期待は外れる
新しい職場にどうも馴染めず、面白くない毎日が続いていた40歳目前のある日、前の職場の上司から突然電話がきた。
「もしもーし。須藤君け? 高木です! お久しぶりぃ! 元気にしてっか?」
突然の電話に戸惑っている僕に「久しぶりにちょっと会うべ。 時間あっか?」 と、元上司の高木さんは立て続けに言う。相変わらず声がデカい。
高木さんと特に親しくしていたわけではないが、突然電話がきたことも、親し気な口調で「会おう」と言われるのも悪い気はしなかったし、ちょうどいい気晴らしになると思い、即答した。
「いいですよ! どこにします?」
「明日休みだっぺ? 11時頃、〇〇 のセブンイレブンにこれっか?」
コンビニの駐車場で会うのも変な気がしたが、そこで待ち合わせて、どこかに昼飯でも食べに行くのだろう。なんか話があるのだろうし・・そう思って了解した。
電話を切ったあと「ひょっとしたら、高木さんに “ 会社に戻ってくれないか? また一緒にやろうや ” ・・・なんて、言われたりして。僕が辞めて会社も大変なんだろうけど、今更そんなこと言われても困るよな。昼飯、ごちそうしてくれるのかな」と、得意の妄想に浸り、僕はニヤついていた。
当日、約束の時間にセブンイレブンに着くと、もう高木さんは来ていてクルマの外に出て僕を待っていた。
「おう、須藤君久しぶり! 元気そうだなぁ!」
現場とゴルフで日焼けした懐かしい顔が笑って近づいてくる。その笑顔に自然と僕の顔もほころぶ。高木さん、ちょっと髪が薄くなったかな。
「まあまあです。高木さんも元気そうですね」
「まあな。どうだ、新しい仕事は? 忙しかっぺな?」
「フツウです。まだあんまり馴染めなくて」
「そうか。色々あるよな。ところで今度の市長選、須藤君は誰に入れんだ?」
高木さんと僕は、同じ市内に住んでいる。
「・・決めてないです」
「そうかっ! じゃあ、この人に入れてくれっけ? しっかりした、いい人だど!」
そう言いながら高木さんは手に持っていたチラシを一枚、僕に渡す。
「はあ」
チラシに目を落とし、次の言葉を探すが見つからない。チラシには、候補者の顔写真と名前、選挙公約が載っている。
「じゃあ頼んだよ!」
生返事の僕をまったく気にすることなく、くるりと背を向けクルマに乗り込み高木さんは行ってしまった。
これ目的で、わざわざ呼び出したのか。
たぶん、高木さんは次のターゲットに会いに行くんだろう。高木さんも大変だ。でも、電話で済む話だよな。直接会ってチラシを渡したほうが、確立が上がると思っているのかな。そんなわけないだろ。馬鹿野郎。
駐車したてまえ、なんか買わないと、と思いコンビニに入ってコーヒーを買い、候補者の名前をもう一回見てちゃんと記憶し、チラシをゴミ箱に捨てた。
