人生の注釈 #4 |愛がない以外は完璧な2人
忘れられない夜をいくつも超えた時には2年が過ぎていた。
時間が忘れさせてくれるとは誰が言っただろう。
あの頃と変わらない私に嫌気がさした。
あんなに愛した人が今となっては見えない傷になって残っている。
君がいなくなって空いた穴は、今ではもう私の身体に心地良く馴染んでいる。
波に浮かぶ小魚の様に、遠くに見える太陽を眺めながら、ただ毎日、浮き沈みに身を任せていた。
あれから時間は流れていった。
その中で新しい出会いもあった。
私の心を撫でてくれる女性がいた。
しかし、好きとは何かわからなくなっていた。
好きかわからない女性のために好きを演じたこともあった。
それでも鏡だけは見ない様にした。
誰のための好意だったのか、私が1番知っていたから。
ある友人は言う、結婚は妥協だと。
本当にそうなのだろうか。
友人の手前、強気に言い張った言葉なだけなのではないか。
心から愛せる人を求めるのは間違いなのだろうか。
デートをしてくれる女性にも出会えた。
優しくお淑やかで安心を与えてくれる様な女性だった。
いつだって「楽しいね」と嬉しそうに笑う人で、私は頷くことが得意だった。
一緒に行った横浜では食べ歩きをし、熱々の小籠包を食べて微笑みが生まれた。
腹が満たされて来た頃には、制服姿の学生が増え、
気付けば街は橙色に染まり始めていた。
暖色が良く似合う中華街は夕陽を纏う。
夕陽は、最後の灯火を灯す線香花火のようだった。
見上げるたび、呼吸が浅くなった。
占いをしてお互いの将来を笑い合った。
占い師は、結婚や恋愛についてお似合いのカップルだからきちんと日頃から感謝を伝えると問題ないと言った。
それを聞いて照れくさそうにこちらを見る彼女。
愛がない以外は完璧な2人だった。
彼女が恋愛運を聞いている横で、私は仕事運や健康運ばかり気にしていた。
そちらもおみくじで言うと大吉のような結果だった。それでも私は、自分で健康を掴み、仕事は自分で努力しようと思った。
占いなんて信じない。目の前にいる哀れな男ひとり見抜けないのだから。
夜には夜景も見に行った。
横浜の夜景は日常を忘れさせてくれるかの様に美しく煌びやかにそっと私の視界の奥底へと入ってきた。
その光景に目を奪われながら、私はあの頃の自分でいるかの様な錯覚に陥った。
そっと撫でる手が私を夜に沈めてくれた感覚を思い出し涙が出そうになった。
その時、「綺麗だね」と聞こえてくる"誰か"の声が私を現実に引き戻した。
逆流した胃液を飲み込み、意味のない台本を読み続けた。
「本当だね」
私の三文芝居に呼応するかの様に、あなたの笑顔が作り物に見えた。
演じてみて、出来の悪い脚本を。
その度に掃き溜めの底で、色も無く咲き誇る私は静かに目を瞑って頷く。
火をつけないから愛してほしい。
傷つけないから愛してほしい。
そんな願いを抱くたび、私は少しずつ深い海へ堕ちていく。
それでも、
そんな私をもう少しだけ待っていてくれよ。
