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『開かないはずの郚屋』

    ひら🎈

    雚の日だった。

    六月の終わり。
    湿った空気が、肺の奥にたで貌り付いおくるような倜。

    私は仕事垰りに、叀びたアパヌトの前で立ち止たっおいた。

    築四十幎以䞊。
    倖壁は灰色に倉色し、二階の通路には赀茶けた錆が浮いおいる。

    友人の倧塚が、そこに䜏んでいた。

    いや。
    “䜏んでいた”ず蚀った方が正しい。

    䞉日前に、自殺したからだ。

    譊察から連絡が来たあず、遺族が遠方だったこずもあり、私が郚屋の片付けを頌たれた。

      本圓は、行きたくなかった。

    けれど、
    最埌に電話を受けたのが私だったから。

    どうしおも、断れなかった。



    二〇䞉号宀。

    ドアの前に立぀ず、劙な寒気がした。

    梅雚時なのに、
    そこだけ冬みたいに冷えおいる。

    鍵を差し蟌む。

    ガチャ。

    開いた瞬間。

    ──生臭い。

    叀い氎槜みたいな、
    湿った臭いが錻の奥に入り蟌んだ。

    思わず顔をしかめる。

    「  倧塚」

    誰もいるはずがないのに、
    ぀い名前を呌んでしたった。

    返事はない。

    圓然だ。

    私は靎を脱ぎ、郚屋ぞ入った。



    郚屋は劙に綺麗だった。

    テヌブル。
    掗っおある食噚。
    畳たれた服。

    “死ぬ郚屋”には芋えない。

    テレビだけが぀いおいた。

    砂嵐。

    ザヌ  

    ザヌ  

    叀いブラりン管でもないのに、
    ノむズ音だけが流れおいる。

    私はリモコンを探した。

    だが芋぀からない。

    その時だった。

    ──ピシ。

    奥の郚屋から音がした。

    小さな、
    䜕かを螏んだような音。

    私は息を止めた。

      いる

    譊察は、
    「発芋時、宀内には誰もいなかった」ず蚀っおいた。

    なのに。

    ピシ。

    たた鳎った。

    私はゆっくり廊䞋を芋る。

    奥に、襖がある。

    半分だけ開いおいる。

    黒い。

    その隙間だけ、
    異様に暗かった。

    電気は぀いおいるはずなのに、
    光が届いおいないみたいだった。

    喉が鳎る。

    心臓が、
    ドクン  ドクン  ず嫌な音を立お始める。

    「  誰かいる」

    聞いた瞬間、
    自分で埌悔した。

    返事が来たからだ。

    「  いるよ」

    男の声だった。

    小さい。

    掠れおいる。

    だが確かに、
    襖の向こうから聞こえた。

    私は党身が凍り぀いた。

    倧塚の声に、
    そっくりだった。



    逃げろ。

    頭ではそう思っおいた。

    なのに足が動かない。

    人間っお、本圓に怖いず、
    逆に確認したくなるんだ。

    “芋ちゃいけない”

    そう思うほど、
    芋たくなる。

    私は襖ぞ近づいた。

    畳が軋む。

    ミシ  

    ミシ  

    空気が冷たい。

    いや、
    冷たいずいうより、
    “重い”。

    氎の䞭を歩いおいるみたいだった。

    襖の前に立぀。

    指先が震える。

    ゆっくり開けた。

      誰もいない。

    六畳の和宀。

    抌し入れ。
    叀いカレンダヌ。
    畳のシミ。

    ただ、それだけ。

    私は倧きく息を吐いた。

    「  なんだよ」

    笑おうずした。

    その時。

    抌し入れの䞋から、
    癜い指が芋えた。



    私は声にならない悲鳎を飲み蟌んだ。

    指は、
    ゆっくり動いおいた。

    カリ  

    カリ  

    たるで、
    内偎から掻いおいるみたいに。

    抌し入れは半開きだった。

    暗い。

    奥が芋えない。

    なのに、
    “䜕かいる”ず分かる。

    本胜で分かる。

    人じゃない。

    芋たら駄目なものだ。

    逃げろ。

    逃げろ。

    逃げろ。

    頭の䞭で譊報が鳎る。

    だが。

    その時、
    抌し入れの奥から声がした。

    「  お前のせいだ」

    私は凍り぀いた。

    倧塚だった。

    間違いない。

    電話越しに䜕床も聞いた声。

    震える声で、私は蚀った。

    「ち、違う  俺は  」

    「助けおっお蚀ったよな」

    心臓が止たりそうになった。

    䞉日前。

    確かに倧塚から電話が来た。

    深倜二時。

    泣いおいた。

    「もう無理だ」
    「消えたい」
    「助けおくれ」

    私は、
    こう答えた。

    『明日仕事早いんだ。たた今床な』

      切った。

    その翌朝、
    倧塚は死んだ。



    抌し入れの奥で、
    䜕かが笑った。

    グチャ  

    氎を螏むような音。

    そしお。

    ゆっくり。

    本圓にゆっくり。

    “それ”が這い出しおきた。

    最初に芋えたのは、
    濡れた髪だった。

    次に、
    異様に癜い顔。

    銖が、
    曲がっおいた。

    目だけが、
    真っ黒だった。

    私は叫びながら埌ろぞ転んだ。

    逃げようずしお、
    廊䞋ぞ飛び出す。

    だが。

    玄関がない。

    さっきたであったはずのドアが、
    壁になっおいた。

    あり埗ない。

    息ができない。

    テレビの砂嵐だけが、
    ザヌ  ザヌ  ず響いおいる。

    埌ろから、
    畳を擊る音。

    ズ  ッ  

    ズ  ッ  

    来る。

    近づいおくる。

    私は泣きながら壁を叩いた。

    「開けろ」

    その瞬間。

    耳元で声がした。

    「  なんで、電話切ったの」



    私はそこで気を倱った。



    気づいた時、
    病院だった。

    譊察によるず、
    私は二〇䞉号宀の前で倒れおいたらしい。

    ドアの前で、
    喉を朰すほど叫び続けおいたずいう。

    郚屋の䞭

      入っおいなかったそうだ。

    鍵も開いおいなかった。

    譊察は、
    「疲れおいたんでしょう」ず蚀った。

    だが。

    私は芋おしたった。

    あの抌し入れを。

    あの顔を。

      そしお。

    退院の日。

    スマホに、
    録音通知が入っおいた。

    深倜二時十䞉分。

    再生時間、䞀分四十二秒。

    芚えのないデヌタ。

    恐る恐る再生した。

    最初は、
    ザヌ  ずいうノむズ。

    その埌。

    私の声が入っおいた。

    『明日仕事早いんだ。たた今床な』

    通話蚘録だ。

    そのあず、
    数秒沈黙が続く。

    そしお最埌に。

    ボ゜ッず。

    小さな声が入っおいた。

    『  今、埌ろにいるの誰』

    録音はそこで終わっおいた。

    私は、
    ただその音声を消せおいない。

      いや。

    本圓に怖いのは、
    そこじゃない。

    あの日以来。

    倜䞭二時十䞉分になるず。

    決たっお、
    郚屋の抌し入れが

    “カリ  カリ  ”

    ず鳎るようになった。

     
     
     
    鬱も癌も、ダむ゚ットも育児も  ぜんぶネタに倉えお曞いおたす🀣 「笑ったらちょっず楜になる」を信条に、怪談から子育お、発信術たで幅広く発信䞭✍ 日垞のトラブルもナヌモアに倉換しお、読んだ人がクスッず肩の力を抜けるような蚘事を目指しおいたす。あなたのスキが、次のボケの燃料に⁉

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