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サワガニのように隠れる岡本さんが、一番強くて優しかった話

    りこぴん

    コミュ力の高いご近所おしゃべり軍団の中で、
    彼女はひっそりとした存在だ。
    その名は岡本さん、サワガニのような人だ。

    子供の頃、父は私をよく渓谷に連れて行った。
    私の楽しみは、サワガニを捕ることだった。
    サワガニは渓流に住む日本固有種のカニである。
    赤色で小さく、薄いカラダをしていて、人間の気配を感じると、
    サッと石のすき間や裏に隠れる。
    私は石をひっくり返して、隠れたサワガニを捕まえる。

    岡本さんもサワガニのように、人の気配を感じてサッと隠れる。
    玄関に入る時もあれば、自転車置き場、死角になるところへ。
    隠れる寸前で、私は「こんにちは!」と声をかけ、捕まえる。
    すると彼女は、あ、バレた・・ひきつった顔で「こんにちは」と
    返してくれる。
    さらに上を行く夫は「岡本さん!こんにちは」と名前を読んで、
    逃げ道を塞ぐのだ。きっと夫はサワガニ捕りも上手いはずだ。

    岡本さんは、人と関わりを持つのがイヤなんだろう。(と、思っていた)
    ご近所さんとなるべく出会わないようにしているから。
    挨拶をされても、ほとんど笑顔はなく、儀礼的だ。
    私は、挨拶しない方がいいんじゃないか。。と思った時期もある。
    それでも、やはりご近所さんだ、しないよりは、した方がいい。


    そんなある日、
    「助けてください、助けてください!」
    女性の大きな声が聞こえてきた。
    窓の外を見ると、中年男性が高齢の女性を羽交い絞めにしている。
    そして、女性の持っているバッグを奪い取ろうとする男性。
    女性は寝ころびながらも必死に抵抗して、バッグを渡すまいとしている。
    あ、、、どうしよう。110番?
    男性には見覚えがある。近所に住む男性だ。
    私は、見ることしかできず、誰か出てきて。。と傍観者だった。

    その時、
    「お母さんに、そんなことしてどうする?やめなさい!」と
    止めに入ったのは岡本さんだった。
    どうやら、男性と女性は親子らしい。
    そんな訴えも聞かずに、息子さんはバッグをひったくって
    どこかに行った。

    私以外にも、たくさんの人が聞こえたはずなのに、
    助けに行ったのは、岡本さんだけだ。
    ご近所では有名なコミュ力お化けの松田さんも出てこない。

    しばらくしたら、干潟のカニのように、みんなぞろぞろと出てきた。
    私も松田さんも皆が、「何があったの?」と白々しい質問をする。
    何があったか、みんなわかっている。自分が情けなかった。
    こういう時に、その人の本質が見える。
    間違いない、コミュ力の高さと人間力は比例しない。
    岡本さんだけが、かっこよくて、そして、優しかった。

    後日、彼女とばったり会った。
    私が「こんにちは!」と声をかけると、
    少し恥ずかしそうに「いつも声をかけてくれて、ありがとう」と
    返してくれた。
    ヒャ~ッ!!思ってもみない言葉がうれしかった。
    惚れてまうやろ~である。
    本当のコミュ力の高さとは、こういう人ではないだろうか。

    岡本さんは、強くて、優しくて、、、
    ツンデレタイプなのかもしれない。

    しばらくして、夫が不思議そうな顔で言ってきた。
    「岡本さん、隠れなくなったね」 

    #サワガニ
    #人間力
    #挨拶
    #ご近所さん
    #コミュ力


     
     
     
    関西人。 なかなか始められなかったnote。 日常のささいな出来事やいろいろな想いを 自由にゆるっと続けていけたら。3年。 まずはやってみる!で、はじめてみます。

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