浩一物語#23エピローグ
「浩一おじいちゃんって、どんな人だったの?」
娘は、父の浩介に聞いた。
娘は、子供のころ両親に連れられて祖父母の家を訪れることはあったが、祖父は、たいていいなかったから祖父との思い出はそれほどない。
休日の午後だった。
妻は、友人の結婚式に招かれていて浩介は一日、娘と過ごすことになっていた。
リビングには浩介と娘だけだった。
高校生になった娘は、最近になって家族の昔話を聞きたがるようになっていた。
浩介は少し考えた。父のことを一言で説明するのは難しかった。真面目だった。いや、そうでもない。仕事熱心だった。それは間違いない。だがそれだけでもなかった。
「変な人だったよ」
浩介はそう言った。
娘は笑った。
「なにそれ」
「本当だよ」
浩介も笑った。
それから少しずつ話し始めた。
祖母から聞いた話。
父本人から聞いた話。
母から聞いた話。
姉から聞いた話。
自分が覚えていること。
それらをごちゃ混ぜにしながら語った。
娘は途中で何度も笑った。ときには呆れた顔もした。
「おじいちゃん、めちゃくちゃじゃん」
「そうだな」
浩介は苦笑した。
父は立派な人間だったとは言えない。だが面白い人間だった。少なくとも退屈はしなかった。
話し終わった頃には外は薄暗くなっていた。娘はしばらく黙っていた。
やがて言った。
「なんかさ。」
「うん?」
「おじいちゃん、楽しそうな人生だったね」
浩介は窓の外を見た。
そうかもしれないと思った。
幸せだったかどうかは分からない。後悔もたくさんあっただろう。だが、不器用なりに生きた人だった。それだけは確かだった。
「そうだな」
浩介はそう答えた。
そのとき玄関のドアが開く音がした。妻が帰ってきたのだろう。娘は立ち上がった。
「母さんやおばあちゃんに聞かせたら怒られそうな話もあったね。」
「それは内緒だぞ」
浩介は笑った。
娘も笑った。
父が亡くなってから、もう何年も経っていた。
それでも父の話をすると、不思議とまだどこかで生きているような気がした。人は二度死ぬという。一度は命が尽きたとき。もう一度は、その人を知る人が誰もいなくなったとき。
だとしたら、父はまだ死んではいない。
少なくとも、この家族の中では。