
僕は看護師、彼女は患者。⑤
明らかに彼女の笑顔は増えていた。もちろん、辛そうな顔をしている時もある。だが彼女は、どれだけ体調が優れなくても、僕との電話だけは必ずしてくれた。そして毎日のように、チェックリストは少しずつ埋まっていく。
そんなある日、彼女からメッセージが届いた。
「自己紹介の項目更新したよ。仕事帰ったら見てみて!」
なんだろう、と僕は思った。仕事終わりまで待ってもよかったが、気になって仕方ない。休憩中にでも見てみようかとスマホを開いたその時、携帯電話が鳴る。会社の社長からだった。
「お疲れ様です」
「坂本さん、お疲れ様です。竹中さんのお宅から連絡があって。転倒されたみたいで、奥さんが心配していて。様子見に行ってもらえますか?」
利用者さんが転倒したらしい。僕は「わかりました」と返事をして電話を切る。チェックリストを見るのは後回しだ。車のエンジンをかけ、患者さんの家へ向かった。
「疲れた……」
仕事を終えて帰宅し、シャワーを浴びる。熱いお湯を浴びながら、ふと思い出した。
「そういえば、自己紹介欄変えたって言ってたな」
シャワーを終え、髪を拭きながらスマホを手に取る。チェックリストのページを開き、自己紹介欄をタップする。下へスクロールしていき、そこで気づいた。僕たちが作った「好きなもの」の項目。そこには確か、ネイルとか紅茶とか、そんな言葉が並んでいたはずだった。でも、その文字は消えていた。代わりに書かれていたのは――
「蓮也くんのことが好きかも。」
僕は、一瞬呼吸が止まった。
見間違いかと思って、何度もページをリロードする。だが、何回更新しても文字は変わらない。
深呼吸をする。
好き。
異性にその言葉を伝える意味なんて、一つしかない。まして、マッチングアプリで出会った相手ならなおさらだ。つまり彼女は――。
しばらくスマホを見つめたまま固まっていた僕は、汗ばんだ手でメッセージを打った。
「僕も同じ気持ちだよ。好きだ」
送信ボタンを押したあと、静寂が訪れる。デジタル時計の数字だけが、一秒ずつ時間を刻んでいく。その時間が、やけに長く感じた。やがてスマホの通知音が鳴る。返事が来るまで実際には五分ほどだった。でも、体感では何時間にも思えた。
「同じ気持ちならすごく嬉しい。」
その言葉を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。僕は続けてメッセージを送る。ずっと考えていた。でも、一歩踏み出せなかった。だけど今なら。
「明日、もし空いてたら会わない?」
緊張しながら送信する。すぐに返事が届いた。
「会いたい。」
画面越しだけだった僕たちの関係が、今、決定的に変わろうとしていた。