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あんなにきらいだったのに。

    三條 凛花


    「おいしいよ。たべてみようよ」
    「いらん!」

    6歳の息子は、口をとがらせて、かたくなに新しいものを食べようとしない。はー、とため息をこぼすけれど、彼のことを責めることはできない。わたしもそうだった。

    出されたものをたべるのが、すごくいやだった。

    食感、見た目、におい。なにかしらが気に入らなくて食べない、息子よりずっと偏屈な子どもだった。




    フェリーに乗ったとき、娘が「わかめうどんが食べたい」と言った。
    列に並んでから気づく。「とろわかうどん」と書かれている。なんだろう。

    写真を見て、とろろ昆布が入っているのだと気がついた。娘が食べるだろうか。全員分を「きつねうどんで」と注文したあと、「あ、いえ。やっぱり……ひとつだけ、とろわかうどんでおねがいします」と言い直した。




    「なにこれ」

    とろろ昆布を見た娘はいやそうな顔をする。
    昆布おにぎりも、塩昆布も大好きなのに、知っているものと見た目がちがうからのようだ。

    「わかめだけほしい……」

    わたしはきつねうどんを娘の前に置き、わかめをすべて移していった。そして「うーん」と思いながら、おそるおそる、とろろ昆布を口に運ぶ。



    実家の味噌汁に、たまに入っていた。わたしはこれがとびきり苦手だった。





    でも。




    あれ、おいしい……。くちの中にふわっと広がる昆布のいい香り。出汁にとけるようにして広がっていくから、昔感じた、どろりとした食感もあまり気にならない。

    島でたくさん遊んでくたくたになったあと、スーパーで、とろろ昆布をかごに入れた。深夜、ねむい目をこすりながら、すし揚げをことことと甘辛く煮つけて、それからふとんに入った。





    そして翌日。



    「できたよー!」



    フェリーでたべた2種類のうどんのトッピングを「ぜんぶのせ」したうどんを用意した。出汁は市販の。うどんもチルド麺。香川はスーパーのうどんコーナーですらものすごく充実しているのである。

    フェリーで食べた感じに近づけたくて、あえて、「さぬきうどんらしいうどん」じゃないチルド麺を選んでいた。やわくて細め。つるつるした感じのやつ。


    自分の分には、とろろ昆布をふわり。

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    冷房と冷たいのみもので冷えたおなかが、ふわっと温まる。昆布を出汁に蕩かすようにして食べると、鼻にぬける匂いからもう、──おいしかった。

    毎日たべるものではないし、きっと、家族はだれも食べないだろう。

    チャック付き袋に薄く伸ばすようにして入れたとろろ昆布を、わたしはそっと冷凍庫にしまった。




    (1,000字)


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    創作大賞2025/26中間選考通過(ミステリー小説&ホラー小説/エッセイ)│ 著書『時間が貯まる 魔法の家事ノート』(扶桑社/9刷)『365日のとっておき家事』(三笠書房)など国内外で9冊📚 │ 毎日更新4000日超✍️別名義で小説の大賞受賞歴があります。

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