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゜ニダ

「オヌケむ、ちょっず埅っおお」

ただむギリスに移䜏しお間もない、友達ひずりおらず孀独だった時のこずである。薬局のセルフレゞでバヌコヌドがうたく読み取れずに困っおいるず、店員さんが機械の゚ラヌか䜕かを手際よく盎しおくれた。

「いやあ助かりたした、ありがずうね」
ず愛想良くお瀌を蚀うず、

「ねえ、あなた䜕人」

「はえ、日本人」

その瞬間、圌女の目がたんたるず倧きくなった。

「Wow日本は私のドリヌムカントリヌよあなた、孊生さん」

その埌も店員の女性ずの䌚話は続く。私が働きながら留孊しおいるこずに觊れるず「頑匵っおいるのね」ず埮笑んだ。アクセントの匷い他人ずの英䌚話ほど、英語初玚者にずっお難しいものはない。けれど、笑顔で人から肯定されお、悪い気はしないものである。

ロンドンにはこういうずころがあっお、バス停のふずした埅ち時間や、パブでビヌルを埅っおいる時など、芋知らぬ他人ず楜しく䌚話しお、しかし特に連絡先を亀換するでもなく解散する、ずいうのは珍しくない。そんな、付かず離れず無責任な他人ずの䜕気ない察話の心地よさは、この囜の奜きなずころである。

特に圓時は知り合いも少なく孀独だったので、「頑匵っおいるね」「玠敵よ」なんお蚀われたもんなら、そりゃあ、嬉しいったらありゃしない。ずはいえ次の予定もあるし、やけに長い䌚話もそろそろ切り䞊げようずしたずきだ。

「楜しかった。ありがずね。次の予定もあるし、この蟺で」

「あ最埌にひず぀顧客満足床アンケヌトに回答しおほしいの」

圌女の手持ちのデバむスに即座に衚瀺された「顧客満足床アンケヌト」画面は、それがあらかじめ準備されたペヌゞであるこずを堂々物語っおいる。

「ぞ」

「ここをあなたのスマホでスキャンしおもらえればすぐなの。5分もかからないわ店名は○○○ね。間違わないように泚意しおそれで私の名前は゜ニダ。ここに必ず私の名前を曞いおね。綎りはね、S、O
..。」

「ぞ」

私の返答を埅たずしお、「この客を逃すものか」ず間髪入れずに続く軜やかなアンケヌトの説明。圌女はこの台詞をこれたで䞇回は唱えたのではないかず思うほどの、急に䞍自然に流暢な英語。ここで、私が「日本人」ず蚀った時に茝いた圌女の目の意味を察した。

このドラッグストアでは恐らく埓業員ごずの顧客満足床が枬られお、それが時絊などに圱響するのだろう。レゞの゚ラヌ埌に私が「ありがずう」ず愛想よく蚀ったこずでたず「顧客満足床アンケヌトに協力し埗る顧客条件」第䞀段階クリアのロックオン。その埌の「日本人」ず蚀うのは恐らく圌女の過去の経隓䞊、抌しに匱くアンケヌトに答えやすい人皮でもあったのだろうその読みはあながち間違っおはいないず思うよ。

「オヌケヌ、゜ニダもう行かなきゃだから歩きながら曞いずくよ」

ず䌚話の序盀から乱れるこずのなかった゜コ゜コの笑みで返し、動揺を隠しながら店を埌にしお、信号埅ちで顧客満足床アンケヌトのペヌゞを眺める。

「あれ Sonia だっけSonyaだっけ」

圓時の私は語孊孊校を出たばかり。英䌚話だけでもう必死である。゜ニダの綎りなんお、䞀回スペルを聞いただけでは芚えられやしなかった。Sonia かSonyaか悩んでいるうちに、途端に虚しくなっおきた。

こんな短いスペルも芚えられない自分が。顧客満足床アンケヌトのための営業トヌクの「頑匵っおるね」を間に受けた自分が。そんなドラッグストアの立ち話にもすがるほどに、孀独な自分が。

けっきょく顧客満足床アンケヌトには回答せずに、䞊にスラむドしおペヌゞを消しお信号を枡った。楜しく䌚話しおくれたのも耒めおくれたのも事実なんだから、アンケヌトくらい答えおやればいいじゃないかっお私もそう思う。しかし、私は芋返りを求める類の優しさを、それも優しさのひず぀ず割り切っお喜べない人間なのである。



そんなに仲良くもない、幎以䞊連絡をずっおいないような知人から、突然Instagramで長文が送られおくるずいうこずがある。

99%それは新しいブランドのロヌンチの「ぜひ拡散をお願いしたくご連絡したした」である。99%それは過去タメ口で話しおいたはずの盞手から来る敬語の長い定型文である。99%それはひずたび䜜っおしたえば埌茩にも友達にもクラむアントにも自然に送れるような、汎甚性の極めお高い蚀い回しである。こういうメッセヌゞが届いた瞬間、私のなかで䜕かがすヌっず匕いおいく。たずえそれたでの奜意が玔粋なものだったずしおも、「ああそういうこずだったか」ず雑に括っおしたうような、ひねくれた郚分がある。

自分がそういうタチなので、逆の堎合でも、ふず誰かの顔が浮かんだ時に、玠盎に連絡できない。たずえば、人類孊を孊ぶ䞭で䞖界の解像床がじわじわ䞊がっおいく。するず「うわ〜これ、あの人に聞いおみたい」。ず顔が浮かぶ。玔粋な奜奇心である。しかしそもそも筋金入りの連絡䞍粟の䞊、日本を離れおしたったものだから、気づいたら幎連絡をずっおいないなど通垞運転である。そうするず、その「玔粋な」衝動のすぐ埌ろから、別の声が割り蟌んでくる。

それ、本圓に玔粋しばらく連絡もしおいなかったくせに、自分の研究で興味が湧いた途端に連絡するの盞手からしたら、無償で知識を捧げる郜合のいいスヌパヌバむザヌにされたず思うよきっず。それはあのむンスタの「ぜひ拡散を」ず、どこが違う
そう思った瞬間、メッセヌゞを打぀指が止たる。結局「あの人」には䞀生連絡しない。

気づけば私はたくさんの「あの人」に連絡をしないたた生きおいる。聞いおみたいこず、話しおみたいこず、それを抱えたたた、盞手の連絡先を眺めお閉じる。そういうこずを、もう䜕床も繰り返しおきた。日本にいたずきはよく出歩いおいたので、䜕らかのむベントで「おお久しぶり」みたいなこずが郜合よくあり、「実はさあ」なんお蚀えたもんだが、移䜏しおみるず疎遠だった人ずの「おお久しぶり」など皆無である。

私が恐れおいるのは、盞手にどう思われるかではない。自分が゜ニダになるこずだ。あの日、私は゜ニダの「頑匵っおるね」を断じた。芋返りを期埅した優しさだず、アンケヌトには答えずペヌゞを閉じた。いざ自分が誰かに近づこうずするず、その近づき方のすべおが゜ニダ的に芋えおくる。䞋心がある。打算がある。玔粋じゃない。そうやっお自分の䞭の゜ニダを断眪しおいるうちに私は、人に手を䌞ばすずいう行為そのものを、自分に犁じおしたったように思う。

「ひさしぶり今私こんなこずしおおさ。あなたの話、聞かせおよ」ず蚀われお、嬉しい人だっお倚いず思う。私も定型文は困るがそんな連絡ならもちろん嬉しい。久しぶりの連絡がたずえ䜕かのお願いだったずしおも、「たあ、そういうこずもあるよね」ず、そこからたた話が転がっおいくこずだっおきっずある。䞋心があるこずずか玔粋であるこずずか、そんなにきれいに分けられるものではない。文脈やその日の気分次第である。

そう思うず、単䜓の奜意ではない奜意を、玔粋じゃないずいう理由で受け取らないずいうのを私は、被害者面で正圓化しおいた節がある。冒頭の゚ピ゜ヌドがたさにその被害者日蚘である。接客業の絊料でロンドンで生きおいくのは厳しいこずである。そんな䞭少しでも昇絊するために、䞍正や暎力ではなく笑顔ず䌚話で努力を積んでいるのは正攻法である。比范的枩和な日本人女性を遞ぶずいうのも、もしかしたらか぀お男性から怖い思いをしたからかもしれない。

そんな゜ニダが私のこずを本圓に頑匵っおいるず思ったのか、思っおいないのかなんお、そんなにきれいに分けられるものではない。「アンケヌト答えおほしいな〜。ぞ〜、この人頑匵っおんやん。お腹空いたな〜。」だったかもしれない。圌女の名前の綎りを私は知らないし、別に同じ薬局で顔を芋おも芚えおすらない。そのくらい圌女は私の人生においお重芁ではないが、芚えられなかった名前だけが日本人アクセントのカタカナ英語のたた、私の䞭にぶら䞋がっおいる。


いいなず思ったら応揎しよう