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コオロギの声は私を連れて

 夜の底、冷え込む布団の中で、どこからか聞こえてくるコオロギの声が響くのは、面白い。草むらの中で、誰かを待っているのだろうか。たまに遠くを通り過ぎる車のヘッドライトが、天井に頼りない光の帯を描いては消え、そのたびに、蓋をしたはずの記憶が静かに浮かんでは沈む。

 幼い日の夜、私は家から放り出された。雨上がりのアスファルトの、湿った歩道をただ走った。明かりの消された住宅街を、均一な家の間を、ひたすら走った。川のほとりでは、釣り人が1人で闇に溶け込んでいた。私みたいな小魚でも釣るのだろうか。
 街灯の明かりが、私の輪郭をはっきりと照らし、その明かりに集まる虫たちは、私に目もくれず、意味もなく蜘蛛の巣に引っかかりに行った。
 通り過ぎる車の中から、あの夜の私は見えていたのだろうか。小さな影が、怯えながらただ泣いている姿が、誰かの目に留まっていただろうか。誰も、私に声を掛けなくとも。

 私の親は、自分で追い出したくせに私を追っていた。誰もいない、遊具すらない、吹きさらしの公園で。ジャリジャリとした砂が鳴らした音の間に、笑い声は聞こえなかった。見上げる親の背中は、理不尽なほどに高かった。
 恐怖の中で、私はどうにかしてその支配から逃れようと、ポケットから鍵を奪い取り、狂ったように走って家へと引き返した。ひんやりとした鍵を握りしめ、ちゃりちゃりと音を立てながら、逃げた。扉を閉め、内側から鍵をかけた。私を脅かす存在を、冷たい外の世界に置き去りにした。

 扉の向こうにいる親が恐ろしい。
 開けろと叫んでいる親が恐ろしい。

 その恐怖に耐えきれず、私は震える手で再び鍵を回し、扉を開けてしまった。開けたら怒られるし、開けなかったら入れないのだから安全だと分かっていたのにも関わらず。しばらく放っておけばよかったのだ。弱ってから開ければよかったのだ。どうせ、いつかは、開けなければならない、そうだとしても、今開ける必要なんか、なかったのに、そしたら、こんなことにはならなかったのに。

 コオロギの声が止まらない。
 あの夜も、鳴いていた。
 私が走っているときに。
 あの夜の湿った風の匂いとともに。

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remika ねむい