爪がどこへ飛んでいっても気にしなくていい縁側
「爪がどこへ飛んでいっても気にしなくていい縁側」という場面を思いつきました。
映画で、縁側で爪を切っているシーンといったら、これは平和な冒頭か、平和が戻ってきたラストにくるやつです。
縁側は庭に面していて日当たりがよく、庭の空気や土のにおいが入ってきます。
爪を切っているのは、主人公のおばあちゃんか、あるいはおばあちゃんに爪を切ってもらっている孫です。
耳かきでもいいかもしれません。おばあちゃんに耳かきをしてもらって、その気持ちよさに寝入ってしまう孫は絵になります。しかし耳かきにはひとつ足りないものがあります。
それは音です。
「パチン」
主人公は家屋の内側から見ています。
「パチン」
おばあちゃんが背中をまるめて爪を切っています。もしくはおばあちゃんが孫の爪を切っていて「ほら、じっとしとき」と言っています。主人公が音につられて近づいていき、次に見るのは、おばあちゃんの風雪をのりこえてきた、しわしわの足と爪です。おばあちゃんが顔を上げます。
「もうじきお迎えやいうのに、爪はちゃあんと伸びよる」
これは縁側をそなえた一戸建ての特権でもあります。たとえば、都会へ出た主人公が、狭いアパートで爪を飛ばさないように切りながら、故郷の縁側を思い出す場面にもつながります。
あの「爪がどこへ飛んでいっても気にしなくていい縁側」が懐かしい、と主人公は思います。
何かを思いついても、それだけでは孤立したワンシーンにすぎません。ひとつの物語になるところまでは広がらなかったので、ここに書き留めておくことにしました。
