDMで届いお   。それを読んで、返信しなければいけないこずが蟛かったです。でもそういえば、去幎あたりからはぱったり䜕も来なくなったような」

わたしは薄目で䞭身をあたり芋ないようにしお、ずもちゃんからのDMを開いた。

「あ、サむン䌚の前日が最埌です。そこからはぱったり」

ふず思い出した。ずもちゃんの新しいアむコンを芋お、既芖感があった。

「あれ、この人  。サむン䌚のずき、すごく矎人な人がいお印象に残っおたんです。違うかもしれない、でも、䌌おる気がする  」






「あヌあ、なんか焌き肉ずか食いに行きたかったなあ」

はっず珟実に匕き戻される。
柊介ず倏目が、ただ少し湿った髪のたた歩いおきた。わたしたち人は、食事もできるスヌパヌ銭湯にやっおきおいた。


䞀旊実家に寄った倏目ずは、銭湯で埅ち合わせおいた。
匷めのギャルの、ピンクの軜自動車で送られおきた倏目は心なしかぐったりしおいた。

「幎の離れた効っす  駅前に迎えに来おもらっおたんですけど、なりほん寄っおお埅たせたからめちゃくちゃキレられたした  爪がね、凶噚」

䞀方、倏目ず別れたあず、わたしは䞀旊電車で家にもどった。離れで少し昌寝をしお、それから柊介の退勀埌に迎えに行ったのだ。

ふたりで話したいこずがあったのだけれど、タむミングを逃しおしたった。




「焌肉無理。胃が痛いから無理」

「早く回埩しおくださいよヌ リラさんには、ただただ曞いおもらわなきゃいけないんですから」

倏目が柊介を小突いた。い぀の間にか仲良くなっおいる。

柊介が蚀った。芋たこずのない衚情で、なんだかふしぎな感じがする。

そういえば、結婚しおから柊介はい぀もわたしを最優先にしおくれおいた。わたしも圌も、ずっず二人きりの䞖界で生きおきたような気がした。



「あ そうそう、アリバむ工䜜しないず」

倏目はそう蚀うず、わたしたちをぎゅっずひずたずめにするように肩を抱き、スマホを向けた。

「パむセンは顔隠しずくんでだいじょうぶですよヌ。リラさん、写真送るから、その内容でSNS投皿しずいおください」

倏目から送られおきた文面には、こんなこずが曞かれおいた。



《倫ず担圓線集ずわたし、じ぀は同じ孊校の出身なんです。きょうは前から玄束しおた人での集たりが぀いに実珟したした #重版 》


「倏目さん、なにこれ  」

「アリバむ工䜜 いや、駅でさ、俺ずリラさんがいるずこ目撃されたでしょ。たヌた䞍倫だなんだっお湧いおきたら困るじゃないですか。あの男ずかやりかねないですよ。自衛っすよ自衛」

「あの男  なんかあったの」

柊介が心配そうに眉根を寄せる。

わたしたちは駅前での䞀件──Dの話をした。
そういえば柊介にはDずのこずを話したこずがなかったが、驚いおいる様子はない。

「お矩母さんから聞いおたんだ。あたりにも心配性なずころがあったから前から気になっおお。  怖かったな。凌もありがずう」

「りょ、凌  」

劙に仲の良いふたりに、わたしは怪蚝な顔をした。



埅合宀では軜食も頌むこずができる。

オムラむスを頬匵りながらテレビに目をやっおいた倏目は、りすみたいにほっぺたを膚らたせたたた、苊虫を噛み朰したような顔をした。

「うヌわ  タむムリヌ」

そこに映っおいたのは”ずもちゃん”だった。


『今日のゲストは、いた売れおる生掻実甚曞「100日埌にミニマリストになるずもちゃん」のずもちゃんです。すごい人気ですね。今日はずもちゃんず䞀緒に、片づけられない女芞人がお片づけメ゜ッド”ずも掻”で郚屋を綺麗にしおいきたす』

『皆さんこんにちはヌずもちゃんです』

どっず䌚堎が湧く。芞胜人ず䞊んでも遜色ないくらいの華がある矎人  。

『今日はみんなで”ずも掻”やっおいこヌ』

波打぀ような拍手の音。

『ブログの曞籍化ずいうこずですが、はじめられたきっかけずかはあるんですか』

『んヌ  。最初は䞁寧な暮らし系のブログを読んでたした そしたらなんか自分でも曞けそうだなっお思ったんですよね』

胞が嫌な感じにドキドキした。

『ただ、しばらくやっおみお思ったんです。私、フルタむムで働いおたんでそんな暇ないかもっお。手仕事もね、いいずは思うんですよ でも私のラむフスタむルだったら買ったほうが早いんです。無理しお手間暇かけなくおいいかなっお』

しん、ず指先が冷えおいった。




「あれ、パむセン 顔色悪いっすよ」

倏目の声で振り返る。
柊介はう぀ろな目をテレビに向けおいた。

「  智絵ちえ、さん」

ぜ぀りず、聞こえるか聎こえないくらいの蚀葉がこがれた。

「え」

圌の目は画面に、──ずもちゃんの矎しい笑顔にぐっず寄せられたテレビに、釘付けになっおいた。

チ゚さん。
それは、倫が䌚瀟を蟞めるきっかけになった女性だった。




思い出した。

サむン䌚のずき、どうしお圌女が印象に残っおいたのか。
それは既芖感があったからだ。゚キゟチックな雰囲気の矎人。

圌女は、ずもちゃんは、倫の瀟内旅行の写真に映っおいた女性だったのではないか──。





手垳


「倏目さん、垰り送るから乗っお行っお」

「えヌリラさん運転ずかできるんだ。めっちゃ意倖」

倏目はなにがおかしいのか、手を叩いおけらけらず笑った。思ったこずをすぐに口に出す嫌なや぀の面圱が消えおいる。こうしお芋おいるず、ふ぀うの、ちょっずチャラい青幎ずいう雰囲気だった。

「  俺が䜿い物にならなかったからね」

拗ねたようにぜ぀りず柊介がいう。

「これたでわたしが甘え過ぎおたの」



しん、ず沈黙が萜ちる。



「はあ  なにこの空気。ラブラブなの芋せ぀けおる系ですかヌ 独身のこずも気を遣っおほしいけどなあ。パむセンも埌茩もほんずもう空気読めないわ」

倏目が口をずがらせるので、ふたりで笑った。

「やっおらんないわぁ。あヌ飲も飲も」

倏目はそう蚀うず、ゞョッキに泚がれたビヌルをかっずあおった。そうしお飲みきらないうちにさらに出来䞊がっおしたった。

「俺飲たないからさ、運転するよ、垰り」

柊介がアルコヌルメニュヌを差し出しお蚀った。わたしは銖を振る。

なんお答えるか、迷った。

「きょうは、運転したい気分なの」




倏目の家は、わたしたちの家ずは反察方向にあった。
圌自身は、コンクリヌト打ちっぱなしのミニマルなマンションに䜏んでいそうな雰囲気だから、どこにでもある、わが家ず同じような”田舎の䞀軒家”が少し意倖だった。

先ほど芋たずきよりいくぶんか薄い顔になった女性が「兄がスミマセン」ず出おきた。

「おい起きろ バカ兄 キモッ」

「パむセン、リラさん、せばたたねヌ」

蟛蟣に叩き起こす効に察し、倏目はけらけら笑いながら、匕きずられお行った。





「せばたたねヌっお。圌、本圓に青森の人だったんだねえ」

車の䞭で柊介が蚀った。それは ”さよなら、たたね”ずいう意味の、方蚀だった。

「急に実感した。──よかったね、圌が担圓で」

「うん  嫌味だし怖いけどね」



家に着いた。
゚ンゞンを切っおも、そのたた実家の離れに戻る気持ちにはなれなかった。

ドアを閉める音が倜に溶けおいった。

䜏宅の明かりはたばらで、歩けばすぐに田んがに出る。颚が皲をなでるような、静かな音がする。近くには氎路もある。

「ちょっず歩かない」

「うん」

わたしは車に積んでいたブランケットを厳重に身䜓に巻き぀けた。




空が深かった。

東京ず違っお、瞬く星の䞀぀ひず぀がはっきりず目に映る。ちらちらず小さな雪の぀ぶも萜ちおきお、芋䞊げおみるず、それがもう星なのか雪なのかわからないくらいだった。
たるで宇宙の䞭に立っおいるみたいな、癜い光が無数に滲む、空。

くちびるから零れる息が、癜い。




「苊劎、  かけおごめん」

柊介が、ぜ぀りず蚀った。

「苊劎ずかじゃないよ。わたしが、柊介を支えたいんだ。──ずっずそうしおもらったでしょ」

わたしは少し背䌞びをしお、圌の䞡頬を掎むようにふれた。

柊介は目をそらす。

「でも  。東京にいたらきっず、もっずチャンスがあった」

それは、事実だった。──ほんずうにこれでよかったのだろうか。東京にいたら、もっず本の仕事を続けられたんじゃないか  。
そんな考えも、倜の暗さずいっしょに胞の奥から浮かび䞊がっおくる。

けれど、そう思ったずきには、もう䞀床自分に蚀い聞かせるのだ。

わたしは、わたしにできるこずを  ず。







「劊嚠、したんだ」







「え」

柊介はぜかんず口を開けた。
なんのはなしかわからないずいった顔で、芖線を巊右にうろうろさせおいる。

「聞き間違いじゃないよ」

わたしは圌の手を取り、おなかにあおる。

ただぺたんずしたたたのおなか。今朝、病院でわかった。だから、ほずんど高さのないロヌヒヌルの靎を買ったのだ。

柊介は瞬きをしお、䜕かを蚀いかけおやめ、わたしの手を取った。
倖気にさらされお少しず぀熱が奪われおいく䞭で、぀ないだ郚分だけが熱かった。




雪がひず぀ぶ、柊介の目に萜ちた。

そうしお目尻から流れお、積もりはじめた青く茝く雪ぞ還っおいった。





翌日は土曜日だった。
駅前のカフェで倏目ず今埌の方針に぀いお話しおいた。

カフェの倩井スピヌカヌからは掋楜が流れ、隣の垭では孊生らしき二人が、䜕かの発衚資料をのぞき蟌みながら議論しおいる。店内はにぎやかだったけれど、わたしたちのテヌブルだけはぜっかりず静かで、時間の流れが違うような気さえした。

打ち合わせが終わったあず、倏目が「あ、リラさん」ず埮劙な顔をしお蚀った。

「  なんですか」

「ご劊嚠、おめでずうございたす」

倏目がほがらかに笑った。

「なんで知っおるんですか」

「パむセンから聞いお。次はさ、子育おず暮らしをネタに行きたしょうよ。むベントでママ局の読者が増えるはずだから、きっず知りたいず思うんです」

次が、──ある。それがたずえ叶わなかったずしおも、垌望になった。ただもう少しがんばれる。
そう、思えた。

「䞀幎、䌑む予定なんですけど倧䞈倫ですか ブログも䞀旊閉鎖するんです」

倏目は、口を開けおなにか蚀いかけたが、埮笑んだ。

「うヌん。知名床萜ちちゃうかもですけどいいんですか」

わたしはうなずく。


「戻っおきたら、がんばりたす」

「なんか急にしたたかになりたしたねえリラさん。きらいじゃないです」


──ほんずうに、なんなんだろうこの人は。
でも、䞍思議ずむダな気はしなかった。圌なりの励たしなのだず思った。








「たあでも、ずるいのは・・・・・俺が担圓しおあげたすよ。リラさんはそのたたでいいです」










倏目の蚀葉は、よく聞こえなかった。

店内はずいぶん混んでいお、泚文カりンタヌには列ができおいた。背埌からはラテの銙りずカップが重なる音。あちこちで聞こえる話し声が、重なっお溶けお、蚀葉ずしおはもう聞こえないくらいだった。

倏目はそんな喧隒のなかでも、盞倉わらずテンポよく、どこか面癜がるように蚀った。

それから圌は「ちょっず気になるこずあるんで調べたすね」ず蚀い残しおあっずいう間に奥矜本線に乗り蟌んだ。
新青森駅から、新幹線ぞ乗るのだろう。



開蚭しおから幎以䞊、毎日曎新しおきたブログ。
わたしはその日、幎間ブログを䌑止するずいう蚘事を曞いたあず、䞀郚の蚘事・・・・・を陀いお、非公開ボタンを抌した。


◆捚お䜜戊ノヌトを぀くろう

子どものころから、ものを捚おるのが苊手だ。捚おようず思っおも胞がぎゅっず詰たる。
「もったいない」ずいう圓たり前で倧切なはずの教えが、呪いのように絡み぀いおいるのだず思う。

去幎から「捚お䜜戊ノヌト」を぀くっおいる。

「捚お䜜戊ノヌト」は、捚おたものを曞くノヌトじゃない。
ここに綎るのは、捚おられないものず向き合った”蚘録”。結果的に捚おられたら最高だし、残す堎合も玍埗感がある。

たずえば、ゲヌセンのUFOキャッチャヌで取った倧きなぬいぐるみ。わたしは、これがずにかく捚おられなかった。べ぀に奜きなキャラクタヌずいうわけじゃないのに。
どうしおなのだろう 圓時の捚お䜜戊ノヌトには、こんな走り曞きが残されおいる。

時間 ─ これを取るたでにはかなり時間がかかった。かけた時間ごず捚おおしたうような気がする。
思い出 ─ 倫ずの気軜なデヌトで、なんずなく取っおみようずいうはなしになった。あの倜の遊園地の雰囲気が、ぬいぐるみを芋るだけで思い浮かんで捚おられない。
生きものみたいに芋えお ─ 顔があるものは、なかなか捚おられない。かわいそうな気がしおくる。

結局わたしは、このぬいぐるみを今も捚おずに持っおいる。
クロヌれットを開けるたび、枕棚から、ちょっず恚めしそうにわたしを芋䞋ろしおいるものだから、ゲヌセンで取るのはお菓子だけず決めた。

2014幎远蚘曞籍化にあたり「手攟し緎習垳」ずいう衚珟に倉えおみたした
💬22

2012幎2月7日

◆”やる気スむッチ”は物理的に抌せる
雑誌を読んでおどろいた。「やる気」ずいう抂念は、存圚しないらしい。
それでもわたしは「やる気」は぀くれるものだず思っおいる。ポむントはスむッチを抌すこず。

【分には魔力がある】ずいう蚘事で曞いたようなタむマヌでもいい。
なにか自分のなかで、気持ちを切り替える”身䜓的な動き”こそがやる気を぀くるず思っおいる。

わたしがほかにしおいるのは、たずえば、髪の毛をくくるこず。゚プロンを぀けるこず。玐をきゅっず結ぶタむプだずなお効果的。

枩床調節も効果的だ。以前、どうにも身䜓が重たくお動けないこずがあった。䜓調は悪くない。嫌なこずがあっお萜ち蟌んでいるわけでもない。それなのに、どうしお。

ずころが、シャワヌを济びおみたら、凍った足が溶けたみたいに、急に軜くなった。枩かいお湯がしゃらしゃらず身䜓をほぐしおいく感芚ではじめお気が぀いた。ああ、わたしは、寒かったんだ、ず。

埮现な感芚の倉化だからこそ、気づかないのかもしれない。

照明をひず段階明るくする。カヌテンを少し開けおみる。枩かい飲みものを飲む。目に芋えないスむッチは生掻のなかにたくさんねむっおいる。

どんな方法でも、倧切なのは「手間がかからない」こず。

たずえばタむマヌがどこにあるかわからない。手が届きにくいずころにある。こういう状況だず、抌すたでにワンステップ必芁になる。これが倩敵。

远䌞、あなたのスむッチは、なんですか

💬156

2013幎4月1日


すっかりシンプルになったブログに目をやる。

2012幎  はじめおの曞籍を出した幎。柊介に掬い䞊げおもらったからこそがんばらなければず燃えおいた。
2013幎。倏目ず出䌚ったころだ。あのころは嫌な人だず思っおいた。こんなふうに家族ぐるみで、プラむベヌトで䌚うこずになるなんお思っおもみなかった。





ここから幎は、目の前にあるものを倧切にしようず決めおいる。

初心にもどる。れロからはじめる。
毎日、暮らしのなかにある小さな玠材を探しおいこう。
玠材同士をかけ合わせお、錬成するみたいに、日々のきらめきを䜜っおいくのだ。

今しばらくは、どこにも茉せない。
でも暮らしの蚘録はたしかに続けおいく。



静かにペヌゞをめくるように、季節を぀むぐ。
わたしの手垳の䞭にだけ。



クリスマスメニュヌ。パ゚リア、リヌスサラダ、ビヌフシチュヌ。同じものを毎幎くり返し䜜るのはどうだろう。少しず぀うちの定番、䌝統みたいなのを぀くる感じ。

来幎はアドベントカレンダヌを甚意したい

お雑煮メモ。お逅はやっぱり焌いおから入れるのが奜きかも。怎茞、鶏肉、人参、倧根、䞉぀葉。

䞃草のフリット。
お粥がきらいな柊介もたべられた 䞃草の苊味が奜きだ。䞀幎䞭売っおたらいいのにず思うけど、そうしたら飜きおしたうだろうか。タむムリミットがあるからこその楜しみなのかも。鳎海さんの奥さんに教えおもらったパスタも詊したい。

クリヌム゜ヌダにハマる。バタフラむピヌシロップを甘めのサむダヌで割り、レモンシャヌベットをのせるのがお気に入り。ぬくぬくの郚屋で雪を眺めながらのむの、なんか奜き。

今幎のバレンタむンチョコ、芚曞。
柊介ホットチョコレヌト。賞味期限がたった数分しかないものを提䟛できるのはいっしょに暮らしおいるからこそだず思う。わたしの重荷になっおるずかいうから、胡怒をふっおやった ã¡ã‚‡ã£ãšãªã‚‰ãŠã„しいんだ。
倏目さん : うちの䌚瀟の蜜挬けりんごをチョコでコヌティングしたもの
䜐城さん :  å‹ãƒãƒ§ã‚³ã¯ã€ãƒãƒ§ã‚³ãƒãƒƒãƒ—クッキヌ

寒くおも3月頭に衣替えをする習慣。寒いけど。でも、春のかろやかさをひず足先にたずうず、ちょっず埗した感じがする。

合浊公園で柊介ず、圌の職堎の人たちずお花芋。䜐城さんが歌を披露しおいた。矎声だった。
お重に入れたものメモ : 筍ごはん、胡麻ごはん、ポテトサラダ桜型に抜いたハムを添える、゚ビマペ、煮しめ、鮭の幜庵焌き、卵焌き、お惣菜のトンカツ、お惣菜のから揚げ、キャロットラペ、いちご

母の日・父の日たずめお旅行刞をプレれントした。蚘憶にある父より、たるくなっおいる気がする。

今幎も梅シロップを挬ける。なんで。はじめお黎びおしたった。酢を入れ忘れたせいかも。悲しいしもったいない  。テレビでずもちゃんを芋お耇雑な気持ちに。

最近い぀でもねむたい。おなかが重くお、寝苊しいせいだろうか。
午埌、どうにもがんばれなくおねむっおいたら、窓の倖から懐かしい音が聞こえた。ちりんちりんアむスだ 童心に返っお買いに行きたい衝動に駆られたけれど、玄関に出たずきにはもうリダカヌも音は遠ざかっおいた。

倏目さんに勧められお、ホテルのモヌニングに出かけおみた。圌の効が働いおいるのだずいう。
泊たらなくおも食べられるんだ ずらりず䞊んだビュッフェにわくわくする。家だずぜったいにできない、莅沢な食事だ。
どれもおいしかったけれど、家でも手軜に詊せそうなのは林檎入りのポテトサラダ。しゃきしゃきした食感ず甘酞っぱさがアクセントになっおいおよかった。次にポテトサラダを぀くるずき、やっおみよう。
メモ : りんご×料理の可胜性




掬い、巣食い、救い


ブログを䌑止しお半幎ほど経ったころのこずだ。

自宅のポストの䞊には、葉っぱの圱がしゃらしゃらず揺れおいる。朚挏れ日ずずもに蝉の声も降り泚いでいた。ひたいに浮かんだ汗をぬぐう。


先月、産䌑に入った。
平日の午前䞭に家で過ごすのはひさしぶりだ。

ポストの䞭には小包がふた぀。
ひず぀は先日、オンラむンで取材を受けたムック本。

そしおもうひず぀は、江里からだった。パンパンにふくらんでいる。その堎で開封しおみる。

『ブログを䌑止されおから、こちらに届きたした。転送しおおきたすね』

䞭に入っおいたのは、たくさんの封筒だった。


江里からの手玙には、近況や、翌週青森にねぶた祭りを芋に来ようず思っおいるこずなどが綎られおいた。遠く離れおしたったのに、䌚おうず思っおくれおいるこずがうれしくお、涙がこがれた。

でもねぶたはもう今週だ。
LINEしようずスマホを出したそのずきだった。


「リラさん」

「え」


振り返るず、江里が立っおいた。袖のない朱色のサマヌワンピヌスが䌌合っおいる。

「来週行こうっお曞いおあるず思うんですけど、じ぀は先週曞いたんです。その手玙。校了前で忙しくお発送できなかったから持っおきちゃいたした」

江里はそういうず、いたずらが成功した子どもみたいに舌を出した。たしかに消印が入っおいないこずに気が぀いた。

「家にいらっしゃっおよかったヌ。もしよかったら、お茶でもしたせんか」



柊介が䌑みだったので、青森駅たで送っおもらった。ヵ月前に、圌の車も買った。柊介は癜い軜自動車を遞んだ。

青森駅からすこし歩いお、ケヌキ屋さんの2階のカフェぞ入る。窓ぎわの垭を遞んだ。


「倏目さんずはその埌、どうですか」

江里は、アむスティヌのはいったグラスを眮いた。からんず氷が音を立おる。

「ちょっず嫌味なこずも倚いですけど、でも、良い関係になっおきおる気がしたす。じ぀は高校の先茩だったんですよ、倏目さん」

「え、そうなの」

江里は拍子抜けしたように目を芋開いた。けれども劙にむずかしい顔をしおいる。



「さ、アップルパむ。おすすめなんですよ」

わたしはハヌト型のアップルパむを江里にすすめた。䞊には薄くカットされた生の林檎がのっおいる。
江里はなにか蚀いたげにしおいたが、さくりずひず口たべる。目が茝いた。


「え、おいし。甘すぎないですね   」

しゃきしゃきの林檎は、甘酞っぱい。隠し味のように甘みを添えおいるのはさ぀たいものクリヌムだずいう。

「ね おいしいでしょう。この酞味がすごく奜きで。家でも再珟できないか、いろいろ工倫しおたんです。レモン汁にりんごを挬けおおいたり、焌き芋を買っお぀ぶしお牛乳ず混ぜたり」

わたしが蚀うず江里は「あ」ず぀ぶやいた。



「読みたした、その蚘事。ああ、  これが本家なんですね」

「そうそうそうなんです」

「最埌に䌚ったずきずちがっお、リラさん、元気になりたしたね」

「そうですか  」








「心配、しおたんです。前に著者が自殺未遂したらしいっおはなししたでしょう。  あのずきの担圓線集が倏目さんらしくお」












「え  」

わたしは蚀葉を倱った。聞き間違いかず、思った。





すっかり倧きくなったお腹を揺らしお、家に戻る。江里のはなしが心を揺さぶり続けおいた。なにも手に぀きそうになかったので、届いたふた぀の小包を開封するこずにした。

たずはムック本のほうから。
できあがった曞籍の献本が届いたのだ。

タむトルは『心地よさを远求する”私のおうち時間”』。「狭くおも、忙しくおも、自分を倧切にする空間づくり」ずいう芋出しで、プロから䞀般人たで混圚しお掲茉される、郚屋の玹介䌁画だった。

か぀おはこうしたムック本の衚玙にわたしの名前も茉り、芋開き数ペヌゞの特集を組たれおいた。
今そこには癜石千晎やずもちゃんの名が掲茉されおいる。

わたしはメヌルで掲茉䟝頌を受けたのだが、完成した本を芋お驚く。



掲茉されたのは䞀般読者からの自薊投皿ペヌゞだった。
確認しなかったわたしが悪いのだが、報酬はなく、献本をもっおずのこずだった。



この䜜業はかなりたいぞんだった。

自宅たで来おもらうのではなく、メヌルで送られおきたWordの文章に回答を蚘入しおいく。質問内容はかなり倚岐にわたり、すべお曞き終えるたえには時間以䞊必芁だった。さらに、それを読んだ担圓ラむタヌから指定された内容で、自分で写真を30点ほど撮圱し、メヌルで戻す。

䜜業時間でいえば時間以䞊䜙裕でかかったのに。


プロフィヌル欄もそういえばなかった。肩曞のずころには䌚瀟員ず曞かれおいる。

䌚瀟員 リラ 29

特に聞かれた芚えもないので、日䞭働いおいるずいうずころから勝手に付け足されたのかもしれない。



思っおいた以䞊にあっずいう間に、䞖界から”リラ”が消えおいくのを感じた。
芚悟しおいたし、䌑息を終えおからたたからスタヌトしようず決めた。でも、すこし虚しい。呌吞が浅くなる。

倏目ずの本づくりも、もう、できないのではないか。ここたで知名床が萜ちおしたえば、いくら圌でも、䌁画を通すなんおむりなのでは。




手が圓たっお、江里の持っおきた包みがダむニングテヌブルから萜ちおしたう。花束みたいに色ずりどりの封筒があふれ出した。

錻をすすっおしゃがみ、掬うようにテヌブルに乗せた。


こういうずきはおなかから枩める。マグカップに少量の氎ずゞャスミン茶のティヌバッグを入れおレンゞで枩めた。それから牛乳を入れおもうすこし。きょうは、甘みはいらない。

きちんず座り盎す。これは背すじを正しお読むべきものだずいう気がした。

事前に江里が䞭身を粟査しおくれたずのこずで、封筒は綺麗にカットされおいた。最近、気持ちの浮き沈みがひどいからありがたい。


すでに封があいおいるけれど、䞀぀ひず぀、おいねいに取り出しおいく。読み終えた手玙が散らからないように籠も甚意した。読んだら䞀旊、そちらぞ移しおいこう。なるべく返事も曞く。

そうしおこの間、倏目が送っおきたクッキヌの猶が綺麗だから、そこに倧切にしたっおおこう。



最近、なにかが足りないずいう感芚にようやく慣れおきたずころです。

リラさんのブログは唯䞀無二でした。“ちいさなヒント”がみずみずしい文章のなかに、きらめくように散りばめられおいたしたね。私は、それを生掻の䞭の灯りのように感じおいたした。
たぶしくお玠敵で、自分もそういうふうになりたい、暮らしを倧切にしおみたいず思えるようになったんです。

リラさん。今、元気にお過ごしでしょうか。
近況がわからなくお䞍安に思っおいたす。


私はリラさんのファン号だず自負しおいたす。
リラさんのブログを初期から読んでいたので、”あの本”の内容に違和感を持っおいたす。あの䞭には、読者を芋䞋すような蔑みの目が、リラさんたちほかの著者さんたちが生み出したものを軜く扱うような無意識の悪意が、静かに巣食っおいるように感じたのです。

それがブログを閉鎖された理由じゃないかず想像し、心苊しいです。
い぀でも垰っおきおください。──ずっず埅っおたす。

kazu



この幎、毎朝、リラさんのブログを読むのが日課でした。

なにも吊定せずに、ただあるがたたを曞いおくれる。そのこずにどれだけ救われたでしょう。私は母芪らしくない自分のこずがずっずきらいでした。だからこそ、リラさんのブログは、抌し぀けがたしくなく、そっず心に寄り添っおくれるものだず思いたした。

新しい蚘事の曎新がないのはさみしいです。でも代わりに、これたでに賌入した本の䞭から、毎朝、その日の気分でぱっずペヌゞを遞んで、曞いおあるこずを䞀぀ず぀掬うように取り組んでいるんです。

数ヵ月続けたした。生掻にちょっずだけ䜙癜ができたような気がしおいたす。

じ぀はサむン䌚でお䌚いしたこずがありたす。あのころ䞭孊生だった嚘も、もう高校生です。時の流れはあっずいう間ですね。
時々、残念に思うこずがありたす。嚘がもっず小さなころに、暮らしが敎っおいたら。そうしたらもっず機嫌よくあの子ず向き合っおあげられたんじゃないか、ず。

倧げさかもしれたせんが、リラさんは私の“暮らしの先生”です。もっず若いずきにあなたに出䌚いたかった。

远䌞、最近、片づけの資栌を取りたした。個人宅でお手䌝いするサヌビスをはじめおみたいなず思っおいたす。

のりこ



リラちゃん、倧䞈倫ですか。いた、笑えおいたすか。
おひさしぶりです。”むノ”のアカりントを消したあずも、ずっず、リラちゃんのブログを読んでいたした。
私はもずもず向いおいなかったなず思っおるんです。だから、もう埩掻はしたせん。これからずっず読み専です。
兄匟も少し倧きくなっお手が離れたので、今は毎日フルタむムで働いおたす。たのしいです。合っおる気がしたす。
でもリラちゃんはたぶん、──違いたすよね。リラちゃんは、曞くために生たれおきた人だず思いたす。リラちゃんが描く日垞はみずみずしくお、たぶしいです。きっずたくさんの人の救いになりたす。
い぀か戻っおきおくれるこずを信じおいたす。

読み専になったアダム旧 むノ


手玙のなかに詰たっおいたのは、愛情だった。

はらはらず涙が萜ちおきた。


ただの、名もなき莉矅だったわたしの曞いたものが、誰かの毎日に寄り添っおいた。それを芋お動いおくれた人がいる。新しい生き方を遞んだ人がいる。



それっおすごいこずだ。
奇跡みたいだ。




そのずき、お腹がひどく痛みはじめた。わたしは陣痛間隔アプリを開いた。それから、曞店の正瀟員ずしお再就職した柊介にメヌルだけ入れお、母を呌んだ──。






幎埌──。

もうすぐ歳になる嚘が、ようやくねむった。嚘におおいかぶさるような䜓勢のたたフリヌズしおいたけれど、そっずおしりの䞋に添えた手を匕き抜く。、、、、  。

起きない。ようやく息を吐いた。


嚘は最近、あたり昌寝をしおくれなくなっおいた。

ふくふくの頬をそっずなぞる。目や薄いくちびるはわたしにそっくりで、耳のかたちは柊介に䌌おいる。た぀毛がふるふるず揺れたので、わたしは慌おお退散した。



幎近い生掻のなかで、離れからは祖父母の気配が少しず぀消えおいた。

぀や぀やず磚き䞊げられた食噚棚は黒くペむントしおシックな雰囲気に。障子は倖しおグレヌのレヌスカヌテンをかけた。

少しず぀自分たちのちからで、奜みの雰囲気に改造されおいく家を、愛おしく思えるようになっおきた。将棋盀や、刺繍枠、蔵曞の䞀郚など、そのたた倧事に匕き継いでいるものもある。


食噚棚から癜い繊现なレヌス暡様の皿を取り出し、さっき焌いおおいたレモンケヌキをのせる。癜いアむシングが぀や぀やず照り、甘酞っぱい匂いが立ち昇っおいおおいしそうだ。

窓ぎわのレヌスのカヌテン越しに䞋には手䜜りのランチョンマットを敷いお、皿を眮く。
スモヌキヌな青の䞀茪挿しに、庭で摘んできたコスモスを生けた。

逆光になるように撮るずふんわりする。


ブログを䌑んでいる幎のあいだに、わたしは通信講座に申し蟌み、写真を本栌的に孊んでいた。オンラむンではあるが、ラむタヌスクヌルにも通った。

倏目に「玠人の䞻婊が撮った写真」ずか「玠人の䞻婊が曞いた文章」ず蚀われたこずを根に持っおいたのだ。





パ゜コンの前にすわる。倧きく深呌吞をした。

きょう、わたしはずっず閉じおいたブログを再開する。


自分が綺麗だず思うもの、玠敵だず思うもの、ひらめき、気づいたこず  。だれにも響かないかもしれないけれど、写真ずずもにそっずWebの海に流す。

もしかしたら、べ぀な誰かを救うかもしれないそれを──。









→ 終章に続く




※成田本店は実圚する曞店です。
ご連絡したうえで掲茉させおいただきたした。



いいなず思ったら応揎しよう

䞉條 凛花 最埌たでお読みいただき、ありがずうございたす♡

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