
抱きしめることにも練習が必要だなんて思ってもみなかったよ
アルゼンチンタンゴを踊る時のダンスホールドは人呼んで「アブラソ」、抱擁、ハグを意味するスペイン語です。この名のとおり、踊る二人はお互いの腕の中🤗。でもこの近さ、対人距離を大きくとる性格・文化圏の人は慣れるのが大変。特にミロンガで赤の他人と踊る場合など、下手に体が触れ合って相手が不快に思っては、と腫れ物に触るようにお互い腕を回し、慎重さのあまりぎくしゃく、抱擁する、なんてとてもとても……。
(タイトル画像:Photo by Preillumination SeTh on Unsplash)
それ、よ~くわかります。踊りたいけど嫌われたくないですしねー。その一方、そういう及び腰の対応ではねえ……という大きなため息も海のむこうからは聞こえてくる。
「他所じゃあどうだか知らないが、ここブエノスアイレスでは、あなたを抱きしめたくってウズウズしてる人間が、男も女も、千人万人の単位でいるんですよ!」
というのは伝説的サロン Cunning でインストラクターも務めたマエストロで、ブエノスアイレスのミロンゲーロたちの本音をユーモアに包んで届けてくれる YouTuber の Gustavo Benzecry Sabá。確かに、かの地のタンゲーロたちはステップのみならず、というかステップ云々の前に、アブラソのクオリティを上げることにまず集中。
「アブラソが悪いと、フォロワーにとってダンスは楽しむどころかサバイバルゲームになってしまう!」
あ、それはその通りですね。息もできないくらいガッチガチとか、たしかにシャレにならない。そこで、アブラソのクオリティ、ひいてはその夜のミロンガをフォロワー、リーダーともに楽しめるものにするために、グスタボがあげるチェックポイントを以下のビデオから要約してご紹介しましょう!
①アブラソは手の中に小鳥を包み込むように
「しっかり抱擁っていったって、強く抱きしめてればいいってもんじゃないですよ。相手が楽に息ができ、動けるスペースを確保しつつも、包み込むように。でないと手の中の小鳥は逃げて行ってしまいますからね😉。ポイントは抱きしめる強さじゃなくて、今自分は君のためにここにいるんだ、っていう存在感、静かな自信なんですよ」
②Less is more(少ない方が豊かである)
「踊ってるとき、自分の知ってるステップすべてやってみせなきゃ、って思ってませんか? でもね、ウケをねらってステップをあちこちにほおりこむたびに、フォロワーは『コレはこうしてくれってことかな?』と(無意識にでも)解釈して動かなきゃならない。これはある意味ストレス。だから、やり過ぎはイケません。意外かもしれませんけど、二人にとっては Less is more、ミロンガでは Less is more なんですよ」
③音楽にのって
「音楽のたゆたいやニュアンスを無視しちゃ、どんなステップを決めたって、意味ないでしょう。メトロノームに合わせて動いてるだけ、みたいなダンスが楽しい人はいやしませんよ」
④相手の体の声を聞く
「相手の息が上がっているとか、動きがちょっと遅れるとか、そういうサインに注意しないと。そしてダンスを調節しないと。でないと相手は置いてけぼりで、タンゴにならないでしょ」
⑤自意識のコントロール
「ステップを恰好よく決めたい、まわりの人が注目してくれるようなダンスをしたい……普通のことのように思えるけど、でもそうやって踊ってるとき、相手は自分がよく見えるための道具になってるわけじゃないですか? そういうダンスは相手を傷つけるんですよ。タンゴはエゴじゃない。『私は今、あなたのためにここにいる』が基本。そうでなきゃ、相手は途中でダンスから降りてしまいますよ」
⑥頭を落とさない
「これはリーダーに特に気をつけてほしい点ですけれど、ちょっと熱心すぎっていうか、前のめりになって頭が落ちてることがある。これはアブラソの中のフォロワーには踊りづらいしとても不愉快なんです。だから頭は、落ちないようにいつも気をつけてないといけないんです」
な~るほど~。このようなポイントを押さえて、あの、世界で一番安心できる場所だわン💕、と感じられるミロンゲーロスのアブラソができるわけなんですね~。
Mano a mano
さて、じゃあフォロワーは彼らの腕の中でウットリしてればそれでいいか、というと、やっぱり、それだけじゃいけないらしい。
「あなたも彼を抱きしめないと。自分の心臓と彼の心臓を重ね合わせるように。あなたと今ここに立ってくれている、彼の(あなたへの)信頼に応えて、あなたも彼を抱擁しないと……」
というのは Mariana Montes。確かにタンゴは五分と五分。さすがはあの Sebastián Arce をがっちり受け止めたタンゲーラ、いいこといいますね~。トップペアとして一世を風靡した後それぞれの道を歩んでいる彼らが、最近一時再結成したときのパフォーマンスはコチラ。
©Rico Unno, CC BY-ND