鮮明な記憶は声と色
初恋の甘酸っぱい記憶の話だ。
小学生五年生の夏休み。
宿題も程々に、私は毎日、毎日テレビゲーム三昧であった。
たまには外で遊べと追い出されるが、外に出れば茹だる様な熱気。その熱にやられたのか、制御不能になった蝉まで突撃してくる始末。
どちらを選ぶか、なんて悩むまでもない。
結局、クーラーの効いた部屋でアイスを食べながらゲームに明け暮れるのだ。
気付けば夏休みも半分を終えようかという頃合い。なんの為に設けられたのか、登校日の日だった。
昼夜問わずテレビゲームに夢中だった私にとって、久しぶりの登校時間は体感では明るいだけの深夜だった。
それでも久しぶりに友達と会えば、寝不足と熱気に、怠さも感じつつもテンションは自然と上がってくる。
学校に着く頃には眠気も忘れ、すぐにランドセルを放り出し、グラウンドでサッカーに没頭した。
10分ほどでチャイムが鳴り、皆汗だくで教室に戻って行く。
その列の中、私だけ小さな違和感を感じながら。
教室では担任の先生が朝のホームルームを始めていた。
当時の教室にはエアコンなんて付いていなかったので、サッカーの熱が冷めるわけもなかったのだが、私の汗はすでに引いていた。
ようやくホームルームも終わろうかというタイミングで、私は唐突に吐いた。
後すこしだったのに。
しかし、「それ」は私の机の上に綺麗に収まり、まだ誰にも気づかれていない。
このままでは私の生み出した「それ」はものの数秒で周りに気付かれてしまう。
だが、当時の私はまだ小学生五年生だ。
なすすべなく、白旗をあげようとした瞬間。
「先生!!遠藤くんが!!!」
教室に響いた隣の席のみきちゃんの悲鳴。
私はみきちゃんにだけはバレたくなかった、みきちゃんは私の初恋だったから。
空白になった教室。
全員の視線が集まった瞬間。
その一瞬、世界が止まった様な感覚の中。
私は第二波の「それ」を吐き出した。
───この話が悪い思い出なのかはまだ結論が出ていない。
なぜなら、机に広がった「それ」は、どういうわけか、とても鮮やかな真っピンクだったからだ。
初恋の人の悲鳴と鮮明な思い出。
ただそれだけだ。