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『あなたの記憶に わたしがいたこと』

    寺島あいこの日常

    #消したくない大切な思い出

    このハッシュタグをみて、思い出した話がある。



    わたしがまだ小学生だったころのこと。
    近所に、小柄でちょっと灰色が混じった白髪のおばあちゃんが暮らしていた。
    アニメに出てきそうな雰囲気のTHEおばあちゃんだった。

    そのひとはいつも、
    自分の庭でガサゴソと作業していた。
    何をしているのかよくわからなかった。
    掃除したり、どこからか拾ってきたガラクタを並べたりしている感じだった。

    まぁ、とにかく
    いつも庭でガサゴソしていた。

    わたしは見かけるたびに挨拶をした。

    「おはようございます!」

    「おはよう」

    満面の笑みで返してくれる。
    わたしは、そのTHEおばあちゃんのシワシワ笑顔が好きだった。



    その日は、派手な柄の傘を何本も持って庭にいた。
    相変わらず何をしているのかよくわからない。

    ただ、その傘をみて、
    昔はおしゃれだったんだろうな。
    そんな風に思った。

    「おはようございます!」

    いつも通り挨拶をした。
    返事はいつも通りじゃなかった。

    「あなたいつも挨拶して、いい子だねぇ。お名前なんていうの?」

    びっくりした。
    イレギュラーなことにあたふたした。
    でも、”いい子だねぇ”ってTHEおばあちゃんな笑顔と声で言われて、心地よかった。

    「あいこです!」

    「あいこちゃんか。いい名前だねぇ」

    わたしはちょっぴりくすぐったかった。


    次の日
    またおばあちゃんに会った。

    昨日褒められたもんだから、いつも以上に張り切って挨拶した。

    「おはようございます!」

    「あなたいつも挨拶して、いい子だねぇ。お名前なんていうの?」

    おや…?
    デジャブ。時が戻った。

    ちょっと不思議に思ったけれど、わたしはもう一度名乗った。

    「あいこちゃんか。いい名前だねぇ。」

    やっぱり同じ。
    不思議なこともあるもんだなぁと、そのまま学校に向かった。


    次に名前を聞かれたとき、
    さすがにちょっと怖かった。

    ”名前なんだっけな”という感じではなくて、毎回知らない感じで聞いてくるから。

    まぁ、褒められるのは悪くないし、笑顔がかわいいからいっか。
    小学生ながらに自分を納得させた。

    それからも何度も名前を聞かれた。
    わたしの名前は忘れてしまうけれど、わたしがいつも挨拶してくれるということは覚えているらしい。

    すごく不思議だった。
    でも存在を覚えてもらっていることは嬉しくて、わたしは何度だって名前を伝えた。



    いつも通りの朝。
    いつも通り庭でなんかしているおばあちゃん。
    いつも通りの挨拶。

    「おはようございます!」

    「あら、あいこちゃんおはよう」

    いつも通りじゃない返事。

    ”え!今名前呼んでくれたよね!”

    心がすごくドキドキしていた。
    子どもながらに、泣きそうなほど嬉しかった。
    いつもとは違う、特別な朝だった。

    おばあちゃんは名前を呼んで挨拶してくれるようになった。
    時々忘れてたけど、
    「お名前なんだっけね?」
    ってわたしの名前を知っている前提で聞いてくれていた。

    ”お名前なんていうの”と”お名前なんだっけね”は全然違うニュアンスだなと思った。



    わたしの学年があがるうちに、生活リズムが変わってあまり会わなくなった。
    おばあちゃん自身の生活リズムも変わっていたのかもしれない。

    時々会えば挨拶をするけれど、
    前みたいに名前を呼ばれることもなくなったし
    おばあちゃんは前みたいにニコニコ笑顔ではなくなっていた。

    わたしの挨拶に原因があったのだろうか。
    おばあちゃんが他人に興味がなくなってしまったのだろうか。
    理由はいくつでも考えられるけれど、真意はわからない。

    わたしが中学に上がるころには、
    挨拶をしても返してくれなくなった。
    聞こえていなかったのか、自分に向けて挨拶されていると思いもしなかったのか。

    無視されるくらいなら、挨拶しなくていいや。
    わたしは挨拶をやめてしまった。



    そしておばあちゃんは、
    ある日突然いなくなった。

    入所型老人ホームの見学に行き、

    ”もうここに入居する!自分のうちには帰らない!”

    といって、そのまま入居してしまったらしい。

    身寄りがいるのか、いないのか知らないが、
    この庭まで物があふれかえっているお家は誰が片付けるんだろう。
    そんな風にしか思えなかった。


    そう遠くないうちに
    亡くなったという知らせがわたしの耳にも届いた。


    うすうす気がついてはいたが、
    おばあちゃんはひとりで暮らすことが困難なほどの
    重度の認知症であったらしい。

    庭での謎の行動、名前を何度も聞かれたこと、
    そして、わたしの名前を初めて呼んでくれた朝のことを思い出した。

    様々な記憶が曖昧になるなか、

    わたしの名前が
    わたしの存在が

    おばあちゃんの記憶のなかに少しでもいたことが奇跡に感じた。

    挨拶を返してくれなくなっても、
    THEおばあちゃんなニコニコ笑顔が見られなくなっても、
    毎回挨拶すればよかったな。
    すごく寂しくなった。

    ”あなたがわたしのことを覚えてくれたこと、
    あなたは忘れてしまっただろうけれど、
    わたしは全部覚えてるからね。”

    心のなかで天国に向かってそう話しかけた。




    この話を今まで思い出す機会がなかった。

    ”わたしは全部覚えてる”っておばあちゃんに言ったのに、
    気づかぬうちに、この記憶は消えてしまっていたかもしれない。

    おばあちゃん、わたしに大切な思い出を残してくれてありがとう。

    そして、
    この大切な思い出を思い出す機会を得たことに感謝している。
    ここに記すことで、この思い出は半永久的に残るものとなった。

    ”あなたの記憶に わたしがいたこと”

    これがわたしの
    #消したくない大切な思い出

    寺島 あいこ

     
     
     
    人生いろいろありすぎて、精神年齢爆上がりの28歳。 気がつけば50代のお友だちがたくさん。 HSP & INFJ & 乙女座 カナダでワーホリ経験あり 人間関係×メンタルのこと×ハンドメイドのこと 風のように自由に生きてこ。

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