元不登校が社会とつながるリハビリ、時給何円?
朝7時半、定時制高校に通う息子の部屋のドアを叩く。
「Kー、起きてるー」
「んー、今いくー」で始まる1日。
朝は弱い2人、朝食も摂らずに軽トラに乗り込む。
熊みたいな体をトラックの助手席にみっちりと詰め込んだKと向かう先は近所のスーパー。
納品口から軽トラを滑り込ませたら移動スーパーの1日が始まります。
業務連絡は簡単に。
「今日は客注多いよ。あんた積み込み、私は先に集荷する」
「オッケー、でもオレ昨日ショルダープレス無限にやったから肩上がんねぇ」
「無限じゃなくてほどほどにやりなさいよ。まぁ一番上の棚は私がやるよ」
筋肉痛への配慮も致し方ない。
積み込みのリミットは2時間、時間との戦い。
「精肉の集荷終わってるか見てくる」
「今日気温高いから保冷剤いる?」
「青果のピッキングにブロッコリー入ってなかったからオレ取ってくる」
「客注積み込む場所がないから動きの悪い商品下ろす?」
何、このシゴデキ君は。
去年の春まで不登校だった人とは思えない。
私の教育が良かったのか。
多分、違う。
そして今日もKは納品口で私の集めた積み荷を小さなトラックの荷台に並べる。
最近は私へのダメ出しも容赦ない。
「それだとパンが潰れるよ」
「そこに置くと走ったら商品落ちるんじゃね」
「…直します」
積み込み補助の店舗担当A氏との連携も鮮やか。
このA氏、以前は挨拶のできないおじさんだった。
どうせ返事は返ってこないしと、私はいつしか関わることを諦めた。
でもKは「Aさん普通に良い人だよ。挨拶はまぁ、苦手なんだろうね」と言った。
「お前…器もデカいなぁ」
16歳のKがここまで言うのに、私がかたくななのは恥ずかしいな。
先入観を捨ててA氏とコミュニケーションを取ってみた。
全ての準備を終えて移動スーパーは納品口を出る。
「ありがとうございました!いってきます!」
「…いってらっしゃい」
Kの言う通りA氏は普通に良い人だった。
その曇りなき慧眼が私も欲しい。
そんな主戦力K、たまにワガママ。
「今日はオレ機嫌が悪いから連れて行かないほうがいいと思う」
来た、本物の危険信号。
不機嫌で習い事をクビになった記憶がフラッシュバックする。
先に言ってくれたのはむしろありがたい。
一人で準備をしてると売り場で声をかけられる。
「今日せがれはどうしたよ」
「あれ?ジュニアは?」
私は嘘が苦手だ。
「今日は機嫌が悪くてお休みです」
一応注意しておくか。
「お前なー、機嫌悪いで休める職場なんてここ以外ないからな」
「ごめんて、でもこんなに低賃金の職場もないわ(笑)」
「言ったなこの野郎」
「いや、時給300円くらいでしょ」
「ばかにしてんだろ!」
Kに渡してるのは固定で月2万。
積み込みを手伝ってもらっても売上が増えるわけじゃないからこれが限界。
週5、2時間、時々現場…と。
電卓ぱちぱち
『(時給)277(円)』
…まじか。
Kがボソッと吐く
「発展途上国」
これはぐうの音も出ない。
私は一瞬にして
『息子の社会復帰のために働く場を用意したホワイトお母さん』から
『低賃金で息子をコキ使うブラックお母さん』
に転落した。
だけどKは大笑い。
「オレどこの国の人だよー」
277円がどこの国の最低賃金かは知らん。
でも、この仕事は元々あんたと働くために始めたんだよ、言わないけど。
まだ小学生で別室登校してた頃、私がルート営業の仕事してたの覚えてる?
よく、学校に行けなかったあんたを営業車に乗せて仕事に行ってたよね。
学校行ってない分、別の景色を見せたかったけど、
あれ、私が結構好きな時間でね。
取引先で移動スーパーのポスターを見た時から、またあんたを隣に乗せて、今度は一緒に仕事ができたらって思ってたんだ。これも言わないけど。
でもあんた、自分で選んだ定時制高校に入ってからは
皆勤だし
行事も出るし
試験勉強もするし
部活も入るし
生徒会まで入っちゃうんだもん。
私の心配を返せよ。
とはいえまだ安心とは言えない。
定時制の授業が終わるのは21時。
22時過ぎて帰らなければそりゃ心配。
汗だくでドタバタ帰宅したKは
「ごめんごめん、友達と体育館でバドミントンしてた。腹減ったー」
「もー、連絡してよー」
なんか、普通っていいな。
学校に行けずに電柱の影に隠れてた小学生のK
不機嫌を制御できなかった中学生のK
心の自立だけを目標に支えてきたつもりだった。
リハビリのつもりだったけど、もう普通のお母さんで良さそうかな。
低賃金で働いてくれてありがとう。
私も次は室内で働きたい。
不登校真っ只中のKと私の9年間は
こちらのマガジンにまとめてあります。
