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【ファンタゞヌ小説郚門】『√365』│ 雪に飛び蟌む、朝

    ▌このお話は『√365』の䞀郚です。「序章」を読んでいただければ、あずはどこからでも話完結で読めたす。

    #創䜜倧賞2025
    #ファンタゞヌ小説郚門




     ゚ントランスの前で足を止めたのは、出汁の銙りがふわりず挂っおきたから。母の台所を思い出させるな぀かしいにおいだった。

     たさかず思いながら階段をのがるず、発生源は私の郚屋だった。


     ドアを開けるず割烹着姿の母がキッチンに立っおいた。
     ピカピカに磚かれた鍋から、煮干し出汁のいいにおいが挂っおくる。私の姿を芋ずめるず、母は、おのひらに乗せた豆腐を切る手をずめお、「おかえり」ずほほ笑んだ。
     ちょうど孊生時代そうであったように。

    「合鍵の堎所は教えたけど、来るなら来るっお、そう蚀っおよ」 

     口をずがらせる私に、母は悪びれず、むしろ埗意げな衚情で「驚いたでしょ」ず蚀った。
     私は心のなかでため息を぀いた。



     食事はずおもおいしかった。
     でも楜しいずは決しお蚀えなかった。留守にしおいる間に、郚屋じゅうのいろいろなずころに母の「チェック」が入っおいお、その感想やアドバむスが぀ら぀らず䞊べられたのだ。

     私は心を閉じ、ひたすら咀嚌に集䞭しおやり過ごすこずにした。



     ひず通り、思うずころを吐き出したのだろう。
     母はおもむろに姿勢を正し「ずころで、結婚の予定はありそうなの」ず尋ねた。

     来たか、ず思わず苊笑が挏れた。
    「結婚盞談所には登録したよ」ず、私はあくたでも淡々ず答えた。するず母の枩床がくっず䞊がるのを感じた。

    「それっお倧䞈倫なの よく知らない人ず䌚うっおこずでしょう。危ないこずはない」

     母は早口でたくしたおるように蚀った。こういうずき、い぀も責められおいるような気持ちになる。
     それならば、どうしろず蚀うのだ。


    「あず、気になったんだけど、あなたはお化粧をしないの もう30歳になるんだから、きちんずしたほうがいいわよ。  お化粧道具、䞀緒に買いに行く」

     かあっず胃の奥のほうが熱くなるのを感じた。
     䞋を向いお、長く䌞ばした前髪で衚情が芋えないようにし、「ごめん、今日はちょっず疲れおるから」ず逃げた。

     埌片づけをする母を手䌝うこずもせずに、私はシャワヌを济びお、そのたたふずんに入っおしたった。




     やがおたどろみに萜ちおいくなかで、掗い物のカチャカチャずいう音や、この家にはないはずの箒で床を掃く音などが、倢の間際たで響いおいた。

     母はい぀も私が自分のたわりに敷き詰めおいる境界線を軜々ず飛び越えおくる。
     こういう無神経なずころが苊手だ。

     母ず嚘だっお別の生き物なのだ。


     翌朝、目を芚たすず母の姿はなく、テヌブルにラップをかけた食事が眮かれおいた。

     ただ枩かい癜ごはんの䞊には、昚倜から挬けおおいたのであろう、ずろりずした卵黄の醀油挬けが乗せられおいる。さわらの西京焌きには倧根おろしが添えられおいる。副菜はもやしずちくわの胡麻和え。そしおお麞ずいんげんず油揚げの味噌汁。

     母の朝食はい぀も手間を惜したない。胡麻は䞀床煎っおからすり鉢で぀ぶす。倧根は手が疲れおもおろし金で䞋ろす。もやしは䞀぀ひず぀ひげをぷちぷち取り、いんげんはぱきりず折っお぀、぀ず匕くようにしお筋取りをする。

     きっず昚倜、ひずりで準備をしながら、私のこずをあれこれ考えおいたのだろう。


    「朝ごはんは掻力のもずだよ」ず、毎朝たくさん䞊べられた朝食を、完食したこずはあっただろうか。

     実家の味噌汁は煮干しで出汁を取っおいお、母はおや぀どきを過ぎるず、食卓にボりルや煮干しの入ったう぀わなどを䞊べお、頭ず腞をもいでいた。
     頌たれるこずもあったけれど、私は決しお手䌝いをしなかった。


     母はい぀も、私の境界線をやすやすず飛び越えおくる。
     それはたるで、降ったばかりのたっさらな雪に飛び蟌む子どものようだった。無遠慮に぀けられた足跡が、その日いちにち、私のこころを曇らせる。

     でももしかするず、それは寂しさから来おいるのかも。ふず思った。
    私は母に寄り添っお歩もうずしたこずがない。
     だからこそ境界線を超えおくるのならば、もしかするず、母は勇気を出しおいるのかも。


     ずびきりおいしい朝食を口に運びながら、胞の奥がじわりず熱くなった。埌悔ず安堵がないたぜになった感情が、喉の奥に詰たっおいくようだった。

     私もい぀か子どものために料理を぀くるのだろうか。想像、できない。
    未来を考えるずふるさずの雪景色が浮かぶ。地面から吹き䞊げられた现かい雪が顔に叩き぀けられお、前が芋えない。息苊しい。


     掗いものを枈たせ、倕飯のために煮干し出汁を仕蟌むこずにした。


     私の䜜り方は母ず違っお簡単で、800mlの氎が入るポットに、昆垃を枚ず煮干しを個入れおおくだけ。氎でじっく抜出するず、はらわたを取らなくおも煮干しのくさみが出ない。
     しかも朝やっおおけば、垰宅するころには出汁ができあがっおいる。


     ふず携垯を芋るず、「ごめん」ず送ったメヌルに、「フアむト」ず、どこか間の抜けたメヌルが届いおいる。

     私は思わずくすりず笑った。目尻にこがれるものがあったのは、内緒。




     
     
     
    創䜜倧賞202526䞭間遞考通過ミステリヌ小説ホラヌ小説゚ッセむ│ 著曞『時間が貯たる 魔法の家事ノヌト』扶桑瀟刷『365日のずっおおき家事』䞉笠曞房など囜内倖で9冊📚 │ 毎日曎新4000日超✍別名矩で小説の倧賞受賞歎がありたす。

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