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誰も知らない

ベランダに出る。
マンションの窓から光が漏れる。
誰も乗っていない電車。
向かいのマンションの光。

たくさんの光から、「私は1人じゃない」ということを悟る。同時に、私は紛れもなく「1人」であるということを感じさせられる。

あの光の中に、どれだけの人の生活があるのだろうか。そんな光を見ていると、自分がとてもちっぽけに感じる。
風が心地いい。
私はチョコレートを一口齧った。
甘い。
口にふわっと広がる。
半袖でちょうどいいと思っていたが、流石にこの時間になると少し肌寒い。
もう一口、もう一口と食べ進めているといつの間にかチョコレートの板を半分も食べてしまっていた。


ぼーっとしている間にどれだけ時間が過ぎたのだろうか。
隣の家の窓がバタンと音を立てて閉まった。
びくっと身体を震わせる。
何もそんなに音を立てて閉めることないじゃないか、と考えているとなんだか腹が立ってきた。
そろそろ部屋に入ろう。
肌寒い風を感じるベランダと引き換えに部屋の中は生暖かい空気を感じる。
少しマシになったかと思ったが、心はそんなに簡単ではないようだ。
さっきの隣人の態度を思い出し、同じようにバタンと意識的に音を立てて窓を閉めてしまった。
仕方ない、今の私にそんな心の余裕はないのだ。


間接照明の光が暖かい。
机の上のジャスミンティーに口をつける。
残り半分になったチョコレートは少し柔らかくなっていた。
もう全て食べてしまおう。
頭を空っぽにして、ただチョコレートの甘さに浸る。全て食べ終わったところで電話をしようと言っていたことを思い出す。
どうしてもそんな気分にはなり切れなかったが、もうすでに始まっているグループ通話の参加ボタンを押した。

「ピーターパン症候群ってさ、」
いつもの声だが少し落ち着いたトーンのやり取りに安心した。今日はいつもよりも落ち着いた会話の流れだったようだ。しばらく黙って2人の会話を聞いていた。

「やっほー」
話がひと段落した頃に声をかけられた。
「やっほ〜、ごめ〜ん!板チョコを半分食べて復活しました!!!」
無駄に大きな声で明るく答えた。



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