
【結婚できるかもしれない物語】9話
金曜日の朝、綾香は少し早めに会社に着いた。
週末を目前に、フロアはどこか浮ついた空気だった。
綾香がデスクに荷物を置くと、すぐに金森がコーヒーを二つ持って近づいてきた。
なぜ?二つ???
綾香は軽くぞっとした。
「綾香ちゃん、おはよう。
昨日は断られちゃったけど、今日の夜はどう?
仕事終わりに軽く食事だけでもいいよ。真面目に誘ってるんだ」
悠斗の笑顔は本当に爽やかで、目が優しく細められる。
こういうところが、社内の女性たちを虜にする理由だと綾香は薄々気づいていた。
「……ごめんなさい、金森さん。
今週は実家から荷物が届くので」
「そっか、残念。
でも焦らないよ。俺は本気だから。
綾香ちゃんみたいな、純粋で優しい子とちゃんと向き合いたいんだ」
金森はそう言って、綾香の手の甲にコーヒーカップを持つ手をに軽く触させた。
温かくて、柔らかい感触。
一瞬、胸がざわついた自分に、綾香は自分で苛立った。
午前十時半。
給湯室では、今日もいつものメンバーが集まっていた。
「聞いてよ! 悠斗くん、昨日莉子ちゃんに『君だけ特別だよ』ってLINE送ってたらしいよ」
美香が興奮気味にスマホのスクリーンショットを共有する。
美香の情報網に、綾香は目が点になる。
本日の朝のことは…美香の出社前だから美香にはわからない。
が…
真由美さんはため息をつきながらインスタントコーヒーをかき混ぜた。
「本当にタチが悪いわね。
私も三十代前半の頃、同じような男に引っかかって、
結局一年半で心がボロボロになったの。
仕事も…うまくいかなかった。
今はもう、子供さえできればいいと思ってる」
美香が綾香に向き直った。
「綾香ちゃん、悠斗くんに本気で狙われてるみたいだけど、
絶対に引っかからない方がいいよ。
あの人、最初の頃は毎日『好きだよ』って送ってくるのに、
三ヶ月経つと急に既読スルー増えて、他の女の影が見え始めるんだって」 綾香は唇を噛んだ。
揺らいだ心に身を任せなくてよかった…と思う反面。
美香はその金森との関係はどうなっているのだろう?